【編集長の気になる1冊】あの感覚を思い出したい…!『こんにちは!わたしのえ』
「ああ、なんてきれいなんだろう」
チューブから遠慮なくギュっと絞り出した時の「あか」。
それはツヤツヤと光っていて、混じり気がなくて、本当にきれいなかたまりで……。
子どもの頃、うっとりと眺めていたのは絵の具の赤。
青も黄色も緑も、原色はみんな好き。
それは私にとって宝石のような輝きがあって。
ところが、それを筆につけて絵を描こうとすると途端につまらなくなる。
上手く扱えないのだ。どう使うのが正解なのか、わからなくなる。
絵を描くのは嫌いじゃない、むしろ好き。
部屋の片隅で落書きすると落ち着くし、面白い顔の人がいたら描きたくて仕方がなくなる。
学校の課題で描く風景画も人物画も下書きまでは最高に楽しい。
それなのに……。
なんだかいつも悲しくなってしまうのだ。
絵の具が上手に使えない。
工作もそう。
ハサミを使うのも、アイデアを練るのも、素材をたくさん集めてくるのも楽しくて仕方ない。
だけど「のり」が上手く使えない。どこもかしこも「のり」だらけにしてしまう。
セロテープだったら得意なのにね。
好きなものと苦手なものがいつも混在している。
それが私にとっての美術。
だけど、何となく知っている。
私が一番気持ち良く絵が描けていた頃を。楽しんでいた時代を。
それは……。
こんにちは!わたしのえ
まっしろの紙、こわがらなくたっていい。
思いきって……「ぐっちょん!」
たっぷり絵の具をつけた筆をおろせば、そこに色が生まれる。
「ずういいいいいい」
思いっきり筆をうごかせば、今度はギザギザのいきもの。
あれ、これって気持ちいい?
そう感じたなら、そのまま続けて!
「てんてんてんてん」「ぐるぐるぐるぐる」
もっと大きく、もっとちらかして!
バケツの水で手を濡らしたら、今度はそのまま
「しゅりゅううううううううう」
手だって、足だって。
からだ全部をつかって、もっともっと描く。
色んな形が現れては消え、色がどんどん重なって混ざって。
生まれてくるのはみんな……「わたしのえ」!
作者のはたこうしろうさんが「絵を描くのって、たのしい!きもちいい!」、そんな感覚を子どもたちに伝えたいと思い続けて生まれてきたのがこの絵本。読んでみれば、とにかく気持ちがいい。最初のページからずっと楽しくてうずうずしてくる。だって、この絵には「こたえ」も「きまり」も一つもない。ただただ、色と遊び、からだと遊び、すべてが思いつきで、順序だって気にしない、もちろん「評価」もない。
そう。「わたしのえ」はわたしのもの。
いつだって、何からだって、自由で楽しいものでいいのです。
絵の具の色も、女の子の表情も、それは生き生きとしていて…
凝り固まった大人の心までをも開放してくれるような、絵を描く喜びにあふれた1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
それはまだ小学校に上がる前。
誰の目も気にしていなかったあの頃。
何をしても何を作っても喜んでくれた父がいて。
アイデアを一緒に膨らませながら、どんどん絵を描き、どんどんものを作る。
父の手もたくさん入ってるけど、かまわない。
それらは全部「わたしのもの」。
今でも憧れる、私の中の最強時代。
この絵本を読んでいたら、またあの頃の感覚が恋しくなってきた。
いいな、いいな。大人になっても遅くないかな、こんな経験してみたい!
ほかにも色々!絵を描く楽しさを味わう絵本
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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