大人がハマっちゃう! ずっと眺めていたい旅絵本
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
最近話題の新しい絵本、注目の作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
時間を忘れて旅気分
今回は、数ある旅絵本の中から、パパママも楽しめ、時間を忘れてずっと眺めていたくなるような絵本をご紹介させて頂きます。未だコロナに関するニュースが気になるところでございますが、この先の旅に対するモチベーションがあがるのはもちろん、今の状況が続いた場合でも家にいながら時間を忘れて旅気分を楽しんで頂けるはずでございます。
まずは、こちら。情緒豊かな絵画やだまし絵などで国内外に数多くのファンを持ち、世界で最も人気のある絵本作家の一人である、2020年12月に94歳で他界された画家で絵本作家の安野光雅さまの旅絵本でございます。
国際アンデルセン賞やイタリアのボローニャ国際児童図書展グラフィック大賞はもちろん、イギリスのケイト・グリナウェイ賞特別賞、アメリカでは、ブルックリン美術館賞、ホーンブック賞、最も美しい50冊の本賞、チェコスロバキアのBIBゴールデンアップル賞など、世界中の絵本の賞を総なめでございます。そんな安野さまの代表作といっていいのが、「旅の絵本」シリーズでございます。世界中で愛されている名作中の名作でございます。
そしてなんと! 2022年1月に「旅の絵本」シリーズの最新刊が刊行されたのでございます。世界中の安野ファンには、たまりまセブンな情報でございます。それがこちら、『旅の絵本X オランダ編』でございます。
安野光雅「旅の絵本」シリーズの最終作
克明繊細な筆使いで旅の楽しさを描く「旅の絵本」の10冊目。旅人はオランダにやってきました。運河の流れる街をゆき、チーズ市を見て、たくさんの風車がある場所を訪れ、チューリップが咲く公園へ……。オランダならではの美しい風景を堪能できます。オランダ出身の画家、フェルメールやホッベマなどの作品をモチーフにした場面も盛り込まれています。旅日記のような解説文とともにおたのしみください。
安野さまが逝去後、アトリエからオランダの美しい風景の原画が何枚も見つかったと連絡が、ご遺族からあったそうでございます。そこで、安野さまが生前に「オランダ編」を描きあげていたことが判明。そこから今回の刊行の運びとなったとのことでございます。シリーズ最後の舞台が、安野さまが大きな影響を受けた版画家、M・C・エッシャーの母国のオランダというのも何か運命めいたものも感じてしまいます。シリーズ10作目ということで、同時に全10冊のセットも販売になるとのことでございます。
こちらのシリーズ、ひとりの旅人らしき人物が登場し、その土地を通過していくという超シンプルな設定で、文章(ストーリー)はございません。
ただ眺めているだけで、旅に出かけている気持ちになれる、旅に出かけたくなる絵本シリーズでございます。コロナ禍、旅したい欲求をこの絵本で解消した絵本ファンの方も少なくないのではと存じます。
細かいところまで描き込まれた風景の中には、その土地の風習文化、日常の暮らしが描かれているだけでなく、時に、おとぎ話の主人公や、有名な絵画へのオマージュも登場いたします。何時間でも眺めていられる絵本でございます。
「旅の絵本」シリーズ
次にご紹介するのは、大人絵本ファンの間ではお馴染みの絵本作家、みやこしあきこさまの旅絵本でございます。
みやこしさまは、2009年に「ニッサン童話と絵本のグランプリ」で大賞を受賞。その作品『たいふうがくる』(BL出版)で絵本作家デビュー。その後、第17回日本絵本賞大賞、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞などを受賞されております。数々の受賞歴、ファンに大人が多い理由も、その絵の素晴らしさからではないかと存じます。
そんなみやこしさまの旅絵本は、「リトグラフ」という版画手法で描かれております。主人公のイタチのホテルマンが夢の中で旅をするおはなしなのですが、その手法がまさに、夢の中という設定に合っているのではないかと…。自分の住む街から出たことのないイタチが旅に憧れ、その夢に出てくる旅の世界がリトグラフならではの幻想的で美しい絵で表現されております。旅情をそそられる旅絵本でございます。
そして最後にご紹介するのがこちらの2冊でございます。
こちらの2冊の絵本、「旅絵本」というジャンルではほとんど紹介されていないのではないでしょうか。でも、読むと旅したくなること間違いナッシングな絵本でございます。
この2冊の魅力であり特長であるのは、その希少なスタイルでございます。
画家で絵本作家の植田真さま、nakabanさまのお二人が、互いの物語に絵を描いた2冊で1つの作品ともいえる絵本なのでございます。『みなとまちから』は、文章をnakabanさま、絵を植田真さまが担当。一方の『とおいまちのこと』は、文章を植田真さま、絵をnakabanさまが担当されております。このような試みは世界初ではないかと。2つの物語も繋がっております。友達に手紙を書く側、受け取る側のおはなしでございます。違う場所にいる2人の世界(二冊の絵本)が手紙によってひとつの世界になる、そんな感覚も楽しんで頂ける絵本でございます。
一冊一冊が独立した作品でありますが、併せて読むことで、その向こうにまだ世界が広がっていることを感じられる作品でございます。お二人もそこを目指して作られたとのことでございます。
お二人は、雑誌『illustration』(2020年12月号)でも、「特集 nakaban・植田真」というタイトルで特集されております。大変人気の画家でございます。絵本に出てくる風景は、安野さま、みやこしさんとはまた違った味のある画風で、何時間でも眺めていられます。2冊の絵を眺め比べながらじっくり楽しめるのも、この絵本の魅力ではないかと存じます。
余談でございます。今回、絵が大人好みの旅の絵本をいろいろ思い起こしておりましたら、nakabanさま、荒井良二さまの作品は、旅絵本、旅したくなるような絵本が多いなと改めて感じました。お時間のある方は是非、チェック頂ければと存じます。どの作品も間違いなく飾って置きたくなる絵本ではないか
と。
荒井良二さんとnakabanさんの旅に出たくなる絵本
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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