絵本を選ぶということは
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
膨大な絵本の海で何を選ぼう
最近、「絵本選び」のお悩みを聞く機会が多いです。忙しい中でも「親子の時間を楽しみたいから」と考えて読み聞かせに取り組んでいる方も多いと思います。しかし、「やるぞ」と思って次に立ちはだかるのが、どの絵本を選べばいいのかではないでしょうか? 膨大な量の絵本を前に、混乱は必至です。
絵本選びとは、正直個人の好みにゆだねられるので、パパママやお子さんが、多くの絵本から好みのものを選ぶには、もうひたすら読んでいくしかないとは思うんです。
けれども、私もですが「そんな暇どこにあるー!」です。どんな絵本がおすすめかという情報は、それこそ「絵本ナビ」を始めたくさんありますが、その多くの情報をどう判断すればいいかも迷います。ということで、今回は番外編的に、多くの絵本や情報を「どんな基準で選ぶべきか」という心構え、戦法をご一緒に探していきたいと思います。
まずは、好きな絵、キャラクターをひたすら推してみる
忙しい中の絵本選び、いろいろと内容を吟味するのは難しいものです。「絵本情報をどうつかんでいいかわからない、五里霧中~」という場合は、まず、「子どもの好みに合いそう」という絵柄、キャラクターの絵本をひたすら推してみてはどうでしょうか?
そのキャラクターのシリーズや好きな画家さんの絵本の中でも、笑える絵本、やさしい絵本など方向性はいろいろあります。ひたすら攻めていくと、さらに好きなジャンルが見えてきたり、ほかのジャンルへ広がっていったりします。子どもの興味がある程度つかめれば、絵本選びの軸が定まってきます。もちろん、まだ小さくてお子さんの好みがまだ分からないという場合はパパママの好みでOKです。とにかく、最初は「好き」を大事に!
好みというものはパーソナルなものなので恐縮ですが、一例として我が家では、上の子が早い段階から恐竜好きになりました。そこから、恐竜絵本をとことん読んでいくと、まだ言葉がおぼつかない年ながらも、何やら訴えるようになりました。どうやら「おれは、恐竜にかわいいは求めてない! リアル、リアル、迫力が欲しい(意訳)」と言いたい模様。そこからは、『恐竜トリケラトプスとティラノサウルス』をはじめとする、黒川みつひろさんの「恐竜シリーズ」(小峰書店)のお世話になり、そこから松岡達英さんの恐竜絵本『恐竜たちの大脱出 進化恐竜トロオのものがたり』(作 羽田節子 絵 松岡達英 福音館書店)に進み、松岡さんの自然科学絵本から現在、自然科学系絵本全般大好き、という流れとなっております。
ふしぎな岩山がそそり立つ荒野。トリケラトプスのむれに最強の敵ティラノキングが襲いかかってきた。ビッグホーン危うし! トリケラトプスはこの敵を倒せるのか。
進化恐竜トロオの活躍する物語と恐竜図鑑とが1冊になった絵本。巨大いん石が1年後に地球に衝突することがわかり、いろいろな生き物など地球環境まるごと宇宙船に乗せて大脱出。
好きなテーマやシリーズのなかでも、合間に「あれ? これは、あんまりハマらなかったな」という絵本もありましたが、いろいろ読んで、その子の「嫌い」を知るのも個性を知る上で大事な経験となります。少ない時間の中であんまり絵本選びに失敗したくない気持ちもありますが、まずは「このシリーズは全部いってみるか」というのも、一つの戦法です。
パパママの得意ジャンルで攻める
読み聞かせは、親子のコミュニケーションの手段です。子どもたちもパパママも、両方楽しくないと、せっかくのコミュニケーションの時間がつまらなくなってしまいます。
たくさんありすぎて目が回りそうになる絵本ですが、あらゆるジャンルを網羅している利点があります。その中で、釣り好きなお父さんなら「魚」など、「このジャンルなら任せろ!」というものを選ぶと、コミュニケーションが充実すると思います。
ですが、「得意ジャンルといわれてもー……」と、戸惑うパパママもいらっしゃいますよね。その場合は、やはりとっかかりとして「笑える」絵本がテッパンです。親子で笑えて、「本っておもしろいものだ」と子どもに思ってもらえれば、本への興味にどんどんつながります。おすすめとしては、『おならうた』(飯野和好 絵本館)、『やきいもするぞ』(おくはらゆめ ゴブリン書房)などは、「いもくって ぶっ」など、聞いただけで笑っちゃう内容なので、気負いなく楽しめますよ。
対象年齢はあんまり関係ないかも?
絵本の対象年齢って気にしていますか? 「この子の年に合った絵本はどれかな?」と参考にしている方も多いと思いますが、実際子育てをしていて周りの子どもたちを見てみると、「個人差あります」ですよね。親からすると「ちょっと難しいかなー」と思う絵本でも、興味があればぐいぐいいきますし、興味のあるなしでもずいぶん変わります。もちろん、その年代の平均値を考えて対象年齢をつけていますので、一つの指標となりますが、優先順位としては「好き>対象年齢」でよいと思います。
そんな中で、老若男女関係なく最強、と思うのは「絵が物語る」絵本です。
「物語る」とはなんぞやですが、絵を見るだけで物語がわかり、美しかったり迫力があったりする絵本がありますよね。そんな、たくさんの情報があってみていてずっと飽きない絵本は、年齢を飛び越えます。
我が家は2歳差兄弟で、「どっちの年齢に絵本を合わせたらいいのー」という時期もありましたが、そんな中で上の子も下の子も大満足でしたのが、『たこやきようちえん』(さいとうしのぶ ポプラ社)です。文章量もそれなりにありますが、絵を見るだけで、いまどんな場面なのかがしっかり分かります。また、さいとうしのぶさんの絵本はどれも画面いっぱいに楽しい要素がちりばめられています。ページの隅々まで楽しい絵を、下の子は1歳くらいからでも興味津々で眺めていました。
また、『ウエズレーの国』(あすなろ書房)も、年齢差を飛び越えた作品です。「自分の居場所を自分で作る」ことを描いた物語であり、小さいうちはよくわからないテーマなんじゃないの?と感じますが、どの画面にもひきつける物語があり、子どもたちが見飽きることはありませんでした。
ウエズレーは夏休みの自由研究で一念発起。新種の作物を育て、新しい文字や数の数え方を考案、自分だけの特別な文明を創り出す。
このように、大人が読んでも「絵だけでも物語がよく分かる」という絵本はどの年齢の子も楽しめるはずです。
ただし、2歳くらいまでは大人ほどには視力がないので、くっきりはっきりした絵の絵本の方が伝わりやすいです。さらに0.1歳ほどの赤ちゃんでしたら、聴覚の方が優位なので言葉が心地いい絵本もおすすめです。
赤ちゃんのころは「触覚」「聴覚」けっこう大事
「それでは、まだしゃべれない赤ちゃんには何を読んであげたらいいの?」という場合のおすすめをご紹介します。
まだしっかり話せない2歳くらいまでは、先述のとおり、大人ほど視力がありません。なので、ポイントは
・くっきりはっきりとした絵
・心地よい言葉
また、視力が大人程ではないので、赤ちゃんは触覚から情報をたくさん得ています。ですので、
・さわっても楽しい
という絵本もおすすめです。
例えば、こんな絵本があります。
こちらは、絵の中のあひるやコアラの体の部分に様々な素材が使われていて、「ふわふわ」「ふかふか」など、触って楽しめるしかけ絵本です。それぞれの触る部分も「まる」「しかく」など形を変えてあり、触覚を楽しんだり、形も学べたり、赤ちゃんがいろいろな方向で楽しめます。
絵本を広げると、“おめん”が出てきます。おにのお面に、ひょっとこのお面など、様々なお面が出てきますが、そのお面をめくることができる、しかけ絵本となっています。めくると、実は意外なものがお面をかぶっていたり、赤ちゃんが自分でめくって絵の変化を楽しんだり、リアルなお面の絵と「くねくね~」などの擬音語も楽しく、赤ちゃんも大笑いです。
ちょっと注意点
読み聞かせの前に、一度読んでおこう
まず、読み聞かせをする大人は、事前に絵本にさっと目を通しておくことをおすすめします。一発勝負で読み聞かせを始めると、「?? 思ってたのとちがう!」ということも起こりえます。「これ、楽しいよ」と自信をもって読める状態で臨むと、読み聞かせの充実度も変わってきます。
読んでみたときの違和感を大事に
そして、読んでみたときに「いい絵本だと聞いたのに、なんだかちがう?」と感じる時もあると思います。そのときは、自分の感覚を大事にしましょう。「よい絵本」の定番だとしても、その時代背景の理解ありきであったりもします。たとえ「全米が泣いた」としても、自分が泣くかどうかはまた別です。「これは読んでおいた方がいいらしい」と評判で決めるよりも、読んでみた自身の感覚で取捨選択してよいと思います。
子どもの感覚、否定しないで
絵本の読み聞かせには、読み手と聞き手がいますが、複数の人がかかわるとどうしても、「意見の相違」はでてきます。読んでいる絵本に対して、親子で感覚や意見が違ってしまうこともあります。お子さんが興味が持てなさそうなときに、「いい絵本なんだから」など、親の意見をあまり押し付けないようにしてあげてください。本の受け取り方は自由です。そこを否定されると、どうしても読み聞かせの時間が「押しつけ」の時間となってしまいます。子どもにとって、親の意見は非常に影響が大きくなりますので、そこを刷り込んでしまうと、その子の「好き」を掘り起こしていく読み聞かせの時間が逆方向につながりかねません。
さいごに
子どもを持つまで全く触れる機会のなかったものって多いですよね。児童館情報やらママ友パパ友づきあいなど、子どもを持った瞬間、知らない世界の扉がバーンと開きます。「絵本・読み聞かせ」というのも、その一ジャンルかと思います。
ちょっとそれますが、私は仕事柄、絵本に関しては事前情報がありましたが、ハードルがあったのは「童謡」の世界です。「子どもには童謡をたくさん歌ってあげた方がいい」とはよく聞きますが、私はちょっと苦手意識がありました。あるとき、人前で「童謡って興味が持てないんだよね」と口に出したその瞬間「親なんだからがんばらないと」と言われ、その、なんといいますか「やらなきゃいけない」という圧迫感に「うっ」となったことを覚えています。
「絵本・読み聞かせ」も、これまで興味をもっていなかったものを「やらなきゃ」と思うと心理的に壁ができます。読み聞かせはやはりコミュニケーションを楽しむためのものですので、無理にやってお互い微妙な空気になるよりは、みんなでキャンプに出掛けたりする方がよいかもしれません。ただ、読み聞かせは本1冊あればどこでもできるので手軽ですし、子どもの内面や好きなものを知る良い機会となります。
時に、「何を選んでいいか分からないー」ともなりますが、絵本は「出合い」でもありますので、本屋さんや図書館でぱっと目に付いたものをえらぶのもありです。万が一合わなくても、「これちがったねー」と話し合うのもまたコミュニケーションです。うちの上の子はもう一人読みが大半になりまして、下の子もいつまで、膝の間で読んでくれるかしら……と考えたりします。読み聞かせはいくつまでやってもよいものですが、大人しく座ってくれるのは意外と短いことに気が付きました。その短い間に、機会がありましたら、絵本との出合いを親子で大いに楽しんでみてください。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |