【編集長の気になる1冊】その願い、かなっちゃったらどうしよう。『おばけリンゴ』
「おおきくなったら、何になりたい?」
幼稚園の先生が言います。
なんでも、みんなの願いをタイムカプセルとして土の中に埋めるから、順番に録音するのだとか。
「……何になりたい??」
そんなこと考えたこともなかった当時の私の頭の中は「??」でいっぱい。隣の少しませた友だちに聞けば「私はスチュワーデスだよ」って言う。スチュワーデス? ……なにそれ、かっこいい。
友だちの説明の内容はよく覚えていないけど、なんか感動してしまった私は、頭の中で反芻しながら言ってしまうのです。
「スチュワーデスになりたいです!」
そして、そのまま私の言葉は土の中へ。
うん、なかなかいい願いだ。
だけど数年経ち、段々とそのことを思い出して焦ります。
「私、そういえばスチュワーデスになりたいって言ったよね。
え? もしその願いがかなっちゃったらどうしよう。
高いところも、飛行機も苦手だし……」
もちろん、そんな吹けば飛ぶような願いがかなうはずもなく。
無事にただ飛行機が苦手な大人になれたわけですが。
それ以来、私の願いごとは驚くほど慎重になってしまうくらいの影響を与えた出来事だったのでした。
ねえワルター、その願い強すぎない?大丈夫?
おばけリンゴ
ワルターはびんぼうだけれど、リンゴの木を一本だけ持っていました。でも、この木には、まだ一つも実がなったことがなかったのです。隣の庭をうらやみながら、ワルターはベッドの中で祈ります。
「ひとつでいいから、うちのきにも リンゴが なりますように。」
……すると、その願いは叶ったのです!
うんと心を込めましたからね。ある夜、素敵な白い花が一つ咲いたのです。それはそれは大事に丁寧に花の手入れを続けると、やがて花は実になり、ワルターは喜びのあまり飛び回ります。なんて素晴らしい毎日なのでしょう。
ところが。
ワルターが刈り入れ時になっても実を取らないでいると、そのリンゴはどんどん大きくなっていき、やがてとてつもない大きさになり……!?
リンゴの持ち主であるワルターの、たった一つの小さな願いがとんでもない事態に発展し、思いもよらない展開を繰り返していきます。喜び悲しむワルターのまわりの人々も振り回されて大騒ぎ。なんでこんな事になっているのでしょう…この絵本を読んでいる人だって巻き込まれていきます。そして全てが解決し、ワルターが思ったこととは?
ヤーノシュの描く、なんだかとっても不思議な世界。少し不気味な場面が出てきたと思えば、笑っちゃう展開でもあり。一回読んだだけでは全てを掴みきれないお話かもしれません。大人になれば、また違う読み方ができるかもしれません。でも強く伝わってくるのは、ワルターの純粋な感情です。とびまわったり、涙を流したり、そんなワルターの様子はきっと子どもたちの心にも深く残っていくのでしょうね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
あんなに喜んで、あんなに暗い顔になって。でも最後には、やっぱりまた凝りもせず再び願いごとをするワルター。
大人になってふとまわりを見渡せば、そういう人って結構いる。かなった願いに押しつぶされそうになっていたりして。
でも、なんだか。願いごと一つとっても「身の丈にあった」とか、「かなっても大事にならない程度の」とか調整している私よりも、よっぽど魅力的な人が多い気もするのです。うーむ、「願いごと」って奥が深い!?
ヤーノシュの作品一覧
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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