【編集長の新宿絵本日記】なにもないと思っていたけど。 2017年6月22日
「今歩いているのは、東口へとつづく道。」
これは、足どりも軽やかに新宿の巨大な地下通路を歩いている私の頭の中。なんでもないことのようで、実はとても画期的なことなのです。なにしろ、自分の今いる場所を自覚しながら歩いているのですから。
恐ろしいことに、同じホームでも降りる階段や改札を間違えると、目的の出口へ全く辿りつけなくなって途方にくれてしまうのが新宿駅地下通路の世界(あくまで個人的な見解です)。同じ様な景色の連続と、「合っているに違いない」という思い込みにより、どんどん今いる場所がわからなっていき、怒りと悲しみの感情だけでフラフラ歩く……というのが今までの自分。嫌いになるわけです。
きっかけは、ある本に書いてあった「新宿駅とその周辺をつなぐ地下通路を上から見ると、暗号のように大きな文字が3つ見えてくる」という言葉と地図。
「なんですって!」
そんなの興奮せずにはいられませんよね。巨大迷路にも攻略法があったのです。そうなってくると、毎日の通勤だって全制覇へ向かうための探検の時間に早変わり。よく知っている通路と、行った事のない通路。今歩いている道は、攻略へと続いているのです。思わず走り出しそうになったりして。単純なものです。
絵本の世界だって同じです。まだまだ知らない驚きの楽しみ方があるんです。
ただ模様が描かれているだけだと思っていた絵本。ところが、目を閉じて、指で触れてみると、そこに浮かびあがってくるのは…迷路!?
さわるめいろ
スタートの丸い突起を手で触り、よーいスタート!
点線を手でたどりながら、ゴールに向けてひたすら進んでいきます。線が二手に分かれて選んだ線が途切れたら行き止まり。また戻ってゴールを目指します。ずーっと進んでいって…三角の突起にたどりついたら、ゴール!
一体何の説明をしているのかというと、点字の線を触って楽しむめいろ絵本『さわるめいろ』の遊び方です。
「見える人も見えない人も、一緒に絵本を楽しみたい!」
そんな強い思いから考えられた絵本「てんじつき さわるえほん」シリーズ。出版社の垣根を越えて、3つの出版社から3冊同時に発売されました。ぱっと見ると、カラフルな絵本の美しさはそのまま。でも、絵の部分を手で触ってみると凹凸を感じることができます。この驚きの方法を実現可能としたのは、透明樹脂インクによる盛り上げ印刷。目の見えない子にとって、ただのつるつるの紙だったものが、何回でも楽しめて、目の見える子と一緒に遊ぶこともできる絵本となったのです。出版社や作家、印刷会社や点訳家、関わっているたくさんの方たちの工夫の積み重ねが詰まっているシリーズです。
収録されている迷路は、全11種類。最初は単一の線をたどってゆく簡単な正方形。クリアできるごとに五角形、市松模様など、見た目にも模様がどんどん形も複雑になっていき難易度が増していくのがわかります。模様の上に配置されている点字の線が迷路の答えとなるのですが、ぱっと見にはわからないので、全盲の方だけでなく、弱視の方、目の見える方にとってもなかなか手ごわい迷路となっているのです。
試しに目をつぶって実際にチャレンジしてみると、今まで体験したことのない感覚に驚かされてしまいます!!
細い点をたどっていくのは少し緊張、そして意外に時間がかかるのです。でも、触っているうちに指先の感覚が冴えてきて、進むスピードを早めたり、行き止まりの判断が早くなってきたり。ゴールの三角模様に行き着いた時の嬉しさも新鮮です。これはすごく面白くて、新しいタイプの遊べる絵本です!
こんな風に遊びながら本に触る楽しみを知った子が、自然に点字を読み取ることに馴染んでいければいいですよね。「てんじつき さわるえほん」の存在の重要さを改めて感じずにはいられません。
購入しやすい価格に抑えられているのも嬉しいポイント。目の見える子も見えない子も。大人も子どもも。
ぜひ、一度体験してみるのをオススメします。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
これ以上前に進めないと感じていたのは、接し方を決めつけていただけ?
もし「自分にはなにもない」と思ってしまったら…?
視点をぐるりと変えてみれば、そこにはくっきりとはっきりと進むべき道が浮かび上がってくるのかもしれませんよね。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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