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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

『よるのびょういん』がお守りに? 写真絵本の選び方・2つのヒント

絵本記事を書いたり、絵本について研究の日々を送る、絵本研究家のてらしまちはるさん。その活動の原点には、小さな頃にお母様から読み聞かせてもらったたくさんの絵本があるそうです。子ども時代の一風変わった、けれど本当はどこにでもある絵本体験を、当時の視点で語ってもらいます。「絵本の楽しさって何?」「読み聞かせているとき、子どもは何を思っているの?」そんな大人の疑問を解く、意外なヒントが満載です!

入院中に「エア絵本」、お守りのような存在だった

いまはケロッとしたものですが、物心ついたころ、私はしょっちゅうぜんそくで入院していました。

 

低気圧が近づいたり、ほこりっぽい場所にいたり、ちょっとしたことで症状が出るんですよね。両親はほんとうに大変だったろうなと思います。

 

でもね、入院って、私にとってはそう悪くありませんでした。なぜかって? 泊まりにいくのは、たとえ病院でもわくわくするから(笑)。だれかがそばにいてくれるし、寝ているだけでなかよしの看護師さんに会えますからね。

 

からだはもちろんしんどいけれど、病院自体はいやではなかったんです。それは『よるのびょういん』という、一冊の絵本のおかげでもありました。

『よるのびょういん』

よるのびょういん

夜になり、おなかが痛くなって高い熱の出たゆたかは、救急車で病院に運ばれました。夜の病院で働く人々の活躍をドキュメンタリータッチで描いた写真絵本です。

【読んであげるなら】3歳〜 

【私が昔読んだ年齢】2、3歳〜13歳ごろ 

『よるのびょういん』は、モノクロ写真絵本です。主人公のゆたかは夜中におなかが痛くなって、救急車に乗り、手術へ−−。息つく間もなく物語が進み、病気の子を支えるたくさんの人が登場します。

 

ゆたかが盲腸ということ以外、この絵本はぜんそくのときの私にそっくり。夜の救急外来にかけこむ疾走感まで、そのままです。だから物語に入りこみやすくて、いちだんと愛着があったんでしょう。

 

毎晩の絵本タイムでも、ひんぱんにせがみました。2、3歳から10歳前後まで、母があきるくらいお願いして、まるごと一冊覚えていたほど。でも、好きだったのは、自分に似ているから「だけ」じゃありませんでした。

 

くりかえし読みたい理由は、「開けばドキドキするけれど、最後にはほっとできる」から。当時はこれを感覚的に感じとって、おもしろいと思っていました。

 

さて、ぜんそくが出ていざ入院となると、からだに染みこんだ物語が、秘めた力を発揮します。

 

「ぜーぜー」と息苦しい入院中。絵本を開くにはからだが追いつきません。でも、持ってきた『よるのびょういん』の表紙さえ見れば、「エア絵本」を楽しめたんです。

 

情景が頭に立ちあがり、お話をそらでたどります。すると病院は、もう知らない場所じゃなくなって、家で読むときの心地よさにまでとっぷりひたれました。

 

私には、お守りのような存在だったんですね。

大人の先入観が、素直な読みのじゃまをする

私にとって、入院中はお守り、普段はただただおもしろい絵本だった『よるのびょういん』。でも、モノクロ写真やテーマのめずらしさからか、ときどき大人に誤解されてしまいます。

 

たとえば、絵本ナビの「みんなの声」には、こんなコメントが。

写真絵本のため、かなりリアル! 私がまず読んでみたのですが、怖かったので、もうしばらく子どもに見せるのはやめておこうと思います。でも、これが写真でなく絵だったら、この絵本の怖さも良さも半減なんでしょうね。
(はらぺこむしむしさん/30代ママ/4歳男児、投稿2006年 ※原文を要約)

うーん、もったいない! 白黒だし、手術の話だし、はらぺこむしむしさんが「怖い」とシャットアウトしてしまう気持ち、わからなくはないですが……。

 

息子さんは当時4歳。もしはじめにこの子と開いていたら、「怖い」の一歩奥を、親子で味わえたかもしれないのになあ。「写真でなく絵だったら、怖さも良さも半減」と読みとれているだけに、残念です。

 

そう、大人はこの絵本を、先入観で見てしまいがち。「病院」がテーマの「モノクロ写真」絵本だから、「リアル」で「怖い」と。でも、先入観のまだない子どもは、見方がちょっとちがいます。

 

まっさらな目で『よるのびょういん』を読んだら、どうして平気でおもしろがれるのか。一緒にのぞいてみませんか。

写真絵本『よるのびょういん』がわかる! 2つのヒント

ついさっき「ドキドキするけど、ほっとできる」から、この絵本が好きだったといいました。まさにこれが、『よるのびょういん』を理解するひとつめのヒントです。

ヒント①:ここにもあそこにも、安心感がある

もし『よるのびょういん』が手元にあれば、ちょっと開いてみてください。

 

黒々とした病院風景につつまれて、スピード感ある物語が展開されていますね。最後には手術がおわり、朝の明るさのなかで幕が閉じられます。

 

この最終場面が、お話を読みきった子どもたちを安心させてくれるのは、なんとなくわかるはず。でも実は、ここだけでなく全体に「安心のもと」がちりばめられています。

 

たとえば冒頭、ゆたかのお腹が痛くなる場面では、心配顔のお母さんがゆたかの方を見ながら電話をかけています。次の場面。かけつけた救急車には、何人もの救急隊員の影が見えますね。

 

そのあとも、お医者さんや看護師さんはゆたかに向き合い、治療の合間も見守ります。登場するどの大人も、ゆたかを治すのに一生懸命で、けっしてこの子を一人ぼっちにはしないんです。

 

いま挙げたことは、どれも文章には書かれていません。でも子どもは、絵本の写真や絵を「読み」ます。

 

大人の読む声を耳で聞きながら、目はこうして画面のすみずみまで読みこんでいるんです。4歳ごろを過ぎたら、主人公に自分を重ねて見ますから、ゆたかの安心はそのまま自分の安心です。

 

あっちにもこっちにも、ほっとできる場所がたくさん。「安心」が「怖い」より大きければ、大人が心配しがちなテーマでもおもしろがれるんですね。

ヒント②:「写真 = 絵」なら読みとれる

そうはいっても、子どもに写真絵本を手わたすのって、なかなか確信がもてないのはわかります。

 

実際この作品に限らず、大人から「写真絵本って子どもにはわからないですよね?」と聞かれることがあって……。口べたな私はそのたびにうまく説明しきれませんが、ヒント①でたしかめたとおり、子どもが理解しているのは事実です。

 

もうちょっと踏みこんで「なぜ理解できるのか」まで納得してもらえたら、だれでも誤解なく、写真絵本とうまくつきあえるのではと、いつも思うんです。

 

さいごに『よるのびょういん』の写真をじっくり観察することで、その「なぜ」を私なりに解いてみることにします。

写真でも、子どもに伝わる理由とは−−?

さいしょに結論から。この絵本では、写真が絵と同じはたらきをするから理解できると、私は考えています。「この絵本では」というのがミソ。同じポイントをおさえた作りの写真絵本なら、ほかの作品でも大丈夫です。

 

その、絵と同じはたらきをする写真って、一体なんでしょう? ちょっと見にいきましょうか。

 

もう一度『よるのびょういん』の冒頭へ。ゆたかのお母さんが119番に電話する場面です。まえにも少しふれましたが、目線は寝込むゆたかの方を向いています。

 

この画面で、はっきりピントがあっているのは、お母さんだけ。あとはぼんやりして見えますね?

 

多くの人がこの画面を見たとき、はじめにとらえるのは、はっきり写るお母さんでしょう。次に、彼女の目線の先のゆたかをとらえると思います。ゆたかはぼんやりしていても、目鼻があるので、認識しやすいですね。向こうに写りこんだ食卓などは、さほど気にならないと思います。

 

さて、なにげなく読めば「ふーん、日常風景が撮られているね」でおわりかもしれません。でも、もし素人の私が同じ風景をカメラで撮ったら、こんなふうに写らないはずです。

 

日常って、ごちゃごちゃのオンパレード。ちらかったおもちゃとか、食器棚のキャラクター茶碗とか、私の撮る写真にはつねに「関係ないもの」の主張があります。かたや『よるのびょういん』の写真は、ストーリー上で大切なものにしっかり目がいくよう作られています。

 

必要なものをよく見せて、不要なものを省く。これは、絵本の絵の表現のひとつです。『よるのびょういん』の写真は、写真家がカメラを使って描いた「絵」だと、私は思います。

 

そして、これらの写真のいちばんの目的は、ストーリーを伝えること。一枚一枚をずーっとつなげると、ながめているだけでお話の流れがわかります。ね、ほかの絵本と同じでしょう?

 

こうして過不足なく作られた「絵」なら、子どもは混乱せずに筋を読みとり、イメージをどんどん重ねていけます。

 

ついでにいえば、モノクロという色は「絵の具」です。白と黒だけに色をしぼって読み手の集中をさそったり、緊迫感を伝えるなど、いくつかの目的にしっくりくるから選ばれたのでしょう。

 

写真だから、絵だから、と区別するのは、実はあまり意味のないこと。こんなポイントを参考に、写真絵本をえらんでみてください。

 

つぎの2冊は、私が大人になって出会った写真による作品です。1冊目は『よるのびょういん』を読むのと同じくらいの年齢の子に、2冊目は小学生以上の子にしっくりくると思います。

 

どちらも2つのヒントをおさえた、いい作品ですよ。

まちには いろんな かおがいて

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てらしま ちはる

1983年名古屋市生まれ。絵本研究家、フリーライター。雑誌やウェブ媒体で絵本関連記事の執筆や選書をするかたわら、東京学芸大学大学院で戦後日本の絵本と絵本関連ワークショップについて研究している。『ボローニャてくてく通信』代表。女子美術大学ほかで特別講師も。日本児童文芸家協会正会員。http://terashimachiharu.com/

写真:©渡邊晃子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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