パパママも楽しんでもらいたい!「詩人の絵本」特集
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
注目の新刊や作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
絵本で味わう詩人の言葉
これまでに何度か、漫画家もあり絵本作家でもある方をご紹介してきましたが、今回は詩人であり絵本作家でもある方を特集させて頂きたく存じます。
谷川俊太郎さんの絵本
詩の絵本の制作には、絵本用にテキストを書き下ろすスタイルや、もともと書いていた詩に絵が付けられて絵本として出版されるスタイル、絵が先にあってそれにテキストを付けて絵本として出版されるスタイル、様々あるようでございます。
まずご紹介するのは、谷川俊太郎さまでございます。ご存知の通り、数々の詩や絵本を手がけていらっしゃいます。昨年2021年11月には、70年前に出された処女詩集『二十億光年の孤独』に収録されている「二十億光年の孤独」という詩が絵本化され話題になりました。教科書で読まれた経験のある方も少なくないと存じます。ぜひ、絵本で改めて読まれてみてはいかがかと存じます。
もう一冊。詩が絵本化されたものとしてご紹介したいのが、昨年の4月1日、エイプリルフールに出版された『うそ』でございます。
どうして人はうそをつくのだろうか。
「うそはくるしい」はずなのに、平気でうそをつく人がいる。大きな声でうそをつき、しらを切り通す人もいる。うそをくり返したら、ほんとうになるのだろうか。この世はほんとのことより、うそであふれている。うそをつかない人なんて、この世にはいないだろう。でも、どうして人はうそをつくのだろうか。ついついてしまったうそ。ごまかすためのうそ。自分を守るためのうそ。相手の幸せを願ってつくうそ。そもそも[ついていいうそ]と[ついてはいけないうそ]、[いいうそ]と[悪いうそ]ってあるのだろうか。あるとすれば、その違いはなんだろう。いい・悪い、軽い・重いの基準で測れるものだろうか。この絵本は、詩人・谷川俊太郎さんが1988年に発表した詩「うそ」に、イラストレーター・中山信一さんが絵を描き、構成した一冊。ある男の子がうそについていろいろと思い、考える。心の奥深いところまで届く、時おり読み返したくなる宝物のような一冊。
1988年に出版された谷川さまの詩集『はだか 谷川俊太郎詩集』に収録された「うそ」が、新進気鋭のイラストレーター、中山信一さまが絵を担当し絵本として出版されました。大人も考えさせられる深い詩でございます。お子様も「うそ」について考える、興味をもつ詩でございます。さらにゴイスーなのが絵でございます。絵がつくことでストーリーが生まれているのでございます。
ネタばれになりますが、絵本では男の子が犬を散歩させている画(ストーリー)になっております。詩だけ読むと、男の子が犬を散歩させるシーンは出てまいりません。詩と絵本をぜひ、読み比べて欲しいのでございます。絵本における画の存在感がいかに大きいかをご体感頂けるのではないかと存じます。
ちなみに、谷川さまは「詩と絵本の世界」(玄光社MOOK)のなかで、「詩を考える時と、絵本のための詩を考える時では、アイデアの出し方や使い方はどう変わりますか?」と質問され、「詩を書くときは考えるというより、勘を働かせることの方が多い。絵本のために詩の形でテキストを書く時は、絵先行かテキスト先行かによって違いますから、一概には言えませんね」と答えられております。また、「絵が先と言葉が先、基本的にどっちがやりやすいですか?」という質問に対しては、「絵のほうがやりやすいかな、ゼロから考えずにすむから」と答えられております。
内田麟太郎さんの絵本
次にご紹介するのが、内田麟太郎さまでございます。内田さまもたくさんの絵本と童話を手掛けていらっしゃいます。内田さんは、絵本執筆の場合、絵本作家ではなく「絵詞作家」と名乗られております。『さかさまライオン』(1985年)でタッグを組んだ絵本作家の長新太さまに、「絵本には絵本の文章があります」と言われ、絵本の文章とは何かと考え続け、絵本の文章は、文学であってはならないという結論を得て、絵詞作家を名乗ることにしたとのことでございます。
内田さまの数ある作品の中でご紹介したいのは、『うし』でございます。こちらも詩が先にございました。「こども文学の実験 ざわざわ」(四季の森社)という季刊誌に掲載された詩でございます。内田節が炸裂のナンセンス詩でございます。当時、内田さまは、「これは絵本になる」と思ったそうでございます。場面割までしていたそうでございます。ところが、どうしても7場面くらまでしかいかず、絵本は難しいと諦めていたそうでございます。それが見事な絵本になっております。ぜひ、そんなエピソードがあったことを頭の片隅に置きながら読んで頂ければと存じます。よりお楽しみ頂けるのではないかと。こちらも、画のすごさがご体感できる絵本でございます。
そしてもう一冊、去年12月に出版された『ともだち』でございます。内田さまの生誕80年を記念し、絵本作家の南塚直子さまが自ら選んだ13編の名詩に陶板画を添えた詩画集でございます。内田さんのファンには内田麟太郎絵本を一冊で何作も楽しめる贅沢な詩絵本でもあるのではないかと存じます。是非是非。
最果タヒさんの絵本
次にご紹介するのは、スマートフォンで詩を綴る話題の現代詩人、最果タヒさまの絵本デビュー作でございます。彼女の詩のファンだけでなく幅広い層に刺さる詩絵本でございます。「ここ」という場所を様々な角度、視点から切り取ったいかにも詩的な絵本でございます。
最果タヒが及川賢治(100%ORANGE)と贈る、初の絵本
「ここは、ぼくのまんなかです。」――最果タヒが及川賢治(100%ORANGE)と贈る、初の絵本が登場! いま、世界に届けたい、優しく力強いメッセージ。
画を担当されたのは人気絵本作家で人気イラストレーターの及川賢治(100%ORANGE)さまでございます。とにかく2人の化学反応がゴイスーでございます。詩と画の極上のコラボでございます。読めば「なるほど!」、画とテキスト両方で成立する絵本の醍醐味を体感頂けるのではないかと。パパママもハマること間違いナッシングな絵本でございます。
ねじめ正一さんの絵本
どちらかというと、直木賞作家で絵本作家という肩書の方が有名かもでございます。ねじめ正一さまでございます。詩人でございます。初めて手がけた小説『高円寺純情商店街』で直木賞受賞されておりますが、その前に(1981年)処女詩集『ふ』で詩壇の芥川賞といわれる「H氏賞」を受賞されております。
絵本『ぎょうぎゅうかぞく』(すずき出版)も、詩集『あーちゃん』のなかの一編でございます。余談ですが、詩集『あーちゃん』は、いかにも絵本にもなりそうな子どもも楽しめる詩ばかりでございます。親子で楽しむには最適な詩集ではないかと存じます。是非是非。ちなみに『ぎょうぎゅうかぞく』は詩集の中でのテキストと絵本でのテキスト、ラストの部分が少しだけ違います。この辺りも是非読み比べて頂ければと存じます。
林木林さんの絵本
最後にご紹介するのは、林木林さま。林さまも詩人としても絵本作家としても人気でございます。岡田千晶さまが画を担当した絵本『ひだまり』(光村教育図書)は産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。長谷川義史さまが画を担当した 『みどりのほし』(童心社)は児童ペン賞絵本賞を受賞されております。
林さまは詩人としてたくさんの賞を受賞されておりますが、なかでも有名なのが「詩のボクシング全国チャンピオン」(2004年)でございます。ちなみに、ねじめ正一さまは詩のボクシング初代チャンピオンでございます。
林木林さんのみずみずしい言葉と、長谷川義史さんののびやかな絵で描かれる、心の世界
なんだかつまんない日、ぼくはふと、テーブルの夏みかんをみる。「あっ、なつみかんのてっぺんに、みどりのほし、みぃつけた」やさいにも花にもみつけた、みどりのほし、ほし、ほし! 葉っぱのながれぼしを追いかけて走ったぼくは、草の上で大の字になってともだちと手をつなぐ。ぼくたちはみんなほしのこども…。林木林さんのみずみずしい言葉と、長谷川義史さんののびやかな絵で描かれる、小さな発見から大きく広がる心の世界。
「こどもの詩 周南賞」で入賞したこどものうたの歌詞の世界からうまれた作品。くだものや野菜の「へた」を「みどりのほし」と表現する、詩人ならではの発見と言葉が読者の想像を広げます。林木林さんはブログで、「地球には小さな緑の星たちがたくさん輝いて、その輝きが地球の緑を輝かせている。なんてすばらしいことでしょう」と書いています。自分のいのちや自然、ともだちのいのちの輝きを感じる作品です。
『みどりのほし』は、2011年に「こどもの詩 周南賞」で優秀賞を受賞した詩でございます。ちなみに、この賞の審査員には画を担当された長谷川義史さんもいらっしゃったそうでございます。当時は一緒に絵本を作るなんて夢にも思っていなかったそうです。
絵本の巻末には、受賞した童謡詩「みどりのほし」が、谷川俊太郎さまの御子息、谷川賢作さまが作曲した楽譜とともに掲載されております。こちらも是非、絵本のテキストと読み比べて頂ければと存じます。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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