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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「文章力」!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

文章力は、表現力の土台です!

文章には、書き手の思い、どういったスタンスで何を大事にしているのかが非常によく表れます。自己表現の土台として、文章を書く力は不可欠なものではないでしょうか。子どもたちにも身につけてほしい力のひとつです。

とはいえ、日本語の文章ってとても難しいですよね……。「てにをは」の使い方や動詞・助動詞、はては過去形に敬語などなど、大人だって手こずりますし、日本語を一から学習するのは容易ではないとも聞きます。そこで、絵本で育める「文章力」について考えてみたいと思います。

 

「絵本で文章力?」と思われるかもしれません。けれども、子どもたちは絵本を読むとき、文字がまだ読めないうちは絵を通して物語を感じますよね。絵を見て「どんな物語なんだろう」と想像して、そこに耳からリズミカルな文章が聞こえることにより、「この物語は、こう表現されるんだ」と、絵と文章から物語を体感していきます。そうして文章のリズムをたくさん感じて、「文章力」のベースが作られ、今度は自分が「文章力」を使って自由自在に自分の考えを伝えていけるようになるのではないでしょうか。

 

読書の秋ということで、絵本の中でもちょっと長めかもしれませんが、「心にすっとしみこむ文章で、物語にひきこまれてしまう」絵本を数選ご用意いたしました。心地よい文章のリズムを体に入れていくことで文章力の土台になればと思います。

文章のリズムを楽しみながら感じよう

まずは、「文章力!」と力を入れすぎず、絵本を楽しみながらも心地よく文章のリズムを感じられる絵本をご紹介します。

バスの日常を味わえる絵本

ピン・ポン・バス

駅前を出発したバスはいろんな停留所でピンポンといってとまります。少し田舎町ののどかなバスの旅。楽しいのりもの絵本!

このシリーズは、子どもたちが大好きな働く車をテーマにしたシリーズです。バスをテーマにした『ピン・ポン・バス』は、路線バスの運転手さんの視点で、バスをみんながどのように使っているのかを楽しく描いている一冊です。

ほかにも、『おはよう! しゅうしゅうしゃ』では、「グイーン! バリバリバリ! ゴー!」というゴミ収集車の音とともにゴミ収集車のリアルな物語を伝えてくれますし、『ざっくん! ショベルカー』では大きさの違うショベルカーがあること、工事や補修に思った以上にショベルカーが必要であることを、生活に即して楽しく子どもたちに伝えてくれます。

竹下文子さんと鈴木まもるさんはご夫婦で、竹下さんも鈴木さんも、別々にもとても素晴らしい作品を生み出し続けていらっしゃいますが、このシリーズは、リズミカルな文章でその乗り物の情景や動きをあらわし、その日常の面白さを絵で見事に表現した、お二人の阿吽の呼吸がお見事です。このシリーズは1,2歳くらいから夢中になるそうですが、小さなうちから文章で働く車をイメージでき、文章力の土台が自然としみこんでいく絵本シリーズです。

ファンタジーがリアルに変わる文章

次は、緻密な文章表現によって、とんでもない設定が「あるかもしれない……」というところまでリアルに感じてしまう絵本を。

直木賞作家、井上荒野さんのはじめての絵本!

フミオの家族は、みんなカレーライスが大好きです。今日もみんなで食べていると、フミオの口の中から黒い粒が一つ出てきました。

「何か変なものが入ってたー」で終わりそうなところを、お父さんが「うむむむ。これは もしかしたら……」と言い出したところで、物語が動き始めます。ぶあつい本を取り出して調べたところ、

「うむ。これこそ、よにも めずらしい、カレーのたねだと、かいてあるんだよ」

そして、フミオの口の中から出てきたカレーのたねは、庭の日当たりのいい場所に埋められ、一家総出で世話をすることになるのです。

口の中から出てきたカレーポットによく似た黒い粒。そもそもこれを「カレーのたね」とするところから突拍子もありませんが、伸びた葉っぱがカレーのお皿だったり咲いた花が福神漬けだったり。一瞬ポカンとしますが、それを、黒い粒を「カリッ」と噛んだ触感、嗅覚に訴えるカレーの実の匂い、グルルルキュルルルというおなかの音、などなどあらゆる角度からの緻密な描写によって、「いつか自分のカレーライスの中にも種が入ってるかも!」と思わせるのです。

文章は、直木賞作家の井上荒野さんで、その描写力はお見事というしかないのですが、また、その世界観を絵の田中清代さんが見事なリアルさで表現されています。「リアル×リアル」だからこそ、ファンタジーを具現化する説得力が生まれている絵本です。

日本の昔を想い起させる文章

日本の昔話というものは、現代の子にとって「太古の昔には恐竜がいたんだって」と同じくらい想像のつかない世界です。なのに、昔話はなぜか自然と受け入れられてきました。日常レベルで、母語とともに親から子へ代々そのイメージが引き継がれてきたからではないでしょうか? そうした昔話の不思議さ、怖さ、ひなびた雰囲気、背景の物悲しさまで伝わる文章の絵本を一冊ご紹介します。

ことろのばんばの壷に、兄が吸いこまれてしまうのを見た妹は……

ことろのばんば

山に栗ひろいにいった兄妹は、夕暮れになってはぐれてしまいました。妹が兄さんを見つけたとき、白髪のばあさまが現れ、「コートロ、コトロ」とつぶやくと兄さんは小さくなって、ばあさまのもった壺に吸いこまれてしまいました。家に逃げ帰った妹は、兄さんを取りもどそうとおじいさんと相談します。おじいさんは山の神様に捧げる酒をもたせて、妹を送りだしました……。

昔、男の子と女の子が、じいさまと一緒に暮らしていました。じいさまは、日が暮れるまで山に居るな、“ことろのばんば”にさらわれてしまうから、といつも言い聞かせていましたが、栗拾いに夢中になってしまった男の子と女の子は日暮れまで山の中にいてしまい、男の子のほうが、ことろのばんばにさらわれてしまうのです。

“ことろのばんば”とは、「子どもを取るおばあさん」と言う意味ですよね。これまで日本の歴史、昔話を語られてきた私たちは、こうした言葉からもありありと、それがどんなものかをイメージをすることができます。

作者の長谷川摂子さんは、日本の昔話への造詣がとても深く、「てのひらむかしばなし」(岩波書店)というシリーズも手掛けられました。また、「人は生まれ落ちて乳をもらうと同時に言葉をもらいその言葉は全身にしみわたるのだ」と、言語・母語を非常に大事にして作品を作られています。

この、『ことろのばんば』からも、「なにか ええこと おしえてくろ」という女の子の谷川への声かけから、日本人が自然を身近に生きてきたこと、「めんごい、わらしご、ばんばのたから」と捕まえた子どもたちを壺から出して遊ばせるばんばの、物悲しさなどがひたひたと伝わってきます。

「母語」の持つ力を強く感じる絵本です。

心に残る、心地よい文章のひびき

あまんきみこさんは、『車のいろは空のいろ』などで知られる児童文学者であり、常に国語の教科書に掲載されているので、あまんさんの文章には、多くの皆さんが親しんでいると思います。ここでは、あまんさんの作品の中でもテンポよく、軽妙洒脱な語り口が楽しめる絵本をご紹介します。

文章から情景が広がる絵本

おしゃべりくらげ

釣りが好きなおじさんと、ある日針にかかったくらげの子どもの交流。小学校国語教科書に数多くの作品が掲載される童話作家あまんきみこのかくれた名作が、みずうちさとみの繊細な刺繍絵を得て、初めて絵本になりました。
 

つりが大好きなよし平さんは、ある日、小さいくらげを釣りあげます。がっかりしたよし平さんは海へくらげを戻そうとしますが、くらげは海に戻されるのをいやがって泣き出すのです。

くらげの言い訳と気のいいよし平さんの会話がテンポよく進む中、くらげが語る海の中の暮らしや、くらげとよし平さんの毎日が丁寧に描写されるので、細部のイメージが読者の中に立ち上がってきます。そして、よし平さんの心情に私たちはあっという間に同化してしまうのです。

あまんきみこさんの作品は、どれも周囲への優しいまなざしと、物語をありありと思い浮かばせる文章で、読者の心を動かします。ですが、決して感情を押し付けるわけではないのです。

 

思い出すのが、あまんさんの『きつねのおきゃくさま』(絵・二俣英五郎 サンリード)という勇敢なきつねの話です。私はこの絵本を読むといつも泣いてしまうんですが、この絵本はけっして「泣かせる絵本」ではありません。感情の記述はほとんどないにもかかわらず、きつねの佇まいや動きの描写によって、読者の気持ちを自然に動かしていくのです。

『おしゃべりくらげ』のよし平さんも、小さなくらげと過ごしていくうちに、気持ちがどんどん移り変わっていきますが、それが自然に私たちに伝わるのは、あまんきみこさんの、どんなものに対しても優しくみつめ描写していく姿勢なんでしょう。この絵本の冒頭の海の姿の文章を口にしただけでも、日曜の昼下がりの海の様子がさあっと広がります。あまんきみこさんの文章は、その世界にあっという間に連れていってくれるのです。

さいごに

今回は、「文章」の力を強く感じる絵本をご紹介しました。文章はもちろん「言葉」と結びついたものですが、生まれてから様々に言葉をかけられて、それが文章のリズムとなって自然に子どもたちの中にしみこんでいきます。

言葉の意味を知ると、それが文章となって様々なことを表現し大きな物語となって私たちの想像を広げていきます。まだ難しい文章はわからなくても、それを表現された絵本を読むことで「そういうことか!」とその物語の世界を体感し、そして、次は自分が文章で表現するようになる土台ができていくのかなと思います。

 

最近、上の子が「絵のついていないお話の方が、自由にいろいろ考えられて好きになってきた」と言うようになりました。小さい頃からたくさん絵本を読んできましたが、そこから絵と文章でいろいろ想像することを覚えていったのでしょう。

自己を表現することの第一歩という点で「文章力」の大切さを感じます。今回ご紹介した絵本は、私たちの体に響く文章とそれを体感させる絵が美しく合わさっています。秋の夜長に親子で楽しんでいただけるとうれしいです。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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