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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む、子どものメタ認知能力(1) 客観力編

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

メタ認知能力とは?

最近話題の「メタ認知能力」という言葉をご存じでしょうか? 

“メタ”という言葉は、「あとに」という意味の古代ギリシャ語の接頭辞で、転じて「超越した」「高次の」を意味するようになり“外側にたって見る”事を指します。そこからメタ認知とは、「自らの認知(考える・感じる・記憶する・判断するなど)を認知すること」なのだそうです。ちょっと何言ってるか状態ですが、要するに自分の能力、状況などを客観的に見ることで発揮できる能力のことなんですね。

自分を客観的に見る。→自分自身をコントロールできるようになる。→冷静に判断・行動ができる

ここまでをまとめて、「メタ認知能力」と呼ばれています。

メタ認知は、大人の世界で活用されることが多かったのですが、近年子どもの教育の分野でも注目されつつあります。

幼児から小学生くらいは、「自分」中心で世界を考えていた子が「自分以外」の存在も認め社会的に成長していく時期ですよね。「自分以外の存在」を知ると、子どもは「自分ってどんな存在?」と客観的に考えるようになります。そこから、人と自分との距離感をつかんで協調していきます。上手くできる子は周りをまとめることができリーダーにもぴったりです。自分の良いところ悪いところを分かっているので、トラブルにも柔軟に対応できます。そして、自分の良さを知って様々なことに意欲的に取り組めます。

とまあ、なんだかすごいねメタ認知、という感じですが、その力はなかなか一口では言い表せません。ということでこれから3回に分けて「絵本でかかわる“子どものメタ認知能力”」を考えていこうと思います。

自己分析がカギ!

メタ認知能力の元は、まず己を客観視することから。自己分析が重要です。それを体現している絵本として、こちらの一冊をご紹介します。

さかなくんの暮らす世界は……?

さかなくん

さかなくんは、さかなですから水の中で暮らしています。小学校に行くときは、ゴムのズボンをはいて、水でいっぱいのヘルメットをかぶって、ひれにはクリームを塗って……と、ひと仕事。でもきゅっきゅと歩いて通う小学校をさかなくんは好きなのです。ただ、ひとつ、体育の時間だけはきらいでした。なぜなら、さかなくんは走るのが苦手だから……。
さかなくんの暮らす世界を魅力的に描ききった一作。私たちと同じようなごく普通の毎日だけど、どこかちがう、そんな世界をたっぷり味わえます。

さかなくんは、魚です。陸の上の小学校に通っています。魚なので、水の外に出て小学校に通うには、空気を通さないゴムのズボンをはき水を入れたガラスのヘルメットをかぶり空気に触れるひれの部分にはクリームを塗り……と相当の準備が必要です。

こうした生活の中で、さかなくんは自分と周囲の違いを感じる毎日です。でも、さかなくんはそんな毎日をうらめしく思っているのではないところが、精神的に大人なんですよね。足びれは歩くのには向いていないけれど歩くことは嫌いではない、そして学校のことも大体好き、ということが自分でわかっています。

ただ、薄い足びれではうまく走れないので、体育だけは大嫌いです。

さかなくんは、

・陸の上の生活は嫌いじゃないし学校も大体好き。

・体育は嫌い。だって走れないから。

と、自分の状況・気持ちをしっかり分析できています。

ある日、体育で失敗して走れないことに落ち込んでしまいますが、お友達がアシストしてくれて、とある方法に行きつきます。「走れない」ことを無理やり克服しようとするのではなくて、走れないことがわかっているからこそ「ちょっと違う形で見直す」ということができたんですよね。それは客観的に自分を知っているからこそ。そうした一歩が踏み出せるって素敵だねということを伝えてくれる、深く面白い絵本です。

自分をセルフモニタリング

こちらも一つの自己分析のお話ではありますが、周囲を観察することで自分を知っていく絵本です。

本当の自分のかたちは……?

くもくん

いつも空をたびしている、くもくん。いろんなかたちになってみるけれど、本当の自分のかたちは・・・? やさしいタッチの絵本。

雲の“くもくん”は、空の上からいろいろな物を見つけます。船の形やビルの形を見かけてそれぞれ決まった形があることに気づきますが、くもくんには決まった形がありません。誰かの形の真似をしても、雲なので風が吹けば形は崩れてしまいます。それに気づいたくもくんは、なんだか不安そうな顔をしています。

ですが、いろいろなものと自分を比べて、自分のできることは何かを探っていくうちに、くもくんは「ぼくって、こうなのかも」という境地にたどりつきます。

自分のことをどんどん掘り下げて考えていく自己認識もあれば、他者と比べて自分を確認していく自己認識もあります。くもくんも、先ほどのさかなくんも、いろいろな方法で自分を客観的に考えようとし、そうやって自分を認めて次にジャンプしていくのです。

短い文章の中で、くもくんがふんわりと、人生の核となる考えを優しく考えさせてくれる、小さな子から大人まで年齢を問わない深い哲学の絵本です。

人のことなら、よく見えるけど

客観的に自分を見ることって、精神的に成熟しないとなかなか難しいところがあります。大人でもそうです。例えば、こんな人いるよね、という絵本を見てみましょう。

この絵本シリーズの『ポレポレやまのぼり』は、以前「子どもの『読解力』、絵本でどう伸ばす?」の回で、群像劇を読み解くことが読解力につながると取り上げましたが、今回は群像劇の中でもキーパーソンであり、「人のことなら良くわかっているのに自分のことは把握できていない」“やぎくん”のパーソナリティーに焦点を当ててご紹介したいと思います。

3人と一緒に旅行気分

ポレポレゆきのなか

あわてんぼうのやぎくん、おちょうしもののはりねずみくん、しっかりもののぞうくん。雪だるまや雪合戦をして遊んでいると、空が暗くなって、いよいよオーロラを見にいく時間に! わくわくどきどき、雪の楽しさがいっぱいです!楽しい雪遊び、息をのむ雪景色、空一面のオーロラからロッジのあたたかさまで、読み終えると、3人と一緒に旅した気分になります。3人の、それぞれ違った性格が魅力! 細かな描き込みも必見です。

やぎくん、はりねずみくん、ぞうくんは、オーロラを見に、「ゆきまち」へ出かけます。やぎくんは、あわてんぼうと称されていますが、先のことを考えすぎて慌ててしまう心配性でもあります。そんなやぎくんのリュックは今日もパンパンです。余計な荷物もありますが、やぎくんは周囲のみんなの先のことも考えてしまうからこそ「この人のこんな場合にはこれがいるんじゃないか……」と思案しすぎて大荷物なんです。

このお話では、そんなやぎくんの大荷物によって、先のことを考えずに雪の中に飛び出してしまったハリネズミくんを助けることができました。他にもやぎくんのおかげでみんなは雪の中でもあったかく楽しく過ごすことができました。やぎくんは周囲に対してはとっても気づかい上手できめ細やかなんです。ただ自分のこととなると、心配性な分、

「だから、さむいところはいやだって いったのに…」

としり込みしすぎる点もあり、読者としては「もったいない」と思ってしまいます。

 

ですが、メタ認知をあげる際には「経験」がとても大事な要素になります。経験を積むことで「こういうときに自分ってこう感じるんだな」と把握できて、ステップアップしていけるのです。やぎくんも、仲間たちとの山のぼりや雪山など経験を経て、どんなふうに変わっていくのかな?と、やぎくんの今後を楽しく想像したいと思います。

感情を捉えるのは自分でも難しい

客観的に自分を捉える、が今回のテ―マですが、中でも「感情」の理解は自分のことであっても難しいものです。そんな荒れ狂う感情をまっすぐ描いた絵本がこちらです。

あやまってもらっても、まだけんかの気持ちは終わらない

けんかのきもち

たいは、なかよしのこうたと、すごいけんかをした。けりをいれて、パンチした。さいごにこうどつかれて、しりもちをついた。くやしくて、泣きながら走ってうちにに帰った。こうたがあやまってくれたけど、まだけんかの気持ちは終わらない・・・。思いっきり気持ちをぶつけあえば、もっとともだちになれる。コミュニケーションの在り方を考えさせる絵本です。

ぼく・たいは、ある日、一番の友だち・こうたと、蹴りやパンチが飛び交う激しいけんかをします。ぼくがついに降参してけんかは終わりますが、悔しくて泣き続けます。けんか相手のこうたに「ごめんな」と謝られても「なんで あやまるんだよ!」とよけいに泣きます。絵本の中にけんかの理由は特に描かれておらず、とにかく荒れ狂う激しい気持ちが抑えられないぼくについてだけ、ひたすら描かれます。

たぶん、けんかに大した理由はなかったのでしょう。でも、一度燃え上がったぼくの気持ちは止まりません。原因とか理由とか理屈ではなく、とにかく気持ちがおさまらないその姿を見ていると読んでいるこちらも、「こういうどうにも処理しきれない気持ちを持て余すこと、あるなあ」と、感情に振り回されてしまった経験が思い出されます。

どうにもならない感情・気持ちがあって、自分でどういう状況か理解できないし理屈では処理しきれない自分もいる。そんな自分を知ることも、「自分がどんな人間か」理解するのに大事なことだと思うのです。

考え方のクセを認識しよう

「自分自身」や「自分の置かれている状況」など、直に見えないものを認識するには想像力で補うことが大切です。ですが、想像や見方にも、知らないうちに「こうだろう」と考思いこむクセがついていることもあります。そんな自分に気づいて認めていくことを描いた絵本があります。

その想像は正しいのかな?

マイロのスケッチブック

毎月最初の日曜日、マイロはお姉ちゃんと地下鉄に乗って出かけます。いつも期待と不安で緊張してしまうので、気を紛らわすために、まわりの人の見た目からその人の生活を想像して、スケッチブックに絵を描きます。でも、その想像は正しいのかな?
既刊『おばあちゃんとバスにのって』がアメリカではコールデコット賞オナー賞とニューベリー賞を獲得、日本では産経児童出版文化賞翻訳作品賞に輝いた作家、画家ペアによる第3弾です。原書「Milo Imagines the World」は発売後すぐにニューヨクタイムズベストセラーリストに登場。外見で人を判断することはできないことをテーマにした絵本であり、後半の思いがけない展開に、大人も子どももきっと心を動かされるでしょう。

舞台はアメリカのある都市の地下鉄。作者はニューヨーク在住なので、きっとニューヨークの地下鉄でしょう。毎月最初の日曜日、マイロはおねえちゃんと二人、地下鉄でお出かけにすることになっています。そのたびに緊張してしまうマイロは、気持ちを鎮めるために電車の中で気になった人のことをスケッチブックに描くことが習慣です。

隣のおじさんはアパートで1人暮らしをしているのではないか、ウェディングドレスを着て乗っている女の人はこれから大きな教会で花婿と式を挙げるのではないか、そして、ジャケットを着て髪の毛もピシッと分けられて真っ白なナイキのシューズを履いた男の子を見ると圧倒されて、この男の子はお城に住んでいて召使いやメイド、お抱えのシェフがいるに違いない、などなど想像をしながら次々と絵を描いていきます。

ですが、目的の駅に着くとその男の子が自分の前を歩いていて、自分と同じ列に並んだことに驚きます。絵本の文章にははっきり書かれていませんが、刑務所とおぼしきその場所に、その子も家族に会いに来ていたのです。そして、マイロは、

「みかけだけじゃ、そのひとの ほんとうのことなんて わからないんだ。」

ということに気づくのです。

自分が想像したことは、本当のこととは限らない、そして、自分もまた人からどう見られているかも分からない。そうした「こうだろう」という思いこみを、また違った観点で見直していくことも、自分を客観視するメタ認知能力を身につけるために、大切なことではないでしょうか。

さいごに

今回は、メタ認知能力の第一段階、「客観的に自分を認める」ってなんだろう?ということを絵本で考えてまいりました。ですが、等身大の自分を認めるって、難しいですよね。子どももそのときの精神的な状況によって、気持ちが下向きのときは「ぼくにはできないよー」と過小評価になりがちですし、お調子者モードのときは「おれにはこんなことわけないぜ」とちょっと肥大化しすぎることもあります。

そして、客観的に自分を把握するということは、「自分への興味」と「経験」が大事なことも、これらの絵本から分かるのではないかと思います。さかなくんやくもくんは、まず「自分」に向き合い考えていきましたよね。そして、やぎくんやマイロは経験することによって「こんな気持ちになるんだ」「こんな見方もあるんだ」と考え方や気持ちを修正していきました。

子どもはなにせ経験値が少ないので、初めての体験が多いです。我が家の兄弟は、知らないこと初めてのことに対して、上の子はイラつき下の子は不安で青ざめます。「今日は、こういう手順で出かけます!」と事細かく流れを説明する癖ができましたが、そうして初めての体験をいろいろ繰り返していくことで、だんだんと子どもなりに「こうしたとき、自分はこうなるんだな」と俯瞰して自分を把握できるようになります。今はまだ、かんしゃくやグズグズが減ったかなーくらいですが、これを経て自分をコントロールして、また新しいことにチャレンジする気持ちにつながればなと思います。そうした土台となるのがメタ認知能力。どんな能力の獲得もそうですが、親は、体験・経験の手助けしかできないと思います。スピードの早い時代、新たな世界に子どもたちも飛び出していくと思いますが、その土台となる“メタ認知能力”について、絵本で経験し親子で感じ取ってみてください!

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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