壮大な遠回りって、実は楽しい?
子どもの頃、給食当番が回ってくると必要になるのが「マスク」。今はすっかり使い捨てマスクが主流ですが、あの頃だって、市販のマスクは簡単にお手頃に手に入ったはず。ところが、なぜかうちの母親はマスクを直前に手作りしようとするのです。(きっとストックしておくのが苦手だったのでしょう)
マスクはないけれど、沢山あったふちに色のついているガーゼハンカチと、黒いひもゴムで完成したマスクは、マスクのようで、マスクでない。だって、マスクって白いものでしょ。
でも仕方なく、そのオリジナリティーあふれるマスクで当番をこなします。そして最低限の希望を述べるのです。「白くなきゃ、イヤ!」
そうすると、次に完成した自家製マスクはかろうじて白くなっています。白いガーゼハンカチに白いゴムひも。でもちょっと違う。ゴムがとても太いのです。そこで言います。「ゴムは細くして!」
かくして、最終的に完成したオリジナルマスクは、白いガーゼに細くて白いゴムひも。ガーゼの厚みだって、ほどよく薄くていい具合。みんなのマスクにかなり近い! 目立たない! 母親にも太鼓判を押します。「これならいいね」。
こうして、母親に頼むとなぜか「普通」にたどり着くまでに遠い道のりを歩むことが多かった子ども時代。だけど、目的に近づいた時の喜びは結構いいものです。気が付いたのはごく最近ですけどね。今でも細いひもゴムには憧れの気持ちがあります(笑)。
一方、こんな「楽しくて、面白くて、かっこよくて、壮大な遠回り」だったら、子どもだちだって大歓迎ですよね!!
エーくんビーくんの なんでもつくります!
舞台はメカシティー。活躍するのはエーくんとビーくん、仲良し兄弟です。
ふたりのお仕事は、みんなに役立つメカをつくること。どういうものが作れるのかというと?
眠い時に起きてるふりができる「オキテルハチマキ」、いつでも美味しいジュースが飲める「ジャグチカラジュース」とか…要するにどんなささいな悩みだって、メカで解決してくれちゃう!ってこと。
今日も街の人たちから、次々に相談が届きます。
「わーん。おおきな きのうえに ボールが ひっかかっちゃった!」
「とけいだいの とけいが うごかなくなって みんな じかんが わからなく なってしまったんじゃ」
するとふたりは答えます。
「そんなのぼくらにまかせて!」
トントン カンカン ビビビ ドンドンドン
ものすごい音をたてながら、あっという間に「かんせ~い!!」
出来上がったのは…思わずみんながこう叫ぶ立派なメカ。
「すごい しくみ!!」
そうなのです。ふたりの作るメカは、とにかく「しくみ」がすごいのです。 どんなに大きな音のめざましでも起きられない子だって、ふたりの作ったメカであっという間に目が覚めちゃうし、困りごとだらけで怒っていた動物園のどうぶつたちの悩みだって、どんどん解決していきます。そのメカの魅力的なこと!
とにかく登場人物がたくさん出て来て、画面の隅々で好き勝手に動き回る中垣ゆたかさんの絵本。今作では、コマ割りの画面で進みながら、お話も愉快な絵もぎっしりたくさん楽しめる、濃くて嬉しい1冊になっています。そして何より子どもたちを釘付けにしてしまうのは、「効率的」なのか「壮大な遠回り」なのかわからない、凝りに凝った「メカ」であることは間違いないですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
子どもって、思っている以上に「途中経過」や「仕組み」を見ることが大好きなんですよね。「なかなか手に入らない」っていうのも、言い換えれば途中経過を楽しむこと? 時には、そんな出来事があってもいいのかもしれません。
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磯崎園子 (絵本ナビ編集長)
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