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「新宿絵本日記」

1年間の空白。 2017年7月19日

 

家から徒歩で15分。電車に乗って1時間。駅からオフィスまで徒歩10分。待ち時間も合わせてざっくり1時間半。帰りも合わせると約3時間。これが毎日通勤にかけている時間です。

 

1ヶ月に出社するのは大体22日、66時間。1年で792時間。入社10年目だから7920時間。日数にして換算すると330日…1年弱。

 

大ざっぱな話ですが、私が家庭と仕事で過ごす時間をそれぞれつないできた「移動時間」を集めてくるとこうなります。ぼーーっとしてたり、寝てたり、考えごとをしていたり、本を読んだり、スマホを見ていたり。あんまり意味のない時間です。

 

1年あれば、赤ちゃんは歩けるようになるし、生まれたばかりのワンちゃんは成犬になっちゃうし、身長が15センチも伸びちゃう中学生もいるだろうし、新入社員だって熟れてくる頃です。電車の中でだって、欠かさず読書をしたり、仕事の予習をしたり、調べものをしていれば、ちょっとは違う自分に変化していることでしょう。結構な時間です。

 

でも、今かき集めてみた時間をかためてみると、きっと、いくら中身を割ってみても「ほわん」としているはず。何かを生み出す気配もないし、前に進んで行く雰囲気もありません。後ろめたさも存在していません。この「ほわん」としたかたまりが私にとっての「空白の1年間」。有効活用なんてしてこなかった、私だけの余白の時間です。意味はないけれど、意外と愛おしいものです。飛び込んでみたくなったりして…。

 

無意味な時間に思いを馳せていると、またまた無駄に時間が過ぎていってしまいますね。こんなゆるくて贅沢な時間を過ごした後には、この絵本。あっという間に風船がはじけたような気持ちにさせられます。

まばたき

まばたき

「しーん」
ちょうちょが飛び立つ、その一瞬の間に漂う気配。
「カチッ」
鳩時計が12時を指し、その時間を告げる直前の静けさ。
「はっ」
猫が獲物を見つけ動き出す瞬間、伝わってくるその緊張感。

ピリピリするような、繊細な変化が描かれていくこの絵本。
ものごとが動き出す前のほんの一瞬、そこに永遠がある…
そんな秘密めいたテーマを考えついたのは、歌人の穂村弘さん。
私たちは、そこに何が隠されているのか、何を感じとることができるのか。
美しく構築された連続の場面を見ながら、考え、体験していくのです。

そしてやってくる、最後の展開。
「みつあみちゃん」
時の流れの感覚が、一気に撹乱させられるよう。
それでもやっぱり、すべてが「まばたき」する間のできごとなのです。

ドキっとしながら、でも、大好きな酒井駒子さんの絵をじっくりと堪能する喜びにひたれる。
そんな特別な絵本が誕生しました。

 

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

http://www.ehonnavi.net/ehon/104960/%E3%81%BE%E3%81%B0%E3%81%9F%E3%81%8D/

一瞬と永遠が隣合わせだとしたら。そう考えるだけで、急に今過ごしている時間に意味なんて見出せなくなってきます。時間って、怖い。でも、興味が尽きることはないんですよね。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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