絵本で準備! 小学生に求められる力
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
小学生って? ドキドキな時期
3月は、卒業卒園シーズンですね。そしていよいよ、4月から新一年生となるお子さんは今からワクワクドキドキしているのではないでしょうか?
保育園幼稚園から小学生となると、やっぱり環境や求められるものが大きく変わってきます。あまりに変わりすぎて適応できず、行き渋る一年生もいるようです。
ストレス耐性が高くて新しい環境にすっとなじめる子もいますが、多かれ少なかれ、知らない場所にまったく不安を感じていないという子はいないと思うんですよね。
そんなとき、「小学生に求められるものとは」「何を準備しておくべき?」とイメージして、親子で心の準備をしておくことが大事です。
ただ、実際入ってみないと分からないことも多いので、子どもに対しては「あれしろこれしろ」というよりも、まずは入学後のポジティブなイメージを伝えつつ、パパママは、小学生についての知識を得て、いざという時の心構えをしておいてほしいと思います。そうすれば、親子ともども不安も減り、小学校生活の楽しさをイメージしやすくなりますから。
ということで、「小学生とは何ぞや?」にお役立ちの絵本を今回はご紹介したいと思います。
小学生の全体イメージをつかみましょう
まずは、ビジュアルから「小学校」をイメージしましょう。
小学校1年生のクラスの1日を追った画期的な絵本
登校、朝の会、国語、算数、休み時間…と、小学校1年生のクラスの1日を追った画期的な絵本!
教室を定点で追う中で、忘れ物したり、いたずらしたり、と楽しいストーリーが展開。学校の1日が分かり、自分の学校とくらべてみても楽しめます。
この絵本は、そのタイトルの通り、とある小学校の“1年1組”の、朝から下校までを写真で追った絵本です。
写真ですので、もちろんリアルな日常が写し出されます。登校してランドセルから荷物を出して、授業を受けて、中休みがあって給食があって……という小学一年生のリアルな一日が分かります。実際の一年生の一日があますことなく載っているので、「小学生って何するの?」ということが言葉よりもわかりやすく伝わります。
写真を見ていると、小学生になると自分で授業の支度をし、体育の前には素早く着替えて移動をし、給食の配膳も自分たちでする、とかなり「自主性」が問われることが分かるのもポイントです。
これは10年以上前に出た絵本なので、今と基本の小学生生活は全然変わりませんが、コロナが始まってからは、朝の登校時に検温チェックをし、授業前に手洗いの時間があり、給食はグループで机をつけずに一人ひとり前を向いて“黙食”……とコロナ以前からだいぶ変わってしまったこともあり、そういったところに私のような大人はしみじみしてしまうところもあります。
どんな子でも、初めての場所はドキドキしてしまいますが、何も知識がないよりは、「小学校ってこういうところなんだ」とイメージしておいた方が安心できるもの。パパママも「小学校ってこうだったな」と思い出しながらアドバイスができる絵本です。
小学生に求められる能力
小学校準備とは言いますが、何をどこまで準備すればいいのやら~という心持ちのパパママ、そしてお子さんもいらっしゃるのではないでしょうか? (そんな状態のままタイムリミットを迎え小学校生活に突入してしまった親子はうちです……。)
ただ、全ての準備を行っておかなければというよりも、「こういうことを準備しておけば小学校生活はやりやすいだろうな」と知識として知っておくと、あとあと焦らなくて済む(特にパパママが!)という、心の準備に便利な絵本をご紹介します。
小学2年生のせんぱいから、これから小学生になるみんなへ
「さけばないようにれんしゅうしよう」など小学校生活を楽しく送るための16のアドバイスを、ういさんが自分の力で書き上げました。不安と楽しみがいっぱいの入学を控えたお子さんに送る一冊。
作者は、当時現役小学2年生だった、ういさん。ういさんが小学生の目線から「小学生になるまでにやるといいこと、小学生になったらやるといいこと」をていねいに教えてくれる絵本です。「おおきなこえで、へんじができるようになっておこう」というお役立ちアドバイスから一年生を経験したお姉さんならではの「ゆうきをだして、おともだちにこえをかけてみよう」「あそぶときは、ともだちを、さそってあげよう」などの友達関係のアドバイスなどなど、「確かに」と思うことばかり。現役小学生ならではの視点に、親子ともども小学校生活に前向きになれる絵本です。
そして、小学生目線からのアドバイスの次は、大人目線のアドバイス集として、こちらをご紹介します。
花まる学習会代表・高濱正伸先生による、親子で読みたい「入学準備の絵本」!
学校・友だち・生活・安全……
楽しい小学校生活を送るために、
入学前後に身につけたい
42の習慣を紹介!
「小学校という小さな【よのなか】に出ていくわが子に、
どんなことを、どう伝えたらいい?」
……そんなお父さん・お母さんを応援する
入学準備の絵本です!
「はじめての『よのなか』ルールブック」シリーズの、新一年生向けの絵本です。良い意味での“大人目線”アドバイスなので、とってもきめ細やかなアドバイスがたくさんあります。「『まちがってもだいじょうぶ』とかんがえる」「『テストはちからだめし』とおぼえておく」などは、さすが幼児教育会の重鎮・花まる学習会高濱正伸先生監修だけあって、学習に対する心の持ちようまで示してくれています。
全編に目を通して、正直「これをすべてできる子はいないよな」とは思ったのですが、こういうことが小学校以降の生活には求められるんだな、と、まずはパパママが知っておくことに意味があります。「我が子はこの辺はできて、この辺はできないな」と把握しておくといろいろと対処しやすくなるのです。そして、子どもたちの準備は、今はできなくても大丈夫。パパママが、今の子どもの状態を見つつ、取捨選択して前向きな気持ちになれるよう取り組んでいければ良いと思います。そういった意味で、ぜひ目を通しておいていただきたい絵本たちです。
大勢の中で必要なことを伝えるには
小学生になりますと、クラスの人数は増えますし、伝えたいことや困っていることは、基本的には自分から言わないと対処してもらえない場面も多くなります。そんな「自分の状態を自分で説明する」ための練習を絵本でしてみましょう。
98語の「ようすのことば」を使えるようになろう!
「おおきいぼうし」「ぞうはおおきい」「ちいさいぼうし」「ありはちいさい」のように、リズムのある二語文がたくさんでてきますので、親子で、いっしょに声にだして楽しみましょう。
この絵本では、「おおきい?ちいさい?」「ながい?みじかい?」など、ことばをくらべる絵もついています。「どっちが大きい?」と、クイズのように親子で楽しみながら、ようすのことばに親しんでいきましょう。
「くろくまくんの ことばえほん」シリーズで、親子でいっしょに楽しみながら、ことばの世界を広げていきましょう。
この絵本は、子どもたちにとって身近な98語の「ようすのことば」(形容詞・副詞・擬音語擬態語など)を紹介し、ことばの意味を絵で見てビジュアルでつかむことができるお役立ち絵本です。
時期的にそろそろ入学説明会も終わったころかと思いますが、入学前に学校から「こういうことを身につけておいてください」と伝えられますよね。生活習慣もさることながら、特に「必要なことを言葉で伝える」ことの大切さに、しっかりアンダーラインが引かれています。集団生活において自分が困っている時や、やってほしいことがある時など、言葉で伝えられないと苦労してしまう、ということなのです。
説明や、自己表現などの土台は、やはり“語彙力”です。表現する手段として語彙力がないと他者にはなかなか説明しきれません。
我が家もこの「くろくまくんのことばえほん」シリーズには大変お世話になっております。「3,4,5歳向け」とありますが、この絵本に載っている言葉が分かっていれば、日常のほとんどのことは説明できます。「いろいろこの子は言葉を知っているな」と思っていても、いざ使おうとすると、するっと言葉はでてこないものです。大人だってそうですよね。ですので、この絵本で「自分の様子を説明する」ことに慣れておきましょう!
「くろくまくんのことばえほん」シリーズ
このレベルはクリアしているという子には、もうちょっと語彙がたくさん載っているこちらもおすすめです。
ことばの力がぐんぐん広がる本!
●言葉を品詞ごとに分け、意味を五味太郎のユーモラスな絵で表現した楽しい図鑑。
●基本的な単語・品詞の使い方がむりなくおぼえられ、使いなれない言葉も絵を見て正確に学べます。
●絵本としても、図鑑、辞典としても役立ちます。
うごきのことば、ようすのことば、だけでなく、「つなぎのことば」「たとえのことば」などなど、細かく言葉を品詞ごとに分けて紹介していて、五味さんお得意のシニカル&ユーモラスな絵でたくさんの言葉が紹介されているので、小学校入学後もずっと役に立ちますよ。
ただ、この年代の子どもたちで、言葉で自分の気持ちを的確に伝えられる子は、ほとんどいないと思います。言葉が達者であっても感情が先に立ってしまうことだってあります。それを肝に銘じて、ちょっとずつ説明スキルを培っていきましょう!
いろんな友達いろんな関係
新一年生となる子どもたちにとって、一番の関心事といえば“おともだち”ではないでしょうか? 仲良しの子が見つかればいいですが、本当にいろんな子がいるし、自分もそのうちの一人だし、仲良くなったり悪くなったりもある種必然です。そんな心構えを伝える絵本をいくつかご紹介します。
うさぎは、となりのたぬきが大っ嫌い。会えば悪口を言いあい殴りあいになります。うさぎが泣きながら「だいっきらい」と言うと、それを聞いていたお月様が
「わたしが たぬきを ぽかぽかに なぐって こぶだらけにしよう。」
と言います。ただしそのかわり、「ひとつきのあいだ たぬきに うんと しんせつに してやることが できるかな。それが、できれば、わたしも ちゃんと やくそくを まもるよ」と約束をするのです。
さてさて、一か月後、うさぎはどんな心持ちになるのでしょうか? この絵本は、人と人との関係は、まるで合わせ鏡のようなのだ、というなかなか難しい内容を小さな子にも分かりやすく伝えてくれます。
もう一冊、先ほどご紹介した『しょうがっこうがだいすき』にもあった、お友達との接し方にも通じる絵本をご紹介します。
やさしくするって、どういうこと?
タニーシャという女の子が、新しい服にグレープジュースをぶちまけてしまいました。1人のクラスメートは、タニーシャの心が傷つきませんようにと願い、そんなときママがいつも言う「みんなにやさしくしてあげるのよ」という言葉を思い出したのです。でも、やさしくするって、どういうことなんでしょう。どんな風にすれば「やさしく」が伝わるのか、どうふるまえば1人の友だちを助けてあげられるのか、この本には、じーんとくる上に、あなたが一緒に深く考えることができるお話が書かれています。
お友達にやさしくするってどういうこと?というテーマを描いた絵本です。
お話は、タニーシャという女の子が服にグレープジュースをこぼしてしまうところから始まります。新しい服が台無しになってしまい、みんなが笑います。でも主人公の「私」は、ママから「いつも ひとに やさしくしなさい」と言われていることを思いだし、タニーシャを慰めようとしますが上手くいきません。そこから、どうやさしくしてほしいかは人によって違うんじゃないかな、と考え始めるのです。
やさしくするって、どうすればいいのかよく分からないけれど、相手を気づかうことがその人との関係を作り上げることの基本、ということを伝えてくれる絵本です。
いろいろな人間関係が小学校にはありますし、最初から自然に人にやさしくできるかはわかりませんが、楽しい気持ちもいやな気持ちも味わっていろんな経験をして、成長していくのが小学生なのだと思います。
やっぱり小学校が楽しみ!
ここまで、「小学生は、これができないと大変だぞー」という内容となってしまいましたが、それはそれで頭の片隅に留めて置けば良く、基本的には「小学校って楽しいのよ」とお伝えしたいです。そうした小学校への興味をポジティブに高めていく絵本に、こんなものがあります。
むかしむかし、遊ぶことが大好きなおとのさまが、いました。しかし、「とのさま、もうすぐ 1ねんせいです。」と言われても「いやじゃ。いやじゃ。1ねんせいになんか、なりたくない!」と逃げてしまいます。不安でいっぱいの新一年生みたいですよね。ですが、
「1ねんせいに なったら、ともだちが いっぱい できるんだってよー!」
「1ねんせいに なったら、おいしい きゅうしょくが、たべられるんだって」
と家来たちも1年生になる準備をはじめ、おとのさまを追いかけるのをやめてしまいました。そして、家来たちのランドセルを見てうらやましくなってしまうのです。
子どもたちに実際聞いてみても、学校で楽しいことは「ともだち」と「給食」がトップ2で、それ以外はほぼ聞きません。ですが、みんなと一緒にいろんなことを体験できて給食がおいしければ、行く意味は十分! おとのさまも、元気な1年生になれるといいですね。
そして、どんな1年生になりたいかなーと想像できる絵本がこちら。
だれでもみんな にんきもの いちねんせい
クラスのなかのみんながみんな、にんきものいちねんせいだということに気がつける絵本です。ともだちのいいところをみつけて、じぶんのいいところにもともだちが気づいてくれていることを知ることで、子どもたちは成長します。ともだちからしてもらってうれしいことを自分もほかのともだちにしてあげることのきっかけにもなります。クラスのなかでにんきものの輪が広がっていく、そんな優しさにあふれた内容になっています。つちだのぶこさんの個性豊かな子どもたちの表情も楽しめる一冊になっています。
この絵本には、たくさんの“にんきもの いちねんせい”が出てきます。大きな声であいさつするにんきものや、仲直りをするのが上手なにんきもの、笑顔がステキなにんきもの、などなどいろんなタイプのにんきものが勢ぞろい。こんなにたくさんにんきものがいるんだったら、自分はどんなにんきものを目指せるかな? と、目標ができて意欲が湧いてくる一冊です。
さいごに
もうすぐ小学生という子も、そのパパママも今の時期は、あれ準備してこれ準備して~とドキドキバタバタ、という感じではないでしょうか?
子どもたちもさることながら、パパママにこそ小学校情報は知っておいてもらいたいというのが今回のテーマの根本にあります。小学校に入りますと、それまでのように直接先生たちと毎日顔を合わせて話をすることも少なくなるので必然的に子どもからしか話は聞けません。ですが、子どもも全体が把握できているわけではないので、状況を正確に伝えるのが難しかったりします。パパママがある程度「小学校」について心構えがあれば、「いざ」という時に焦らなくて済みますし、どっしり構えていれば子どもの動揺も最小限で済むのではないでしょうか。
ただ、不安だけではなく、小学1年生は伸び盛りでもあります。最初のうちはきょろきょろ不安そうに周囲を眺めていても、新しい環境からぐんぐん吸収して、1年生の間にどんどん人間的に成長していきます。うちの子は、神経質なタイプだと思っていたんですが、気づいたら給食では最近「皮ごと残さず食べる」ことにはまっているとのこと。「バナナの皮は大変だけど、すいかの皮はけっこううまい」などとワイルド?な方向に成長をしているようで……。クラスに皮を食べるのがうまい?子がいて、それに憧れ?たようで、クラスの「皮四天王」に入りたい?らしく……??? これも、切磋琢磨して成長しているというんでしょうか……。
いろんなことが小学校生活にはあると思いますが、子どもの成長を楽しみに、安心してサポートするために、これらの絵本から「小学生」を親子でイメージしてみてください!
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
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