【編集長の気になる1冊】今が「聞きどき」。『すてきな三にんぐみ』
中学生になった息子が本棚の前で何やらつぶやいている。
「うわ、これ懐かしい!」「これ、読んだ読んだ」
見ると、取り出していたのは、小さい頃読んでいた絵本。いったいどんな記憶が残っているのか、せっかくなので聞いてみると、これが結構面白い。
例えば、あかちゃんの時に読んでいた絵本。主人公よりも、脇役として登場するキャラクターの方をよく覚えているのは、自分が主人公になりきって、絵本の世界に入り込んでいたのかな。
読んだことのない絵本でも、「この絵を描いている人の絵本、知ってる!」と言って探しているのも興味深い。その作家さんの世界観をちゃんと記憶しているのだとしたら何だかすごい。
ふと見ると、一冊の絵本を読み込んでおり、パタンと閉じてしみじみと言う。
「こんないい話だったんだ」
その絵本は『すてきな三にんぐみ』。かつての息子のお気に入り。どんな話だと思っていたのかと聞けば、覚えていたのは…
・なんかコワイ感じ
・武器がかっこいい
・武器の名前が好き「ラッパじゅう」「こしょう・ふきつけ」「おおまさかり」
・武器のかたちがかっこいい
(要するに武器、なのね)
確かに思い返してみれば、そのページばかりを眺めていたような。抜群にかっこいいですからね。
今回、ストーリーを改めて自分でじっくり味わったところ、「なかなかいい話だ」と思ったのだとか。絵本って、そういうところがあるからやめらない。息子にとって、今が「読みかえしどき」「振りかえりどき」だったのでしょうね。
すてきな三にんぐみ
全身を覆う黒マントに、目深にかぶった黒い帽子の三人組。
見えているのはギョロリと辺りを伺うような目玉だけ。
おまけに抱えているのはまっ赤なおおまさかり!
この三人、どう見ても悪いことを企んでいる様子。
なんとも不穏な表紙のデザインです。
だけど……。
正直、かっこいい。
そして、タイトルが「すてきな三にんぐみ」となっている。
どういうことなのでしょう。
ここまできたら興味津々。子どもたちだって、思わず手を出してしまいます。
(もちろん、怖がりの子だっていますよね。そこは無理せずに)
そしてお話は、期待通り(!?)の不気味さではじまります。
三人組の正体は恐ろしい泥棒たちなのです。
夜になると、3つの武器「ラッパじゅう」「こしょう・ふきつけ」「おおまさかり」を構え、お金持ちの馬車を襲い、宝を奪いとっていきます。出会ったご婦人は気を失い、犬なんか一目散に逃げていく怖さ。そして、隠れ家で貯め込んだ金銀宝石を眺める日々を送っているのです。
ところがある日、転機が訪れます。
三人組が出会ったのは、みなしごの少女ティファニーちゃん。
彼女は隠れ家にある宝の山を見て聞くのです。
「まぁぁ、これどうするの?」
三人は困って相談をはじめます。
だって……どうするのか考えたこともなかったのですから!
そこからの展開は、絵本を読んでのお楽しみ。タイトルの意味することも、よーくわかります。アメリカで発売され、日本でも1969年初版以来ずっと読まれ続けているこの絵本は、トミー・アンゲラーの代表傑作のひとつ。
これはいい話なの? 悪い話なの?
物語に振りまわされながらも、子どもたちはすっかり夢中です。
いったいどんな場面が記憶に残っていくのでしょうね。
そんなことも含めて味わいたい1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「なんかコワイ」と思っていた絵本を読み直してみると、全然違う印象だったりするのは、めったに出来ない貴重な機会。そんな体験を目の前で息子がしているとすれば、親にとっては、まさに今が「聞きどき」!
色々聞いておかなくては…。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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