はじまらないから、終わらない。 2017年9月29日
本が好きな人だったら、一度は思ったことがあるはず。
「…冒険に出たい」
ふいに思うことなので、それは家の中だったり、会社の中だったり、都会のど真ん中だったり。だけど、次には思うのです。
「冒険ってなんだっけ?」
わかりやすく入り口が用意されているはずもなく、目的だって決めなくてはいけない。時間やお金だってたっぷり必要なのかもしれないし、悪者だって、助ける人だっていた方が盛り上がる。そんなこんな考えているうちに、日常生活に流され…思いつきはなかったことになる。
「憧れの地」「憧れの世界」はあるけど、現実には絶対に手が届かない。
そんなパターンだってある。
だけど、この本を読んだら衝撃を受けてしまったのです。
「冒険を探すための冒険」。
つまり「はじまりのためのはじまり」。
あるいは、「はじまりのはじまりのはじまり」。
はじまりのはじまりのはじまりのおわり 小さいカタツムリともっと小さいアリの冒険
本が大好きなカタツムリのエイヴォンは、本を閉じた後につぶやきます。
「あーあ、ぼくの人生に冒険なんてありっこない。」
そして思うのです。
「今までぼくは冒険できなかったし、これからもそう。本に出てくるみたいな冒険ができないんだったら、ぼくは死ぬまで不幸なカタツムリのままだ。」
だけど、エイヴォンは出会います。エイヴォンよりもずっと小さなアリ、エドワードに。エイヴォンとエドワードは「冒険を探すための冒険」に出発することになり…。
「はじまる」前の「はじまり」を見つけるための旅は、冒険ではないのだから、ドラゴンも出てこなければ、目的地だって検討もつきません。それどころか、エイヴォンの歩みは恐ろしく遅く、エドワードはゆっくり歩くことがつらくて仕方がありません。この旅は一体どうなるのでしょう。冒険にたどりつくのでしょうか? 冒険じゃない旅に意味はあるのでしょうか?
…ところが。エイヴォンとエドワードの小さな歩みの先々に、素晴らしい発見と気づきが次々に訪れます。
「ぼくはこれまでずっとドラゴンの姿をしたドラゴンしか探してなかったんだ。」
「一日で世界が変わる、それが冒険というものです!」
「詩がぼくたちのゴールを教えてくれるの?」
「創造性っていうものはちがいを生み出すね。ぼく、今まで知らなかった」
二人のいる世界は、大きな空に囲まれた、ほんの小さな枝の周り。だけど、「はじまり」と「はじまりのおわり」と「はじまり」を繰り返しながら、徐々に冒険の中心へと向かっていくのです。アリ族の歴史ある行進曲とともにね。
すすめ、すすめ
おやまあ、あら、まあ。
すすめ、すすめ。
あら、あら、おやまあ、おやおや、まあ。
あらあら、おや、まあ、おや、おやまあ。
すすめ、すすめ、すすめ!
(磯崎 園子 絵本ナビ編集長)
「一日で世界が変わる、それが冒険というものです!」
それならわかる。
憧れの冒険には一歩も近づけないのに、発見はいくらだってできるのです。
エイヴォンとエドワードみたいに、こんな素敵な思考のくり返しができるんだったら、私はいつまでだって「はじまらない」「終わりのない」、冒険に出る前の世界にいつづけたっていいな、って思ったのでした。
冒険へ出たくなる絵本
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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