子どもの自己肯定感アップ!存在を受けとめてくれる絵本『にんじんさんがあかいわけ』
絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。
「自己肯定感」ということばが、しばらく前から注目を集めていますね。
自分を前向きにとらえる力、とも言いかえられます。
これがしっかり育っている人は、人生にポジティブに立ち向かうことができる。他人からの評価に頼りすぎることもない。つまり、生きていきやすい−−。
とかく生きづらい現代日本ですから、「これを高めて自信を持ちたい、もっと楽に歩いてみたい」と多くの大人が思っていることでしょう。そして子どもたちには、なるべく身につけてあげたいとも考えますよね。
私も実際、そう思う一人です。
気づけば毎日、なにかしらで「私って自己肯定感、低いな〜」とがっかりしているような……。
たとえば仕事で、まあまあ革新的なアイデアを思いついたとき。
企画に起こすべく手を動かす一方で、心の片隅には、はじめからずっとこんな思いがこびりついています。
「奇抜すぎる。きっと却下されるだろうな」って。
でも、あとあと会議にかけてみたら好評、ということも多いんです。
もしも、同じアイデアに「いままでにない、いい案を思いつけたなあ。担当のあの人もよろこんでくれるはず!」と自己肯定感高めに思えていたら。
生きている時間がもっと、ずっとハッピーだろうに。
そう感じずにはいられません。
そういえば記憶にない、存在そのものを認める言葉
この感覚って、思い返せば、子どものころからずっとついてまわってきたものでした。
なぜこんなにも、自己肯定感が不足しているんでしょう?
まっさきに浮かんだのは、私の場合、身近な大人に手放しで受けとめてもらった実感の少なさでした。
子どものころ、ピアノがうまく弾けたり、テストでいい点数をとったりしたときに、「よくできたね」とほめられた覚えはあるんです。
でも、「あなたはかけがえのない存在だよ」「あなたはあなたのままでいいんだよ」と声をかけてもらった記憶は、とんと見当たらなくって……。
前者は、能力や努力に対してかけられる言葉です。でも後者は、自分という人間そのものに「ここにいていいんだよ」と伝えてくれる言葉ですね。
こっちが足りてなかったから、いま困ったことになってるんだろうなあと、想像しています。
きっと、私だけじゃないですよね、これ。
子どもだった時間は、もはや、とっくの昔。それなのに、そのとき受け取ったものが、あとからじわじわ効いてきてるのを感じます。
「私は大丈夫!」って、お腹の底からゆるぎなく思ってみたいものです。
とはいえ、これって30年も前に根っこのある話。
そもそも当時、時代性や地域性で、そうした言葉かけの重要性がいまほど認識されていませんでした。少なくとも、私のまわりはそうでした。
大人たちの習慣としてほとんどなかったなら、残念だけど、仕方なかったのかもしれません。あのころの面々を大人の私がいまさら責めるのも、ナンセンスでしょう。
じゃあ、この苦しさをどうしましょうね? というわけですが……、さて。
自分自身のなかで解決していくしかないと、思うようになりました。
ものごとへの反応の仕方を調整して、自己肯定感をアップデートできれば問題ないんです。
そしてまた、子どもたちに対しては、そういう経験があるからこそ、つとめて意識的に接することができる、とも思うのです。
自己肯定感をアップデートするために
自己肯定感をアップデートする。
大人の場合、それは「いまを生きやすくするために、自分で自分を育てなおす」ともいいかえられるでしょう。
いま私は、私なりに考えた方法をいくつか実践していますが、これがけっこういいんですよ。
たとえば、自己否定しそうになったら、自分に向けてポジティブなひとりごとを言うとか(笑)。
シンプルに「大丈夫、大丈夫!」と声を出すときもあれば、「不安にならなくてもいいよ。この件は、矛盾が出ないように突き詰めて考えたんだから。私だから、大丈夫だよ」みたいな、長めのせりふもあります。
ささいなことがあるとこれをくりかえして、ちょっとずつリカバリしながら、日常生活を送っています。
では、子ども向けにはどうするかというと、かんたんです。
子どもがなにかで落ち込んだり、パワーが出ない様子のときに、同じような言葉をかけてあげればいいんです。
なんせ、子どものころの自分がほしかった言葉。
あなたの「心地いい」は、そのまま、子どもたちの「心地いい」につながっています。
絵本を、自己肯定感アップのサプリメントとして使う
こうした言葉や態度の工夫をベースにしながら、サプリメント的に使えるツールが、私にはもうひとつあります。
絵本です。
しかるべき絵本を選んで読むことは、温かな感情を心に呼び起こします。
子どもに向けてこれを用いるときは、いつものようにただ楽しんで一緒に読むだけです。
大人が、自身の自己肯定感のアップデートのために用いるなら、時々ひとりの時間に読んで、わき起こる感情をよく味わいます。それが、自分の芯をとりもどす助けになると、私には実感をもって感じられます。
じゃあ、しかるべき作品ってどんなのでしょうか?
自己肯定感を高める絵本とは?
要は、手放しで自分を肯定してくれる内容の絵本、なんですよね。そう感じられるなら、なんだっていいんです。
私がよく助けてもらうのは、こちら。『にんじんさんがあかいわけ』です。
お風呂での出来事
以前、お風呂に入っている時に突然「パパがごぼうさん、私がだいこんさん、ママがにんじんさんね」と娘が言いました。「何のこと?」と主人は目が点でした。私はすぐにわかったのでお風呂の中でお話ししてみたところ、その日は皆がにんじんさんに…。お風呂から出ると主人が絵本を持ってきて娘に読んであげていました。娘は今でもこの絵本が大好きです。言葉ひとつひとつも優しさを感じる1冊です。
(ブブカさん 20代・愛知県安城市 女4歳)
幼いころ、よく読んだ一冊です。
にんじん、だいこん、ごぼうの3つの野菜の色の由来を、ユーモラスに語っています。
畑から出てきたばかりのにんじんさんと、ごぼうさん。2人は、まだ眠い目のだいこんさんを誘って、お風呂につかりに行きます。
熱い湯船に長く入ったにんじんさんは赤くなり、からすの行水だったごぼうさんは泥だらけのまま。だいこんさんはぬるい湯をゆっくり楽しんだから今でも白い、というあのお話です。
よく知られた昔話なので、結末はご存じのとおりですね。
この絵本には、にんじんさんに焦点をあてたタイトルがついていますが、中身のすじがきはどちらかといえば、だいこんさん中心。
昔からのんびりしている私は、マイペースなだいこんさんに、かなりシンパシーを感じてきました。
もし私が畑の野菜だったら、だいこんさんよろしく、みんなが呼びにきてくれるまで「はたけで くうくうって」寝てるでしょうし。
せっかくのお風呂は、自分にぴったりの温度にして、心ゆくまで堪能したいですしね。
だいこんさんは、自分の流儀とリズムを、ほがらかにつらぬきます。この絵本ではそのさまが、おおいに受けとめられています。
これが、のんびり屋の私には、昔もいまも、心強い。
弱った大人の自己肯定感を、そっと支えてくれるほどに、心強いのです。
話のなかで、存在そのものを受けとめてもらえるのは、なにも、だいこんさんだけじゃありません。
一瞬でお風呂を出たくなっちゃったごぼうさんも、忍耐強いにんじんさんも。同じように、それでいいんだよと、この絵本は伝えています。
私も、みんなも、それぞれに、いい。
存在の多様さを認めてくれる場所は、だれにとっても心地いいはずです。
サプリメントとしての絵本補給、子どもたちにも
絵本のなかでは「その人そのままをよしとする態度」に、出会えることがよくあります。
ときにそれは、日常生活で足りない経験を補給する場にもなり得るでしょう。
道具として、絵本を上手に使ってもらえたらいいなと思います。
特に子どもにフォーカスすると、彼らが自己肯定感の高まりを享受するには、あたりまえですが、まわりの大人の存在が欠かせません。
子どもたちが身近な大人とのあいだで、ありのままを受け入れてもらえる体験を重ねるのが、たとえてみれば、毎日の「ごはん」です。
そこに「サプリメント」として絵本などが加わって、「ごはん」の基礎を下支えする。そんなイメージが理想だと、私は考えます。
いまのように不確実性の大きい世の中では、一人ひとりの核がしっかりしていることが、そのまま、生きる力です。
自己肯定感って、その根っこを形成するものなんでしょうね。
ピックアップ! 自己肯定感を高める絵本たち
『にんじんさんがあかいわけ』のほかに、いくつかの助けになりそうな絵本を挙げてみました。
どれも普通の絵本ですが、なにげなく読んでいるうちに、自然と高まりを感じられるのでは。
自分に読むときも、子どもに読むときも、「自己肯定感を育てる『ため』に」というんじゃなく、あくまで、ただ楽しむことを心がけてみてください。
ポイントは、目的を意識せず、くりかえし、おおいに楽しんで読むこと、です。
その他にもこんな絵本があります。 自己肯定感を高める絵本たち
お絵かきなんて大嫌い! 苦しまぎれに描いたのは、小さな小さな《てん》ひとつ。そのちっぽけな《てん》にかくされた大きな意味を知って、ワシテは変わり始める。 水彩絵の具と紅茶で描かれた、色とりどりの美しい絵本。
海辺にやってきた、らくだとしまうま。久しぶりに会った嬉しさで、「はぐ」っと抱き合います。次にやってきたわにとぺんぎんも、たことおじさんも、女の子とぶたも、嬉しくて、ギュッと抱き合います。海辺にしまうまやらくだが現れる奇想天外でナンセンスなおかしさと、大好きな人とギュッと抱き合う喜びがミックスして、不思議に嬉しい気持ちで満たされます。ギュッとするのが大好きな幼い子どもが喜ぶ絵本。
てらしま ちはる
絵本研究家、フリーライター。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。学術論文に「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会)がある。東京学芸大学個人研究員。日本児童文芸家協会、絵本学会、アートミーツケア学会所属。絵本専門士。
写真:©渡邊晃子
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