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子どもにSDGsを伝えるなら、この17冊。区職員のまなざしで選ばれた絵本たち

子どもも大人も理解の促進に!行政に携わる視点を生かした選書

東京都板橋区は絵本の製本が盛んな街。世界最大の児童書の見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」が開催されているイタリア・ボローニャ市とも深い交流があり、「絵本のまち板橋」として観光や教育などあらゆる分野において、絵本を活用した取り組みを行っています。

 

そんな板橋区でこの度、区職員の有志により「板橋区職員が選んだSDGs絵本ブックリスト」が作成されました。これはSDGsの各目標に関連する日本の絵本17冊を選定したもので、


・SDGsの具体的な課題(貧困、教育、防災、ジェンダーなど)を、行政の現場で感じている職員がセレクト
・美術館、図書館、政策企画など、職員の専門性の違いが絵本の選定に多様性を与えている
・子どもだけでなく大人も理解ができるよう、幅広い層に向けている

という点が特徴です。

 

また、このリストは「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア2025」でも紹介され、絵本を通じたSDGsの理解促進のための施策として国外にも発信されました。

SDGsの目標別に全17冊を紹介

今回は、板橋区から世界へ発信されたこのリスト内の全17冊を、区職員の選書コメントも添え、SDGsの目標別に紹介!

「SDGsってなんだか難しそう」「子どもにどう伝えたらいいかわからない」そんな不安も絵本ならば気軽に払拭できますよね。

参考にしておうちで、図書館で、学校で──ぜひ、あなたやお子さんの「お気に入りの一冊」を見つけてみてくださいね。

目標1:貧困をなくそう

おかあちゃんが つくったる

(選書:板橋福祉事務所・浅妻さん)

物語は昭和の日本。父を亡くした少年は、母と姉と三人で元気に暮らしているが、みんなと同じものを買ってもらうことはできない。代わりに母がミシンで作ってくれるが、それがちょっとかっこ悪くて、恥ずかしい。本当はみんなと同じものが欲しい少年と、我が子のために奮闘する母の姿が、おおらかに描かれ、家族の愛が伝わってくる。しかし、さらに視点を広げると、現代社会における相対的貧困に悩む子どもの姿も思い起こされる。

目標2:飢餓をゼロに

くいしんぼうのマルチェロ ふしぎなエプロン

(選書:美術館・松岡さん)

マルチェロは食いしん坊のコックさん。不思議なことに、おいしいものを食べると、彼のエプロンは食材の柄に変わ ります。おいしいものを作るには、自然の恵みが必要です。さらに、折込の大きな画面には、お菓子を作るためのレモンやバターや卵などの食材がどうやって作られるのかも描かれています。誰もが必要な食事をとることができるようにするためには、食べ物が作られる環境を守ることも考えなければいけませんね。「くいしんぼうはしあわせのはじまり」さあ、あなたもおいしいものを召し上がれ。

目標 3:すべての人に健康と福祉を

ぼく、うまれるよ!

(選書:資源循環推進課・小熊さん)

お母さんのおなかの中で、いのちが現れ、少しずつ成長し、やがて生まれるまでを描いた絵本。生物学的なプロセスを表現しつつも、計算されたシンプルかつ巧みなイラスト、テキスト、造本によって、子どもから大人まで、読むものに生命誕生  の神秘を感じさせる。そこから感じられるのは、命の力強さである。まだまだ世界には、妊娠や出産の過程で命を失ってしまうお母さんや赤ちゃんがいる。生まれ来る赤ちゃんをはじめ、お母さん、そしてすべての人に健康とウェルビーイングを。そうした思いを強くするきっかけを、この絵本は与えてくれる。

目標 4:質の高い教育をみんなに

えほんのこども

(選書:美術館・村内さん)

大きな絵本から飛び出した小さな「えほんのこども」たちは、森や海など、様々なところにいる子どもたちにおはな しを届けにいく。「えほんのこども」たちは、電車にのって、おはなしを求めるすべての地球の子どもたちに、お話を届けていく。本書は直接的に教育の必要性を説くものではないが、絵本は大人から子どもに与えられる最初の教育のひとつだと言えるのではないか。鮮烈で伸びやかなイラストレーションと、リズミカルで簡潔な言葉によって構成されたこの美しい絵本は、だれもが絵本/おはなしを享受できる世界の豊かさを全身で表明している。

目標 5:ジェンダー平等を実現しよう

おうさまのこどもたち

(選書:政策企画課・安川さん)

王家の 10 人の子どもたちは、まちの人々のくらしの中からそれぞれのなりたい姿を見つけます。子どもたちのみつけた職業がコラージュ技法などを用いて、ユニークに描かれている絵本です。これらの職業は、日本の一般的なジェンダー観とは異なる選択になっており、それが自然な表現で描かれています。子どもたちは、大人が持つ無意識の  ジェンダーバイアスの中で育っていきますが、この絵本に触れることで、あるがままの興味関心に従うことの大切さに気づくきっかけになると思います。

目標 6:安全な水とトイレを世界中に

(選書:政策企画課・石原さん)

主人公のちよちゃんが愛犬のくろと一緒においしい水をくみに沢へとでかけるお話です。テキストが短く、とてもシンプルなお話ですが、新緑や沢の水、メジロやサワガニなど山の生き物たちがいきいきと描かれており、豊かな自然を感じることができます。特に、ちよちゃんとくろが沢の水を飲むシーンでは、ごくごくと喉を鳴らす音が聞こえてくるようで、とてもおいしそうに感じられます。蛇口をひねればすぐにきれいな水が飲める現代の私たちに、水は自然からの贈り物であり、守り続けなければならないものだと気づかせてくれる絵本です。

目標 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに

希望の牧場

(選書:中央図書館・薬師神さん)

本を読む時の灯り、仕事や旅行に行く際の交通など、私達が暮 らしていくために、エネルギーは欠かせない。日本では、その多くを石油に頼っており、排出される CO2 は地球温暖化の原因だ。そして原子力発電。東日本大震災の時、原子力発電所からの放射能のため「その地の山、海、牧場」は廃墟となった。本書は、東日本大震災後の原発事故によって、立ち入り禁止区域になった牧場と牛飼いを題材としている。生きとし生けるものが生を全うするためには「その地の山、海、牧場」も生きていなければならない。自然が壊されず、みんなが 暮らせる場所にするためにも、ソーラーパネルを家に設置する、 LED の蛍光灯に変えてみるなど、できることから、やってみよう。

目標 8:働きがいも経済成長も

(選書:学務課・髙橋さん)

役に立たなくなった「がいとう」が、自らの居場所を見つける旅に出て、最後には自身が輝ける場所を見つけるものがたり。様々な場所で、自分でも何か役に立つことができないか探していく中で、自分にしかできない役割=仕事を見つけるところが、働きがいのある仕事とつながってくる。「がいとう」は自分の場所を探す旅の途中、悩みを抱えた人たちと出会い、励ます。自分自身も悩んでいるにもかかわらず、相手に優しく寄り添う姿に、自分もそういう人間になりたいと考えさせられる。

目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

はこぶ

(選書:中央図書館・小柳さん)

時代とともに進化していく運搬技術を描いた作品。「運びたい」「届けたい」という人々の思いが便利な道具や乗り物を生み出し、陸・海・空と様々なルートで人や物が運ばれるようになります。フォークリフト、クレーン車、コンテナ船、ジェット飛行機に宇宙ロケットなど、詳細に描かれた機械や乗り物は迫力いっぱい!よりはやく、たくさん、あんぜんに、とおくへ。運んだり、運ぶための環境を整えたりする人の姿から、インフラや技術革新を支える力と思いが伝わります。

目標10:人や国の不平等をなくそう

(選書:政策企画課・石川さん)

ある日、男の子が帰ってくると、テーブルの上にりんごが一つ。しかし、そのりんごを見て「もしかしたらこれは、りんごじゃないのかもしれない」と想像を膨らませていくおはなし。自分が「りんご」だと思っているものも実は「りんご」じゃないのかもしれない。そんな自分の中の「当たり前」や「思い込み」をなくすことで、差別や偏見もなくせるのではないかということを、ヨシタケシンスケ流のユーモアで、楽しく読ませる。こうした考え方は、SDGs の「誰一人取り残さない」という理念につながっていくものだと思う。

目標11:住み続けられるまちづくりを

やとのいえ

(選書:中央図書館・不破さん)

「やと」とは、なだらかな丘に挟まれた浅い谷のこと。「やと」にある一軒の農家と、その土地に暮らす人々の様子を、道端にたたずむ十六羅漢(お釈迦様の弟子 16 人の石像)を定点観測で描いた絵本。1868 年頃から現代までの 150 年間、時の流れとともに変化していく様子が丁寧に描かれている。都市化が進み人口が増え、便利で快適な暮らしができるようになった一方で、様々な問題が表面化している今、人と生き物が共に暮らす自然豊かな日本の原風景を忘れてはならない。ページを開くたびに新しい発見があり、大切なことを気づかせてくれる絵本。羅漢さんたちの表情も見どころのひとつ。

目標12:つくる責任つかう責任

ことしのセーター

(選書:美術館・高木さん)

子どもたちの小さくなったセーターを編みなおす家族のお話。セーターをほどいて毛糸玉にする作業にはスピード感があって、子どもたちも夢中です。一方、母と祖母が新しいセーターを編み上げる日々は、ゆっくりと流れていきます。古いものを作り直してまた使うという習慣は、簡単にモノを買っては捨てるという現代の消費行動とは異なり、手間と時間がかかりました。しかしそこには五感を刺激するような愛着や出来上がりへの期待感があふれ、季節と同じように何度も繰り返される営みであったことが伝わってきます。

目標13:気候変動に具体的対策を

(選書:中央図書館・田﨑さん)

カオジロガンの親子にとっての「新世界」である越 冬地への3000 キロ以上の旅を描いた1 冊。雪山、空、海、そして、カオジロガンをはじめとしたウミガラスやアザラシ、ホッキョクグマといった北の動物たち。力強くのびやかなタッチが、自然の雄大さを見事に表現している。作者が北極を訪れたのは、 2011 年6月のことだという。地球温暖化による影響には、北極での海氷融解、異常気象、それらに起因する生態系破壊など枚挙にいとまがない。この美しい自然を守るために私たちに何ができるのか、真に考えさせられる。

目標14:海の豊かさを守ろう

おすしのさかな

(選書:高島平児童館・金子さん)

みなさんは、お寿司は好きですか?お寿司って何でできているか知ってる?お寿司にのっているお魚が、海でどんなふうに泳いで、どんなふうに生活しているのか、そしてどうしたらお寿司になるのか、写真で分かりやすく説明されています。マグロやアジだけでなく、イクラやイカ、シャコなど、お寿司がたくさんの海の恵みからできていることを教えてくれる絵本です。おいしいお寿司を食べられるのは、漁師さんや魚屋さんのおかげもあるけれど、きれいで豊かな海のおかげ。いつまでもおいしいお寿司を食べられるように、みんなできれいな海を守っていきましょう!

目標15:陸の豊かさも守ろう

(選書:政策企画課・富澤さん)

ひとつぶひとつぶ異なる表情豊かな土たちが、笑い、踊り、空を飛びます。植物が根を張ったり、ミミズや恐竜が動き回ったり、ひとつひとつの場面が、力強く、色鮮やかに描かれており、地球の壮大な歴史と生命の尊さを感じることができます。私たちの足の下、土の中で、今も、歴史がつながり、生命がつ ながっています。ずっと、当たり前にそこにあり、生態系や生物の多様性を守ってきた土を、私たちはこの先も守り続けなければなりません。

目標16:平和と公正をすべての人に

(選書:弥生児童館・菊池さん)

毎日遊ぶ仲の良い友だちとも時には喧嘩をしてしまうこともある。本気のケンカ、悔しい気持ち、謝られても収まらない気持ち。周りの仲間に仲直りのキッカケをもらいながら、お互いに顔を合わせて「ごめんね」と気持ちを伝え合うことで、仲を深めていくふたりの男の子。相手を理解しようとコミュニケーションを重ね、周りもサポートしていく姿から、みんなで手を取り合うことの大切さにきづかせてくれます。みんなで手を取り合っていきましょう。

 

目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

せかいねこのひ

(選書:元中央図書館・笹岡さん。  現在、(公財)東京子ども図書館職員)

ある朝、世界中の人々が言葉を忘れ、猫の鳴き声しか発せなくなる。仕方なく今日は「せかいねこのひ」ということにして、猫を手本に過ごすことに。学校も、仕事も、戦争もなく、穏やかに一日が過ぎる。翌日、言葉を思い出した人々は、昨日は本当に幸せな一日だったと言い合う。言葉や文化が違っても、互いを慮り尊重し合えば、世界をより 良くすることができる、と思わせてくれる。目標 17 の達成には、地球上の問題に誰もが関心をもち、国を越えて協力する必要がある。この作品のもつポジティブなメッセージは、その原動力になるだろう。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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