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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

精密画でじっくり!小学生にオススメ!夏の身近な観察のきっかけ絵本6選

絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。

 

夏です。身近なものの観察が楽しい季節になりました。

ところでみなさんは、精密画で描かれた絵本をよく読まれますか? 「よく見るよ」という人と「ほとんど開かないな」という人に分かれそうな、この分野。精密画の画家たちは対象をじっくり眺めて、こまやかなタッチで細部まで繊細に描いていきます。ときに、写真では撮影できない場面を見せてくれることも。魅力をあえて言葉にするなら「絵のチカラに引きこまれてじっくり見ずにいられない」、「現実にはありえない状況や、めったに見られないものも、絵だから楽しめる」といったところでしょうか。

そんな精密画の絵本たちは、この時期の観察あそびの頼もしいパートナーです。とびきりの6冊を紹介します。

身近な観察その① 果物『まどのむこうのくだものなあに?』

夏は、テーブルを彩る果物が一段と増えますね。食べる前の果物や、食べている途中の果物は、よく見ると発見の宝庫です。『まどのむこうのくだものなあに?』は、そのことを思い出させてくれます。

まどのむこうの くだもの なあに?

果物をじっくり見たことはありますか? イチゴのつぶつぶ、メロンの編み目、スイカのしましま、パイナップルのでこぼこ。荒井真紀さんの手にかかると「果物ってこんなにも神秘的な植物だったんだ」と驚嘆します。拡大された果物を、一部、全体、断面と、段階的に見ることによって新たな発見があります。どうぞ果物の宇宙を感じてみてください。

表紙を開くと、黒い窓が。窓の向こうには奇妙な模様がのぞいています。どこかで見たような赤い肌だ……とページをめくると、姿を見せたのは大きなイチゴです。

本物の数十倍あるんじゃないかという巨大さで描かれていますが、こうして眺めると、一つひとつの小さな種からしっぽのようなものが出ている様子や、表面にうぶ毛がびっしり生えている様子がわかります。まるで、知らないなにかを見ているみたいです。さらにめくると、断面が観察できます。

スイカや、今年よく話題にのぼるパイナップルなど、夏の果物も登場します。本物に忠実に描かれた絵だからこそ、じっくり見つめて「なんだこれ?」を発見する楽しみがあります。絵本で見つけたそれを、食卓の実物で観察してみることが、新たな探求のきっかけになりそうです。

身近な観察その② 植物『ひまわり』

『まどのむこうのくだものなあに?』の絵本作家・荒井真紀さんは、自然がテーマの精密画絵本を数多く出しています。ヒマワリの生活史をかろやかな精密画で見せてくれる『ヒマワリ』も、その一冊です。

ひまわり

たいようと いっしょに わらった わらった
ヒマワリの一生を美しい細密画で描いた絵本
ヒマワリ観察に役立つヒントがいっぱい!

美しい細密画で、ヒマワリの一生を描いた絵本。種から根がのび、芽がでて、葉をつけ、ぐんぐんと背丈をのばし、つぼみをつけ、大きな花が咲き、そしてまた種ができるまでを、丁寧に描いている。小学校生活科の副教材にも最適。

種を植えて、芽が出て、枯れてまた種を落とすまで、ヒマワリの一生を追いかける作品です。私はこの絵本の、花が開いていく場面に目を奪われました。

「ほそく とじていた はなは、1まい 1まい ひろがりながら じゅんばんに ひらいていきます」という文の通りに、黄色い花びらが下の方から順番にほころぶ様子が描かれています。この瞬間は、まだ見たことがありません。みなさんはありますか?

近所にヒマワリを植えているところがあるから、咲きそうになったら見に行って確かめてみようと思います。こんなふうに、知っているようで知らなかった微細な部分に、ちょっと立ちどまってみてください。それがそのまま、「私の観察」のスタート地点になってくれます。

荒井真紀さんの精密画は、優しいなかに実直さが感じられて、私はとても好きです。

身近な観察その③ 小さな生き物『あまがえるのかくれんぼ』ほか

小さな生き物を精密画で見せてくれる2冊を紹介しましょう。一つは『あまがえるのかくれんぼ』、アマガエルの色変わりをテーマにした絵本です。

あまがえるのかくれんぼ

小学館児童出版文化賞受賞作家 舘野鴻と生物画家かわしまはるこが初めて描く “会話するカエル”

あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3匹は、かくれんぼが大好き。いつものように遊んでいると、ラッタの体がへんな色になっていました。一体どうしてしまったのでしょうか。小学館児童出版文化賞受賞作家 舘野鴻と、生物画家 かわしまはるこが初めて描く “会話するカエル”。愛しき小さな者たちの成長物語。

アマガエルは、まわりの環境に合わせて体表面の色を変える性質があります。本書では、大人の入り口に立った3匹のアマガエルの子が、突然の体の変化にとまどう様子が描かれます。精密画のファンタジー作品という点で、事実のみを描いたさっきの2冊とはまた違った趣きがあります。

この絵本は特に、物語絵本好きの子におすすめしたいですね。ファンタジーなどの表現に慣れた子だと、ときにこうした作品の方が、生き物や自然への興味の入り口になりやすいことがあるのではないでしょうか。私がそういう子どもでした。

主人公に自分を重ねてストーリーを楽しむうちに、体表の変化という小さな生き物に起こる現象を自然と理解できます。もし絵本を読んで「アマガエルを飼いたい」と言い出したら、楽しい観察生活の始まりです。

実際の生き物を目の前にしたとき、その子のなかには絵本で体感した環境のイメージがすでに広がっています。そこを舞台にして、新しい興味を追いかけたり、知識を理解したりといったゆたかな動きが出てくることでしょう。

画家のかわしまはるこさんは、ご自身でアマガエルを飼って日々観察しながら絵を描いたそうです。現実と空想とが交差する感覚を、楽しんでくださいね。

※アマガエルの皮膚には毒性があります。触ったら必ず手を洗いましょう。触った手で目や口に触れないように注意してください。

昆虫の体重測定

虫の重さってどのくらい?

私たち人間や、動物園にいる動物など、体重測定はひろく行われています。では、昆虫はどうでしょうか。昆虫図鑑をひらくと、大きさは書かれていますが、体重はのっていません。作者は、一万分の一グラムからはかれる電子天びんというはかりを使って、身近にいる昆虫の体重をしらべはじめました。すると、おもしろいことがわかってきたのです。

さて、もう一つは昆虫です。『昆虫の体重測定』は発想がユニークな絵本です。作者の吉谷昭憲さんは、昆虫の体重を電子天秤ではかることを思いつきます。小さな虫たちを透明のビニル袋に入れては、テントウムシ0.05g、ヤブカ0.0014g……と次々に重さをつきとめていきます。

このアイデアは、私たちにもできそうです。家庭ではさすがにここまで細かな計量は難しいものの、1g単位ならキッチンスケールで代用できますよね。絵本に出てくるものに限らず、いろいろな昆虫の重さを測ってみるのは、かなり面白そうです。

絵本のなかには、カブトムシなどの羽化前後の重さ比べや、重さから生態との関係を考えるなど、体重というテーマから派生した興味深い話題がいくつもあります。虫好きな子にはたまらない内容です。

大学で昆虫学を学んだという吉谷さんの絵は、虫たちがいきいきしています。キャベツ畑を飛ぶモンシロチョウが、うれしそうに見えるんです。図鑑ではなく、絵本の精密画だなあという感じ。生きて動く虫を目の当たりにしているからこそ、描ける絵なのでしょう。

身近な観察その④ 鳥の巣

鳥の巣だって、面白いんです。『鳥の巣の本』を開くと、街中でも観察のチャンスが多いことがよくわかりますよ。

鳥の巣の本

産卵から約2か月使われる鳥の巣は,形も大きさも材料も,それぞれに違う。その絶妙さや鳥の生活を,楽しく,美しく紹介します。

なんといっても、情報量の多さにウキウキする本です。鳥の巣ってこんなにトピックがあるのか!と、目からうろこが落ちっぱなし。巣はなぜ作られるのか、どんな鳥がどこに作るのか、スズメはこうして作る、カワセミはこうして作る……などなど、宝石箱からあふれるように次から次へと知らないことを教えてくれます。鳥好きな子や、知識欲旺盛な子は、かじりつきそう。これを持って、鳥の巣探検に出かけてみましょう。

出発前には「巣をつくる場所」というページを見ておくといいですよ。街中でよく見る鳥もけっこう載っています。ハシブトガラス、スズメ、ツバメ、キジバトなんかは東京でもよく見かけます。カイツブリは庭園の池によく巣をかけていますし(私は清澄庭園、井の頭恩賜公園で見たことがあります)、メジロの巣は文京区のビルの谷間の街路樹に見つけたことがありました。どんな暮らしをしているか、絵本で詳しく知ると、好奇心にがぜん火がつきます。見かける鳥は地域によって違いがあり、それもまた面白いですね。

いまぐらいなら、カイツブリなんかは、まだ巣に出入りしている様子を見られる地域が多そうです。でも、絵本にも書いてありますが、見つけてもそっと見守るだけにしてくださいね。巣を探すやり方も、本書にはあります。

作者の鈴木まもるさんは、ご自身で鳥の巣をいくつもコレクションされています。巣や鳥の精密画にも、説明のコマ絵にも、鳥の巣と鳥へのいつくしみが感じられる一冊です。

雛をおんぶするカイツブリと巣

大画面でいろんな精密画を楽しめるシリーズも

最後に、大画面でいろんな精密画を楽しめるシリーズを紹介します。『いきものづくし ものづくし』です。

いきものづくし ものづくし(1)

自然が生み出してきたもの、ひとが作り出してきたものの多様性を大画面で見せるシリーズ。1巻に「いきもの」4テーマ、「もの」3テーマが入り、全12巻84テーマ。別冊では、各テーマごとに興味を広げるお話を紹介。小学校低学年の漢字使いで総ルビ。1巻目は、「くだもの」「つの」「くちばし」「およぎのとくいな さかな」「ぶんぼうぐ」「くつ」「むかしのてつどう」の7テーマが入っています。

冒頭で触れた精密画の魅力を、もう一度おさらいすると、「絵のチカラに引きこまれてじっくり見ずにいられない」こと、「現実にはありえない状況や、めったに見られないものも、絵だから楽しめる」ことでした。この絵本シリーズには、それがめいっぱい詰まっています。

片ページが紙芝居ほどもある大判絵本です。そこに、サンゴ礁の生き物、石、泳ぎの得意な魚、木の椅子を作る道具……。幅広くて個性的なテーマで描かれた大画面が、迫るように私たちを出迎えます。

いろんな画家が描いているのも、面白い。ひとくちに精密画といっても、描く人ごとにカラーがあるのは、ここまで見てきた通りです。見慣れてきたら「画家のあてっこ」なんてマニアックな楽しみ方もできるかもしれませんね。

お気に入りの一冊は見つかりましたか? 夏の観察、楽しんでくださいね!

てらしま ちはる

絵本研究家/ワークショッププランナー/コラムニスト/講師。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で美術教育の観点から戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。執筆のほかに、絵本を用いたワークショップや、保育現場での幼児の造形活動観察などを展開する。女子美術大学ほかでの指導も。公開された学術論文のうち、「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会オンラインジャーナル11号)は、絵本関連ワークショップの先行研究調査をまとめた国内初の成果である。教育学修士、東京学芸大学個人研究員。note「アトリエ游|てらしまちはる」https://note.com/terashimachiharu

写真:©渡邊晃子

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絵本ナビ編集部
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