文庫で読む、美しい挿絵の古典昔話集! 母と娘で語る、福音館文庫 その1
福音館文庫、おすすめは? 母と小6娘でおしゃべりしました!
思いがけない長い春休み。時間がたっぷりあるこの機会に、読み応えのある児童書の文庫を1冊、親子で一緒に読んでみてはいかがでしょう。
「母と小6娘でおもしろかった本について語り合ってみました」連載企画で好評だった岩波少年文庫につづき、福音館文庫からご紹介します。
福音館書店は『いやいやえん』など低学年向けの童話がいろいろある出版社ですが、その次のステップにおすすめなのが福音館文庫の昔話集です。短いおはなしを1つずつ読む達成感がありますし、とくに、美しいカラー挿絵の昔話集は要チェック! わが家では小学生になると『太陽の木の枝』『グリムの昔話(1)~(3)』を何度も読んでいました。前者の挿絵は堀内誠一さん、後者はフェリクス・ホフマン。ともにすばらしい絵本を手がけた画家で、子どもも絵になじみがあります。ふりがなの親切さ、繰り返し読める奥深さもおすすめポイント。読み聞かせにも、1人読みにも、ぜひチャレンジしてみてください。
母:『太陽の木の枝』は、福音館文庫の中で、最初に繰り返し読んだ本じゃない? 「あれ、また読んでるの? もう読み終わったんじゃなかった?」「だって好きなんだもん」という会話を2、3回した気がする。
娘:そうかも。『太陽の木の枝』はけっこうちっちゃい頃から何度も読んでる。「木」「雨」とか、かんたんな漢字もふりがなが降ってあるもんね。最初に読んだのは2年生かな。3、4年生でも読んでた。
ジプシーのユニークな昔話22編
色彩感覚あふれるユニークな昔話が22編。どのお話にも、自由を尊び旅を最高の宝とする、誇り高いジプシーの魂が満ちています。
母:どんなところが好きだったの?
娘:おはなしと絵がすごくぴったりなんだよ。「おはなしのまえのおはなし」の小鳥姫のはなしから好き。色あざやかで、たくさんの種類の小鳥が出てきたり、魔鳥チャラーナや 、遠くへ旅していくところとか……。
「太陽のおかあさん」では、おひさまが朝生まれたときは小さな子どもで、昼になると大人、夜になるとへとへとのおじいさんになるけれど、お母さんのひざまくらで休むとまた翌朝幼い子になっているのがおもしろかった。太陽のお母さんのひざで眠る赤ちゃんみたいな絵もかわいかったし、「月はなぜふとったりやせたりするか」で、たきぎとりが月をがつがつと食べて、ぼろぼろの岩みたいになった月の形もおもしろい。
母:たしかに、カラフルな絵が、おはなしのとおりの世界を描いているみたいだよねえ。本の中で太陽がキラキラ輝いている。おはなしは素朴で、でも神聖な感じも明るさもあるし……不思議な魅力があるね。ジプシーの民話集なんだけど、ジプシーって知ってる?
娘:何となく聞いたことがある。旅する人たちだっけ。
母:そう。主にヨーロッパで、どこかの国に定住せずに移動しながら暮らしてきた民族。踊りや歌が上手い人たちなんだよ。この本にあるのは、ポーランドというロシアに近い国の、有名なジプシー研究者が集めた民話だね。お母さんも読んでみたけど、人間たちが自分の心に正直に驚いたり嘆いたり、喜んだり……。感情が自由にまっすぐ伝わってくるのも好きだなあ。
関連書籍
ホフマン編・画のグリムの昔話(全3巻)
スイスの版画家・絵本画家のホフマンが101の話を選び、4色の見事な挿絵をつけたグリムの昔話(全3巻)の第一冊目。「七羽のカラス」「灰かぶり」など35編を収録。
「赤ずきん」「白雪姫」など、34編を収録。生き生きとした日本語と美しい格調あるさし絵が、グリムの世界を再現します。
「いばら姫」「腕きき四人兄弟」など、32編を収録。グリムの昔話は、親から子へ伝えたい、まさに"家庭の財産"です。
娘:あ、この3巻の最初の「いばら姫」の挿絵、絵本の『ねむひりめ』の表紙と同じだね!見たことある。王さまが子どものお姫さまを後ろから抱きしめている絵。
母:そうそう、フェリクス・ホフマンの絵だよ。ほら、他にも『おおかみと七ひきのこやぎ』とか『七わのからす』を絵本で読んだでしょう。お母さんはこの人の絵がすごく好きで、透明感のある美しさにドキドキするのよね。
娘:『七わのからす』、絵もおはなしも大好きだった! 1巻に「七羽のカラス」が入ってるね。他にも「ブレーメンの音楽隊」とか知ってるはなしもいくつかあるけど、ほとんど知らないのばかり。「カエルの王さま または鉄のハインリヒ」「ネコとネズミのふたりぐらし」……全部で35もある!
母:1巻の「手のない娘」は、悪魔との取引で父親に手を切り落とされた娘が、腕を背中にしばりつけて旅に出るのがちょっとこわいけど、最後はちゃんとハッピーエンド。「こわがることをおぼえたくて旅にでかけた男の話」はオチが笑い話みたい(笑)。グリム童話で有名なのはほんの一部で、おもしろいおはなしがたくさんあるんだなあと思うよね。
娘:うちに、グリムの昔話って、他にも何かなかったっけ。違う絵のやつ。
母:『グリムのむかしばなし1、2』(のら書店)のこと? 松岡享子さんが訳したもので、ワンダ・ガアグの編・絵。ガアグは石井桃子さん訳の『100まんびきのねこ』(福音館書店)、渡辺茂男さん訳の『へんなどうつぶ』(瑞雲舎)とか、いい絵本がいっぱいあるよね。
娘:『100まんびきのねこ』の人だったの!? あの絵本好きだったよ。
母:あと「グリム童話集1〜3」(相良守峯訳、茂田井武絵、岩波書店)も読み比べてみたらいいよ。茂田井武さんの挿絵は、美しいものも滑稽なものも、恐ろしいものも印象深く、「雪白ちゃんとバラ紅ちゃん」「金のガチョウ」とか、お母さんが子どもの頃読んで好きだったおはなしがいっぱいある。ちなみに装丁が堀内誠一さん。贅沢だけど全部揃えたくなっちゃったなあ。
関連書籍:フェリクス・ホフマン画の絵本
関連書籍:グリム童話の本
娘:お母さんはもともと昔話が好きだったの?
母:うーん、はっきり自覚していたわけじゃないけど、子どもの頃から好きだったんだろうね。王さまやお姫さま、妖精や魔女、太陽や月の神話、森や沼……。国によってぜんぜん違うじゃない? 日本の日常とは違うおはなしの雰囲気に想像力をかきたてられる。
娘:たしかにそうだね! 他に、文庫の中で好きな昔話集はある?
母:『イギリスとアイルランドの昔話』も大好きだったの。いくつか選んで、あなたたちにも読んであげたじゃない。ほら、勇敢な仕立て屋が、ばけものが出てくるという教会堂でズボンを仕立てていると、床石の下から、まずばけものの頭だけ出てきて、次に胸が、腕が、最後に足が出てきて追いかけてくるんだけど、仕立て屋はぎりぎりでズボンを縫い終えて大急ぎで逃げおおせるはなしとか(「元気な仕立て屋」)。
ジェイコブズによる昔話集から集めた、読み継がれる古典
昔話集の古典ともいうべきジェイコブズによる昔話集から、「ジャックと豆の木」「三びきの子ぶた」など、世界中の子どもたちに読みつがれてきた昔話を磨きぬかれた訳文と原書の挿絵でおくります。
娘:あー、思い出した! あれはちょっとこわかった。
母:あとは、おばあさんが骨をひろって枕元に置いて寝ると「おれのほねを、かえしてくれ!」と小さい声が聞こえる(「ちいちゃい、ちいちゃい」)。おばあさんは怖くなって布団にもぐりこむんだけど、どんどんその声は大きくなって……とうとうおばあさんが「もっていきな!」と大声で怒鳴るところを読むと、子どもたちがみんなびくっとなってた(笑)。
娘:寝る前に、お布団で妹たちと読んでもらっていたときだね(笑)。今、思い出したのが「だんなも、だんなも、大だんなさま。へばりつきからおきて、ドタバタドカンをおめしになってください。色白のおどりんこのしっぽに、あついあばれものがもえつきました……」ていうやつ(「だんなも、だんなも、大だんなさま」)。これ、おもしろかったから暗記しちゃったよ。女中さんがベッドやズボンを特別な名前で呼ばないといけなくて、夜中に火事で主人を起こすとき、長ーい文章になるんだよね。もう1回読み返してみようかな。
母:やっぱり石井桃子さんの訳がいいんだろうねえ。挿絵はモノクロだけど、ジェイコブズの昔話集の原書に添えられた線画が、そのまま収録されているから貴重だよ。何十年後かに、あなたたちの子どもが読んでもおもしろいはず!
娘:なるほど(笑)。じゃあ忘れないように持ってないとね。
関連書籍:
いかがでしたか? あらためて母娘で話してみると、1つ1つの昔話を、意外にもよくおぼえていることに驚きます。「だんなもだんなも大だんなさま……」と言い出すと「あ、それそれ!」とお互いに思い出せるのですから。訳文の魅力と、立体感のあるおはなしの魅力ですね。
ちなみに昔話は、人に不親切にするとしっぺがえしを食らったり、不運にもあきらめずに明るく構えているとふたたび運が向いてきたり、格言めいた深遠なメッセージもあって、大人にも興味深いものです。一方で、おはなしによっては痛快なナンセンスや、ちょっと不条理な結末が顔を覗かせる感じもリアル。大昔から“物語る”中で人間が伝えてきた、生きぬく知恵やユーモアを感じます。先行きが不透明な時代だからこそ、昔話の中におもしろさを見いだしてみる時間もいいものです。わが家の1冊を発掘してくださいね!
文・構成:大和田佳世(絵本ナビライター)
編集:掛川晶子(絵本ナビ編集部)
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