【編集長の気になる1冊】もし過去に戻って消せるとしたら…『ことばのかたち』
「もしも過去にさかのぼることが出来たなら、何がしたい?」
私なら…。
さっき自分で言ったばかりのその「発言」を消したい。
先月、調子に乗ってしゃべったあの「雑談」の全てを消したい。
いつか、人を傷つけてしまったあの「ひとこと」を消したい。
こうして並べてみると、自分の発した言葉に対して、後悔だらけだっていうことがよくわかります。もちろん、一度しゃべった事を「取り消す」なんてことは、出来ないのがわかっているから思うのでしょう。
ところが一方で、どうしても「取り消したい」と思っていたその内容を、誰も覚えていないことがあります。相手の中で、違う記憶にすり替わっていることもあります。それどころか、自分が言った記憶のない言葉を、相手がいつまでも覚えていることだってあります。なかなか複雑です。
もしも自分が無意識で発した言葉が、相手の心を傷つけていたら…。こんな風に考えれば考えるほど、言葉の意味が重くなっていき、なんだかしゃべりたくなくなっちゃいますよね。
だけど忘れちゃいけないのは、たった一言で誰かの世界が彩られていくこともあるっていうこと。そういう経験をした時には、その言葉を大事にしておいた方がいいっていうこと。
ことばのかたち
さっき私の口から発した言葉は、どんな形だったんだろう。
昨日、私が子どもにかけた言葉はどんな色になっていたんだろう・・・。
おーなり由子さんがほんわりと丁寧に描き出したのは、ことばについての絵本。
もしも、話すことばが目に見えたとしたら。
「うつくしいことばは 花のかたち?」「ありふれているけど 嬉しいシロツメクサのようなことば?」
声によって色がかわるとしたら。
「しずかな声なら 青い花」「やさしい声は さくらいろ」
ああ、そんな風にことばを優しく捉えたことあったかな。
小さな花を手のひらで包み込むように、相手のことばを受け止めたことあったかな。
色鮮やかな、美しく可愛らしいことばのかたちが、あっという間に読む人の心を捉えます。
もしも、話すことばが目に見えたとしたら。
「思いもよらないことばが 相手に刺さるのを見ることになるかもしれない」
そうしたら、ことばの使い方は変わるだろうか。
「みじかい正直なことばが こころの湖のふかい場所に すうっとさしこむ」
そのとうめいな青い光を見たとしたら、きっと生涯忘れることはないだろう。
おーなりさんが詩と絵で見せてくれるのは、ことばのむこうにある気持ち。
たいせつな人と交わす心のかたち。
私たちは、こんなにも豊かなやりとりをしているんだと気づかせてくれます。
子どもから大人まで、一度立ち止まって、ゆっくりと体で感じてほしい作品です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
会話になると、さらにタイミングや声の大きさ、表情によってもそこに生まれる景色が変わるのでしょう。深くて難しいけれど、やっぱりその中に、生きていく上での面白味が詰まっている気がします。
言葉を大切にしたくなる絵本
(磯崎園子 絵本ナビ編集部)
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