【編集長の気になる1冊】母の願いはただひとつ。『シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる』
「たくさん勉強して、いい大学入って、いい会社に入ってほしい」
「いや、そこまで頭が良くなくてもいいから、誰からも好かれる人に」
「うーん、誰からもじゃなくても。いいお友達がたくさんいればいいかな」
もし、自分に子どもがいたら…。
そんな空想をする時は、遠慮がちに、でも結構贅沢に希望を託してみたりして。
「こんなに可愛い子、見たことない!」
「この子は、天才かもしれない。将来はきっと…」
実際に愛らしい我が子を目の前にしてみると、期待は更に上乗せされたりして。
少しずつ成長していくにつれ、様々な壁にぶつかると今度は、
「うん、勉強より運動の方が向いているのかな」
「ちょっと、変わった子なのかな」
「でも、優しい子になってくれれば」
なんて、希望もどんどん曖昧になっていったりします。
大きくなればなるほど、子どもに対する母親の期待や願望は、膨らんだりしぼんだり、なかなか忙しいのです。ああ、自分の母親も、こんな風にヤキモキしながら期待をかけてくれていたのかな、なんて思ったりして。
でも、どんな時だって、夜になれば願いはひとつ。
いつだって見たいのは、子どもの…
シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる
みんなが寝静まった夜中の一時。一体何が始まるというのでしょう。
大きな黒い山高帽とマントをはおった「シルクハットぞく」が、続々と集まってきて一斉に空へ飛び立ちます。
星の輝く美しい夜空のもと、ちょっと馬鹿ばかしいほどの大げさな演出。更に目配せなんかして、笑っちゃうほど格好良いふるまいの彼ら。
そんな「シルクハットぞく」が行う大事な大事な仕事の瞬間、とてつもなくささやかな事を行うその場面!
究極なユーモアを感じて笑おうと思っていたら、なぜか涙が出てきます。
世界中あちこちで行われているシルクハットぞくの、どこまでもさり気ない仕事の事を思うと泣けてきちゃうんです。
このほんのちょっとした心遣い、誰かの事を思ってする行為を見ながら、夜安心してぐっすり眠れるというのは、何よりも一番の平和を感じられる瞬間なんだという事に気が付かされるのです。
絵は自由でのびのびと、どんな時にもユーモア感覚を忘れずに、それでいて、誰かの幸せを願う気持ちを強く持っている・・・作者の資質が存分に伝わってくるこの作品は、私にとっても大好きな絵本になりそうです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「ぐっすり」
なんていい言葉でしょう。
絵本の中の、ささやかな仕事。
この瞬間を見届けられれば、一日の疲れなんてふっとんでしまうのです。
どんなに泣き笑いした日だって、もう明日にはリセットです。
もし自分が離れていたとしても、きっと誰かが見守ってくれている。
…それがたった一つ、母の願いなのです。
子どもたちの寝息が聞こえてくる絵本…「おやすみなさい」
磯崎園子(絵本ナビ編集長)
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