vol.3 自分の宝物を共有するみたいな気持ちになれる絵本
「あなたの今ハマっている絵本3冊を教えてください」
ふいにこんな質問をしたら、どんな答えが返ってくるのでしょう。
そんな好奇心がきっかけでスタートしたこの連載。まずは絵本ナビスタッフをサンプルとして登場してもらっています。(連載主旨はこちら>>)
というわけで第3回目は、ショッピング事業部の山本です。
実はつい先日、めでたく結婚式をあげたばかりの彼女。新婚ホヤホヤなのです。この取材を行ったのは少し前の時期になってしまったので、独身時代最後の彼女の選書となるわけです。今後少しずつ選ぶ絵本も変化していくであろうことを考えると、貴重なインタビュ―になったかもしれませんよね。
仕事面ではショップの運用からカスタマー、法人対応から新規事業まで幅広くこなす山本さん。でも、入社してから1年前まではずっと営業部員として活躍してきました。営業部時代は、発売前の新刊情報を誰よりも早く聞くことができたり、制作エピソードや売れ行きなどを出版社さんから直接伺うことが出来る事が一番の楽しみだったのだそう。また、彼女には特別な才能もあり……!?
お話の中で心にひっかかる言葉があると、気になってしまう
――今ハマっている絵本のことを伺う前に、まず山本さんはとっても変わった経歴の持ち主なんですよね。どうして絵本ナビに入社することになったのでしょう?
私はもともと声のお仕事に興味があったんです。(声優としての活動もされていたそうです!) けれど、なかなか仕事にするには難しいなと感じていた頃、絵本ナビサイトが目に入り、そういえば昔絵本が好きだったなあ…という事を思い出して。母がとても絵本好きで、小さい頃から沢山読んでもらっていたんです。小学生になってからも読み物を読み聞かせしてもらうのがすごく好きでした。
――耳で物語を楽しんでいたというのは、今の山本さんに大きく影響しているのかもしれませんよね。大人になってからの絵本との出会いも他の人とは少し入り口が違うそうで。
もともと週末などにちょっとしたイベントやライブの中で本の朗読をする活動をしていたんです。最初は大人向けの小説や詩などが中心で。だけど児童読み物を読んでみた時に、シンプルな文章の中でしっかりと世界観が伝えられるということに驚いたんです。短くても負けてない、って。それで自然に児童書や絵本のチョイスが増えていきました。大人でも、絵本の朗読を求めている人が、意外といるんだってことも大きな発見でした。サラリーマンだったり、高齢の方だったり、ターゲットの方に合わせて絵本を選ぶのが毎回すごく面白いのです。
――そうやって、お仕事とプライベート、同時進行的に絵本に触れる様になっていったんですね。そんな山本さんに例の質問をぶつけてみます!「あなたの今ハマっている絵本3冊といえば?」
この質問を聞いて、2冊はすぐに確定しました。ここ1年くらい変わらずに好きなお話です。3冊目は絵本ナビの本棚を眺めていて発見した作品です。
1冊目は読み物なのですが、『森のお店やさん』です。
この本は出版社さんにおすすめしてもらったんです。表紙がちょっと大人しい感じがするので、小学生には受けないのかな?と思いながら読んでみたら、これがすごく良かった!!特に好きなのは「ぎんめっきごみぐもの伝言板」というお話。どこかのだれかに話しかけている、その一言…。心が疲れているときは大げさなストーリーは必要なくて、日常のさりげないことにキュンとするのかもしれません。小3の姪っ子に読んで反応が良かったのも意外でした。今の生活じゃ味わえないような、ピュアなドキドキがつまっているんです。テレビや漫画、映画などで味わうドキドキとは種類が違うんです。
2冊目は、以前「神保町ブックフェスティバル」に行った時に、一緒に行った友人がひと目惚れしてしまったという「画本 宮澤賢治」シリーズの中の『オッベルと象』。私もその作品をひと目見て、シリーズ全部が欲しい!って思いました。様々な宮澤賢治作品がある中でも心にささった絵本です。私は大学で美術専攻だったので、紙、色、印刷技術など、こだわり抜かれている細部にたまらなく感動してしまったのです。観音開きのページがふたつもあって、豪華! 飾っておくのもいいですよね。
自分では手を出さなかったかもしれないけど、友人がきっかけに出会うことができた。もともと絶版になっていたそうなんですが、復刊してくれて嬉しいです。
――この迫力に圧倒されます! 山本さんの声で聞いてみたい…。最後、3冊目は絵本ナビで見つけた?
そうです。ふらっと本棚を見ていて、タイトルにひかれて手にとった絵本。どんな内容なのかなって。
復刊絵本セレクション 3 たぬきがいっぱい
ぼくが野原に行くと、たぬきがでてきてて「ナムクシャドロ~ン」とぼくに化けた。
またまたいくと…次々増えてたぬきがいっぱい!
特色4色の掛け合わせも素敵な、愉快な絵本が新装版で登場。初版1975年。
後から気がついたのですが、作者がさとうわきこさん。『おつかい』(福音館書店)という絵本が好きで、すごく読んでいた作家さんで。もうこの絵本は、とにかく可愛いお話で読み聞かせにぴったり!
「ナムクシャ ドローン」。たぬきが化ける時に使うこの言葉。この「ナムクシャ ドローン」の響きで一気に心がつかまれました! 初めて聞いた気がしないんですよね。ヘンテコだけど、耳馴染みがあるっていうか。一番最後の「ほらね、もりは ねむる ところだ。」にも、心がほっこり。
お話の中で、こういう心にひっかかる言葉に出会うと、その作品がとても気になってしまうんです。それだけで好きになってしまうこともあるんです。
――やっぱり、耳から聞く心地良さを大切にしているってことがよく伝わってきますね。好きな絵本は朗読にも使う?
はい。こういう風に自分のお気に入りの本に出会えて、他の人に向けて朗読する時は、まるで自分の宝物を共有するみたいな気持ちになれるんです。一緒にほっこりしてくれたら、こんなに嬉しいことはないと思うんです。もちろん、作品によっては反応が薄いこともあります(笑)。そういう時は、ちょっとしくじっちゃったなあ、と反省したりして。
―― そういう反省も含めて楽しんでいるんですね。山本さん、ありがとうございました!
ママとしてではなく、また自分のためだけでもなく、共有する楽しみを含めた選書。とても興味深かったです。
今、生活ががらりと変化している山本さんに、「旦那さんに絵本を選ぶことはあるの?」と聞いてみたところ、まだその余裕はないようで(笑)。落ち着いた頃に改めて聞いてみることにしましょうね。
私が今ハマっているこの絵本3冊!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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