第68回産経児童出版文化賞 大賞に八尾慶次『やとのいえ』
大賞に八尾慶次『やとのいえ』
第68回産経児童出版文化賞の受賞作品8点が決定しました。昨年1年間に刊行された児童向けの新刊書4214点を対象に審査を重ねた結果、大賞には、八尾慶次さん著『やとのいえ』が選ばれました。詳細は、産経新聞社のイベントガイド「いべさん」( https://www.eventsankei.jp/child_award/index.html )に掲載されています。
その他の受賞作品は、下記よりご覧ください。
「第68回産経児童出版文化賞」受賞作品 【大賞】
『やとのいえ』 八尾慶次 著(偕成社)
「やと」とは「谷戸」とも書き、なだらかな丘陵地に、浅い谷が奥深くまで入り込んでいるような地形のことをいいます。
この絵本では、東京郊外・多摩丘陵の谷戸をモデルに、そこに立つ一軒の農家と、その土地にくらす人々の様子を、道ばたにつくられた十六の羅漢さんとともに、定点観測で見ていきます。
描かれるのは、明治時代のはじめから現代までの150年間。
長い時間、土地の人びとは稲作、麦作そして炭焼きなどをしてくらしてきました。昭和のなかばには戦争もありましたが、それでもつつましく、のどかなくらしをつづけてきました。
そのいとなみが大きく変化したのは、昭和40年代からです。この広大な土地が、ニュータウンの開発地となりました。丘はけずられ、谷は埋められました。自然ゆたかだった丘陵地は、あっというまに姿を消しました。そして昭和のおわりごろになると、団地やマンショがたちならぶニュータウンへと姿をかえました。大地にねざした稲作や炭焼きの仕事は、もうほとんどなくなりました。
しかし、新たに多くの人がここへ移り住み、町はまた活気をとりもどします。平成となると、ニュータウンができてからも30年以上がたち、自然豊かでのどかだった村は、落ち着いた郊外の町となっていきました。
ここに描かれた村にかぎらず、現在の私たちのくらす町はどこでも、かつてはゆたかな自然あふれる土地であったことでしょう。今のような町になる前は、どのような地形で、どのような人びとがいて、どのようなくらしがいとなまれていたのでしょうか。これを読みながら、みなさんのくらしている町と、くらべながら見ていくのもいいでしょう。
巻末には、8ページにわたって、この絵本に描かれている農作業とその道具、村の習俗や人びとの様子などをくわしく解説しています。
【JR賞】
『プラスチックモンスターをやっつけよう!』 きみが地球のためにできること 高田秀重 監修 / クリハラタカシ 絵 / クレヨンハウス編集部 編(クレヨンハウス)
日本のプラスチック対策は遅れていて、「焼却」に頼りすぎる傾向にあります。しかし、焼却は答えではなく「削減」を目指すべきという高田秀重さんの理念こそ、子どもたちに伝えるのにふさわしいものと考えます。汚染の実態を伝える写真、クリハラタカシさんのユーモラスな「モンスター」が興味を誘い、夏休みの自由研究等に活用できる実践例も豊富に盛り込みました。プラスチック問題を扱う児童書の決定版と自負しています。
【美術賞】
『つかまえた』 田島征三 作(偕成社)
【産経新聞社賞】
『バウムクーヘンとヒロシマ』 ドイツ人捕虜ユーハイムの物語 巣山ひろみ 著 / 銀杏早苗 絵(くもん出版)
今から百年ほど前の一九一九年三月四日。日本で初めてバウムクーヘンが販売されたのは、広島市にあった物産陳列館でした。
のちに産業奨励館と名前を変えたあと、一九四五年八月六日を境に、原爆ドームとよばれるようになったのです。
【フジテレビ賞】
『サンドイッチクラブ』 長江優子 作(岩波書店)
【ニッポン放送賞】
『うしとざん』 高畠那生 作(小学館)
なんか気になる、へんてこりんな絵本
「今日はこれからうしに登ります。どのうしにしようかな?」
男は無事「うしとざん」ができるでしょうか。
つかんで ぎゅ! つかんで ぎゅ! 短い前あしの毛をつかんで登ります。
ようやくたどり着いたうしの背中には、なにが待っているのでしょう。。
うしに登って下りてくる、著者の魅力が詰まったへんてこりんな脱力ストーリー。何度も読むうちに、なんか気になって手放せない、そんな絵本の登場です。
【編集担当からのおすすめ情報】
何回読んでもニヤニヤしてしまう絵本が出来ました。
予備知識はなんにもいりません。さあみなさん、高畠那生の世界へようこそ。
【翻訳作品賞】
『ウサギとぼくのこまった毎日』 ジュディス・カー 作・絵 / こだまともこ 訳(徳間書店)
『おちゃのじかんにきたとら』で知られる
英国の人気作家ジュディス・カーが最後に遺した、ほのぼのとした物語。
もうすぐ、クリスマス。
トミーは、お父さんとお母さんから、
新しい自転車をもらうのを楽しみにしていた。
そんなある日、トミーは学校にいたウサギを
しばらくのあいだ、うちであずかることになった。
でもその日から、うちのなかでは、
悪いことがつづけて起こって大さわぎ!
ウサギは、「のろわれたウサギ」なのだろうか?
それとも…?
さわぎを起こすウサギをめぐって、
少年の家族とそのまわりの親しい人たちとの交流を描く、ほのぼのとした物語。
【もくじ】
1 ウサギのユッキー
2 ユッキーが起こした大事件
3 ユッキーとこわい犬たち
4 アンジーの病気
5 ユッキーは「のろわれたウサギ」?
6 マイクおじさんと映画館へ
7 アンジー、目をさます
8 ユッキーが行方不明
9 新しい映画ができるかもしれない
10 やっぱりユッキーは「のろわれたウサギ」かも……
訳者あとがき
『ありがとう、アーモ!』オーゲ・モーラ 文・絵 / 三原泉 訳(鈴木出版)
おいしそうなシチューのにおいをかぎつけた きんじょのひとたちが、つぎつぎにアーモのアパートにやってきた。そのひとりひとりに きまえよくシチューを わけてあげたのだけど……。アーモ、そんなにあげちゃって だいじょうぶ?
作者オーゲ・モーラの両親はナイジェリア出身で、イボ語が母語でした。「アーモ」は「女王」という意味です。オーゲにとっては「おばあちゃん」をよぶときのことばでした。おばあちゃんは、大きなお鍋をまぜながら、ラジオの音楽に合わせて楽しそうに体を揺らしていたそうです。お鍋の中身はたいていシチュー。夕食の時に近所のひとが来れば、一緒にいかがと誘いました。そうした思いやりや愛にみちた精神が、この本のもとになりました。
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