まもられているのかもしれない。
「…うっうっ」
あ、はじまった。
「あ、あああー」
くるぞくるぞ。
「うん……ぎゃああああーーーーーーーーー」
あああ、泣いちゃった泣いちゃったあ。
こりゃ仕方ない、よしよしよし。お腹空いたのかな、おむつぬれちゃったのかな?
それも違うのかな?
「うわーーーーん、ぎゃあーーーーーーー」
暑いのかな、遊びたいのかな?
どうしたの、どうしたの? お歌うたってあげようか?
「ヒック、ヒック…」
お?
「うわあーーーーーんん」
ああー…。
あかちゃんは本当によく泣きます。小さな小さな体を震わせて、丸いお顔を真っ赤にして。
よくもまあこんなに続くなあ、というくらいに泣きます。
それはそれはすごいエネルギーなのです。
まわりの大人は、その圧倒されるエネルギーにどう対処しているのでしょうか。
あかんぼっかん
広い海のかたすみに浮かんでいる小さな島。
いつものように青い空、気もちのいい風。
と、その時。
どどど どどどどどどど…
すごい音、すごい揺れ、なんだ?なんだ?
なにかがふくらんで、ぐぐぐぐぐぐ…
「ぼっかーーーーん」
生まれてきたのは、大きな大きな…あかちゃん!?
あかちゃんは煙をはきあげ、大岩投げつけ大暴れ。
「おんぎゃあ おんぎゃあ」
おならだって、ぶっべっばっ。くさいくさい。
これは大変なことが起きているぞ!
だけど、いいことだって、もちろんある。
色んなものを生み出して、色んな動物を引きよせる。
やがて…
この驚くべき迫力の作品を生み出したのは、阿部健太朗さん、吉岡紗希さんご夫婦お二人からなるユニット、ザ・キャビンカンパニー。絵本に登場する愛らしい生きもの「あかちゃん」の強さといったら!暴れ具合といったら! 圧倒的なエネルギーでそこにあるもの全てを壊し、あっという間に非日常の世界へと変えていく。それは憎むべき相手なのか、愛すべき対象なのか…考える余裕もないほど、読者はその鮮やかな絵に魅入られていくのです。
そして予想もつかない終わり方。
もしかしたら、私たちはこの「あかちゃん」に守られている方の存在なのかもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
あんなに泣いていたあかちゃんが、今度はコトンって眠りだす。
数秒前まで放出してたエネルギーの塊が、スンっとどこかにしまわれて。
それはそれは愛らしい顔で寝るのです。
それを見て、だれもかれもが微笑んでしまいます。
そして、一日の気持ちはトータルでちょっとプラスになっちゃうのです。
すっごいですよね、あかちゃんって。
出版社からの内容紹介より
ザ・キャビンカンパニーの2人(阿部健太朗さん、吉岡紗希さん)が、2016年に熊本地震に見舞われたことでできた作品です。
九州・大分で創作をつづける2人は、以前から火山をテーマに作品をすすめていましたが、知人が阿蘇山噴火による観光客激減で落ちこんでいるのを見て、ためらいがうまれ創作がとまります。
そんななか吉岡さんが妊娠し、熊本地震さなかの2016年4月に出産(当地は震度6弱)なさいました。吉岡さんは、陣痛と大地震の両方を経験し、生命と大地のつながりを強く感じたそうです。また地震で車中泊を余儀なくされている友人を見舞い、話をきいたことで、このテーマを絵本にすることに対する意義を改めて見い出すことになりました。
山を赤ん坊に見立てた本作品では、生まれる前の陣痛が大地震となり、その赤ん坊の泣き声は灰を降らせ、おならは硫黄の臭いを大地にふりまきます。そのいっぽうで湧水や温泉、迫力のある景観などの観光資源など、多くの恵みももたらし、大地をまたあらたな段階へと再生させていきます。
本作品はそうした、いきものたちと密接なかかわりのある造山運動を、子どもたちにも親しみやすく感じることのできる絵本であり、また大地の鳴動を赤ん坊に見立てた「国生み神話」ともいえるでしょう。
大分に生まれ育ち、根をおろして活動する2人(と赤ん坊)がつむぐ、九州の雄大な自然への賛歌、そしてそこに暮らす人々への応援歌です。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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