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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】きっとここから海へ行く。『なつはひるね』

 

「うう、暑い。」

 

なんにもない四畳半の畳の部屋でゴロリ。
寝転がった姿勢で天井を見ながらうちわをあおぐ。

 

大きな家具は一つもない、学生時代の一人暮らしの部屋。あるのは大きな窓と薄いカーテン。テレビもゲーム機もエアコンもないこの部屋に、なぜか遊びに来たのは普段からそんなに話すわけでもないクラスメイト。彼女も私の隣で無防備に寝転んでいる。

 

「なんにもないよ。クーラーもないし。」

 

そう断ったのに構わないと言う。彼女は幼い頃、南国で暮らした経験があるから蒸し暑いのは平気なのだとか。そんなものなのかしら。だいたい彼女、遊びに来たものの、別に積極的に話そうともしない。こんな時間、楽しいのかしら。

 

と、その時。
カーテンがふわりと揺れ、涼しい風が二人のからだの上を通り過ぎる。

 

そのあまりの気持ちよさに言葉にもならない「ふわあ……」という声を発しながら、畳の上でごろごろと寝返りをうち。うつぶせになって思わずふたりは……泳ぎだした! ほんのり風が吹くたびに、体の向きを変え、今度は背泳ぎ、今度は平泳ぎ。ただただ力を抜いて、波に身を任せ、上手に海に浮かぶのです。そしてそのまま目を閉じて……

なつはひるね

なつはひるね

ここは誰もいない南の海の浜辺。

少年と犬が呼びかけます。
「おーい! うみ」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザザーン
トプトプ トプトプ

海を泳げば、クマノミ、コブシメ、オニカマス……ウミガメ、マンタ!
たくさんの生き物が泳いでいます。

砂浜に寝転んで今度は空に叫びます。
「おーい! そら」
グングン モクモク グングン ワクワク

あっ
ピカッ! ドカーン! ザーッ!

スコールの後は、澄み渡る青空が広がって。
やっぱり「なつはひるね」がいちばん。
ザザーン サラサラサラ…

気持ちの良い海の風景と、耳に心地よいオノマトペの軽快なリズム。
そこにいるのは少年と犬と読者だけ。
静かにすすむ夏の一日、だけど耳をすませば、目をつぶれば、
とてもドラマチックな情景が広がっていきます。

子どもたちは本物の海の音を思い浮かべているのでしょうか。
それとも想像の世界で浜辺を堪能するのでしょうか。
夏がギュッとつまった一冊です。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

 

気が付けば、日は暮れて。彼女はいつの間にか帰り、その後のことはあまり記憶に残っていない。だけど後日彼女はみんなに言うのです。

 

「 楽しかった! 部屋がね、すごく涼しくて気持ちいいの。」

 

なんだか嬉しい、おもてなしも何もしていないのに。でも、思い返してみれば確かに彼女の顔はずっと涼やかで……最初から見えていたのかな、私の家の砂浜が。海が。

 

これは完全に彼女の能力。 だってそれ以来、あんなに気持ちよく部屋から海へ行ったことがないのです。それともあのからっぽの部屋の力?いつかまた、あんな夏を過ごせるかな……。
 

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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