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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「夢みる力」!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

夢みなければ始まらない

12月ですね。クリスマスも近づき年の瀬の準備もあり、忙しいシーズンです。ですが、忙しいですけれど、なんだか新しい年に向かって胸が沸き立つシーズンではないでしょうか?

クリスマスプレゼントは何がもらえるかな? 新年はどんな年になるかな? そして、今年のことを思い返して「今年の夢はかなったかな?」などなど、過去と未来を考えるにふさわしい時期です。

「夢」は様々な原動力です。かなえたい夢があるからこそ、がんばって、いろいろな力を身につけたいと思うもの。夢は、私たちが未来に向かうためのエネルギーです。それは小さな子どもも共通です。皆まずは「夢をみる」ことがはじめの一歩となります。

ということで、一年の終わりに、「夢をみる」ことの大切さ、夢とはどんなものなのか、夢を見つけた後にどうするか、などなど、夢を思い、考える契機となる絵本をご紹介したいと思います。

みんなの夢が形になる

まずは、ひとつの夢をかなえる道のり、そしてその夢がみんなを結び付けたお話をご紹介します。

周囲の思いやりや優しさをつないでいく、アンナの夢

アンナの赤いオーバー

戦争が終わったら、アンナは、新しいオーバーを買ってもらうことになっていました。
戦争は終わりました。でも、お店はからっぽです。オーバーも、食べ物もなんにもありません。
アンナのオーバーを手に入れるために、お母さんは、どうしたのでしょうか。

「戦争が終わったら、新しいオーバーを買ってあげようね」とおかあさんとアンナは約束していましたが、戦争が終わってもお店にはオーバーどころか食べ物だってありません。お金もないので、お母さんは家にあるすてきな物を集めて、アンナのオーバーの材料と替えようとしますが……。

このお話は、第二次世界大戦後に、実際にあったお話をもとにしています。アンナの「赤いオーバー」という夢を叶えるために駆けずり回ったお母さんは、ついに赤いオーバーを見ることができて、どんなにうれしかったことでしょう。羊を飼っているおひゃくしょうさん、毛糸をつむいでくれたおばあさん、生地を織ってくれた機屋さん、仕立て屋さんも、アンナがオーバーを着ている姿を見て、どんなに心が明るくなったことでしょう。「赤いオーバー」をもらえたアンナももちろんですが、子どもの夢を叶えるために力を貸した周囲の大人の姿も、とても満足深げです。

クリスマスの時期のお話ですが、ひとつの夢を持つことが、自分だけではなくその周りの思いやりや優しさもつないでいくことを、ぜひこの時期に考えてみてください。

ほんとの夢はなんだろう

「夢は何?」と聞かれても、自分が本当に願っていることは、けっこう漠然としていたりするのではないでしょうか? 「夢みて行動してみたけれど、これって本当に自分の願いだったかなあ?」と気づいてしまう、そんなこともあります。

ほしいものが、あった。

街どろぼう

山の上に巨人がひとりきりで住んでいました。ある晩、ふもとの街におりていき、一軒の家をこっそり持ち帰るのですが……。『Michi』『の』『怪物園』のjunaidaが送る、巨人の小さな物語。

とおいとおい国の大きな山のてっぺんにひとりの巨人がくらしていました。巨人には家族もなく友達もなく、たった一人で暮らしています。巨人は、

「もし いっしょにごはんをたべる人や はなしあいてがいてくれたなら どんなにいいだろう」

と毎日空想していました。そして、ある夜、なんと、山のふもとの町の一軒の家をこっそり山に持ち帰ったのです。

そうして次々と持ち帰り、ついには巨人の住む山にはたくさんの人が暮らすようになったのですが、巨人の気持ちはひとりぼっちのまま。巨人は、ひとりぼっちはいやだと思って行動したにもかかわらず、本当の願いはかなわぬままだったのです。

深いお話ですよね。私たちも、たくさんの人に囲まれている方が、よけい孤独感が増してしまうことがあったりします。巨人も、「なんか思ったのとちがう……」となったのではないでしょうか? 巨人はその違和感と向き合い、本当の願いをまた探そうとします。

もやもやとした夢も、一歩進めることでだんだん形を帯びてくる、そこから自分だったらどうする?といったことに思いを馳せられる物語です。

夢の根元にあるものは

こちらは、「夢の根幹はなんなのか」を問いかけられる絵本です。

こぶしの先にあるものは?

ボクサー

第27回ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)グランプリ受賞作品の邦訳!
父の形見のグローブをはめ、打ちつづけた孤独なボクサー。ボクサーのこぶしの先にあるものは? 父が打ちつづけた理由とは?

あるところに、ボクサーがいました。ボクサーは、父さんの形見のグローブをはめ、どんなものも打ちました。どんなものをも打つボクサーは町の人気者でした。ですが、ボクサーは、岩を打ちくだき、大波を引きおこし、あらゆるものを壊しました。そんな毎日が続き、ボクサーはひとりぼっちになります。そして、

「どうして父さんは ボクシングを教えてくれたんだろう」

と、ボクサーという夢の根幹を考えるのです。

この絵本は、イランのテヘラン在住のハサン・ムーサヴィーさんの作品です。ハサンさんは、2019年にブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)のグランプリに輝き、イランは、知る人ぞ知る絵本大国なのだそうです。

「夢の根元を考える」、なかなか難しいテーマですが、そのようなテーマをハサンさんの鮮やかで躍動的な絵が、私たちに力強く問いかけてくれます。やみくもに夢に向かう途中、時には迷いが出るかもしれません。そんな時にふと「なんのための夢なのだろう」ということを思い出させる、そんな絵本です。

「やってみたい!」が大事

おつぎは、魚界で一番夢多き人物(?)、“せとうちたいこ”さんの登場です。

たいこさんは、海の中にすむタイのおかあさん。好奇心旺盛でいろんなことをなんでもやってみたいとチャレンジしていきます。今回は、シリーズで一番新しい作品をご紹介します。

「♪ノミがリュックしょってふじとざん」の歌をきいて、たいこさんは富士山に登りたくなって…

せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ

好奇心旺盛のたいこさんが、世界遺産にも指定された日本一の山、富士山に登ります。「鯛」「富士山」「日の出」と、おめでたいことづくしの絵本です。

たいこさんは、海から見える富士山を見て、「ともだちになりたーい」と思います。思い立ったらすぐ行動のたいこさんは、富士山のところへいくと、ぐいぐい押してお友だちになり、富士山に登れることを知ると、今度は一直線に登山用品店へ行き富士登山グッズを買い、5匹のこだいちゃんも引き連れて、富士登山に向かうのです。

たいこさんはこれまでのシリーズでも、デパートに行ったり遠足に行ったりパーティーに出てみたり、「やりたい!」と思ったことを即行動にうつしてきました。思い立ったらやらずにはいられないけれど、ちょっとおっちょこちょいなたいこさんは、行く先々で騒動を巻き起こします。ですが、明るくてケロッとしている彼女は、なんでも楽しみ海の外でもたくさんの人たちとの交流を楽しみます。そして、「楽しかった! 次は何しよう?」とさらなる夢をふくらませていくのです。

そんなたいこさんの姿は、夢をもって行動することの楽しさ、それがさらに大きな夢につながるステキさを教えてくれますよ。

クリスマスのみんなの願い

さいごに、時節柄、クリスマスに多くの人たちが願った“たった一つのこととは?”を伝える物語をご紹介します。

1914年、ドイツ軍とイギリス軍との最前線で実際に起こったお話

このお話は、第一次世界大戦中、本当にあったお話です。当時の戦争は、今のようにミサイル爆撃のようなものではなく、銃や剣で兵士同士がぶつかり合う、非常に生々しいものでした。そして、12月24日の夜、ドイツ軍とイギリス軍の間であることが起こります。イギリス軍の兵士は、「きよしこのよる」の歌声が聞こえてくることに気づきました。それは、すぐそばのドイツ軍のざんごうから聞こえてきました。それを聞いてイギリス軍の方もクリスマスの歌を歌いました。その夜、イギリス軍もドイツ軍も、いろいろなクリスマスの歌を歌いました。

夜が明けたクリスマスの日の朝、ドイツ軍のざんごうから銃も持たず一人の兵士が手を振って近づいてきます。イギリス軍からも若い兵士が近づいていきます。そして、「メリー・クリスマス」と互いに握手をしたのです。

残念ながら、この後も戦争は続きました。しかし、たがいに「一人の人」として交流したこの兵士たちはその後いったいどうしたか、それは実際に絵本を読んでみてください。本当に戦争をしたいと願っている人はいるのでしょうか? 少なくとも、この戦場にいた人たちは「戦争をやめたい」と願っていたのです。その願いがクリスマスという日に結晶となったこと、そして、人間は人を殺す道具ではない、考え方は違っても、相手にもふるさとがあり家族がある、そうした想像力が戦争をやめ願いを形にすることができることを強く伝えてくれる素晴らしい物語です。

さいごに

夢と一口にいっても、いろいろな方向性がありますよね。いまやりたいこと、将来の夢、なんとなく「こうだったらいいのにな」くらいの空想、そして親目線になると、子どもの夢がかなうことも大きな喜びです。しかし、どの夢も共通するのは、「夢みなければ始まらない」ことではないでしょうか?

ご紹介した『アンナの赤いオーバー』のおかあさんは、「子どもの喜ぶ姿が見たい」という願いから、長い年月をかけてあきらめずにオーバー作りを模索することができました。せとうちたいこさんも、「やってみたい!」と思わなければ海の中から出ることはなかったでしょう。ただいま開催中のサッカーワールドカップにしても、「ワールドカップに出たい」と夢みた多くの日本のサッカー少年がいたからこそ、今回のドイツに勝ちスペインに勝つという成果につながっているのですよね。

現代、特に日本の未来は暗いニュースが多くなってきました。子育て世代はうんうん唸ることも多いでしょう。うちもです。ですが、明るい未来を夢みることが、その次につながります。夢みることがさらにその次の夢につながっていくことを、ぜひ、年の瀬に親子で語り合ってみてはいかがでしょうか?

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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