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未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~

【今週の今日の一冊】なぜ?と問いながら読みたい、平和と戦争の絵本

なぜ戦争をするのだろう、なぜ国同士の争いが起きるのだろう、なぜ日本には原爆が落とされたのだろう。そして、なぜ戦争は終わらないのだろう……。平和について、戦争について考える時に浮かんでくるたくさんの疑問。

 

日本の過去の戦争体験を受け継ぐこと、今も終わることなく続くロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争によって起きているさまざまな問題。複雑な状況の中で、戦争を伝えるための新しい表現がどんどん生み出され、平和の絵本も多様化しています。


今週は、その多様化している絵本や本をテーマ別に分けてご紹介していきたいと思います。

2024年8月5日から8月11日までの絵本「今日の一冊」をご紹介

難民問題を描く絵本

8月5日 ぼうしと一冊の本を手に。イランから届いた絵本。

月曜日は『きみは、ぼうけんか』

きみは、ぼうけんか

めちゃくちゃになった部屋、壊されてしまったわたしたちのおうち、どうしたらいいのか、全然わからない。でもお兄ちゃんは自分のぼうしをわたしの頭にのせて言った。

「ぼうけんかになりたくない?」

こうして二人は「ぼうけん」の旅に出る。ウマより早く走り、どんな風や雨のなかでも歩き続け、外で寝るのだってこわくない。「ぼうけんか」はどんなものだって食べるし、ふねにだって乗る。魚みたいに泳ぐ時だってある。「ぼうけん」って、全然らくじゃない。でも、二人は励ましあいながら「ぼうけんかのまち」を目指すのです。

2019年にイランの作家によって描かれ、2021年ブラチスラバ世界絵本原画展金牌を受賞したこの絵本。主人公は、戦争によって親も家も奪われた幼い兄妹。火の手があがる街、歩き続ける人々の暗い表情、妹の涙。丁寧に描かれた絵を見れば、難民キャンプを目指す二人の旅路がいかに苦しくて果てしないものなのかが切実に伝わってきます。けれど、兄はこの困難な状況を「ぼうけん」だと言ってのけ、妹は兄の言葉を信じ、なんとか乗り切っていく。

今を生きる子どもたちにとっても決して他人事ではない、戦争という過酷な現実。恐怖や絶望に直面した時に、想像力や遊び心で立ち向かった小さな冒険家たちのことを思い出すことができたなら。この絵本が、きっと多くの人の心を励まし、希望を持ち続けることの大切さを教えてくれる存在になっていくのではないでしょうか。

(磯崎園子  絵本ナビ編集長)

読者レビューより

内容を知らずに読み始めたので、「ぼうけんか」ということで、妹を守ろうとするお兄ちゃんの気持ちに胸が痛くなりました。ふたりのこどもたちをとおして、改めて、世界中の平和を祈ってしまいます。巻末に作者のメッセージものっていて、その強い思いが伝わってきました。
(あんじゅじゅさん 50代・その他の方)
 

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=251258 ぼうしと一冊の本を手に。『きみは、ぼうけんか』【NEXTプラチナブック】

ヒロシマを知り、考える本

8月6日 白熱の討論会の行き着いた先に見えたのは……

火曜日は『ある晴れた夏の朝』

ある晴れた夏の朝

アメリカの8人の高校生が、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非をディベートする。肯定派、否定派、それぞれのメンバーは、日系アメリカ人のメイ(主人公)をはじめ、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と、そのルーツはさまざまだ。はたして、どのような議論がくりひろげられるのか。そして、勝敗の行方は?

戦争とは何か、を考える絵本

8月7日 戦争とは何か……ポルトガルの文学者が伝える絵本

水曜日は『戦争は、』

戦争は、

戦争は、何も知らない人たちの柔らかな夢に入りこむ。戦争は、物語を語れたこともない。--気づかぬうちに進行する病気のように日常をずたずたにし、野心や憎しみを糧に貪欲に育つ戦争。自らも独裁政権に抗した、ポルトガルを代表する文学者の詩とその息子による絵で、戦争の残酷な本質を描く。今こそ読まれるべき、衝撃的な絵本。


■訳者からのメッセージ
 「戦争」とは何でしょう。何から生まれ、どう大きくなり、私たちに何をするのでしょうか。
  この絵本は、短い文章とシンプルな絵で「戦争」という化けものの正体を暴いていきます。ですが、この絵本に物語はありません。「戦争は、物語を語れたことがない」からです。この絵本を手に取って「こわい」と感じる人もいるかもしれませんが、それは、作者の伝えたいことがまっすぐ届いている証拠です。
  今、世界で起きていることを考えながらこの絵本を読んでほしいと思います。


■編集部より
  まるで知らぬうちに進行してしまった病のように、密かに忍び寄り、瞬く間にはびこってしまうもの、それが戦争。その正体を読む人に突きつけるこの絵本は、ポルトガルを代表する文学者の父と、その息子の合作です。
  父のジョゼ・ジョルジェ・レトリアは、40年にもわたるヨーロッパ最長の独裁体制に抗してきたレジスタンス音楽家であり、詩人、ジャーナリストでもあります(2024年はポルトガルで独裁体制を終わらせたカーネーション革命から、50周年にあたります。ジョゼも革命の中心人物でした)。「戦争とは何か」を考え続けてきた文学者の静かで力強い詩は、息子のアンドレによる印象的な絵と共に、戦争の残酷さや恐ろしさを暴いていきます。
  淡々とした静かな印象なのにとても衝撃的で、読後にも一言では表せない余韻やしこりが残ります。不信や憎悪が連鎖する世界をどうしていけばよいのか、大切なものとは何なのか、読む人が考えてしまうような絵本です。

読者レビューより

「戦争」が何から生まれて、どのように私たちの生活に忍び寄り、有無を言わさず人々の日常や命を飲み込み奪い去るのか。

「物語」のないこの絵本が、シンプルかつ短い文章で、静かにかつ力強く、戦争の恐ろしさを伝えている。

学校での読み聞かせなら小学校中学年以降が良いかもしれないが、家庭では小さな子供にも読み聞かせたい。
戦争のニュースを見ないことのない昨今だからこそ、全ての年代の子供たちにぜひ読んでほしい。
もちろん全ての大人にも。
(ちろごんさん 50代・ママ)

ウクライナから届いた平和への願い

8月8日 ウクライナの作家が描く、平和な町と壊された日常

木曜日は『戦争が町にやってくる』

戦争が町にやってくる

色とりどりの花が歌う、ふしぎな町ロンド。
この町には、だれもが知ってる仲良し三人組がいました。

ぴかぴか光るガラスの体、電球の妖精みたいなダーンカ。
ピンクの風船犬、ふわふわ軽い、宝探しの名人ファビヤン。
折り紙の鳥みたいな見た目のジールカは、空を飛べて、旅が大好き。

三人をはじめとしたロンドの個性的な住人たちは、町での暮らしを心からたのしんでいました。

ところが、そんな平穏な日常を壊す、おそろしい影がロンドにやってきました。

戦争です。

ウクライナを拠点に活動するアートユニットが描く、平和な町と、壊された日常。その目も覚めるようなコントラストで、戦争の痛ましさを描き出した一冊です。

写真を組み合わせて作るコラージュと、ポップでかわいらしいグラフィックのキャラクター。
明るくやわらかな色で描かれる平和と、暗くおどろおどろしい色の戦争。
ファンタジックで詩的な世界観と、戦争というリアルなテーマ。
本作はそうしたいくつかの強いコントラストで構成されていて、それが両方の極の強烈な印象を、読者の胸に刻み込みます。

「ロンドの町の人たちは、戦争がどんなものか知りませんでした。
ところが、戦争は、どこからともなくやってきました。」

石で心臓を打たれて、ヒビの入ったダーンカ。ファビヤンはトゲで刺されて足がやぶけ、ジールカは火で焼かれて翼に穴があきました。そして、彼らの傷は物語の最後まで癒えることはありません。

戦争を止めるために、三人は相手のやり方をならいました。戦争の心臓を狙って、攻撃を返したのです。しかし、すべてむだに終わりました。

「なぜなら、戦争には心を心臓もないからです」

どうやっても戦争の歩みを止めることはできないとあきらめかけたそのとき、ロンドの町にある意外なものが、みんなの希望になって──?

作中で象徴的に描かれる、赤いヒナゲシ。これは、第一次世界大戦の戦死者を追悼するためのシンボルとして知られる花です。現実におおきな戦争が起きてしまった現在、その当事者たる著者らが戦争の悲惨と平和の愛おしさを子どもたちに向けて発信した、心ゆさぶられる作品です。

(堀井拓馬  小説家)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=175797
https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=175797

読者レビューより

『うるさく、しずかに、ひそひそと』『目で見て かんじて』の作者による作品。
ウクライナのリヴィウを拠点に活動、とのこと。
まさに今現在の戦争の様子を独特の感性で紡ぎます。
聴覚や視覚がテーマの作品を読んでいたせいか、それらの感覚がよみがえってきます。
ロンドという町に住む、ダーンカ、ファビヤン、ジールカが目撃した、戦争。
楽しく、平和に暮らしていた生活が一変する様子が、「やってきた」という表現で視覚的に感じさせてくれます。
ダーンカ、ファビヤン、ジールカも、不思議な造形ですが、
戦争も不気味な造形で紡がれます。
戦争には心も心臓もない、という文章が重いです。
3人が必死に対抗した方法が、希望でしょうか。
いろいろと問題提起させてくれる作品だと思います。
(レイラさん 50代・ママ)

子どもの戦争体験を描く絵本

8月2日 トットちゃんが体験した戦争とは…

金曜日は『トットちゃんの 15つぶの だいず』

トットちゃんの 15つぶの だいず

もし、一日の食べものがだいず15つぶだけになってしまったら……。

この絵本は、トットちゃんの戦争体験を、トットちゃんの目線で語ったおはなしです。戦争がはじまるとどんどん食べるものがなくなり、トットちゃんは、たった15つぶのだいずで一日を過ごすことになります。
この絵本で描かれる、これまでの戦争絵本と違う大きな特徴を2つ挙げてご紹介します。

1つめは、「一日の食べものがだいず15つぶ」という子どもたちが感覚として掴みやすい表現がなされていること。学校へつくまでに3つぶ食べてしまって残り12つぶになったこと、防空壕の中で不安な気持ちから残りのだいずを全部食べちゃおうか、がまんしようかと気持ちをいったりきたりさせるトットちゃんの姿。子どもたちは、だいずが残り何つぶかということを真剣に数えながら、トットちゃんの気持ちに心を添わせて読んでいくことでしょう。

2つめは、トットちゃんの笑顔です。
これまで、戦争の絵本で描かれる子どもたちに笑顔の場面はほとんどありませんでした。もちろん戦時下のつらい状況の中ですから、暗い顔をしていたり泣いていたりするのが当たり前といえば当たり前なのですが、でもきっとその中でも子どもたちの中にはわずかな喜びがあったり、ホッとする瞬間があったり、笑顔になることもあったと思うのです。お話の中で、トットちゃんは読者である私たちにたくさんの表情を見せてくれます。それは子どもそのものを全身で表現しているようなエネルギー溢れるトットちゃんだからこそ実現したことかもしれません。感情豊かなトットちゃんの戦争体験だからこそ、よりリアルに迫ってくるものがあります。平和で安心だった毎日の生活に戦争が入り込んできて、さまざま感情を動かしながら戦争を生き抜いていくトットちゃんを、子どもたちは、友だちのように感じて読みながら、お話に没頭していくことでしょう。

そんなトットちゃんの明るさやひたむきさによって、戦争を描いたお話ながらもあたたかさが感じられる『トットちゃんの 15つぶの だいず』。そのあたたかさの源は、平和や子どもにとっての幸せであり、だからこそ、その幸せを守らなければいけない、戦争になるとそれが失われてしまうという強いメッセージが伝わってくるのです。

女優の黒柳徹子さんが自身の小学生時代を描き、大ベストセラーとなった『窓ぎわのトットちゃん』。そのもうひとつのおはなしとして『トットちゃんの 15つぶの だいず』が誕生しました。児童文学作家の柏葉幸子さんが子どもたちに語りかけるような親しみやすい文章を、絵本作家の松本春野さんが、やわらかなタッチで生き生きとしたトットちゃんを描かれました。トットちゃんを描くにあたり、いわさきちひろさんの孫でもある松本春野さんは、大きなプレッシャーがあったことをインタビューでお話くださいましたが、トットちゃんへの深い理解と愛情から、新たなトットちゃんがここに誕生しました。インタビューでは、子どもたちに向けて「たくさんの自分といっしょだ、を見つけてほしい」とのメッセージも寄せてくださっています。

トットちゃんの戦争体験を自分のことのように感じながら想像し、平和を考える大きな一歩に……。
親子で一緒に、たくさん会話しながら読んでみてください。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=222645
https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=222645

読者レビューより

黒柳徹子さんの原案に書かれています
「戦争ほどおそろしいものはありません」

子供のころの戦争体験がこの絵本に書かれています

戦争が始まる前のトットちゃんは 幸せな子供時代を過ごしていました
そんな幸せは戦争がはじまると一転しました
食べるものがありません
一日にだいず15粒で生活するのは 本当に大変でしたね
トットちゃん防空壕に逃げなくてはならない悲しさ
戦争の恐ろしさがすごく悲しいです

でも 現代でもウクライナとロシアの争い
それから イスラエル イラン 
ガザ地区で爆撃に会いたくさんの人たち子供たちは 一日にパン一枚 トイレもなく 寝る場所もない最悪の生活を強いられています
この絵本を読んで ニュースで流される悲惨な争いが一日も早くなくなることを願います!
(にぎりすしさん 60代・その他の方)

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1922 トットちゃんのもうひとつのおはなし『トットちゃんの 15つぶの だいず』 松本春野さんインタビュー<前編>
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1923 トットちゃんのもうひとつのおはなし『トットちゃんの 15つぶの だいず』 松本春野さんインタビュー<後編>

寓話で考える戦争

8月10日 なぜ人間は戦争を繰り返すのか?

土曜日は『世界で最後の花 絵のついた寓話』

世界で最後の花 絵のついた寓話

なぜ人間は戦争を繰り返すのか?
わたしたちは戦争のない未来をつくることができるのか?

雑誌『ニューヨーカー』で活躍した著者が、第二次世界大戦開戦の直前に戦争のない未来を願って描いた名著を、村上春樹の新訳で復刊。

戦争が起こってしまう「今」を生きるわたしたちに託された平和への願い。
大人から子どもまで読める、戦争を考える本。

【内容紹介】
第十二次世界大戦が起きた世界。文明は破壊され、町も都市も、森も林も消え去った。残された人間たちは、ただそのへんに座りこむだけの存在になってしまった。ある日、ひとりの若い娘がたまたま世界に残った最後の花を見つけます。その花をひとりの若い男と一緒に育てはじめます。すると……。

読者レビューより

第二次世界大戦が始まった1939年に書かれたということに衝撃を受けました。当時の状況を想像すると、とてもシンプルな絵なのに作者のサーバーさんの思いがあふれ出ていると感じます。
80年あまりを経て今復刊されたことに大きな意味があるでしょう。翻訳された村上春樹さんがあとがきに書かれているように、大人に読んでほしい絵本です。
お話の終わりを絶望ととるか、希望ととるか…。
(よし99さん 50代・じいじ・ばあば 女の子0歳)

非戦と平和へのメッセージが強く響く絵本

8月11日 ロボットではなく、ひとでありたい

日曜日は『ひとのなみだ』(2024年6月新刊)

ひとのなみだ

 だいとうりょうが さけぶ
 せんそうが はじまる
 でも ぼくは いかない
 いくのは ロボットのへいたい

ロボットの兵隊が戦争に行く世界で、ぼくたちは安心して暮らしているはずだった。
非戦と平和への願いを込めて、詩人・内田麟太郎が描く近未来とは──。

いかがでしたか。

過去の戦争のこと、世界で現在起きている戦争のこと、さまざま複雑な状況の中で、絵本は、想像を助け、考えるきっかけを与えてくれます。心に引っ掛かったものから手にとってみませんか。

 

選書・文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
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