谷川俊太郎さんが名付け親!「認識絵本」ってご存知かしら?
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
注目の新刊や作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
「認識絵本」って、どんな絵本?
1960年代からこれまで、200冊もの絵本を作ってきた詩人の谷川俊太郎さまの絵本の世界観を楽しめる展覧会「谷川俊太郎 絵本★百貨展」が、東京・立川の「PLAY! MUSEUM」で開催、話題になっております。
数多くの絵本を手掛ける谷川さま、最近では、『へいわとせんそう』(ブロンズ新社)がメディアでも大きく取り上げられていました。谷川さまの絵本といえば、生きること、死や戦争など深いテーマの作品もたくさんございますが、ナンセンス絵本や和田誠さまが絵を担当された『これはのみのぴこ』(サンリード)などの言葉あそび絵本など、さまざまなジャンルの絵本を書かれております。わたくしも大ファンでございます。
この展覧会の図録『谷川俊太郎 絵本★百貨展』の中に、谷川さまが絵本の仕事を始めた頃の話が載っており、そこには、
ぼくは物語絵本っていうのが不得意でね、もちろん童話もそうだけど。当時は、絵本といえは<物語絵本>が常識だった。ぼくは図鑑的なものとか人文科学的なもの(<認識絵本>なんていう変な名前をつけたんだけど)をやりたいと思ってたから、写真にことばをつけるっていうのはすごく好きなんです。
と綴られております。これは、至光社の「こどものせかい」3月号の『ねこ』というタイトルの写真絵本について語られた一節でございます。
谷川さんの絵本のルーツ、「認識絵本」
さらに、「『こっぷ』(福音館書店)からはじまる<認識絵本>、一種の科学絵本を作るようになるんだけど…」と、認識絵本について語られております。そう、さまざまなジャンルの絵本を手掛ける谷川さんの絵本のルーツは認識絵本にあったのでございます。
ちなみに、『こっぷ』は、「コップは水をつかまえる」「コップは煙もつかまえる」「ときどきおしゃれもする」「のこぎりで切ると…」「急に熱くすると…」「落とすと…」…。物語はなく、いろいろな視点でコップを表現した写真絵本でございます。コップとは何か?考えを深めつつ、想像力が広がる絵本でございます。
その後、谷川さまは『まるのおうさま』、長新太さまが絵を担当された『わたし』など、福音館書店の月刊絵本「かがくのとも」を舞台に時間や行動、人間関係などをテーマにしたさまざまな認識絵本を書かれております。
つまり、わたくしはこの図録を読んで初めて「認識絵本」というジャンルがあることを、またそれが、物語絵本と相対するものだということ、その名付け親が谷川さまであることを初めて存じ上げたのでございます。
ひとつのモノの見方を突き詰める
と、同時に、なるほど「あの絵本も認識絵本なのかも…」とたくさんの絵本が頭の中に浮かんできたのでございます。
最初に浮かんできたのがヨシタケシンスケさまのデビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)でございます。
発売当時、「これ、ストーリーがない絵本なんだぁ」と思ったことを思い出しました。その後、「哲学絵本」なのかなぁと勝手にジャンル分けしていましたが今回、「これこそ、認識絵本なのではないか」と腑に落ちたのでございます。
『りんごかもしれない』は、「もしかしたらこれは、りんごじゃないのかもしれない」と、りんごがりんごであることを疑う男の子の想像の世界、想像の一部始終ですが、先述の谷川さまの『こっぷ』と、アプローチの仕方、内容は全く違うものの、さまざまな視点から、ある一つのモノを突き詰めること、想像力が刺激されるという意味では、とても似ているのではないかと。
さらに、わたくしがこの系統の絵本が好きなこともあって、「あれも、これも」と認識絵本容疑絵本が頭に浮かんでまいりました。
次に浮かんできたのは、佐藤雅彦さまユーフラテスさまの写真絵本でございます。以前、『“Eテレ”ファン必見! 大人の知的好奇心を刺激する写真絵本』というタイトルで特集させて頂いておりますが、こちらで紹介させて頂いた『中を そうぞうしてみよ』『このあいだに なにがあった?』でございます。当時は「大人の知的好奇心を刺激する写真絵本」と紹介させて頂いておりましたが、実はこれも認識絵本なのでは!と……。
“能動的にものを見る”ことの楽しさ
グラフィックデザイナーの中村至男さまの絵本デビュー作でもある『どっとこ どうぶつえん』も認識絵本と言ってもよろしいのではないでしょうか。(先日、第二弾の『どっとこ むしずかん』が『こどものとも年中向き』の7月号として出たばかりでございます)
人の「見る力」を応用した絵本
世にも不思議な動物園があるそうな。なんと、そこでは動物たちの体が四角でできているという。そんな不思議な「どっとこ動物」たちが子どもたちを待っています。
ちなみに、『どっとこ どうぶつえん』は2014年、優れた児童書に贈られるボローニャ・ラガッツィ賞を受賞。海外でも翻訳出版されています。
中村さんは“好書好日”のインタビューで「いろいろ考え方はあると思いますが、デザインって基本はコミュニケーションだと思うんですね。だからこそ、見る人の感性を信じて、押しつけや説明過多にはしたくない。受け取る側には“能動的にものを見る”ことの楽しさを味わってほしい」と語っていらっしゃいました。まさに、「認識絵本」ではないかと……。
ウクライナ発、認識絵本
こういう「認識絵本」は、海外にもあるのか……。翻訳絵本=ストーリ絵本というイメージが強いですが、そうそう海外にもございました! 最初に思い浮かんだのは、先日、新刊『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)が日本でも出版になった、ウクライナを拠点に活動するアートユニットのロマナ・ロマニーシン&アンドリー・レシヴさまでございます。
音とは何なのか。絵が音を語る絵本。
美しいグラフィックで「音」や「聴くこと」について、子どもにもわかるように絵が音を語る、初の試み。ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)とボローニャ・ラガッツィ賞のダブル受賞作品!
ブラティスラヴァ世界絵本原画展の金牌とボローニャ・ラガッツィ賞をダブル受賞するなど、世界から注目を集めているユニットでございます。
受賞した『うるさく、しずかに、ひそひそと』は、「音とは何か?」、耳の仕組みから楽器、音に関わる職業、音の大きさや高さの計り方などなど、ゴイスーに魅力的なビジュアルで表現。これまでは、「科学絵本」とだけ勝手にジャンル分けしていましたが、今回、こういうものも認識絵本というのかなと……。
写真絵本や科学絵本、哲学的絵本、言葉あそび絵本、詩の絵本などなど、絵本にはたくさんのジャンルがございます。その中の、子どもが物事を正しく「認識」するための助けとなる絵本、そのための、様々な見方や考え方を伝えてくれる絵本が「認識絵本」なのだと。
それは、赤ちゃんにとっては「どうぶつや、物の名前を覚える絵本」であったり、年齢があがれば、哲学絵本や写真絵本、科学絵本や詩の絵本であるかもしれません。ジャンルを網羅するのが「認識絵本」なのかなぁ、と思うのでございます。
そして、ゴイスーに面白い作品がたくさんあるのでございます!
谷川俊太郎さま、ヨシタケシンスケさまのファンの方、普段ストーリー絵本しか読まない方、是非是非、今日ご紹介した「認識絵本」を一度ご体験いただければと存じます。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |