ワハハと笑って心を動かそう!いろんな笑いを誘う5冊の絵本『けっこんしき』ほか
絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。
2020年も、あと少しで幕を閉じますね。
今年は本当に、どっちを向いても大変な年でした。
予期せぬ事態が起こりつづけて、私個人は、心のしなやかさを忘れそうなときがたびたびあったような……。みなさんはいかがでしょうか?
でもね、最後はとにかく笑いたい。だって、心が動いていれば、たいていのことは大丈夫だと思いますから。
ということで今月は、私が過去に出会った、笑わせてくれる絵本たちを紹介します。
題して、「いろんな笑いを誘う絵本・勝手に5選」!
ギャハハと大笑いしたものもあれば、じわじわとこみ上げるタイプもあります。
激動の一年にフリーズした心を、さあ! 笑いの絵本で、ふたたび動かしてみませんか?
ワッハッハ! お腹を抱えて家族で笑おう『けっこんしき』
最近でいちばん笑わせてくれた絵本といえば、コレです。
おでこはめえほん『けっこんしき』。もう、お腹をかかえて笑いましたね。
はなよめさんや音楽家、粋な板前さんに宇宙人!? おめでたいけっこんしきを舞台に、みんなでたのしく大変身!
【ポイント】
特注の型で抜いたボードブック。おでこにはめて楽しむことができる絵本ができました!親子で、結婚式やイベントで......子どもはもちろん、大人も楽しむことができる1冊です。
私が初めて出会ったのは、ある読み聞かせイベントでした。
そのイベントは子ども向けのごくふつうのものでしたが、読んでくれるプレゼンターが5人以上いる、大きめの催しでした。1人のプレゼンターが1冊読み終わると、次のプレゼンターに交代する形で進んでいました。
いよいよ、トリの一冊となったとき。出てきた作品が『けっこんしき』です。
絵本に登場するのは、結婚式場をにぎわす面々。その頭部だけが「かつら」状態でページに描かれています。
そこにプレゼンターたちがかわるがわるおでこをはめて、顔芸をしだしたのです。
表情ゆたかな花嫁に、花婿に、プリンセスに、宇宙人……。
何人もの大人たちが、妙な髪型で、見たことない表情をしているってのは、どこか百鬼夜行を見るようなおもしろさがあります(失礼ですね、すみません)。
これは家族でやったら大盛り上がりにちがいない!と確信しました。
今夜、お腹をかかえて笑いたいご家族はいませんか? 年齢幅もどんとこいで笑えるこの絵本、イケると思いますよ!
ちなみに、ほかにも似た絵本はあります。しかし、このシリーズは優秀で、ひときわ読者を笑わせてくれるんです。
カギは文章に隠されています。
たとえば、花婿のせりふには「『せっしゃ しあわせものでござる』 かんきわまって うれしなき」とあるんですが、そう言われたら、花婿のかつらにおでこをはめた人は、嬉々として演じますよね。「かんきわまって うれしなき」を。
簡潔な文章が、かつらをかぶった際の行動のヒントを、ちゃんと与えてくれてるんです。
だから、みんなの顔芸がはかどって、大きな笑いが巻き起こるんでしょうね。
赤ちゃん言葉で大人がふき出す『だっだぁー』
かわって、こちらは赤ちゃん絵本です。
この『だっだぁー』で、私は赤ちゃんだけでなく、幅広い世代の大人たちをふき出させてきた実績があります。
どの年代にも通じる笑いが、これにはあります。
赤ちゃんのことばあそび……「ぶっひゃひゃぁー」「むちゅむちゅ」、共通言語は擬音語です。赤ちゃんだっておしゃべりしたいんです。この本は、ことばの音を楽しむ遊び心を応援します。調子をつけたり、声色を変えたり、たとえば「だらっだらーーー(と間をひきのばして期待させて)……だっだぁー!」と喜び合ったり。自由に盛大に遊んでください。ちなみに、登場するカラフルなお化けたちは、赤ちゃんの守り神です。(作者・ナムーラミチヨより)
これぞまさしく赤ちゃんのための絵本。2004年8月発売の同名のボードブックは、発売以来、赤ちゃん自身が、愛して・反応して・読みたがる(読んでもらいたがる)絵本として、ママたちから熱い評価を得てきました。「赤ちゃんの評価が高い絵本」ナンバーワン! 赤ちゃんの初めての1冊に、自信を持っておすすめします。
ページを開くと、やわらかそうなねんど細工の顔たちが、こんな言葉をしゃべっています。
「だっだぁー だらっ だらぁーー」。
「ぎーじ いーじ ぎーじ いーじ」。
「むちゅ むちゅ むちゅ むっちゅーーー」。
意味らしい意味は、どこにもありません。赤ちゃんの話す「喃語」を、そのまま文字にしたような文章です。
これを声に出して読むのが、めっぽう気持ちよくって……!
実はこの絵本、そんなふうに捉える読み手にかかってこそ、「笑える一冊」に仕立てあげられます。
一見すれば、この絵本にかかれているのは、無意味な音とねんどの顔の羅列だけ。そこに命をふきこむのが、読み手の声です。
読み手は、ねんどの表情から気持ちをくみとり、それを声にのせます。
「この赤い顔は、だれかに話しかけようとしているみたい」と思うなら、話しかけるような調子で「だっだぁー だらっ だらぁーー」と読めばいい。ためらわず、大胆に、です。
のびやかな声は、絵本をのぞきこむ人の心に届き、みんなを笑顔にしてくれるでしょう。
さっき、幅広い世代をふき出させた実績があるといいましたが、私と一緒にこれを読んで笑ってくれた人は、下は0歳から上は70代まで。
なかでも、特によく笑う年代がいます。
赤ちゃんや、小学校中学年くらいまでの子どもは、対象年齢だから驚きませんが、意外なのが、20代、30代、40代です。
音による原始的なコミュニケーションの快感を、思い出すのかなあと思います。
現代のおとぎ話にほくそ笑む『マクドナルドさんのやさいアパート』
ワッハッハと明るく元気な笑いがあれば、こっそりかみしめる笑いもあります。
大人が一人で、ひそかにほくそ笑むなら、おすすめを用意していますよ。
『どうぶつにふくをきせてはいけません』のコンビがおくる、今の時代にぴったり、40年前に描かれたナンセンス絵本。
マクドナルドさんは、アパートの管理人。管理人室をおおっていた、いけがきを切りガランとした庭に、おくさんが大事にしていたトマトの苗をうえました。
ぐんぐん育ったトマトをみて、気をよくしたマクドナルドさんは、トウモロコシやメロンやマメなど、さらに野菜のタネをまきました。
そしてある日、住人が引っ越して空いた部屋にも野菜をうえ、さらに住人が引っ越すたびに、新しい野菜やくだものをうえ、めうしやニワトリまでつれてきました。
ついに、アパートにはひとりの住人もいなくなり、4階建てのアパートは、4階建ての農場になったのです。しかし、このことが、アパートの持ち主のレンタルさんにばれて、大変なことになってしまうのです……。
アパートの管理人、マクドナルドさんが主人公という、やけに現実的な舞台設定の作品です。
しかし、彼ら夫婦の行動によって、アパートはだんだん浮世離れしていきます。
生垣はとっぱらわれて、家庭菜園に。住人の引っ越した部屋は、土を入れてキャベツ畑に。ニンジン畑に。
しまいには住人みんな追い出して、アパートには野菜が住まい、家畜たちが闊歩します。
はじめはどこにでもありそうな日常なのに、読み進むほどに、現実から離れていくのです。
現代のおとぎ話とでもいいましょうか、奇妙なゆかいさが、やみつきです。
私が「くっくっく……」と笑ってしまうのは、マクドナルドさんが一直線につっぱしる、その姿です。
自らの快楽、快適さを、だれの反対もきかずに押し通す、そのさまです。
彼ら夫婦の悪意なき欲望は、野菜になり、動物になって、この世界にはびこっていきます。
大人としての常識をまとってしまった私たちには、もはや、まねできません。
それを、絵本という絵空事のなかで見せられることが、こんなに複雑で爽快な笑いをつれてくるんだなあ、と驚きます。
なんだか、知らない自分を見せられた気持ちです。
あっけらかんとしたカエルの表情がツボ『ゆかいなかえる』
『ゆかいなかえる』は1960年代のアメリカで生まれ、長く読み継がれてきたロングセラーです。
私が初めて出会ったのは、大人になってからでした。それからずっと、この絵本を開けばスーッと気持ちが軽くなって、あはは、とほがらかに笑うことができます。
すっきり冷たいプールで、ひと泳ぎしてきたときみたいに。
卵からかえった4匹のおたまじゃくしの活躍です。子どもたちの大好きな小動物かえるの1年間の物語が、生き生きと、ユーモラスに描かれた楽しい絵本。
頰がゆるむ理由は、なんとも力のぬけた、カエルたちの表情です。
物語は、カエルたちが卵のときにはじまり、孵化してからの日々の暮らしが描かれます。
ここに登場する4匹のカエルは、ときに危ない目に遭います。が、いつでもずっと、4匹みんなが、あっけらかんと笑ってるんです。
それを見て、自分も破顔する。この絵本がくれるのは、そういう、とてもシンプルな笑いです。
カエルたちは、いつなんどきも全力で遊びます。体ぜんぶで「細かいことは気にするなよ」って言ってる気がします。
もしも彼らが1匹だったら、私はこんなに笑わなかったかも。
ページをのぞく自分を、4つの笑顔がつつみこんでくれるというのは、人をほほえませるに十分な理由なのかもしれません。
4匹が、にこやかにスイスイ泳ぎまわる水のなかは、きっと気持ちいいんだろうなあ!
下ネタの底ヂカラ、大爆発!『おならうた』
最後の1冊は、はい、下ネタです。
おならというパワーワードの前には、しかめっ面じゃいられませんね。
だけど、それだけじゃないですよ。
おならを、こんなにも多種多様に描き分けた絵本を、私はほかにちょっと知りませんから。
「いもくって ぶ」の「ぶ」と、「すかして へ」の「へ」。
絵のなかではどっちも、黄色がかった空気として描かれています。なんなら「ころんで ぴゅ」も、「おふろで ぽ」も、同じく黄色がかった空気です。
なのに、ぜんぶ違う。そして、たしかに「こういう時のおならは、こんな感じだよね」っていう真実味がある。
『おならうた』のおならには、それぞれに強烈な個性があります。
私がこの絵本を子どもたち、あるいは一人で開くとき。
全ページにわたる黄色い空気の強い主張は、あらがいがたいおもしろさとなって押し寄せ、「ギャハハ!」とひれふす私たちの頭を、スカッとガス抜きしてくれます。
さあ、そうやってひとしきり笑ったところで、じんわりしちゃうんです。
じんわりってのは、なんでしょうね。
説明をこころみるなら、放出されたおならたちをしみじみ懐かしむような、わりに妙な感覚です。
ああ、お風呂であったまってしあわせなときに出たのねえ、とじんわり。そうか、親戚一同で昔の笑い話に花を咲かせてたら、出ちゃったのねえ、とじんわり。
おならをとりまく背景を、よくよく味わってる自分がいるんです。
読み終わるころにはいつも「人生のかたわらに、おならはいつも存在するんだな」みたいな頼もしい気持ちになって、裏表紙を閉じます。
閉じたとたんに「なに考えてんだろ(笑)」って、われに返りますけどね。そういう作品です。
よいお年をお過ごしくださいね!
さて、読んでみたくなる一冊は、見つかりましたか?
ワハハと大きく笑ったときにも、ふいにクスッと笑ったときにも、私の頭のなかには、心地よい風がひとすじ吹き抜けます。
笑うって、自分に余裕をもたせてくれる。前に進む、力になります。
激動の2020年を乗り越えて、以前よりものごとに動じなくなった私たちです。
笑いを味方につけて、しなやかに暮らしていきたいものですね。
てらしま ちはる
絵本研究家、フリーライター。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。学術論文に「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会)がある。日本児童文芸家協会、絵本学会、アートミーツケア学会会員。絵本専門士。
写真:©渡邊晃子
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