絵本で育む、子どものメタ認知能力(2) コントロール力編
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
課題・弱点のコントロールとは?
「メタ認知能力」第2回です。1回目は、メタ認知能力の第一段階「客観的に自己を捉えるとは?」を、絵本を通して考えました。
- 2023.04.13絵本で育む、子どものメタ認知能力(1) 客観力編
第2回目は、客観的に自分を知ったうえでわかった課題や弱点を、「どうコントロールして克服していくか?」がテーマです。“コントロール”=具体的に課題や弱点をどう改善していくか前向きに考えていくこと、だそうです。様々な改善法を試していくうちに、問題を解決する力やポジティブに行動する力が身についていき、メタ認知が鍛えられていくと言われています。
皆さんは「弱点を克服」と聞いた時点で「あ~……向き合いたくない~……」と思いませんか? 私はいまだに「いつか本気出せばいろいろできるようになるんだよー、まだ本気出してないだけ~」とぐだぐだ言っている人間なので、この「弱点に向き合え」と言われると「うわ~、つらい~」となってしまいます。過去の失敗を思い出すだけでいまだにのたうち回りますし、「あなたの今の課題を挙げてください」と言われたら、「ちょっと今都合悪いんで連休明けでいいですか?」と、先延ばしにしてうやむやにするタイプです。
大人の私ですらそうなのですから、子どもにとってはかなーりハードルの高いお題ですよね。
今回は、「つらいよ~」と思いつつも、なんとか弱点克服に向き合うハードルを下げるべく、絵本で先人たち(登場人物?)を参考に実生活でもがんばっていきたいな!(自分を鼓舞しています)という回です。
メタ認知絵本といえば? のヨシタケシンスケさん
ヨシタケシンスケさんの絵本は、自分の現状を分析してから「さあ、どうしよう?」と考えていくことが大きな特徴です。まさにメタ認知能力を駆使した絵本ですよね。そんなヨシタケさんの絵本をいくつかご紹介いたします。
「わたしには きらいなひとがいる。なんにんか、いる。」
という女の子がいます。そして、きらいなひとがいるせいでイヤな気分になってしまうことについて、ひたすら考えていきます。
嫌いな人やイヤなことがいつやってきても、いつでも自分をはげませるように好きなものや楽しいことを集めて準備をしたり、嫌いな人はそもそも何かに操られているのかもしれないと考えたりもします。
イヤな気分をどうすればいいかに答えはありませんが、そのときどうすればいいかは、その嫌なことに向かい合って考えていくことで、自分で決められるわけです。
「発想えほん」シリーズ
「つまんない」を考えるのって、面白い!
子どもがよく口にする言葉「つまんない」。「せかいいち つまんない ゆうえんちって?」「おとなは つまんないとき どうしてるんだろう?」……。男の子の頭に浮かぶ「つまんない」の謎を、どんどん掘り下げていくユーモラスな絵本。「つまんない」ことをいっぱい考えるのって、実は面白い!
こちらの絵本では、「どうしてつまんないんだろう。つまんないって、なんだろう」ということに向きあっていきます。
「『ずーっと なにかが おなじ』っていうのが つまんないのかな?」と、つまんないとは何かを考えることから「おもしろいってなんだろう?」と考え、「世の中には『つまんない』と『おもしろい』しかないのかな?」と発展して考えていきます。そして、「つまんないこと」について考えていたのにその時間が意外と面白く感じたりします。
「嫌いな人がいる」、「つまんない」、どちらも子どもにとっては大きな課題ですよね。どちらも結局「答え」というものはないんです。ただし、それに対して向き合って考えていくと、また違うものが見えてきます。それが見えてから、「さあ、どうしよう?」という道すじを示してくれる、ヨシタケシンスケさんの絵本たちです。
弱点に向き合うと?
誰でも、弱点だったり自分の嫌いな部分だったりに向き合うってハードルが高いですよね。ですが、それにしっかり向き合うとどうなるのか? ということを描いた絵本があります。
自分の名前、好き? きらい?
へいたろうは、自分の名前が好きではありません。クラスの子にからかわれたからです。へいたろうは、いろいろな人に「名前」について話を聞くことにしました。改名のこと、世界の奇妙な名付け、人気の名前などを知ったへいたろうは次に、両親に自分の名前の由来を聞いてみることにしました。自分の名前と向き合う、へいたろう。はたして自分の名前を好きになれるのでしょうか。名前を通して自分自身や家族のことについて考えます。
主人公は、“へいたろう”という名前に怒っている男の子。なぜなら、名前を呼ばれるたびに、
「むかしの人みたい」
「うまれるとき、おならしたんだよ。」
「やだあ。くさそう」
なんて笑われてきたから。そこで、へいたろうくんは、“名前”について真剣に調べ、考えていくのです。
名前は欠点というものではありませんが、へいたろうくんにとっては、からわかれて腹の立つ弱点となっています。ですが、「イヤなやつのなまえは、イヤなかんじがするけど、かっこいい人のなまえなら、かっこよく聞こえるからね」と言われ、この名前が好きになったわけではないけれど、付き合い方の方向性が見えてきます。
弱点に向き合い、本気で考えていくことによって自分の気持ちを整理しコントロールしていく過程がよくわかる絵本です。
もう1冊、コントロール力を身につけていく過程が描かれた絵本があります。
ぼくの毎日には、「どうしよう」がたくさん生まれます。朝起きたとき髪の毛が立っていて「がっこうに いったら、みんな わらうだろうなあ。どうしよう。」だったり、「むこうから、となりのクラスの あこがれの かほちゃんが やってきた。どうしよう。」だったり、“どうしよう”と思う度に、いろんな“ぼく”が出てきてしまい、どうすればいいのかなと、あたふたしてしまいます。
そして、思い切ってやってみて、思ったよりも悪くなかったり焦りすぎて失敗したり、ぼくは失敗も成功も繰り返していくのです。ぴったりの答えがあるわけではありません。でも、そうやって答えがないからこそ、体当たりしていけばいいということを身につけていきます。
子どもも大人も、こうやってトライアンドエラーの経験を重ねながら成長していくんですね。
向き合う心の準備
自分の弱点・弱さに向き合うことが好きという人は、誰もいませんよね。できれば、四六時中蝶よ花よと誉めそやされて生きていきたい……私も常にそう思っています。ですが、そうもいかない人生において、ちょっとでも自分の弱点に向き合う耐性を培える、そんな本をご紹介します。
すごい人ほどダメだった!
読めば勇気がわいてくる、新しい心の教科書
ピカソ、絵を見せて
「意味わからん」
と言われる。
失敗エピソードだけにとどまらず、
子どもを勇気づけるための「心の教え」もそれぞれに掲載。
この本は絵本ではないのですが、偉人たちが偉業とともにどんな失敗をしてきたかを楽しいイラストで数ページごとに紹介しており、小学生以下の子へも楽しく読み聞かせてあげられる本です。
失敗を繰り返し続けて成功していったエジソンのような人もいれば、せっかく成功したのにそれを活かせなかったことで微妙な人生をたどってしまったライト兄弟、失敗しちゃったけれど自分の弱点に真摯に向き合い復活を遂げた二宮尊徳(特にメタ認知能力を活かせた人物なのではと思います)、などなど「失敗→成功」という王道だけではなく「せっかく成功したのに失敗しちゃったね」という偉人の事例もあり、非常に考えさせられます。
誰にとっても「弱点」を知ることは怖いもの。ですが、先人たちの“失敗”を参考に、
「失敗は誰だってするもの。それをどう捉えて次に活かすかが大事」という心構えが伝わる1冊です。
自分を知り、自分の道筋を決めていく
最後に、自分の現状を知っていくこと、それは自分の道を決断すること、ということが伝わる絵本をご紹介します。
主人公は、空に浮かぶ“くも”。日記の始めで「くもをつかむような日記のはじまりだ。」と意気込んでいるのもちょっとお茶目で、いろんなものの所に自分から行ってはいろいろ試す好奇心旺盛な“くも”です。ですが、日記が進んでいくと端々に、負けず嫌いであまのじゃくで、自由を愛する気性であることが読者にも分かってきます。
日記のように「記録する」ということは、自分を知りコントロールしていくことにぴったりの手法で、くもも、日記をつけていくことで何が好きなのか何をしているとうれしいのか、などが自分でもだんだんわかっていきます。そして、自由を愛するくもは、新たなチャレンジをしていくのです。
さいごに
メタ認知能力の中でも、「弱点に向き合い、自己をコントロールする」という部分に焦点を当てて絵本をご紹介しました。
「弱点に向き合う」を行うためにはどうすればよいかしら?と考えたのですが、ここにはさらに“レジリエンスの力”が必要なのかなと思います。レジリエンスは、心が折れそうになっても乗り越える力で、以前「絵本で育むレジリエンス」の回でも取り上げました。
そして、さらにそのベースには「わたし、こんな弱点や失敗があるけれど、こんないいところだってあるのよ!」と思える自己肯定感も必須です。
ただ「弱点・課題に向き合おう」と言ってもそれは辛いだけですよね。そこに向き合えるのは、「でも私、ほかにいっぱいいいところあるし」と揺らがない自己肯定感があるからなのかなと思います。私のこれまでも、やらかしてしまった失敗やガツーンと手厳しく指摘されてしまったことなどが多々ありましたが、それに目を向けることができたのは、これまで成長してきた中で「〇〇先生に、読書感想文をほめられた」「〇〇が上手だってあのとき言われた」などの多くの「褒められた・認められた」貯金のおかげかなと思うのです。
子どもたちへもただ「弱点を克服しろ」というよりも、それに自分から向き合えるまでに、たーくさん褒めてあげたほうがよいと思います。いいところをたくさん認めてあげてください。親だからこそどうしても我が子に対して歯がゆさを感じてしまうときもあるんですけどね、「ぼくは、こんなにいいところがあるから大丈夫」と思えれば、弱点も失敗も認められて、メタ認知能力も自然に上がっていくのではないでしょうか?
ですので、今回の絵本を読んでいただいて、「あなたにはいいところがいっぱいあるのだから、いやなことがあっても失敗してもだいじょうぶだいじょうぶ」と伝えることが、メタ認知能力の土台になるのではないのかなと思います。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
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