【今週の今日の1冊】戦後76年。戦争の記憶をつなぎ、未来へつなげる作品紹介(読み物編)
8月9日~8月15日までの絵本「今日の1冊」をご紹介
戦後76年となる2021年。今週は8月9日に「長崎原爆忌」、8月15日に「終戦記念日」があります。戦争の記憶と平和の大切さを次の世代に伝える試みがさまざま行われている中、文字や言葉で伝えるものとして、多くの作品が生み出されています。戦争を体験していない世代が、平和の尊さをどう自分事としてとらえていけるのか、読むことは疑似体験となり、心に強く残っていくのではないでしょうか。先週の絵本編に続いて、今週は読み物編をお送りします。
8月9日 かずさんから聞く、原爆が落とされた日のこと。
8月10日 あなたへと続く家族と戦争のものがたり
火曜日は『じいじが迷子になっちゃった』
出版社からの内容紹介
中国残留孤児の父・城戸幹の半生をつづった名作『あの戦争から遠く離れて』の著者が母となり、子へと家族の歴史を語りつぐ。
著者の父・城戸幹(きど・かん)は、敗戦後の混乱期、3歳で旧満州にひとり残された中国残留孤児。幹は優しい養母に大切に育てられながらも、やがて祖国への思いを強くし、文化大革命の真っ只中、日中国交正常化前の1970年に自力で日本への帰国を果たします。
本書は、その父の激動に満ちた半生をつづり、多くの賞に輝いた『あの戦争から遠く離れて』(2007年/情報センター出版局/現在は新潮文庫刊)を、あらたに子ども向けに書いた作品。
城戸家にとどまらず、日本人の誰しもが家族の歴史を遡れば必ず戦争の時代にたどりつきます。家族の物語を通して、若い世代へ、戦争とのかかわりを考えるきっかけを与える1冊。
8月11日 小学3年生の女の子の目から見た戦争の姿とは‥‥‥
水曜日は『ガラスの梨 ちいやんの戦争』
出版社からの内容紹介
親子で読んで語り合ってほしい。
戦争のこと、家族のこと、このさきの平和について。
大阪で暮らした著者の母親をモデルに、大阪大空襲で市井のひとびとが味わった悲しみを鮮烈にえがく! 今こそ読んでほしい本格的戦争児童文学!
昭和16年。小学3年生の笑生子(えいこ)は、大阪の新千歳国民学校に通う女の子。「ちいやん」と呼ばれて、かわいがられている。働き者の両親と、京都に住む長女の澄恵美(すえみ)、今は家庭を持って別に暮らしている厳格な長男の正義、いつでも心やさしく家族を助けてくれる次男の成年、電車の車掌をしているモダンでマイペースな次女の雅子、わがままだけど愛嬌いっぱいの弟の春男という大好きな家族に囲まれて、しあわせに暮らしていた。しかし、ひたひたと戦争の影がしのびより、笑生子の日常を少しずつ違うものに変えていく。大好きだった成年の戦死、成年が手伝っていた動物園の閉鎖、建物疎開で離ればなれになってしまった仲良しの千代ちゃん……そして、恐ろしい大空襲。戦争は笑生子から少しずつかけがえのないものを奪っていく。
どんな苦しい毎日でも生きていこうとする人間のたくましさと、その命のつながりによって今のわたしたちは生かされていること、そして、この戦争の悲劇を二度と繰り返してはならないことを訴える。
読者の声より
自分の母親をモデルにしたという、戦争の物語です。
太平洋戦争の勃発で、家族や友だちや生活までも、大変な荒波に放り出された、現実を一人の少女の眼を通して、生々しく描ききっています。
大阪大空襲の地獄の中で何が有ったか、実在した人たちをモデルにして、あまりの迫力に圧倒されて読み終えました。
このような戦争体験を経て、現在が有ることの重みを改めて感じました。
著者は、実の母親の姉に養女として出されたそうです。
その養母の存在感も、自分としてしっかり理解した形で描かれています。
(ヒラP21さん 60代・パパ)
8月12日 戦争は、若い、いちばんいい時期をうばってしまった
木曜日は『完司さんの戦争』
出版社からの内容紹介
1922年に新潟で生まれた完司少年は、外国へのあこがれから満州で働くことを選びます。しかし、楽しかった満州でのくらしは、召集令状によって終わりをつげました。釜山から出発し、戦地であるグアムへ行くことになったのです。到着直後の攻撃で左足を失ったあと、米軍の上陸により、完司さんはジャングルの中でひとり生きていかなければなりませんでした。
食料をなんとかして手に入れ、切りっぱなしの足を川や海で洗い、這いずるようにして移動する生活がはじまりました。持ち前のポジティブさと聡明さを生かし、ジャングルの中で生き抜いていく姿は、まるで冒険記のようです。
そんなサバイバル生活やその後の捕虜生活のことを、楽しかったこともあったと、ひょうひょうと語る完司さん。でも、戦争に行って帰ってくるまでの時間は自分にとって「この世にない時代」だったといい、最後にふと、こうもらします。
「戦争は、あの若い、いちばんいい時期を奪ってしまったのですよ。今ほしいものがあるとしたら、若さです。あの体力と機敏さがあったら、あれもこれもするのに、と思いますよ。」
好むと好まざるとにかかわらず、不条理にみながまきこまれる。そんな戦争の時代を生き抜いた、ひとりの青年のお話です。
8月13日 戦後の時代を生き抜いた孤児たちの思いがここに
金曜日は『命のうた ~ぼくは路上で生きた 十歳の戦争孤児~』
出版社からの内容紹介
10歳のときに神戸空襲で両親をなくした山田清一郎さんの半生を中心に、共に路上で生きた戦争孤児の仲間たちの、声なき声をすくい上げる、渾身のノンフィクション。
第二次世界大戦後、戦争孤児は日本全国に12万人以上いたといわれている。彼らは誰からも守られず、地を這うように生きた。
山田清一郎さんは、10歳で天涯孤独となり、路上で暮らした過酷な日々の記憶を、長い間胸の奥に閉じこめて暮らしてきた。語り始めたのは60歳を過ぎてからだ。
話したくはない。でも、今話さなければ、誰が仲間たちの声を伝えるのか…。
あなたには、届くだろうか。敗戦後75年目の節目に問う作品。
8月14日 子どもの目を通して見つめた戦争のすがた
土曜日は『わたしが子どものころ戦争があった』
出版社からの内容紹介
神沢利子さん、森山京さん、あまんきみこさん、三木卓さん、角野栄子さん、三田村信行さん、那須正幹さん、岩瀬成子さん、児童文学作家8人にインタビューし、戦争の姿を子どもの目から伝える。巻末に関連年表と地図も掲載。装画=長谷川集平
<目次>
国境のある島で暮らして 神沢利子
ふりむくと戦争があった 森山京
少女時代を満州で過ごして あまんきみこ
「ほろびた国」での少年時代 三木卓
雪国での集団疎開 角野栄子
戦中戦後の思い出から 三田村信行
広島に生まれて 那須正幹
米軍基地のある町から見た戦争 岩瀬成子
読者の声より
親はもちろん、祖父母さえも戦争を知らない世代になってきた現代の子供達に、戦争を語ってくれる身近な存在はなかなかいなくなってきました。それゆえに、このような体験を語ってくれる本は貴重で、ぜひ活用したく思いました。
戦争の悲惨さ平和の大切さ命の尊さ、どの時代に生きてもやはり知っておくべきことに思います。
(まゆみんみんさん 40代・ママ 女の子10歳)
8月15日 引き継がれる戦争の記憶と平和への強い祈り
日曜日は『平和のバトン』
出版社からの内容紹介
原爆が投下されてから、75年近くになろうとしています。やがて、被爆者がこの世からいなくなれば、記憶は失われていくでしょう。
「このままでは、原爆のことが忘れられてしまう」と、勇気を振りしぼって話しはじめた被爆者の声を、そして見た光景を、美術を学ぶ高校生が絵にして記録する「次世代と描く原爆の絵」プロジェクトが、2007年にスタートしました。
証言者と高校生が何度も会って、一年をかけて一枚の絵にしていきます。戦争も、原爆も、高校生にはまったく想像ができない状況であるがゆえ、証言者は絵にすることの難しさに何度も直面します。また、事実を正確に描くことが求められるので、高校生が勝手な想像で描くことができません。それでも高校生には知らないこと、わからないことだらけです。また証言者は、体験が衝撃的すぎたがゆえ、覚えていないこともたくさんあります。まさに二人三脚で、絵が描かれていくのです。
これまでに、40名の被爆体験証言者の話を、131名の高校生が152点の絵にしてきました。この本では、その中から4組の証言者と高校生を取材しています。証言者と密に接することで、平和な広島で今を生きる高校生たちが戦争や原爆を見つめなおす姿は、まさにバトンが手渡された瞬間なのです。
選書・文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)
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