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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

お好みの“笑い”はどれ? 絵本で「お笑い力」!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

「笑い」で今年を切り開こう!

2023年が始まりましたね! 新年は気持ちも新たに始めたいものです。

そんなときにぴったりなのが“笑うこと”!

1月は、年度の切り替えも近づきパパママは仕事、おにいちゃんおねえちゃんは受験で天王山なんて時期ですよね。小さい子もこの時期、発表会やお別れ会など準備が多忙となってきます。うちの子の幼稚園でもいろいろな準備にバッタバタで、私も仕事との両立に早くも綱渡り状態です。意外とのんびりできないそんな時期、さっと気持ちを切り替えるにはやっぱり「笑い」が一番。笑う門には福来たるとも言いますし、子どもたちもすっきり笑って心も回復です。

「笑い」は、心を支えてくれる大切な感情体験。自分のための「笑う力」、周囲を和ませる「笑いのセンス」を絵本から取り入れてみませんか?

ただ、「笑い」にもいろいろなジャンルがありますよね。ですので、今回は、独断と偏見ではありますが、“笑い”の絵本をジャンル別に分けてご紹介したいと思います。みなさま、ご家族のお好みに合わせてぜひ楽しんでみてください!

動きだけで笑わせます

あなたの知らないパンダの世界がここにあります

パンダ銭湯

あなたは、パンダ専用の銭湯があるのを知っていますか。
実は...あるのです。

え~っ、まさか、そうだったのか...。
あなたの知らないパンダの世界がここにあります。

ポップな色の魔術師
tupera tuperaが描くパンダ!!

パンダと銭湯という、表紙の組み合わせを見ただけでおかしさ満点、笑わせる気満々なのが伝わってくる爆笑絵本です。

パンダのためのお風呂屋さん“パンダ湯”。ここには、パンダ以外の入店はできません。そして、他人の目を気にせずパンダたちは服を脱ぎ、リラックスしてお風呂を楽しむのです。ここでもう引っ掛かりますよね。「パンダが服を脱ぐってなんやねん」と。ここから、パンダの爆笑のヒミツが明かされていくのです。

物語はただパンダがお風呂に入り、服を脱いで、体を洗って、また着て、が続いていくのですが、その一連の流れの一個一個の動きがもう爆笑を誘います。

また、動きの描写だけで笑わせてくれるシンプルな笑いは、赤ちゃんから大人まで幅広―く伝わるので、家族みんなで新年初笑いにぴったりな絵本です。

斬新な笑いにハマる! シュールコントな世界

お次は、私が勝手に「笑える絵本の求道者」として尊敬しているシゲタサヤカさんの作品をご紹介します。

カッパも やっぱり キュウリでしょ?

主人公は、「コック」ではなく、妖怪の「カッパ」。野菜のキュウリが好きで好きでたまらないカッパが、ある日出会ったのは緑色の謎の物体。よく見ると、その物体は生きていた! しかも、キュウリの輪切りそのもの! 驚きつつも、カッパは企むのです。このキュウリを食べてしまおう……と。

どうしても寝る前にキュウリが食べたくなったカッパが夜道を歩いていると、でっかいキュウリが倒れていました。元気になったら食べようと思い、具合の悪そうなキュウリを介抱していると、ますます具合の悪そうな顔色になっていき……。

顔色が変わっていく段階で、読者は「もしやこれは……」と気づいていくのですが、そうした大きな前フリがきいて、ドッカンとくるオチにもう抱腹絶倒です。

シゲタさんの作品の笑いの特徴は、そのシュールな設定にあります。この作品では大きなキュウリと思わせておいて、「〇〇なのかい!」とカッパも読者も総ツッコミしてしまうシチュエーションですし、デビュー作の『まないたにりょうりをあげないこと』でも、まな板が調理中の食べ物を食べてしまうという設定に仰天させられました。これまで描いてきたどの作品でも笑いがてんこ盛りで、お笑いが大好きで、特にシュールな設定コント好きのあなた! シゲタさんの作品にハズレはありませんよ!

正統派ぼやき漫才

シゲタサヤカさんを“笑える絵本の求道者”として紹介するのであれば、“ぼやき漫才絵本の師匠”、岡田よしたかさんをご紹介しないわけにはいきません。今回は岡田さんの作品の中で特にぼやき芸が楽しい一冊をご紹介します。

「きみら、はよ自分の串さがしや。」

くしカツさんちはまんいんです

くしカツさんの串には、なぜか一緒にネギやら、みたらしだんごやら、きりたんぽ鍋のたんぽやら……。「きみら、はよ自分の串さがしや。きゅうくつでたまらん」くしカツさんは、早く縦になりたいので、みんなの串をさがしに行くことにしました。

みたらしくんは、隣のだんごにベタベタするから嫌だといわれ、ネギくんは隣の鶏肉とケンカをして、たんぽくんは火であぶられていたら、熱くて飛び出してしまったようです。

串をさがしていると、お箸やまち針などにであいますが、どれもみんなの串ではありません。途中、黒猫がネギのない焼き鳥を狙っているところに遭遇しました。すると、くしカツさんの串にささっていたネギくんが黒猫に襲い掛かり、焼き鳥を助けたのです。やっとネギくんと焼き鳥が仲直りをしましたが、まだくしカツさんの串には、だんごとたんぽがささっていて……。

くしカツさんのくしに、気づくと「みたらしだんご」「やきとりのねぎ」「きりたんぽのたんぽ」が刺さっていました。

「きみら、はよ じぶんの くし さがしや。きゅうくつで かなわん。」

と、くしカツさんが早速ぼやきますが、みんなそれぞれ訳アリらしく、とりあえずくしカツさんの上に刺さりながら、ちょうどよいくしを見つけようとします。

途中みたらしだんごとねぎがもめるし、くしカツさんも、はよタテになりたい……などと、ぼやいたりとぼけたりするのを見ながら笑ってしまえる絵本です。

岡田さんの作品は全て関西弁で、ボケてツッコんでオチもついてとテンポも楽しく、読み聞かせしているだけで、自分が正統派しゃべくり漫才の達人になった気分になります。

『こんぶのぶーさん』(ブロンズ新社)では、まさに漫才師を目指す昆布が主人公で、しゃべくり漫才大好きな方は、岡田さん、ハマりますよ!

ハンパないキレ芸

お笑いには、キレてキレてキレまくる技がありますよね。絵本にも、そんなキレ芸をみせてくれる絵本があります。

すいかのたねがキレまくる!

すいかのたね ばばばあちゃんのおはなし

ばばばあちゃんが、すいかのたねを庭にまきました。それを見たねこが掘り出してしまいますが、ただの種だったので「つまらない」と庭にうめもどしてしまいます。いぬ、うさぎ、きつね、ばばばあちゃんがみんなが同じことをしたので、とうとうすいかのたねは「いいかげんにしろ」と怒り出します。そんなたねを「大きくおなり」と、ばばばあちゃんが叱りつけたものだから、さあ大変。悔しくがって勢いよく育ったすいかが、ぐんぐんつるを伸ばし始めたのです!

ばばばあちゃんが、庭にすいかの種をまきました。それを見ていたこねこが、ばばばあちゃんが大事そうに何かを地面に隠したと思って、掘ってみるとただのすいかの種で

「なあんだ、つまらない くろい たねだ」

と元に戻します。こいぬ、うさぎ、きつねも同じように掘り返しては「なあんだ、つまらない」と戻すことを繰り返すうちに、すいかの種は

「いいかげんにしろ。つまらんとか なんとか やたら いいくさって!」

とついにキレてしまいます。

そこからのすいかの種のキレ方はすさまじいのですが、キレて奮起するすいかの種がなんとも愛嬌があり、「おうおう、すごいぞすごいぞ」と見ているうちに、なんとも見事なオチに着地し、最後、笑いながら拍手したくなってしまいます。

「ばばばあちゃんの絵本」シリーズの中の1冊ですが、ばばばあちゃん自身も、威勢のいいタイプですし、なんとも楽しいキレっぷりの絵本です。

怒涛のテッパンだじゃれ!

「だじゃれ」を聞くと、老若男女、思わずぶはっと笑ってしまいますよね。そんな“だじゃれ”で押し切った笑いの絵本が、こちら。

うえきばちです

うえきばちがありました。土を入れて、好きなものを植えてみました。さて、いったい何が出てくるでしょうか?ゆっくりと、そしておおまじめに、みんなで、この絵本を開き読んでみてください。笑いがこみ上げてくる絵本です。

「うえきばちがあったので つちをいれて、のっぺらぼうをうえました。」……と続きますが、のっぺらぼうを植える時点で「?」ですよね。そこから、毎日水をやると芽、ならぬ「目」が出ました。その次に葉ならぬ「歯」が出て……と怒涛のだじゃれで「そっちじゃないよ!」というツッコミで読者が大盛り上がりしていきます。

そして、最後一体のっぺらぼうがどうなっちゃうのかという点も、言葉遊びを使ったうまいオチにつなげており唸らせられます。

お話会でもテッパンの大うけ絵本ですが、だじゃれの連続がこんなに見事な大笑いにつながるのは、読み聞かせをしている立場としても爽快ですよ! 読み聞かせをする際は、ぜひテンションをあげて“だじゃれ”言い切ってみてください。

まるでドリフのコントでしょ

一口に笑いが好きといっても、しゃべくり漫才系が好きな人もいれば、作りこんだコント系が好きな人もいますよね。コント系というと、やはりドリフターズの、ハラハラドキドキ、ドタバタと視聴者を巻き込むコントは圧巻でした。そんなドリフのコントを彷彿とさせる絵本をご紹介します。

どうするどうするあなのなか

深い穴に落ちてしまった敵同士の野ねずみと山猫は、穴から出る方法を考えます。愉快なストーリーで、たっぷり楽しめる絵です。穴の深さが細長い縦の判型で表現されています。

3びきののねずみが、2ひきのやまねこに追いかけられています。そして、前にある深い穴に気づかず、もろとも穴に落ちてしまいます。穴は思ったより深くて、上ろうとしてみても壁はつるつるしていて足がすべってしまいます。仕方がないので今だけ力を合わせようとしますが、みんなで順番に肩にのって積み重なっても、どちらが先に出るかで大もめです。

このドタバタ設定からして喜劇的ですが、そこからさらにがらりと場面が変わっていき、本人たちは大真面目でも見ているこっちはよけい大笑いという状況になるのです。

私はドリフの番組「8時だよ! 全員集合」をリアルで観ることができていた世代なので、(齢がばれますよね)この絵本のドタバタ感を見ると、ドリフのコントを見ていたワクワク感を思い出します。コントは演者が大真面目であるほど面白い、そんな笑いを楽しめる絵本です。

さいごに

「笑いたい」という気持ちはどんな人にもある欲求ですよね。だからこそ、笑える絵本はとってもたくさんあります。今回は、それをジャンル別にしてご紹介いたしましたが、気になる絵本はありましたでしょうか?

やっぱり笑いの力は偉大でして、うちの子は少々落ち込みやすい気質なので、その度に、面白い本を積んでおいたり、私のこれまでの失敗談を面白おかしく聞かせたりして一回笑わせてすっきりしてもらっています。まあ、笑われる側としては「あれ?」と思いますが、こうやって我が子の糧になるのなら、黒歴史もそれはそれで意味があって良かったなとも思えます。

1月、気持ちは新しくありつつも、せわしなく緊張感ある行事も多い季節です。でも、そんな時にこそ「笑い」で気持ちを前向きにいたしましょう。いまだに終わっていない大掃除、久々に帰省して聞いてしまった親戚のもめごと、始業式の朝に見つけた洗ってない上履き……などなど「なんやねん!」ということは尽きぬ毎日ですが、そんなときこそ、楽しい絵本で家族で笑って過ごしましょう!

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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