冬におすすめ! 読み聞かせから1人読みへ。母と娘で語る、岩波少年文庫 その2
低学年から楽しめる岩波少年文庫、読み聞かせから1人読みまで、おすすめは?
「母と娘でおもしろかった本について語り合ってみました」の連載企画。その1につづき、岩波少年文庫シリーズの中からご紹介します。
小学生が1人で読むイメージが強いこのシリーズですが、わが家では、じつは読み聞かせから岩波少年文庫とのおつきあいがはじまりました。毎晩、布団にもぐりこんだ長女と次女の間に座り、ときどき「見せて」とせがまれて、挿絵や本文のページを見せながら、少しずつ読みすすめていきます。自分で読むなら小学3・4年生くらいのものでも、読み聞かせだと年長さんや1・2年生から楽しむことができます。
本好きな小学生にするためには、親も一緒に楽しむのが一番!というわけで、低学年のうちに読み聞かせで親しんだ作品と、その後高学年になった長女が自分で読んで心に残ったという作品、あわせて3冊をご紹介します。
母:岩波少年文庫の中で最初に読んだ本って、何だっけ?
娘:6歳くらいのときに、寝る前に読んでもらったのが『ながいながいペンギンの話』だったと思う。毎晩ちょっとずつ読んでもらうのが楽しかった。妹も3歳くらいだけど一緒に聞いてたよね。
1957年の刊行以来幼い読者に受け入れられてきた、日本を代表する幼年文学
南極大陸をふき荒れる,その冬最後の雪嵐のなかでペンギンのたまごが2つかえりました.ルルとキキ兄弟は生まれたばかりだというのに元気いっぱい.両親のるすにこっそり家をぬけだして….楽天的で冒険好きな活力にあふれる主人公たちは,1957年の刊行以来,日本の幼年文学の代表として,幼い読者に受け入れられてきました.
母:長い物語を、はじめて少しずつ読み聞かせたのがこの本だったね。お母さんも子どもの頃、理論社版のハードカバーの『ながいながいペンギンの話』を、おばあちゃんに読んでもらったのよ。
ペンギンの双子の兄弟、やんちゃなルルと慎重派のキキが、たまごから生まれたばかりのところから、大きくなって南極の世界にふみだしていく姿にドキドキしたなあ。空からカモメに襲われそうになるスリルや、お腹でスケートみたいにすーっとすべっていくのが気持ちよさそうだったことを、読みながら思い出したよ。
関連書籍:理論社の「ながいながいペンギンの話」
母:次に一緒に読んだのが『ほんとうの空色』だっけ。たしか2年生頃?
娘:うん。『ながいながいペンギンの話』と同じように、ちょっとずつ読んでもらったけど、すーっごくおもしろかった!
ハンガリーの名作児童文学
貧しいフェルコーは絵が得意だが、絵具を持っていない。野原の花のしるでつくった青い絵具で空を描いた少年は、つぎつぎと不思議な出来事にめぐりあう。みずみずしいハンガリーの名作。
母:へえ、ちょっと地味な感じがするのに、意外だなあ。そんなに好きだった?
娘:どんどんイメージが広がって、わくわくした。主人公のフェルコーが、いじわるなクラスメイトから借りた絵の具を返さなくちゃいけなくて、でもなくしちゃって困っていたときに、野原で花を摘んで絵の具を作るでしょ。それが、不思議な絵の具「ほんとうの空色」で、その色で描いた絵の中には、ほんものの太陽や月や星が輝く!
秘密を共有する友だちができて、事情を知らない大人たちが慌てたり騒いだりするのもおもしろいよね。
母:ちょっとロマンチックな良さがあるかもね。ハンガリーのバラージュという人の作品で、翻訳者が徳永康元さん。徳永さんは絵本の『ラチとらいおん』(福音館書店)も訳している人なの。
ハンガリーの言葉って、ヨーロッパのどの言葉ともちょっと違って翻訳が難しいらしいのよ。徳永さんは独学でハンガリー語を勉強したんですって。愛書家でエッセイをいくつも書いていて、演劇や音楽と、趣味の豊かな人だったみたい。
お母さんが子どもの頃、「世界の名作図書館」(講談社)の中で、徳永康元さん訳の『パール街の少年たち』(モルナール・フェレンツ作)を読んですごく心に残っているんだよね。徳永さんの訳は絶版で手に入らないけど、今は岩崎悦子さん訳の『パール街の少年たち』(偕成社)が読めるよ。
娘:そうなんだ……。いつか読んでみようかな。
とにかく『ながいながいペンギンの話』と『ほんとうの空色』を読み聞かせしてもらったあと、岩波少年文庫を1人で読むようになったんだよね。
母:自分で読むようになって、おもしろかったのは?
娘:心に残ったのは『飛ぶ教室』かな。ギムナジウムというドイツの寄宿学校を舞台に、いろんな性格の生徒たちと、先生が登場する。
おもしろかったのは、いばる上級生を、下級生が筋をとおして撃退するダンスシーン。あと雪合戦のところ。
世界中で読み継がれるケストナーの児童文学小説
ボクサー志望のマッツ,貧しくも秀才のマルティン,臆病なウーリ,詩人ジョニー,クールなゼバスティアーン.生いたちも性格もまったくちがう少年たちはそれぞれに,悩み,悲しみ,そしてあこがれを抱いています.寄宿学校でくり広げられる,涙と笑いがつまったクリスマスの物語.新訳.
母:ああ、雪合戦は、表紙の絵になっている実業学校とギムナジウム(寄宿学校)の対決シーンだね。この一騎打ちで勝敗が決まったのに、結果を受け入れなかった実業学校の生徒たちがいて、彼らを雪合戦でひきとめて、その隙に人質を助け出すんだっけ。チームで知恵と戦略をつかって闘うところ、わくわくするよね。
娘:いろんな子がいて「友情」が描かれているけど、子ども同士だけのひと言で言える「友情」じゃないっていうか……。「禁煙さん」と「正義さん」っていう2人の大人の「友情」に、子どもたちが関わることで、子どもと大人の差がなくなっていくような感覚が心に残ったんだと思う。うまく言えないけど、子どもと大人が、とにかく差がない感じがした!
母:「禁煙さん」や「正義さん」みたいな大人が身近にいてくれたらいいよねえ……。相手が大人でも子どもでも、筋を通すとか、自尊心を守る、ちがうと思ったら声をあげる、誰かを大事にする……。いろいろな子ども時代の良心が、臆病さやユーモアとともに、ドタバタの涙と笑いのクライマックスへ向けて物語に染み込んでいる。誰かを信頼するっていいなあ、と思える作品だね。
ケストナーが『飛ぶ教室』を書いたのは1933年なんだって。ドイツの歴史の中で言えばナチスが政権をとった年。今回あとがきを読んで知ったけれど、挿絵を描いたトリアーはユダヤ人で、命が危ないからイギリスに亡命していたんだって。そんな時代に書かれた物語だったんだね。
他にケストナーの作品は『エーミールと探偵たち』『エーミールと三人のふたご』『ふたりのロッテ』『点子ちゃんとアントン』が岩波少年文庫に入っているよ。
娘:『ふたりのロッテ』『点子ちゃんとアントン』は読んでおもしろかったよ。そう言えば挿絵も同じ人なんだね。『エーミールと探偵たち』を次に読んでみようかな。
関連書籍
年長から就学時、長めのおはなし絵本を1人読みするようになるのと同時並行で、『いやいやえん』『エルマーのぼうけん』など幼年童話をたくさん読んだ娘は、小学3、4年生頃から児童書の文庫に手が伸びるようになりました。今回は岩波少年文庫との出会いの2冊を振り返りつつ、娘にとって印象的だったという作品の中から、冬に読みたくなるケストナーの名作『飛ぶ教室』をご紹介しました(『ふたりのロッテ』は夏に読みたくなります。こちらもぜひ!)。
児童書の文庫には、昔から読み継がれる作品や、大人になった今も手にとりたくなる名作がそろっています。価格も手頃で、本好き親子にとっては心強い味方。魅力的なラインナップの中から、自分にとって特別な1冊を発掘してくださいね!
文・構成:大和田佳世(絵本ナビライター)
編集:掛川晶子(絵本ナビ編集部)
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