【編集長の気になる1冊】頼もしくって、愛らしい。『たすけてー』
「おりゃーー!」
まだまだ小さかった息子を片手に、そばで遊んでいたお友達の子をもう片方の手に抱えこみ、だだっ広いキャンプ場のすみからだだだだだっと目的地に向かってまっすぐ走っていくのは、育児真っ最中だった頃の私の姿。どこにそんな力が……と自らに驚きながら、体感100メートル近くを笑いながら駆け抜ける。理由は、ただそこでおもしろそうな遊びがはじまっていたから。そんなチャンス、逃したくない。
「こんにちは!」
とんでもなく苦手なことだけれど、深呼吸をしてから知らない人たちの輪に入っていく。ルールもわからなければ、関係性だってわからない。でも、とにかく親切に何かを教えてくれる人に出会えるまで、一方的に話しかけなければ始まらない。だって息子がやってみたいといった習いごと。ここでくじけるわけにはいかないのだ。
一向に上手くならない自転車の二人乗りに緊張し、小学生時代以来のドッジボールにはりきって参加し、慣れない裁縫やお弁当づくりに四苦八苦し、時には大寝坊をしたりして大失敗をくり返す。
人知れず闘っていたあの頃の自分ときたら、なんてたくましいのだろうと思う。今の私なんかよりもずっと頼もしくって愛らしい。そしてその姿はどれも、ちょっとおもしろいのだ。
たすけてー
「ちょっと かくれてなさい」
ねらわれた可愛い2匹たちのぼうやを守るため、イボイノシシのかあちゃんは立ちあがる。
「トトトトトトト!」
ハイエナをすごい勢いでけちらすと、今度はチーターがぼうやをおそってくる。
「にげなさい!」
すると、空からバサバサッとワシがやってきて、もう1匹のぼうやを連れさっていく。ピンチだかあちゃん、どうするかあちゃん。
「まちなさーい!」
必死で追っていくかあちゃんは、キリンさんの長い首をかけのぼり……!?
広いサバンナを舞台に、息子を守るために繰り広げられる、イボイノシシのかあちゃんの大変な闘い。息つくひまもないくらいに次々とピンチがやってくる中、どんな相手に対しても迷うことなく突進し、大ジャンプし、大げき突するかあちゃんの姿は、頼もしいの一言。ところが緊迫の場面の連続にもかかわらず、なんだか可笑しくて笑ってしまうのが、このシリーズの面白さ。大胆な構図、勢いばかりが伝わってくるユーモラスな擬音の連続、思いもよらない展開。そして大きなたんこぶを作ってしまうかあちゃんの愛嬌。読みおわってみれば、誰もがかあちゃんに声をかけたくなってしまうのです。
「おつかれさま!」
(絵本ナビ編集長 磯崎園子)
ふとまわりを見れば、あの頃の私と同じ表情をしているおかあさんたちがたくさんいる。もちろん邪魔をしてはいけないけれど、あまりに真剣なその顔をちょっと笑って、力を抜いてあげたい。
今のあなたは頼もしくって、愛らしい。そし結構おもしろいよ、と。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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