スタイルトップ  >  絵本・本・よみきかせ   >   絵本ナビ編集長の気になる1冊   >   親の目線?子どもの目線?『こんとあき』を読むときは…
絵本ナビ編集長の気になる1冊

親の目線?子どもの目線?『こんとあき』を読むときは…

 

駅のホームで見つめ合うふたりは、大きなかばんをもった女の子「あき」と、小さなぬいぐるみ「こん」。息子がまだ小さい頃には何度も読んだ絵本『こんとあき』だけれど、今改めて表紙を見るだけで、その状況を思ってドキドキしてきます。ふたりの表情、立ち姿、伝わってくる空気感、全てが愛らしい。

 

なんで子どもの頃に読めなかったんだろう、そう思って奥付を見れば初版が1989年。その時、私はすでに15歳…残念、ほとんど大人です。あきと同じ気持ちで読んでみたかったな。

 

だから、久しぶりに取り出したこの絵本。仕方なしに大人目線、親目線で読み直してみることにします。あきの誕生を椅子にすわって待つこん。赤ちゃんのあきの可愛さにドキドキしてしまうこん。あきの遊び相手として大活躍するこん。すっかりこんの背を追い越したあきをつれて、電車に乗っておばあちゃんの家に向かうこん。健気です。ああ、こんな風に、いつだって一緒にいてくれて、頼りになるお友だちのいるあきちゃん、うらやましいな。

 

頬をゆるませながら、読み進めていくと、突然変な感覚に襲われます。こんがお弁当を買いに行ったまま戻ってこない。窓ガラスに顔を押し付けているあきを見ているうちに、何だか体の奥から涙がじわーっとにじみ出てきたのです。そこから先、何だか涙が止まらないのです。この感情は…親としてではなく。まぎれもなく自分です。自分が子どもの頃に体験した感情です。

 

これって、自分が子どもとして絵本の中に入り込んでしまったってこと!? 親目線だったつもりが、いつの間にか子どもの目線になってしまったってこと? 

 

読み終わった時、胸をしめつけられる様な思いと、安堵の気持ちで一瞬混乱してしまった自分がいたのでした。すごいなやっぱりこの絵本…。

こんとあき
こんとあき

あきの誕生をじっと座って待っているこの子は、ぬいぐるみのこん。遠く離れた「さきゅうまち」に住むおばあちゃんに頼まれて、あきのお守りにやってきたのです。

赤ちゃんのあきの可愛さに胸がドキドキするこん、あきのお守り役、遊び相手として大活躍するこん。そのうちに、あきがこんの背を追い越し、古くなったこんの腕がほころびると、おばあちゃんに直してもらおうと、こんはあきを連れ、きしゃに乗って出かけます。

健気なこんは、なかなか頼もしい存在です。でも、小さなぬいぐるみのこんとの二人旅。何事もなく到着するわけもなく…次から次へとハプニングが起き、読んでいる方はハラハラ。当たり前ですよね、子どもたちには大冒険です。はぐれてしまったり、こんのほころびがひどくなったり。二人の心情が手に取るように伝わってきます。大丈夫かな、ちゃんとおばあちゃんのところにたどり着いたのかな。

読み終わってみれば、誰もが安堵と幸せな気持ちに包まれるこの絵本。「こんとあき」の世界にすっかり引きこまれていたことに、後から気付くのです。表情がないはずのこんから沢山の感情を感じとったり、守られているだけのはずだったあきちゃんの必死で踏ん張る姿を垣間みたり。二人の前に広がる砂丘の風景も忘れられません。そして全体を通して感じるのは、二人を取り巻く家族の大きな愛情です。作者の優しい眼差しです。なんて魅力的な絵本なのでしょう。

大人になっても忘れることのない「あの頃」の気持ち。絵本を開く度に思い出させてくれる1冊でもあります。

 

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

http://www.ehonnavi.net/ehon/10/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%82%E3%81%8D/

登場する子どもを、とにかく優しく繊細に見守る視点。林明子さんの絵本の魅力は、その温かな絵にあると思っていた自分はまだまだ何もわかっていなかったようです。名作と言われる絵本の数々。あるレベルを通りすぎると、例え大人であって、子どもとして簡単に絵本の世界に入ってしまうのかもしれません。

 

貴重な経験をしたひととときなのでした。

磯崎園子 (絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
人気連載