あっけらかんとパワフル!赤ちゃん絵本こそ今大人が読むべき話『ねられんねられんかぼちゃのこ』ほか
絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。
体のこわばりがほどけていく
カレンダーを見ていたら、月末はハロウィンだなあと思いました。すると、あっけらかんとしたかぼちゃの絵本が、頭に浮かびました。
「ひさしぶりにアレを開きたい! 気分をあっけらかんと解き放ちたい!」、そんな気持ちでいっぱいに。本棚の前で手を伸ばします。
『ねられん ねられん かぼちゃのこ』
夜になったので、お月さんが「はやくねなさーい」といいます。でも、かぼちゃの子は頭の上にかえるさんが乗っていて「ねられん ねられん」といいます。かえるさんにどいてもらってようやく寝られるかと思ったら、今度は背中にいもむしさんがくっついていて「ねられん ねられん」……。「おつきさん おやすみなさーい」といって安心して眠りにつくまでの、かぼちゃの子とお月さんのやりとりが楽しいお話。
大好きなんです、これ。表紙を開くと、まんまる黄色いお月さまがいます。見返しから続く紺色の中にぽっかり浮かんで、きれいです。
このお月さまは、なんとなく女性的なのです。空の上から「よるに なったわよー そこの かぼちゃのこ はやく ねなさーい」って、お母さんみたいに声をかけてくれます。やわらかく呼びかけてもらうこの感じ、ずっとこうしていたいなあと思います。
その声に地面で答えるのは、かぼちゃのこです。この子が言うには、「ねられん ねられん あたまに かえるさんが のってては ねられん ねられん」。まるで、小さい子が寝る前にかわいい駄々をこねているようです。
かぼちゃのこの入眠儀式は、かえるさんにどいてもらい、いもむしさんにどいてもらい……、と愉快にくり返されます。
2歳ごろから、十分に楽しめる絵本です。寝入りばなに泣き半分でグズグズしちゃう子も、絵本のポジティブな前進力でぐっ、ぐっ、と眠りに引き込まれ、すうっと床につけそうな予感です。
そして、大人もやっぱり同じなのです。寝る前でなくても、画面を見ているだけで、こわばっていた体がほどけていくのがわかります。私たちだって、自分のためだけに赤ちゃん絵本を読んでも、いいのです。
赤ちゃんも大人も、爆発的に楽しんじゃえばいい!
読む人の気持ちを開放してくれる赤ちゃん絵本といえば、これもありました。
『だっだぁー』
赤ちゃんのことばあそび……「ぶっひゃひゃぁー」「むちゅむちゅ」、共通言語は擬音語です。赤ちゃんだっておしゃべりしたいんです。この本は、ことばの音を楽しむ遊び心を応援します。調子をつけたり、声色を変えたり、たとえば「だらっだらーーー(と間をひきのばして期待させて)……だっだぁー!」と喜び合ったり。自由に盛大に遊んでください。ちなみに、登場するカラフルなお化けたちは、赤ちゃんの守り神です。(作者・ナムーラミチヨより)
これぞまさしく赤ちゃんのための絵本。2004年8月発売の同名のボードブックは、発売以来、赤ちゃん自身が、愛して・反応して・読みたがる(読んでもらいたがる)絵本として、ママたちから熱い評価を得てきました。「赤ちゃんの評価が高い絵本」ナンバーワン! 赤ちゃんの初めての1冊に、自信を持っておすすめします。
ねんど細工のおばけ(?)の顔と、赤ちゃんの顔が、思いっきり音遊びを楽しませてくれます。赤ちゃんの発する喃語が、そのまま文章になったような作品です。
口を大きく開けて、「だっだぁー だらっ だらぁーー」。ぎいっと歯を食いしばって、「ぎーじ いーじ ぎーじ いーじ」。赤ちゃんの前で読むのなら、恥ずかしがらず爆発的に、画面の顔の表情になりきってみるのがおすすめです。
大きな声と、大きな表情に、読んでいる自分もびっくりしながら面白がれるし、それを見た赤ちゃんも前のめりになって、キャアキャア楽しんでくれますよ。
0歳から一緒に遊べる一冊ですが、もちろん、大人の読みにも抜群にいいのです。私は「なんか気持ちのノリが足りないな……」という時に、これを引っぱり出して、大きな声で読んでいます(笑)。
いつもやっているそれを、大学でのゲスト講義時にたくさんの学生たちの前で披露してみたら、大ウケでした。絵本にあんまり興味のなさそうな人も、それを機に俄然、目の輝きが増していましたね。赤ちゃん絵本って、やっぱり大人でも全然問題ないじゃないか! と、強く確信した瞬間でした。
赤ちゃん絵本は、赤ちゃんだけのものでなくていい
赤ちゃん絵本はたいていの場合、赤ちゃん「だけ」のものだと思われてしまっています。当たり前のようでいて、その実、とてももったいない。
赤ちゃんから幼児に、小学生に、中学生に……と、子どもが大きくなっていく過程でも、ずっと読んでいていいと、私自身は考えています。大きな子向けの絵本でも、それは同じことですけれどね。
私自身には、成長過程でずっと読み続けた赤ちゃん絵本が数冊あります。『うんちがぽとん』は、そのうちの一冊でした。
一般的には、2歳前後のトイレトレーニング時期の子どもたちに親しまれている絵本です。おむつをつけていたまあくんが、おまるでちゃんとできるまでを描いています。
一方で中学生ごろの私は、「うまく排泄できてすっきりした感じ」を絵本の中で感じたくて、何度となく開いていた覚えがあります。思い返えせば、中学生あたりからは、懸命にトライしなければ乗り越えられない壁が増えてきていた時期です。なかなかクリアできないもやもや感を、昔馴染みの助けを借りて、擬似的に晴らしていたのかもしれませんね。
いいと思うんです、そういう使い方をしても。赤ちゃん絵本には、大人や大人になりかけている子どもたちが、何かを突破する助けになるほどのパワフルさが、しっかり備わっています。
もちろん、赤ちゃんと読めば、ゆたかなコミュニケーションツールにもなってくれますよ。
子どもも大人も、お気に入りの一冊を見つけてくださいね。
てらしま ちはる
絵本研究家/ワークショッププランナー/コラムニスト/講師。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で美術教育の観点から戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。執筆のほかに、絵本を用いたワークショップや、保育現場での幼児の造形活動観察などを展開する。女子美術大学ほかでの指導も。公開された学術論文のうち、「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会オンラインジャーナル11号)は、絵本関連ワークショップの先行研究調査をまとめた国内初の成果である。教育学修士、東京学芸大学個人研究員。note「アトリエ游|てらしまちはる」https://note.com/terashimachiharu
写真:©渡邊晃子
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |