【編集長の気になる1冊】はじめてだらけ。『はだしになっちゃえ』
草むらの中の階段を降りていけば、目の前に広がるのは砂浜。
さあ、海へやってきた!
当時2歳くらいだったか、抱えていた息子を砂の上へそっとおろします。イメージとしては、そこからまっしぐらに水辺へと走って行く息子の図。うん、いい夏のはじまりだ。
ところが。
「うわーん」突然泣き出すのです。何事かと思えば、伸ばした足先に砂があたった瞬間に驚いて泣いているのです。どんなに大丈夫だと言っても、どんなに気持ちいいから立ってごらんと言っても、聞く耳持たず。腕にしがみついたまま降りようとしません。…そんなことってあるの?海に来たのに? 子どもは裸足で砂を歩くのが好きなんじゃないの?
でも、思えば息子にとっては「生まれてはじめて」の砂浜。それはきっと予想外の感触だったのかもしれません。そういう感覚、すっかり忘れていました。はじめての砂浜。足の裏に細かい砂がこんもり触れてくる感じ。「気持ちがいい」とは限らない!ってことなんですね。いったいどんな風に感じたのでしょう。
思いがけない「はじめての遭遇」を楽しむのか、出会う前に絵本の中で想像を膨らませておくのか。どちらも経験としては、悪くないですよね。
はだしになっちゃえ
「はだしに なっちゃえ」
そう言って、背景には砂の上にはだしで立っている子どもの足。
もう、表紙をひと目見ただけで、真夏の海を思い出しワクワクします。
そうです、子どもたちは裸足になっちゃえばいいのです!
水着を着込んで、浮き輪は肩にかけ、ビーチサンダルをはいて、
思いっきり駆けていく先に待っているのは…広い海!
波しぶきが見えるところまで来たら、ビーチサンダルは「えいっ」。
脱ぎすてたら、ここから裸足で走ります。
「あっちっち」「あっちっちい」
海の水を含んだ砂までくれば、ひんやり。
あ、大きな波がきたーー!
波と一緒にひいていく砂がずずうー。なんだかくすぐったい。
期待どおり、この絵本には、言葉の響きと躍動感あふれる絵によって、海水浴の楽しさがたっくさん詰まっています。そして、なにより嬉しいのは、足の裏で直接かんじたあの感覚、砂や水、貝殻を踏んだ時などの感触がよみがえってくること。子どもの頃に感じたあの新鮮な驚きは、今になったって忘れることはありません。
だからね。
子どもたちは、どんどん裸足になっちゃえばいいのです。
海に行けない年は、この絵本で。
今年の夏も楽しんでくださいね!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
その日は結局、(靴をはいても)一度たりとも砂浜の上に足をおろすことはありませんでした。もちろん、少し大きくなれば、そんな出来事はすっかり忘れて走り回るようになったんですけどね。
子どもたちは毎日が「はじめて」だらけ。当たり前のことなんだけど、案外忘れがちなものです。ふいにくる思いもかけない「はじめて」が、親にとっては新鮮な驚きとして印象に残ったりするものです。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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