アノ人が翻訳を担当した、話題の翻訳絵本
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
注目の新刊や作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
ミュージシャンや漫画家、あのアーティストが翻訳した絵本!
外国絵本の翻訳。この記事を読まれている方の中にも、絵本・児童文学の翻訳を目指している方、やってみたいと思われている方、いらっしゃるかもしれません。
絵本の翻訳は人気もあるようで、講座やコンテストもあるようでございます。ちなみに、英語とイタリア語の翻訳コンテストである、第30回「いたばし国際絵本翻訳大賞」も只今開催中のようでございます。
絵本の翻訳というと、翻訳家の方の他に、絵本作家さんが翻訳を担当されることも多々ございます。あの『スイミー』の翻訳も担当されている谷川俊太郎さまは、『マザーグースのうた』、スヌーピーでおなじみの『ピーナッツ』などたくさんの翻訳をされています。
谷川俊太郎さんが翻訳した絵本
石津ちひろさまも、「リサとガスパール」シリーズをはじめ、たくさんの絵本の翻訳を手がけていらっしゃいます。
石津ちひろさんの翻訳した絵本
ナンセンスでいうと、ジョン・クラッセンさま、ペク・ヒナさまなどの作品の翻訳を手がけている長谷川義史さまや中川ひろたかさまが、数多くの翻訳を手掛けていらっしゃいます。もちろん、その他にも絵本の翻訳をされている絵本作家さまはたくさんいらっしゃいます。
長谷川義史さん、中川ひろたかの翻訳絵本
そうしたなか今回は、翻訳家、絵本作家さんが翻訳を担当されていない、アノ人が翻訳をした話題の外国絵本を何作かご紹介させていただきます!
翻訳を務めるのはニューヨーク在住のシンガーソングライター・矢野顕子さん!
まずは、今年7月に刊行された『ホットドック』(Gakken)。こちら、2023年コルデコット賞、エズラ・ジャック・キーツ賞、2つの大きな絵本の賞を受賞した作品でございます。ちなみに、コルデコット賞はアメリカで出版された絵本の中でもっともすぐれた作品の画家に対して年に一度贈られる賞で、エズラ・ジャック・キーツ賞は、世界的な絵本の新人賞でございます。内容は、今年の夏を予見したかのようなとても暑い夏の日のお話でございます。舞台は大都会ニューヨーク、犬とその飼い主である女性との、ある暑い日の一日を描いた物語でございます。
特別な出来事や予想外なことが起こるわけではございません。この絵本の最大の魅力は「体感」、体で爽快感、満足感を味わえるところ、共感できるところかと存じます。ちなみに、作者のダグ・サラティさまもニューヨーク在住。実体験をもとに描かれたのではないかと…。
そして、この翻訳を担当されたのが、シンガーソングライターの矢野顕子さまでございます。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、矢野さまもニューヨーク在住。実感を持って翻訳してもらえるという理由から、矢野さまに白羽の矢が立ったそうです。矢野さまも「あー、ここはあそこね」と具体的な場所もご存じだったようです。さずが矢野さま、とてもリズムのよいテキストで、読み聞かせも楽しいかと存じます。
絵本の作者と同じ台湾出身、ミュージシャンで女優の一青窈さん初の翻訳絵本!
お次は、同じく今年7月に刊行された『HOME』(工学図書)。こちらの翻訳を担当されたのが、ご自身のヒット曲「ハナミズキ」が去年絵本になった歌手・作詞家・女優の一青窈さま。こちらも、大きな絵本の賞、2021年ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞大賞(フィクション部門)を受賞した作品でございます。こちらの舞台は、作者のリン・リェンエンさまが生まれ育った台湾でございます。ちなみに、一青窈さまの出身地も台湾でございます。貼り絵とイラストのコラージュからなる作品で、こちらも特別な出来事や予想外なこと、ハラハラドキドキなことが起こるわけではございません。台湾での日常、ある一日を描いた作品になっております。そして、こちらの魅力も、その一日を体感できるところでございます。どの絵本でも体感するだろ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この体感度の高さこそが良質な絵本の真骨頂かと!!(私の私見でございます)
エッセイスト・歌手・ナレーター、内田也哉子さんの手がける翻訳絵本
こちらは、エストニアを代表する絵本作家、ピレット・ラウドさまの絵本。今年1月に刊行された『うみ』(岩波書店)でございます。ラウドさまも2度のホワイトレイブン賞をはじめ数々の賞を受賞されている人気作家さまでございます。国際アンデルセン賞とアストリッド・リンドグレーン記念文学賞にも複数回ノミネートされております。こちらは、特別な出来事が起こります。ナンセンスというかシュールなお話でございます。海が主人公で、登場人物は魚など海の生き物。その海が魚たちを置いてどこかにいってしまうのでございます。
頭で理解しようとするとかなり大変なことが起こっているのですが、それがこの絵本ではすっと入ってくるのでございます。想像に難しいシチュエーションなのに、共感、体感できるのでございます。絵も含め、不思議な魅力の絵本でございます。魚とおしゃべりをする海がどんな姿で描かれているのか、是非、みなさまにもご体験頂きたいのでございます。そして、その翻訳を担当されているのが、エッセイスト・歌手・ナレーターなどでお馴染みの内田也哉子さまでございます。母が樹木希林さま、父が内田裕也さま、夫が本木雅弘さまの内田さまでございます。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、内田さまはたくさんの絵本の翻訳を手掛けておられます。去年11月に刊行され話題になりました多くの国でベストセラーとなっている絵本『点 きみとぼくはここにいる』(講談社)の翻訳も内田さまが手掛けておられます。
内田也哉子さんが翻訳を手掛けた絵本
漫画家・エッセイスト・画家のヤマザキマリさんの手掛ける、イタリア語翻訳絵本
驕りと剣を捨て勇気を持って平和を探る物語
森に住むクマの兵士は誇り高い戦士。
自分の剣の切れ味を試したくて、なんでもかんでも手当たり次第、森中の木を切っていました。そんなある日、上流のダムから水があふれ、自分の砦が壊れてしまいました。
オレ様の砦を壊したのはだれだ?!
今の世界情勢を映し出しヨーロッパでも注目されているイタリアの人気絵本作家とエストニアの著名絵本画家が描く「自己中なクマの戦士の犯人探し」。思いがけない真実を発見し、驕りと剣を捨て勇気を持って平和を探る物語。漫画家・文筆家・画家のヤマザキマリ の初のイタリア語翻訳絵本。
最後は、こちら『だれのせい?』(green seed books)。『テルマエ・ロマエ』でも有名な漫画家・エッセイスト・画家のヤマザキマリさま翻訳絵本でございます。原作のテキストを担当しているのはイタリアの人気作家、ダビデ・カリさまでございます。17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院に通い、イタリア人の比較文学研究者の方と結婚されているヤマザキさまの初のイタリア語翻訳絵本でございます。こちらは、いろいろ考えさせられる絵本でございます。是非、お子様と会話をしながら読まれてはいかがでしょうか。
今回、ミュージシャンや漫画などのアーティストの方が翻訳された話題の外国絵本をご紹介させて頂きました。たまたま、アメリカ、台湾、エストニア、イタリア……と、様々な国から出版された絵本のご紹介になりましたが、絵本を入り口にそれぞれの国についてお子様と調べてみたりするのも楽しいかもしれません。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |