【夏休み特別編】読書感想文を”絵本”で書いてみよう!
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
読解力・表現力を養う! 絵本で書く読書感想文
今年も夏休みが迫ってきました。子どもたちにとってはウキウキワクワクの夏休み。親にとってはハラハラドキドキの夏休みでございます。親は忙しいのに子どもの自由度が上がってしまうジレンマが辛い夏休み。宿題早くやれよと思いつつ、最後まで残ってしまうのが「読書感想文」です。
各学校によって、やり方はそれぞれですが、毎年親子をとまどわせる読書感想文。ですが、これから成長していくにつれて「文章を書く」「表現する」という力は、ありとあらゆるところで必要となってきます。PISA(生徒の学習到達度調査)によると、日本の子どもたちの「読解力」が落ちているという気になる調査結果もあります。 ということで今回は、夏休み特別編、絵本で読解力・表現力を養うレッスン! ということで、「絵本で読書感想文」をテーマに、書き方や本の選び方を、具体的に例を挙げながら考えていきたいと思います。
なぜ、絵本で読書感想文?
まず、なぜ“絵本”で書くのか? をご説明したいと思います。
・短い
身も蓋もない言い方なんですけどね、「短いから読みやすい」「取り掛かりやすい」と、まず心理的なハードルを下げておくことは、結構大事です。私は、大人になってからも、評判と聞いた作家さんの新刊を予約して、いざ書店に取りに行ったら、あまりの分厚さに「うっ」と圧を感じることもありますし、京極夏彦さんの本などは「枕にできるなあ……」と思ったりもします。
今回は、「絵本で読書感想文」がテーマなので、基本的に小学校低学年くらいの子を想定してお話いたしますが、そのくらいの子は脳の発達も途中段階にありますので、集中できる時間は短いです。いきなり長い本をぼーんと出されても、逃げ出してしまいます。ですので、「これなら読める!」と自信をもって読み始められる絵本がおすすめなのです。
・イメージしやすく、テーマを捉えやすい
こちらも、絵本の特性上の利点ですが、物語を絵で表現しているところから、状況のイメージをつかみやすいのが特徴です。
例えば、こちらの絵本。
こんなことって、アルアル! 自分の気持ちも振り返って考えるきっかけになる絵本
大切なきょうりゅうずかんを、れんは、友だちのだいちに貸したつもりだった。
だけど、だいちはもらったつもりだった。
勘違いの原因は、大きな工事現場の音。
聞き間違い、勘違いからはじまる男子のけんかと仲直りの物語。
こんなことってアルアルな状況。読者の子どもたちが、自分の気持ちも振り返って考えるきっかけになる絵本です。
“聞きまちがい”から起こるトラブルの物語ですが、そこから起こる登場人物たちの気持ちの移り変わりが、絵に描かれた表情から非常によく伝わってきます。
また、そこからこの絵本の「友だちと勘ちがいから、けんかしてしまった」というテーマも、わかりやすく捉えることができ、「なんで、どちらも悪くないのにけんかになったんだろう」という疑問や、「自分だったらこういうときどうするかな?」という意見などが出やすく感想文につながりやすくなります。
読書感想文がふくらむ5つの要素
「読書感想文=本を読んだ感想を書いた文章」でしょ、といっても、「感想=おもしろかった!」で終わらせずに、できるだけ肉づけをしていって、原稿用紙2枚分くらいは書かないといけません。
「おもしろかった!」を肉づけしていくための要素を知っていきましょう。
① その本を選んだ理由
なぜこの本を読もうと思ったのか、「おもしろそうだと思ったから」だけでなく、
・なぜおもしろそうだと思ったのか
・どんなところがおもしろそうだと思ったのか
を書きましょう。
② その本のテーマはなにか
ここはさっと触れるだけでもよいのですが、「この本のテーマとは何か」を示しておくと、「お、しっかり読みこんでるね」と印象が上がってGOODです。
③ その本を読んでなにを思ったか、そう考えた理由
そして、もちろんここが一番重要です。ただし、ここも「おもしろかった!」だけではなく、
・このようにおもしろかった!
・こういう点がおもしろかった!
・こういう理由があっておもしろかった!
と、具体的に書いて肉づけしていきましょう。
④ そう考える理由に、説得力をもたせる“具体例”を入れよう
この部分は、他の人の読書感想文と差をつけて自分の個性を出せる見せ場です。その本のテーマと関連づけられる自分ならではの具体例をあげてみましょう。
海のなかで、子どもを守る親たちの姿!
口の中で子育てしたり、お腹に卵をくっつけて泳いだり…一生懸命に子どもを守る、けなげでたくましい親たちの姿、美しくかわいらしい、卵や子どもたちの姿を、ユーモラスな文と美しい写真で紹介。がんばれ!と応援したくなります。
例えばこの絵本のテーマ、「海の中の生き物がどう子どもを産んで守るか」に関連して、
・自分がお腹にいたとき、おかあさんはどうだったか
・おとうさんおかあさんが、今までどのように自分を守ってくれたのか
などを具体例に入れて、「だから、こういう感想を持ったのだ!」と言えると、ぐっと説得力が増します。
⑤その本によって、自分がどう変わったか
この部分が、この読書感想文をまとめる部分です。その本によって、自分の考えがどう変わったのか説明して、その本が自分に与えた影響を表現しましょう。「どう変わったか」とは、
・その本を読んでから、どのように考え方や気持ちが変わったか。
・読んでから、どう行動を変えたのか。
ということです。
本を選ぼう
読書感想文の要素をつかんだところで、次は絵本選びです。
もちろん、「おもしろい」「好き」な絵本であるべきですが、さらに必要な要件があります。それは、
・その本のテーマについて、自分なりのエピソード、体験がある
ことです。なぜかといいますと、この「エピソード・体験」があると、その本を選んだ理由も説明でき、その本から何を考えたのかを、自分の体験を具体例として語って説得力も出すことができ、その本の感想がぐっと深まるんですね。
絶対必要条件ではありませんが、これがあると、感想文を書くことが本当に楽になります。
ですので、お子さんと絵本を選ぶ際には、
・「好き」+「エピソード・具体例が挙げられる」
を考慮して探してみましょう。
こんな風に書ける!
それでは、おすすめの絵本をご紹介しながら、具体的に「この絵本だったら、どんなポイントを押さえておくべきか」をご説明いたします。
ちょっとしたことがきっかけで起きる、子どもたちの変化と成長
いつもうっかりしてしまうわたしと、しっかり者のえみちゃんは、
登校も一緒で席も隣の仲良し同士。
忘れ物をしたときは、いつもえみちゃんが助けてくれる。
国語の教科書を忘れてしまった日、
いつものようにえみちゃんを頼ろうとしたら、
なんだかえみちゃんの様子がおかしくて??
〈テーマ〉
この絵本は、忘れ物を繰り返してしまう女の子が、ついにみんなにも迷惑をかけてしまったので、忘れ物をしないようにどうしたか?というお話です。「わすれものをしたら、どんなことが困るか」がテーマと考えられます。まずこちらを押さえて「このテーマについてどんな感想をもったのか」書くとよいと思います。
〈体験・エピソード〉
感想を裏付けるために、この絵本のテーマに関連した体験・エピソードを説明して、「だから、この本を読んで、そう思ったのだ!」ということを説明しましょう。
・実際に忘れ物をしてしまった体験
などを、自分のエピソードとして示すとよいでしょう。
〈どう変化したのか〉
そして、その絵本からの影響を示しましょう。例えば、忘れ物に対して、
・連絡帳を朝、必ず確認するようにした。
・忘れ物をチェックするようになって、こんないいことが起きた
など、この絵本からどんなことが変わったのかを説明するとよいでしょう。
次は、想像を掻き立てる絵本を取り上げます。
いつもの通学路が冒険の旅に
家を飛び出し、あわてて走る男の子。今日は絶対に学校に遅れちゃいけないのだ。でもゆくてには、水たまりじゃぶじゃぶ、歩道橋ぐねぐね、大きな犬たちがわんわん、踏み切りは閉まったまま。なんて、じゃまするものばっかり。さてこの男の子、学校に間に合うの? そして最後に待っているのは……。にぎやかハッピーな世界を突っ走るスピード感あふれる絵本。いつもの通学路が冒険の旅に変わるかもしれない!?
〈テーマ〉
この絵本は、学校に遅刻しそうな男の子が、焦りすぎて時の流れがおかしく感じられたり、通学路の途中で自分をじゃまするふしぎなものがたくさん見えてきたり、それらを越えて、ようやく間に合った学校ですてきな体験をする話です。こうした内容から様々なテーマの捉え方ができます。遅刻しそうというところから
・遅刻しそうになったとき
をテーマとして設定してもよいですし、
・焦っている時にかぎって時の流れが長く感じる
ことにしてもよいですし、通学路の途中でなんだか不思議なものが見えてくるという
・通学路の途中の面白さ
を設定してもよいと思います。こうした幅広いテーマを1冊の中で選べることが、絵本で読書感想文を書くことのだいご味ですね。
〈体験・エピソード〉
こちらに関しても、自分が取り上げたテーマに沿って感想を述べ、その感想を裏付ける体験・エピソードを書きましょう。
・自分が遅刻してしまったときのこと、気持ち
・「まにあわない!」と思ったとき、自分には時間がどう感じられたか
・いつもの通学路がちがって見えた体験
などが考えられると思います。
〈どう変化したのか〉
そして、変化についても、
・この絵本を読んで「遅刻しそうになった」とき、どうすればいいと思ったか
・時間が長く感じられたり短く感じられたりすることに対してどう考えるようになったか
・通学の途中をどう楽しむようになったか
など、感想からつなげて、どう気持ちが変化したのかを説明しましょう。
ここまで、物語絵本の例を挙げましたので、最後にノンフィクション絵本の場合を例に取り上げます。
アメリカ最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグを活き活きと描く伝記絵本
アメリカ最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)は、差別されている人たちを一貫して支え、納得できないことに反対の声をあげつづけ、社会を変えていきました。RBGを幼少期から活き活きと描いた伝記絵本!
〈テーマ〉
この絵本は、実際にアメリカで活躍した女性判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグの生涯を描いた絵本です。特に、女性の平等のために声を上げ続けたことで有名です。
この絵本からは、
・どんな困難な状況でも、自分の意見を貫くこと
・男女の不平等の歴史、問題
がテーマとして考えられます。
〈体験・エピソード〉
・自分の意見を貫いた、または、貫けなかった体験
・不平等だな、と思った例、体験
などを示すとよいでしょう。
〈どう変化したのか〉
そして、その絵本を読んで、
・これからは、自分の意見をどう示そうと思ったのか
・平等じゃないな、と思った場合、これからどうしようと思ったか
など、この絵本から「これからどうすればよいと思ったか」考えを説明できるとよいですね。
さいごに
小学校に入りますと、一気に「書く」機会が増えていきます。
未就学児のうちは園からお便りを保護者に渡せばそれまででしたが、1年生になってからは連絡帳は自分で記入になります。ほかにも、ちょうど先日が読書週間だったので、我が家の1年生の子も「読んだ本の感想を書きましょう」というプリントをもらってきました。「感想ってどう書くの?」と聞かれ、てんやわんやで説明してなんとか一文だけ書けたという状況です。
そんな感じで低学年の子は「感想文ってなに?」というところからのスタートですので、取り掛かりのハードルは下げて下げて、まずは楽しく書いてみよう!で良いと思います。そのためにも、まずは「読みやすい」絵本を選んでみましょう。究極、『だるまさんが』で感想文を書いても良いのです。うちの子たちは、小学生になっても「だるまさん」シリーズを読み返しています。幼い頃、『だるまさんが』を読んで何が楽しかったか、その経験が小学生の自分にどうつながっているのか、を書けば、原稿用紙2枚分いけます!
こちらの記事の引用ですが、
読書感想文は、本のことを書くのではなく、自分のことを書くのです。
大学受験では小論文が必要となり、海外の大学受験でも“エッセイ”という、「自分とはどんな人間なのか」を文章で表現しなければいけません。そこまで先のことを考えすぎなくてもとは思いますが、「自分はどんな人間なのか」、を書いて説明する機会は、これからどんどん増えます。そんな自己表現の練習に、読書感想文はうってつけです。
これから始まる夏休み、親は戦々恐々としつつも、子どもたちはじっくり「自分って何が好きなんだろう?」と考えられる時期です。親子で本を選んで、読書感想文に楽しく取り組んでいってみてください。うちもがんばります!
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
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