遠くの方から教えてくれる。 2018年2月26日
「どうしたらいいかわからない」
お店の中で立ち尽くしているのは、小さな子どもでも、子どもの頃の私でもなく、今の私。友人に勧められ、初めてアクセサリー作りに挑戦しようと、会社帰りパーツ屋さんに寄った時のこと。何を見ればいいのか、何を選べばいいのか全くわからず、前にも後ろにも動けずにフリーズしてしまっていた、という訳。
親切な店員さんと友人のアドバイスとレシピが書いてある紙のおかげで、何とか一個目の完成。だけど、次も、その次も、なんだかレシピ通りにしかできない…つまらない。
そんな状況を打破してくれたのは、ある一枚のポストカード。とても印象的なその絵画を見た瞬間、ぴんっときたのです。このイメージをそのままアクセサリーにすればいいんだ!って。後はもう楽しいだけの日々。何を見たって、イメージが浮かんでくるんですから。イメージする方法を発見したのですから。
これは、大人になってからの自分の話。思わぬところで過去の経験やイメージ、ストックしていた知識や情報が遠くの方からやってきて、今の私にアドバイスをしてくれるのです。
だけど、大人の比にならないくらい、日々新しい体験に立ち向かっている子どもたちはどうだろう。自分の経験だけでは、到底打破できない……なんて当たり前です。例えば、自転車。乗りたい気持ちはあるけれど、やる気と結果がなかなか上手くつながってくれない。子どもたちが迎える最初の大きな壁として昔も今もたちはだかるのです。そんな時は、ちょっと視点を変えて……。
じてんしゃ のれるかな
「ぼくは じてんしゃに のれない」
いつもお父さんと練習するんだけど、なかなか上手く乗れない。この間だって、ひざを擦りむいたし。これから、また練習なんだけど、ちょっとこわい。
こんな子、たくさんいるよね。
自転車に乗りたいけど乗れない。本当は、こんなに空が青くて気持ちいい日にはサイクリングが最高だって思うのにね。
「へいき、へいき」あれ?どこからか誰かの声がしたような。今日はなんだかちょっと違うみたい。グラグラ、ヨロヨロ、フラフラ、ノロノロ、また転びそうになったその時!タイヤがにゅるっとのびて…… !?
ここからがこの絵本のすごいところ。普通のタイヤだと思っていた青い丸が、大きなゾウや音符、かいじゅうや大きなやじろべえと、次々に変身していき、それぞれが「ぼく」にイメージとアドバイスとなる言葉を残していくのです。「バランス バランス」「リズム リズム」「つよく つよく」…… 何がなんだかわからないけれど、何が起きているのかすぐには理解できないけれど。いつのまにか、それはだんだんと自転車を乗りこなすコツの真髄へとつながっていくのです。
すぐに自転車に乗れてしまう子というのは、案外こんなイメージが自然と出来ているのかもしれない。だけど、それを絵や言葉にして伝えてくれたことなんて、なかったはず!シンプルな絵と色と言葉だけなのに、すごく面白くて奥深い。
教えてくれたのは誰だろう…。 自転車だけじゃなくって、壁にぶつかった時や行き詰まった時にもきっと役に立ってくれるはず。ほら、遠くの空でにっこりしているよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
大人になると忘れがちだけど、あらゆる挑戦にイメージする力は必要不可欠。そういえば、テレビの中の一流アスリートたちだって、イメージの話をよくしている。だけど、それを誰が教えてくれるのかは、また別の話。答えは近くにあるのか、遠いところにあるのか。ずっと探し続けるものなのかもしれませんね。
さて、ようやく満足のいく出来上がりのイヤリングを付けて会社の後輩に自慢してみたところ、返ってきた答えは「いいですね。なんていうかその、大人の…アレがでています!」
…アレ? 大人のアレってなんだろう。じゃあ、子どものアレは? イメージできないのは、まだまだ修行が足りないから? 私もまたイチからスタートです。
自転車に乗りたくなる絵本!
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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