自分の心を守るための力、「セルフケア力」
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
ストレスから心を守るために。気持ちを楽にする考え方を学ぼう!
あっという間に5月です。ゴールデンウィークも終わってしまいました。4月には新学期・新年度が始まり子どもたちもピンピンに気が張っていましたが、そろそろ疲れが出てきます。新入学、新入園、新しいクラス、新しい先生に、まだ仲良くなっていないお友達……、新しい環境にはまだ慣れません。でも、やらなければいけないことはたくさんあるし、「このぐらいやれるよね」と思われることも増えていき、「だいじょうぶかなあ……」と先が不安でしょうがない時期でもあります。真面目で完璧主義な子ほど、ぐたーっとなってしまいますよね。
特に現代は、子どもたちに求められることも多岐にわたっていて毎日がストレスフルです。そんなとき、自分の気持ちを楽にする考え方や、自分を癒す方法を知って、自身のストレスを軽減すること、“セルフケア”をすることは、とっても大事になります。
今回は、そんな時期にぜひ読んで欲しい、心を安定させる考え方や「そんなに心配しなくても大丈夫」「みんなそうだよ」と子どもたちに安心感を伝え、セルフケアできる絵本をご紹介し、子どもたちの心を整えるお手伝いをしていきたいと思います。
心配事を周りに受け止めてもらおう
誰しも毎日何かしら心配事はありますよね。自分でやれることをやって対策したつもりでも、「本当に大丈夫だろうか……」とモヤモヤが止まらないことも、よくあることです。そんなときには、心配事をまるごと預けてしまいましょう。そんな絵本が、 『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』(高野文子 福音館書店)です。
「しきぶとんさん、かけぶとんさん、まくらさん。あさまで よろしくおねがいします」夜、眠りにつく前のひととき。男の子は「おしっこがでたがりませんように」「おっかないゆめをみませんように」……と、しきぶとん、かけぶとん、まくらたちに、そっとお願いをします。すると彼らは「まかせろ、まかせろ」と男の子を優しく、暖かく、包み込んでくれるのでした。
男の子が寝ようとしています。でも、心配があります。寝ているときにおしっこが出てしまうかもしれない、おっかない夢を見てしまうかもしれない。そこで、男の子は
「しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん あさまで よろしくおねがいします あれこれ いろいろ たのみます」
とお願いをするのです。寝ている間は、何かをがんばってコントロールしようとしても、難しいですよね。そんなどうしようもないときには、心配事は丸ごとお願いしてしまおう、そんな絵本です。
作者の高野文子さんは、『るきさん』、『ドミトリーともきんす』などが有名な漫画家さんで、本作が初めての絵本となります。漫画の方でもとてもホッと癒される作風ですが、この絵本も、子どもたちの不安・心配をホッと一息つかせてくれて、「心配しすぎてもしようがないよね」と安心感を与えてくれます。どんな心配事も、この絵本のように、「まかせろ まかせろ おれにまかせろ」と受け止めてもらおう、周囲にまかせちゃえ、という心持ちを伝えてくれる絵本です。
先のことは不安だけれど……
子どもたちはどんどん大きくなっていきますが、自然に大きくなるわけではありません。いろいろなことを覚えて、「やってごらん」と言われてやってみて、「〇歳までにはこれをしよう」とはっぱをかけられて……。ときどき、「こんなにたくさんできなきゃいけないの?」と途方にくれることもあるでしょう。私の小さい頃は毎日そんな感じで途方にくれておりました。そんな「先のことが不安」と思っている子には、この絵本をどうぞ。
子どもは、教えてもらうのが上手。
誰から何を習えば一番楽しいかよーく知っているからです。
子どもが身の回りを観察してみたくなる、そんな絵本です。
「あるきかたは ねこが おしえてくれました」「とびこえかたは いぬが おしえてくれました」
いろんなことは得意な人がしっかり教えてくれるんだよ、だから心配しなくて大丈夫、ということがシンプルに描かれています。知らないことやできないことは、そりゃあ子どもだからたくさんあります。でも、「教えて」って言えば知っている人が教えてくれるし、必要以上に心配することないんだよ、という考え方をしっかり伝えてくれます。
「できないよー、どうしよう……」という不安を、「できなければ、教わればいいさ」とポジティブな考え方に変えてくれる、”すっきり絵本”です。
守られていれば大丈夫
お世話してくれる身近な大人、特におとうさん、おかあさんは、子どもたちを守り、安心感を与えてくれる存在。子どもたちの心のよりどころです。そんな、「守られている」ということが感じられる絵本をご紹介します。
ひとりで着替えもできるし、ごはんも食べられる。歯もみがけるし、リンゴだって切れるようになったボク。もう小さい子じゃないのに、パパもママもいつまでボクのこと、心配するの? おかんむりのボクだったけど、おばあちゃんちに行った時、気づいてしまった。パパもおばあちゃんに心配されていた! もう大人なのに…。不思議に思ったボクがおばあちゃんにわけをきいてみると?
男の子は、パパとママからいつも心配されています。包丁を持ったら指を切らないか心配されるし、歯みがきだって、いつまでも仕上げ磨きをされてしまいます。
「いつまで ボクの ことを しんぱい するの? ボクは もう ちいさい こじゃ ないんだよ!」
と男の子はぷんすかしていますが、男の子はある時、なんでこんなに心配されるのか気づくのです。
絵本の中で、「ボク」がされていることは、私もすべてやってしまっています! ご飯の量は足りているか、薄着で体調を崩さないか、いつも心配しています。やりすぎには注意ですが、大切な子だからついつい心配してしまうんですよね。「ボク」にもその思いは伝わったようで、いくつになっても心配されるんだろうな、と、守られていることを実感するのです。
いつも心配して守ってくれる人がいるから、どんな挑戦もできるし、どんなところに飛び立ってもいける、そして、何があっても帰れる場所があるからボクは大丈夫、ということを優しく伝えてくれる絵本です。
そして次は、子どもにとって「おかあさん」という存在がとても大きいということを伝えてくれる絵本を一冊。
男の子のところに夜やってきた、夜の色のようなまっくろなくまの子・よるくま。目が覚めたらおかあさんがいなくて、探しに来たそう。男の子は、よるくまのおかあさんを一緒に探してあげますが、おかあさんはどこにもいません。よるくまは、心細くて泣きだしますが……。
さいごには、ようやくおかあさんと出会えますが、おかあさんの姿を見たよるくまの、心底ほっとしたような顔をみると、おかあさんが、子どもにとってどんなに大きくて安心できる存在なのかが伝わってきます。子どもにとって、そばで優しく守ってくれるおかあさんの存在が、どんなに心強く安心感を与えるかわかります。
心を癒す言葉の力
次は、子どもたちの不安をとりのぞき、勇気づける言葉を伝える絵本をご紹介します。
「つるかめ つるかめ」は、いやなことがあったときに唱えることで、いやな気持ちを吹き飛ばす縁起直しのおまじない。「くわばら くわばら」は、雷が落ちてこないように祈る雷除けのおまじない。……などなど、日本に古くから伝わる“おまじない”を教えてくれる絵本です。
日本では言葉に宿る力のことを、“言霊(ことだま)”とも言って大切にしてきました。トゲトゲした言葉を使うと気持ちもトゲトゲしくなったり、使う言葉に気持ちが引きずられることがありますよね。それだけ、言葉には力があるのだと思います。
そして、偶然起こる不運な出来事や雷などの天変地異、人間の力ではどうしようもないことは日々起こります。そんなとき、“おまじない”という言葉の力にゆだねることで、不安を解消したり勇気をもらったりできるのです。何かが怖いとき、ドキドキするとき、「おまじない」という形で言葉を唱えることは、人を勇気づけ、気持ちをコントロールすることができます。そうした「おまじないの力」に頼ったっていいんです。言葉の力で不安を吹き飛ばしてしまおう、という絵本です。
そして、言葉が心を安定させてくれるとともに、その言葉を発してくれる存在が勇気を与えてくれることを描いた絵本がこちらです。
小さなぼくが不安な気持ちになると、いつもおまじないの言葉で助けてくれたおじいちゃん。生きていくためのしなやかな強さを育む、心にしみる絵本です。
どくしゃのみなさんへ
おじいちゃん、おばあちゃんをさそって、みんなで、さんぽにでかけよう。ゆっくり、のんびり、あるいていけば、ほら、ぼくらのまわりは、こんなにも、たのしいことがあふれてる。――いとうひろし
ぼくは、おじいちゃんと毎日のようにおさんぽを楽しんでいました。おじいちゃんとのおさんぽは楽しいものでしたが、こまったことや、こわいことにも出会うようになりました。だけど、そのたびにおじいちゃんはぼくの手をにぎり、「だいじょうぶ だいじょうぶ」と、おまじないのようにつぶやいて、励ましてくれるのです。
小さなころは、知らないことばかりでどうしたらいいかわからないし、ちょっとしたことも怖くて不安でたまらないですよね。そんな時に、「だいじょうぶ」と慰めて、かばって、守ってくれる存在はどんなに心強いことでしょう。「だいじょうぶ」のおかげで、ぼくは、世の中はそんなに怖いことだらけではないことを知り、強くなっていきます。さらに、今度は自分が「だいじょうぶ」と相手を励ますことができるようになるのです。
一人では、怖いことには立ち向かえないけれど、そっと声をかけてくれる存在が、子どもの心を強くしてくれることを教えてくれる絵本です。
さいごに
ちょうど今頃は、子どもも大人も、これまで張っていた気持ちがどっとゆるんでくる時期ですよね。しかも今年は、この2年くらいコロナで自粛気味だった行事や活動が動き出し、喜ばしいことなんですが、そのせわしなさに気持ちがなかなか追いついていないようでアップアップしている子どもたちも多いです。また、新学年に入ると「年長さんの間に〇〇ができるようになりましょう」「小学校に入るまでに〇〇をやっておきましょう」などの大人からの要求や期待を受ける機会も増え、プレッシャーからストレスを感じる子も多いでしょう。
いわゆる5月病の季節。子どもだけでなく大人も、けっこうぐったりしてきますよね。特に、育児中のパパママにはあるあるだと思いますが、「ふだんできない分、GWの連休中に思いっきり遊んであげよう!」と連休前に仕事や家事を必死で終わらせて、疲れたまま連休に突入してしまい、終わったらぐったり……ということも。私もここ最近は、毎年GW明けによく体調を崩します。そして、親子ともどもぐたーっとなっております。
ですので、自分をいたわり、癒す方法や考え方を身につける“セルフケア”の力は、子どもも大人もいま、とっても必要なものです。今回ご紹介した絵本は、疲れ、不安、ストレスに対し、その気持ちをどう手放して、ポジティブに変えていくか、たくさんのヒントを私たちに与えてくれます。そして、子どもたちの心を守る最大の要はパパママや身近な大人たちだということも伝えてくれます。
ちょっと疲れるこの時期、これらの絵本で気持ちをふわーっとほぐしながら、親子で読み合いいたわり合い、ぜひゆったりとお過ごしください。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
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