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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】目を凝らしてみれば……。『夜を歩く』

 

知らないものに出会った時。新しい環境に変わった時。まわりの人はどんな気持ちになるのだろう。どうやって自分の中に取り込んでいくのだろう。考えてもわからない。なぜならその方法は人それぞれだから。

 

私は小さい頃から苦手な方だ。知らないこと、わからないことがあると、必ず身構える。緊張する。初めてのプールに無邪気に飛び込むことも、廊下の先にあるドアを開けるのだってためらう。足を止め、目を凝らし、耳をそばだて、まわりの人の反応も見る。シミュレーションだって頭の中で何度もする。全身を使って得られる情報は全て吸収しようとする。

 

だけど、そうやって様子をうかがいながらでも近づいていくと、ぼんやりと少しずつ形が見えてくる。その瞬間はすごく好きなのだ。見えてきた後は、もう緊張はとけていて、ただひたすらに興味へと変わり、新しい日常がはじまっていく。

夜をあるく

夜をあるく

ママが真夜中にぼくたちの部屋のドアを開け、ささやく。

「やくそく、おぼえてる?」

ぼくたちは、おしゃべりもせず着がえ、家族4人で玄関を出る。夏の夜は静かで、アヤメとスイカズラのにおいがする。窓のあかりが輝く大きなホテルの横や、ぼんやりと灯る町はずれの家の前を通りすぎ、どんどん歩いていけば、やがてそこは山のふもと。暗さに目が慣れてくると、感覚がどんどん研ぎすまされていくよう。木の皮のにおい、枯れ枝がぽきりと折れる音、さわさわと揺れる大きな木々の葉っぱ。

家族4人で訪れる夜の森。そこにあるのは、特別な体験。湖に映る月。草むらに寝っころがって見上げる星空。険しい山道。そして……。

深く美しい、青い景色で始まるこのお話。照らされているのはほんの一部。その暗さはずっと続く。それでも目を凝らしていけば、何もかもがしっかり見えてくる。家族と一緒だからこそ、わくわくできる真夜中の時間。こんな冒険ならしてみたい!

フランスから来たこの絵本。たとえ冬だとしても、昼間だとしても、こんな景色が身近になかったとしても。読み終われば、まるで一緒に体験したかのような清々しい気分に。最後のページのまぶしさを味わいながら、少し計画を立ててみようかと考えてしまいますね。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

大人になった今でも、目の前が霧だらけになっていることに何度も驚く。けれど前に進まなくてはならない。なぜなら、その先に見えてくるものに興味があるから。自分の性格は怖がりで楽観的。わかっているからこそ、足を前に出すことができるのだ。

 

まわりの人はどうだろう。息子はどうだろう。目を凝らすのだろうか。それはやっぱりわからない。他の人の手引きをするのは大変だ。無理なのかもしれない。でも、進み方を考える時間はあった方がいい。この絵本を読みながら改めて思うのです。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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