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おいしい絵本。

vol.7 「あまっているなら、いっこちょうだい」

 

カリッときつね色に揚がっていて、
大きめサイズで分厚くて、
ホクホクしていて。
私の中のコロッケの理想の味は、小さい頃からずっと同じ。

 

絵本『11ぴきのねことあほうどり』に出てくるコロッケです。
コロッケ屋を開いた11ぴきのねこたちが、毎晩売れのこったコロッケを食べるシーンがあるのですが、それが本当に美味しそうで。絵本の中では、次第にねこたちがコロッケに飽きてくるのですが、それを見るたびに思ったものです。

 

「あまっているなら、そのコロッケ、一個ちょうだい!!」

 

ところが改めて読んでみると、コロッケは登場するけど、味のことには一つも触れられていません。どんな味がするかなんて、説明も何もないのです。驚きです。よく見れば、コロッケの絵だって、大雑把なものです。まあるく描かれた線に、こんがりした色がついているだけなのです。

 

だけど、やっぱりこの絵本のコロッケが一番理想の味なのです。
不思議です。そういう方、他にもたくさんいますよね。

 

コロッケの理想の味ってなんでしょう。
もしかして、かごに山盛りに積まれていることなのでしょうか。
大量のじゃがいもから、どんどん作ることなのでしょうか。
それとも、大勢でコロッケを囲んで食べることでしょうか。
なんだか…どれもありそうなことです。

 

あ、もしかしたら。
飽きるほど作って、ちょっと残すことなのかもしれません。
何十年経った今もまた、そのシーンを見ながら呟いてしまいます。

 

「あまっているなら、そのコロッケ、一個ちょうだい!!」

 

ロングセラーってすごいです。

11ぴきのねことあほうどり

11ぴきのねことあほうどり

11ぴきのねこたちが、コロッケ屋をはじめます。
「さあ、できたてのコロッケはいかが」
コロッケ屋は大繁盛! ねこたちは毎日せっせとコロッケをつくります。

ところが、そのうちに少しずつ売れ残るようになり、ねこたちは毎晩コロッケを食べ続けることに。今日もコロッケ、明日もコロッケ。
「あー もう コロッケはあきたよ」

ねこたちは、思うのです。
「おいしい鳥の丸焼きがたべたいねえ」「たべたいねえ」
そこへやってきたのが…なんと一羽のあほうどり!

旅の途中だというあほうどりは、コロッケをわけてくれないかと頼みます。
11ぴきのねこたちはというと…目をピカピカ輝かせています!!
「ニャゴ ニャゴ」「シーッ」
あほうどりくん、大丈夫?彼は無事に家に帰れるのでしょうか。

馬場のぼるさんによって1967年に誕生した、とらねこ大将と10ぴきの仲間の愉快な冒険物語「11ぴきのねこ」は、50年以上経った今も愛され続けているシリーズです。本作『11ぴきのねことあほうどり』は2作目。あまりにも美味しそうなコロッケが、子ども達の心に鮮烈な印象を残す人気の1冊です。

いつもお腹を空かせ、欲深くて、ちょっとずるいねこたちと、疑うことを知らない純心なあほうどりのやりとりを、読者は緊張しながら見守ります。ところが、物語は意外な方向へと大きく転換していくのです!(そこから、子ども達が何度読んでも笑い転げるあの名シーンへとつながるんですね。1わ、2わ、3ば、4わ……)

やり込めているようで、やり込められる。狙っているようで、全然違う展開へとすすんでいく。どこか間の抜けた11ぴきのねこたちの愛らしさが、シリーズ全体を笑いと温かい雰囲気で包みます。

 

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

http://www.ehonnavi.net/ehon/974/11%E3%81%B4%E3%81%8D%E3%81%AE%E3%81%AD%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%82%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%A9%E3%82%8A/

じゃあ、実際に食べたコロッケで一番美味しかったのは?

 

思い浮かんだのは、友だちが学校に差し入れで持ってきてくれた大盛りのコロッケを、大人数で食べた時のことだったりして。それって、絵本のシーンそのまま!?

 

案外コロッケの味って、シチュエーション込みで決まってくるのかもしれませんよね。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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