【編集長の気になる1冊】今さら欲しいとは思わないけれど……。
電話を切ったあと、
80を過ぎた母は言う。
「いつまでたっても妹あつかいなのよね」
兄弟の多い母だけど、とくに仲が良いのは三姉妹。遠くに住んでいてもわりと頻繁に連絡を取り合う様子を見て、子どもの頃から思ったものです。
「私にもお姉ちゃんがほしい」
そんな事を言う私に対していつも微笑んでいた母だけど、今となっては容赦ない。
「姉と妹っていう関係は、どれだけ年齢を重ねても変わらないのよ。
何にもわからないと思ってるの。失礼しちゃうわね。」
もちろん私だって、今さら欲しいとは思わないけれど。
でも、80を過ぎた三姉妹のやり取りを見ながらやっぱり思うのです。
兄弟とも、兄妹とも、ひとりっ子とも違う。
ちょっと特別な世界なんじゃないかな、って。
ねえさんといもうと
ねえさんは、いつだって小さないもうとの面倒をみてくれる。
公園で遊んでいる時も、学校に行く時も、
くさはらで散歩をする時だって、ちゃんと危なくないように見てくれている。
それだけじゃない。
なんだって教えてくれる。
お裁縫だって、泣いてしまった時の泣きやみ方だって。
ねえさんは、なんでも知ってるんです。
でも、ある日。
いもうとは、なんだか……。
ゾロトウが描き出すのは「ねえさんといもうと」だけの小さな世界。静かで優しいお話を、酒井駒子さんが咀嚼し、新たな翻訳と絵で表現してくれています。その愛らしさと言ったら……! 読んでいる最中、ずっと幸せな気持ちになってしまっている自分に気がつきます。
それでも、この小さないもうとにとっては切実な瞬間。昨日まで当たり前だと思っていたことが、ある日突然その気持ちに変化が起きるのです。世界の見え方が変わるのです。それって、どんな気持ちなのでしょう。かなしい出来事? さみしい出来事? いえ、答えは絵本の中の彼女の表情にあらわれていますよね。
ねえさんといもうと、ふたりがほんのちょっとだけ一歩前に進むこのお話。些細な出来事ではあるけれど、こんな風にして姉妹の関係は成長していくのでしょうね。姉妹がいる方も、そうでない方も。存分に味わってみてください。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
目の前にいる絶対だと思っていた人が、そうじゃないのかも……と感じる時。
それだったらよくわかる。
私のまわりにも立場的に色々な関係性の人が存在する。
だけど一歩踏み込むことが出来るのは、きっとその先の話。
今日もまた、ぶつぶつ言いながら電話を切る母。
あれれ、ここの三姉妹は「その瞬間」というのを乗り越えてきていないのかしら。
とはいえ、なんだかちょっと嬉しそう。
そうやって熟していく場合もあるのでしょうね。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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