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未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~

【今週の今日の一冊】今、科学絵本が面白い! 子どもたちの “なぜ?” の扉を開こう

夏休み、自然の中へ出かけたり、虫を採って観察したり、また自由研究の宿題などでいつも以上に身の回りの不思議を感じた子も多くいたことでしょう。そんな子どもたちに生まれる好奇心を満たし、世界を広げてくれる「科学絵本」。ロングセラー作品に加え、近年、あらゆる分野における専門家の方々の熱意あふれる研究により、内容もビジュアルも素晴らしく充実した「科学絵本」が生み出されています。
絵本ナビでは、子どもたちの“なぜ?”に寄り添い、さらなる“なぜ?”の扉を開くために、子どもたちに「かがく」を伝える本の著者へ話を聞くインタビュー連載を2022年より発信しています。
今週は、今注目したいおすすめの科学絵本の紹介と合わせて、舘野 鴻さん、筒井学さん、真鍋真さんのインタビューをご紹介します。
 

2023年8月28日から9月3日までの絵本「今日の一冊」をご紹介

8月28日 暗黒世界に生きる、小さな虫の大きな一生

月曜日は『がろあむし』

がろあむし

1匹のガロアムシの誕生から、一生を終えるまでを、迫力のある精緻なタッチで描いた大判絵本。
作者はデビュー作『しでむし』や『ぎふちょう』を描いて注目され、『つちはんみょう』で小学館児童出版文化賞を受賞した舘野鴻さん。
小さな虫の小宇宙を描き出すミクロの視点、徹底した取材・観察、それらを反映させた力のある画で、抜きん出た存在感を示す作家です。

本を開くとまず目に飛び込んでくるのが、川と町のあいだに挟まれた、みずみずしい森の緑。
のどかな鳥瞰図から、ぐーっと視点が下りていき、森のくずれた崖の、落ち葉や岩がごろごろとした地面の奥底に入っていきます。
地下の真っ暗な世界で、黒いたまごからガロアムシのあかちゃんが生まれたところから、虫の物語のはじまりです。

生まれたばかりの小さなガロアムシは、たくさんの他の小さな虫に混じって、暗い地下を走り回ります。
獲物を探し、捕まえて食べて命をつなぎ……。
ときには食べるばかりでなく、逆に食べられそうになり、足を食い切られながら、生きるために走りつづけます。
やがて成虫になってオスに出会い、自分のたまごを産むまで……。

ガロアムシが一生を終えると、視点は地下から地上へと上がっていき、ふたたび鳥瞰図があらわれます。
しかしそこに広がるのは、冒頭と同じ森の姿ではなく、開発がすすみ、町が広がって行った新しい地図であることがわかるのです。

およそ5年から8年と言われるガロアムシの寿命。
1匹のガロアムシが誕生して死ぬまでの年月と、同じ年月を、地上で暮らす人間たちの変わりゆく町の世界と対比させながら描き出しています。
舘野鴻さんは実際、今作のために約10年という月日をかけて、ガロアムシの取材・調査を行ったそうです。
巻末にはガロアムシ以外にも「この本に登場する生きものたち」と題して、たくさんの虫の名や科・属などの分類が紹介されています。

2017年に発売された『つちはんみょう』で小学館児童出版文化賞を受賞して以来の、待望の新刊。
ガロアムシも他の虫たちも、人間の営みとかけ離れた世界で生きているように見えて、じつは同じ世界で、かけがえのない命の時間を重ねていること。
過酷な生を生きながらえ、次世代へ命をつなぐ虫の姿が、本書を通じて伝わってきます。
大いなるダイナミズムを感じる絵本作品です。

(大和田佳世  絵本ナビライター)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=150780

みんなの声より

「がろあむし」を知らなかったので、読んでみました。まず、ものすごい精巧な絵に驚愕しました。虫は苦手なのですが、ひきこまれました。生態がよくわかり、興味深かったです。なんと、10年も取材されているんですね! 絵本で読めるのは嬉しい限りです。
(あんじゅじゅさん 50代・その他の方 )

『がろあむし』の著者、舘野鴻さんインタビュー

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1457 いのちって なに? 舘野鴻さんインタビュー(前編)『ソロ沼のものがたり』
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1463 いのちって なに? 舘野鴻さんインタビュー(後編)『がろあむし』、『ぎふちょう』

8月29日 日本でいちばん大きなトンボのくらし

火曜日は『夏の小川にかがやく宝石、オニヤンマ』(2023年7月新刊)

夏の小川にかがやく宝石、オニヤンマ

長い長い水中生活から、大空へ初フライト!

日本最大のトンボ、オニヤンマ。
眼は宝石のエメラルドのように美しくかがやき、力強く空を飛びます。

オニヤンマが見られるのは、緑が濃い森林と澄んだ小川がある環境。
そんな自然が残された人里があれば出会えるトンボです。

オスは元気なうちは常にほかのオスと戦い、メスを探して交尾に挑みます。
メスは何度も交尾と産卵を繰り返し、多くのオスたちの子孫を数千個の卵に託すのです。

産み落とされた卵から誕生した小さな幼虫は、様々な小さな生物を食べて成長していきます。
そして、幼虫自身もほかの生物に食べられてしまいます。

過酷な生存競争の中で生き残ったわずかな幼虫は、長い水中生活を経て成虫へと変身します。

いよいよ初フライトの瞬間です!!

卵から成虫まで、オニヤンマのくらしをとらえた写真絵本です。

【写真と文】筒井学(つついまなぶ)
1965年北海道生まれ。
1990年より東京豊島園昆虫館に勤務。
1995年から1997年まで昆虫館施設長を務める。
その後、群馬県立ぐんま昆虫の森の建設に携わり、現在、同園に勤務している。
昆虫の生態・飼育・展示に造詣が深く、昆虫写真家としても活躍している。

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=222622

8月30日 都会の限られた自然の中でたくましく生きる

水曜日は『セミたちの夏』

セミたちの夏

空へのびる入道雲と、うだるような暑さ。そして降りしきるセミの声。セミは日本の夏の風物詩ですね。
見慣れているように感じますが、実際は、とがった口で木の汁を吸うところも、木にしっかりとつかまる意外と細い足先も、近くでじっくり観察する機会はあまりありません。幼虫が長年地中で生きるということは知っていても、卵が地上の木の枝に産みつけられて、生まれると土にもぐるということを知っている人は少ないのではないでしょうか。卵から孵ったセミの2mmほどのセミの幼虫は、枝からポトポトと地面に落ちて、必死で土にもぐりこむまでに、アリに捕食されるなどほとんどが命を落とすのだそうです。
どうでしょう。セミは、どうやら、知っているようで知らない昆虫なのです。

この絵本は、アブラゼミの一生を美しい写真で見せてくれる写真絵本です。写真は、昆虫写真家として活躍する作者・筒井学さん。「ぐんま昆虫の森」で長年セミを撮影されている筒井さんの写真は、なかなか見られないセミの一瞬の姿をとらえ、その命のひとコマを私たちに見せてくれます。
夏の終わりに産卵された卵の様子や、木の枝から幼虫がゆっくりと顔を出す瞬間。成長した幼虫が前足を使ってトンネルを掘るところなど、卵の艶から、幼虫の細かな体毛まで、全てを鮮明に見ることが出来ます。
生まれて5年目の夏、ようやく幼虫は地上に出ます。久しぶりに見る地上の世界。穴から頭を出した瞬間の顔がアップで写し出されています。光を浴びる黒々とした目に、幼虫が何を感じているのか想像せずにいられません。
そして、幼虫が成虫へと羽化する時。
羽化直後のセミの、すきとおるようなはかない美しさといったら!本の画面の中では、この神秘的な瞬間が、1本の木のそこかしこで一斉に起こっているのに圧倒されます。大人も子どもも、目を丸くして見入ってしまうことでしょう。
セミが成虫として生きるのはたった2週間です。せいいっぱい鳴いて飛び回って、セミたちのいのちは、夏の終わりとともにつきてしまいます。
「都会のかぎられた自然の中でも、たくましく生きるセミたち。6年という長い年月をかけて、いのちを引きついでいます。」
この絵本には、そんなセミの姿、昆虫たちの姿を通して子どもたちに大事なものを感じ取ってほしいという、筒井さんの想いがあふれています。
今年の夏も盛大に鳴いているセミたち。それぞれがこのドラマを生きて地上の2週間を謳歌していると思うと、声までいつもと違って聴こえてくるように思います。

(掛川晶子  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=87229

みんなの声より

ホントに細かくセミの一生をレポートしてくれいる写真絵本でした。
多少はいろいろなところで見聞きしていましたが、これほどじっくり丁寧にセミの一生を追っかけて、その1つ1つをきちんと見せてくれている作品には初めて出会いました。

セミの卵がこんなふうに木の枝に差し込むように産まれていることや、
そこから生まれえた1齢幼虫たち(乳白色でいっぱいいると結構気持ち悪い)がどんな危険を冒して地面に移動するとか、
土の中でどんな風に過ごしているとか、長い長い土の中の7年間を見ることができて勉強になったというか、よかったです。

特に羽化するところの連続写真はすごかったです!
セミへの愛を感じる作品でした。
虫の好きなお子さんたちにはぜひ読んであげたいです。
(てんぐざるさん 40代・ママ 女の子18歳、女の子13歳)

『夏の小川にかがやく宝石、オニヤンマ』『セミたちの夏』の著者、筒井学さんインタビュー

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1955 虫を好きになれたことが幸せ 筒井学さんインタビュー(前編)『夏の小川にかがやく宝石、オニヤンマ』
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1959 虫を好きになれたことが幸せ 筒井学さんインタビュー(後編)『イモムシとケムシ』『はじめてのむし しいくとかんさつ』

8月31日 なぜ、うかぶの?どうして、しずむの?

木曜日は『うかぶかな? しずむかな?』(2023年8月新刊)

うかぶかな? しずむかな?

水の中にボールを入れたりミニカーを入れたり野菜を入れたり…。どれうかぶ?どれしずむ?どんどん実験してみよう。ラストにくすっ!目に見えない浮力が幼児に伝わる絵本。

「かがくすっ」シリーズ、こちらもおすすめ

9月1日 美しい切り絵で覗く、海の世界

金曜日は『海洋を冒険する切り絵・しかけ図鑑』

海洋を冒険する切り絵・しかけ図鑑

フランスで生まれた、レースのように繊細で美しい切り絵と、散りばめられた様々なしかけが楽しい「切り絵・しかけ図鑑」シリーズ。 
海は私たちの惑星の「肺」だともいわれています。海の世界に足を踏み入れ、海に棲む不思議な動植物に会うための冒険に出かけてみませんか? 海のさまざま表情を紹介するだけでなく、海の謎も解明します。

みんなの声より

一際大きなサイズのおしゃれな佇まいの絵本。図書館でとても目立っていたので、手にとってみたくなりました。
海の世界を丸ごと体験できる、しかけつきの図鑑です。水深ごとにどんな生き物が生息しているのかがわかります。
白い波柱や珊瑚の枝の1つ1つが切り絵になっていて、それはそれは美しいです。何度もページをめくってしまいました。
シリーズで他にもあるようなので、ぜひ読んでみたいです。
(クッチーナママさん 40代・ママ 女の子18歳、女の子15歳、男の子13歳)

9月2日 動きをまねしながら、生きものの進化をたどろう!

土曜日は『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』

わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし

「わたしは,さかなのおばあちゃん.からだをくねくねさせて,およぎます.きみもくねくねできるかな?」大むかしの魚や,ほ乳類など,いろいろな種類のおばあちゃんが語りかけます.じつは,みんなわたしたちヒトの祖先です.おばあちゃんたちの動きをまねしながら,生きものの進化をたどってみよう!大人のための解説付き.

みんなの声より

魚たちみんなのおばあちゃん、ほ乳類たちみんなのおばあちゃん、人間たちみんなのおばあちゃん…。進化の大きな分かれ目にいる「おばあちゃん」たちを主人公にした、人間までの進化の道筋を辿るお話です。進化のお話は絵本でもなかなか理解の難しい書籍があるので、初めての進化のお話には、このようなアプローチで語りかけてもらえると子どもも興味を持って聞いてくれます。
(ぼんぬさん 40代・ママ 女の子6歳、女の子2歳)

『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』訳者、真鍋真さんインタビュー

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1693 謎が解けたら、つぎの謎へ 真鍋真さんインタビュー(前編)『わたしはみんなのおばあちゃん』、「恐竜博2023」
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1695 謎が解けたら、つぎの謎へ 真鍋真さんインタビュー(後編)『きみも恐竜博士だ! 真鍋先生の恐竜教室』、『鳥になった恐竜の図鑑』

9月3日 五千万年がつむぐ、奇跡の進化

日曜日は『クジラの進化』

クジラの進化

深い海で響く歌。海面から吹き出す真っ白な水煙。波を持ちあげて立ちあらわれる、山のような体。そのとき海中を悠々と泳いでいるのは、同じ地球上で今も生きる巨大生物、クジラです。

地球でもっとも大きな動物である、シロナガスクジラ。
1000メートルもの深海で獲物を狩る、マッコウクジラ。
同じクジラでも、住む場所や時代がちがえば、その姿も能力も大きく異なります。

暗い深海もなんのその! 音で獲物を探し出す、エコーロケーション。
海水ごと丸呑み! その大きな体に備わった、プランクトンを効率よく食べるための秘密。
長い進化の歴史のなかで、クジラが獲得してきたたくさんの技と機能。その秘密に迫るべく、本書がはじめに描くのは、5000万年前の地球です。

そんな太古の大自然、川のなかを四本足で歩き回る、オオカミに似た動物がいます。その動物の名前は、パキケタス。なんと、クジラとは似ても似つかぬその動物こそ、初期のクジラの仲間なのです!

そこからクジラは少しずつ、水のなかでくらすための体に進化していきます。4000万年前には、どうやっても恐竜にしか見えない恐ろしげな姿に変わり、やがて、水の抵抗を受けない、いまのクジラに近いなめらかなシルエットに進化していきます。

そして、注目すべきは鼻の穴! 他の哺乳類と同じく顔の前面についていたクジラの鼻の穴ですが、5000万年の時のなかで、彼らの鼻の穴は少しずつ、少しずつ、別の場所へと移動していって──?

クジラの祖先を追いながら、5000万年におよぶ進化の奇跡を追体験していく本書。知られざるクジラの生態を学ぶことができるのはもちろんですが、広大な海を生きる彼らの姿を描き出したイラスト群が、迫力抜群!

時に暗い深海を、時に明るい水面近くを泳ぐ、クジラたち。イラストに描きこまれたその巨大なサイズ感に、圧倒されます。
特に印象的なのは、太古の巨大ザメ「メガロドン」と、一本が30センチもある牙をズラリと揃えたクジラ「リビアタン」を描いた一枚! 鋭い歯と巨大な体を備えた両者の戦いは恐ろしくも神秘的で、ページをめくった瞬間にゾクゾク……!

5000万年が育んだ進化の奇跡を、大迫力のイラストと共に紐解く科学絵本です。

(堀井拓馬  小説家)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=176520

記事構成・文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)

選書:掛川晶子(絵本ナビ副編集長)

 

※【連載】わたしの“なぜ”から扉がひらく 自然と科学を見つめる絵本作家インタビュー
インタビュー・文: 大和田 佳世(絵本ナビライター)
編集: 掛川 晶子(絵本ナビ副編集長)
 

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絵本ナビ編集部
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