【2022年版】小学1、2年生の読書感想文におすすめの本10選!
お出かけに、遊びに、学びに……行動範囲が広がる夏には、子どもたちにたくさんの楽しい体験をしてほしいもの。そのひとつとして、時間がたっぷりある夏休みに体験してほしいのが、お気に入りの本との出会い。
「君だけの一冊にきっと出会える!」2022年の夏はこちらをキーワードに、新刊を中心とした旬のおすすめ本を、学年別にご紹介していきます。読むきっかけが読書感想文をはじめとした宿題のためだとしても、自分で本を探してみること、そして読んでみることにチャレンジしたら、きっと自分だけのお気に入りの一冊に出会えるはず。
では本選びのスタートです!
記事では、子どもたちが少しでも本を選びやすいように、小学1年生向けに5冊、2年生向けに5冊と対象学年を分けております。けれども小学1年生でも2年生のおすすめ本を、2年生でも1年生のおすすめ本を選んでいただくことは全く問題ありません。ページ数を確認いただいたり、見開きページのあるものについては字の大きさを確認いただくなどしながら、目の前のお子さんが無理なく読めそうなもの、逆に簡単すぎないものを選んでみてくださいね。内容は理解できそうだけれど、ひとりで読むのが難しそうな場合には、大人の方が読んであげることもおすすめします。
小学1年生の夏の読書と読書感想文におすすめの本
『せかいでさいしょに ズボンをはいた 女の子』(光村教育図書)
「さいしょにズボンをはいた女の子」? このタイトルを見たとき、えっ、どういうことだろうと思いませんでしたか? そう、今では女の子もズボンをはきますし、女の子だから、男の子だからといって着てはいけない洋服なんてないですよね。けれども、昔、女の子がズボンをはいてはいけない時代があったということをこの絵本は教えてくれます。ではどうして今は普通にはけるようになったのか、それは、メアリーというひとりの勇気ある女の子のおかげだったのです。
※41ページほどの絵本なので、長い読み物はまだちょっと難しいかなという人におすすめです。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- この本を読んで驚いたこと、はじめて知ったことはどんなことだろう?
- 周りの目やどんな声にも負けずに、勇気ある行動をしたメアリーをどう思った?
- 本の中で心に残ったことばがあったら、書き出してみよう。
「わたしは わたしの ふくを きているのよ!」
みどころ
女の子がズボンをはく。今では当たり前のことが、許されない時代があった。そんなことって、考えられる? それも、たった150年前の本当の話。
女の子が着ることができたのは、きゅうくつなドレスだけ。動きにくいし、息をするのも楽じゃない。だけど、それがおかしなことなんて、みんな思わない……でも、メアリーだけはちがった! 彼女はズボンをはいて、町へ出かけた。すると、とにかくもう大騒ぎ。
「とんでもない!」
「ズボンなんかはいて、後悔するぞ」
みんなの言葉には屈しないメアリーだったけれど、やっぱり胸にささる。どうして、みんなが文句をつけるのかわからない。そんな時、お父さんが言ったのは……。
この絵本の主人公のモデルとなったのは、後に女性初の軍医として活躍し、フェミニストとして知られたメアリー・E・ウォーカー。巻末には、その当時ズボンをはいて撮られた写真とともに、彼女の半生の解説も収められています。
常識だと思っていたことが、常識ではない時代があった。道を切り開いてくれた人がいた。それだけでも、子どもたちには大きなインパクトのあるお話のはず。そして印象的なのは、多くの大人たちが「かわってしまうのがこわい」と感じてしまうという事実。私たちは、いつだって変化していく時代のその「途中」にいるのです。とっても魅力的に描かれた、メアリーの姿に元気をもらいながら、自分たちにとっての当たり前を考えていかなくてはいけませんよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
タイトルにひかれ、手に取りました。
女の子はドレスを着るのが当たり前だった時代に、自らの意思でズボンを履こうと行動した女性のお話。
お父さんの「にんげんってあたりまえだとおもっていたことがかわってしまうのがこわいんだ」というセリフが印象的でした。
お話はハッピーエンドですが、実際には、本当にいろんな困難があったのだろうと想像できます。
ピンク色をベースにしたおしゃれなイラストで、大人も楽しく読めました。
(クッチーナママさん 40代・ママ 女の子17歳、女の子14歳、男の子12歳)
『おてがみほしいぞ』(あかね書房)
ある日、ゆうびんやのヤギが手紙を配っているのを見かけたオオカミのギロン。手紙を受け取った動物たちが嬉しそうな姿を見て、自分も手紙が欲しくてたまらなくなります。でもどうやったら手紙がもらえるの? キツネが教えてくれたアドバイスをもとに早速行動してみたギロンでしたが‥‥‥。ギロンのところに手紙は届くのでしょうか?
ゆうびんやのヤギのおかしな行動にも注目してみてくださいね♪
※79ページほどの読み物なので、少し長めではありますが、字が大きく全てのページに挿絵が入っているので読みやすいでしょう。この本で読み物に挑戦してみるのもおすすめです。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- 手紙をもらったことはある? その時どう思った?
- 手紙がほしいとおもったら、自分だったらどうする? オオカミのギロンの行動とくらべて書いてみよう。
- 面白いと思った場面はどんなところだった? それはどうして?
- 手紙について感じたことや分かったことがあったら、いろいろ書いてみよう!
どうしたら「手紙」がもらえるの? 「手紙」が巻き起こすユーモアいっぱいの温かなお話
みどころ
ヤギの郵便屋さんがせっせとお仕事、お手紙もらったリスやウサギは、みんなうれしくておおよろこび!そんな様子をうかがうオオカミのギロン、うらやましくってしかたない。
おれだって、おてがみほしいぞ!
でもギロンには、ともだちがいない。オオカミのギロンを見るだけで、ウサギもヤギもガクガク、ブルブル。だからギロンはいままで一度も、手紙をもらったことがない……。
機嫌が悪いとキバをむきだし、おおきな声でどなったかと思えば、手紙をもらえないさみしさに、シュンと弱々しくうなだれる。みんなから怖がられているけど、とてもすなおで、ちょっぴりさみしがりなギロンの、愛らしいキャラクターがみどころです。
そんなギロンが、生まれてはじめての手紙をもらうために奮闘!
自分から手紙を書けば返事がもらえると知ったギロンは、さっそくペンを手に取ります。ところが、ともだちも、家族も、親戚もいないギロンには、手紙を書く相手がだれもいません。そこでギロンは、すごいアイデアを思いつきます!
そうだ! 自分に宛てて、手紙を書こう!
自分で自分に手紙を書くのは、なんともおかしな気分。なかなかうまくいきませんが、なんとか書きあげた一通を、ワクワクしながらポストに入れます。
ところが、待てども待てども手紙は届きません。自分から自分へと届くはずの手紙が、いったいどこへいったというのでしょう? 消えた手紙を待つうちに、思いもよらない出会いがあって──?
言葉や名前を通じて、人とわかりあう。そんなあたたかさとワクワクに、あらためて気づかせてくれます。
(堀井拓馬 小説家)
読者の声より
うちの子供も、お手紙を書いたりもらったりするのが大好きです。
このオオカミさんの気持ち、すごくわかったのじゃないかな。
ヤギさん、勇気を出して本当のことをオオカミに伝えることができてえらいぞ!とも思いました。
おてがみが、どんなに大事なものかよくわかっているからこそのこの展開。
でも、封筒をあまり鼻に近づけないほうがいいと思うよ。
(だっこらっこさん 40代・ママ 女の子7歳)
『しんぱいなことが ありすぎます!』(金の星社)
1年生のももは、忘れ物をしたことがありません。それは忘れ物が心配で、教科書やノートなど全部ランドセルに詰め込むから。おかげでランドセルはいつもパンパンです。一方、クラスメイトのかずまくんはとっても身軽。それはぜーんぶ荷物を学校に置いているから。さて、皆さんの性格はどちらに近いですか? 私自身はかなりの心配性なので、つい荷物がいっぱいになってしまうももの気持ちや、かずまくんをずるい! と思ってしまう気持ちがよ~く分かります。皆さんも本の中に自分と似た気持ちを見つけてみてくださいね。
※95ページほどの読み物ですが、文字が大きく全ページに挿絵が入っているので、長さを感じずに読めるでしょう。1年生にぴったりのお話です。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- 心配性でいろいろなことを一生懸命考えるももちゃんのこと、どう思った?
- いつも身軽で、いろいろ気にしないかずまくんのことはどう思った?
- それぞれの性格の良いところを考えてみよう。
心配性のももと、気楽なかずまくん、どっちに共感する?
出版社からの内容紹介
ももっち、ヤドカリ みたいだな!
かずまくん、なんで そんなに かるそうなの?
ももは忘れ物をしたくなくて、教科書やノートを全部ランドセルに入れました。翌朝、ももは両手に荷物を持ち、ヤドカリみたいと、かずま君に言われます。かずま君は全部学校に置いてあるんだって。そんなのずるいよ!
読者の声より
対照的な二人の感覚や性格に、思わずクスッとなっています本です。
どちらのタイプの子もいるでしょうから、読み手のお子さんも共感できるでしょうね。
いまや置き勉という、学校の机の中に宿題以外の教科書類を置いて帰ってよいという方針があるので、ももちゃんも楽になるのではないでしょうか(笑)。
(まゆみんみんさん 40代・ママ 女の子11歳)
『さかさまがっこう』(文溪堂)
学校で忘れ物をしてしまっただいくん。先生に怒られるのが嫌で、「さかさまになあれ…」と呪文をとなえたら、あれあれ、先生に忘れ物をほめられた! さらにテストの点数が悪い人がほめられて、百点の人は残念なんて言われてる? まさか呪文が効いたのかな。さかさまになると学校はやりたい放題、自由で楽しい。でも困ったことが起きて‥‥‥。
※45ページの読み物ですが、全ページにカラーの挿絵が入っていて、楽しく読みやすいお話です。絵本から読み物への橋渡しにもおすすめ。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- さかさまになって面白かったのはどんなところだった?
- さかさまになって、だいくんが困ったことはどんなことだっただろう? もし自分にも同じことが起こったらどう感じるかな?
- こんなことが、さかさまになったらいいのにな、逆にさかさまになったら困る! ということを、いろいろ考えてみよう。
『ながれぼしのランドセル』(フレーベル館)
同じクラスの隣の席の子や近くの子、また何か係が一緒になった子などで、はじめは気が合わなそうだと思ったり、仲良くなれなそうだな? なんて思ってしまったことはありますか? このお話の主人公だいすけも、隣の席ののぶやくんがもじもじしていて、声も小さいことからイライラしてしまって、あまり話をしませんでした。けれどもちょっとした行き違いからのぶやくんが大事にしていたものを傷つけてしまいます。それをきっかけに、のぶやくんの気持ちを考えたり、のぶやくんがだいすけに対して思っていたことを知ることになり……。だいすけとのぶやが「しんゆう」になるまでのやりとりにハラハラしながら、心に温かさが広がるお話です。
※80ページの読み物で文章も長めなので、しっかりと読み応えがあります。けれども全ページにお話にぴったり合った親しみやすい挿絵が入っているので、難しさを感じずに読める一冊です。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- もし友だちの大切なものを傷つけてしまったり壊してしまったら、どうする?
- はじめは仲良くなかったけど、なにかをきっかけに仲良くなったことや、友だちに感じていた気持ちが途中で変わったことなどがあったら、それを書いてみよう。
- だいすけのおじいちゃんが言う「しんゆう」ってどんな人のことだと思う?
友達の大切なものを傷つけてしまったら、どうする?
出版社からの内容紹介
大切にしていたものを思いがけずに傷つけてしまったら?
ランドセルの流れ星がふたりの男の子の心をつなぐ。
大好きだったじいちゃんに買ってもらった
ながれぼしのランドセル。
だけど、ロッカーのとなりには、まるでふたごのように
おんなじランドセルがならんでいて……。
ある日、のぶやくんが大事にしていた、星がいっぱいの下じきがなくなった!
家に帰っただいすけのランドセルから、なぜかのぶやくんの下じきが……。
わざとじゃないけれど、その下じきを傷つけてしまっただいすけ。
のぶやくんが大事にしていたことを知っていたのに。
自分が大事にしているじいちゃんが買ってもらったランドセルが同じ目にあったら?
ぜったいにゆるせない!
だったら……のぶやくんはゆるしてくれるかな?
どうやってゆるしてもらえるのだろう?
ふたりの男の子の心をつなぐ「ながれぼしのランドセル 」。
小学1年生の友情と成長を描きます。
小学2年生の夏の読書と読書感想文におすすめの本
『すきなこと にがてなこと』(くもん出版)
「ひと それぞれ すきなことがある。」「ひと それぞれ にがてなことがある。」この絵本は誰にでも「すきなこと」もあれば「にがてなこと」もあることをまず教えてくれます。この絵本で子どもたちに伝わるといいなと思うのは、「にがてなこと」も決して悪いことではなくて、誰かとつながるきっかけになるということ。みんなそれぞれの「にがて」を補い合って生きていることを感じる視点を持って、他の誰かの「にがて」についても温かく認めることができると良いですよね。また「すきなこと」が分かったら、それを誰かのために役立てられないか考えるきっかけにも。あらゆる年齢の人や国を超えて、世界中が「すき」と「にがて」で繋がっていることが伝わる一冊です。
※絵本なので、長い読み物はまだちょっと苦手……という人でも難しくなく読めるでしょう。内容は身近にとらえられるテーマながら、深く考えさせられるものがあるので、感想文も書きやすいのではと思います。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- 自分の「すきなこと」「にがてなこと」ってどんなことだろう?
- 自分の「すきなこと」で誰かを手伝ったり、役に立てるとしたらどんなことができるだろう。
- 身近な家族の「すきなこと」「にがてなこと」についても考えてみよう。さらにそのことで協力し合っていることがあったら、見つけて書いてみよう。
みんな「すき」なこと「にがて」なことがある。自分の「すき」が誰かの「にがて」を支えられたら……
みどころ
ぼくはスポーツが大好き。ボールを使うと大活躍できる。でも……みんなの前で発表するのが苦手なんだ。そんな時は話すのが大好きなりんちゃんが一緒に発表してくれる。
そのりんちゃんは、動物が苦手。飼育係の時には、動物大好きけんちゃんが手伝ってくれる。歌が大好きなソフィアちゃんは、工作が苦手。工作が得意なこうくんは、じっとしているのが苦手。
誰だって好きなことがあれば、苦手なこともあるよね。
それは大人だって同じ。料理が好きなお父さんに、運転が好きなお母さん。小さい子どもが苦手な郵便屋さんに、早起きが苦手な保育士さん。さらに「すき」「にがて」は国境だって越えていく。英語の得意なマリーちゃんはパソコンが苦手。ミンジュンはパソコンが得意だけれど……。
苦手な事は克服するべきだと、前向きな気持ちで頑張ることは、もちろん大切だけれど。「にがて」が個性になり、どこかの誰かとつながっていき、「すき」が隣にいる人を助けることがある。そんな素敵な考え方もあるんだということを、この絵本は丁寧に優しく伝えてくれています。
多様な人々が共生していける社会になるには「自分を認め、他者と支えあう」ということが不可欠です。こんなにも身近なところからスタートできるのだという発見は、大人になった私たちも含めて、見失ってはいけないことかもしれませんよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
「できることできないこと」ではなくて、「すきなことにがてなこと」というのがいいですね。誰にでも得意不得意はあるもので、それは子供だけでなくて大人にも共通するものかも知れませんね。苦手なことに悲観することもないですし、好きなことを伸ばすのもまたいいものかと思いました。「好きこそ物の上手なれ」という言葉を思い出します。
(まゆみんみんさん 40代・ママ 女の子10歳)
『プンスカジャム』(福音館書店)
子どもも大人も、誰でもわっーと怒りで気持ちがたかぶってどうにもおさまらない! なんてことありますよね。このお話の中心となって描かれるのは、自分ひとりではなかなか鎮めるのが難しい「怒り」という感情との向き合い方。友だちが待ち合わせに来なくてものすごく怒っている2年生の男の子ハルくん。道で見つけたパン屋の「ベーカリーあんぐり」で出会ったあぐりさんから「そのプンスカをジャムにしないかい?」と言われて‥‥‥。怒りでジャムを作るってどうやるの!? そこにはなにか怒りをしずめる秘密があるようですよ。
※64ページの読み物です。字は少し小さめですが、味のある登場人物の姿やおいしいパンの挿絵で楽しく読み進められるでしょう。「しゅるしゅるしゅる」「もわもわぷくーっ」「ひゅるん」などの擬音がたくさん出てくるところも心地良い一冊です。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- 怒りがどうにもおさまらなかったということはある? その時はどうやったら気持ちがおさまったか覚えてる?
- 友だちとの約束で、ハルくんのようにうまくいかなかったことはある? その時はどうした?
- 主人公のハルくんは、ジャムを作りながらどうして怒りがおさまったのだろう?
- お話の中で好きな場面があったら書いてみよう。
怒りがどうしてもおさまらない時には‥‥‥!? 「怒り」という感情との向き合い方を楽しく描いたお話
みどころ
すごく楽しみに待っているのに友だちのタニくんが来ない。約束したのに!
「もう、もうもう、もうもうもう、ぼくは、おこった!」
楽しみな気持ちががっかりに変わり、がっかりが怒りに変わって、どうにも止まらなくなってしまった小学2年生の男の子ハルくん。まっすぐ家に帰りたくなくて、いつもと違う道をどっしん! どっしん! どすどすどす! とめいっぱい足を踏みならしながら歩いていきます。すると目の前に赤くて丸い形をしたふしぎな車が現れました。車に書かれていたのは、「ベーカリーあんぐり」「あなたのプンスカ、ジャムにします」という文字。
「プンスカってなんだろう。」
考えていると、ハルくんの前に「あぐりさん」と名乗るおばあさんが顔を出しました。誘われて車の中に入ると、そこにはたくさんの美味しそうなパンがずらり。ハルくんは、メロンパンとお茶をごちそうになりながら、あぐりさんにいろいろな話をします。そうしているうちに「そのプンスカをジャムにしないかい?」と提案されて‥‥‥。それってどういうこと?
ぷんぷんしているハルくんにおいしいパンとお茶を出し、じっくり話を聞いて、ただただ受け止めてくれる自称「まほうつかい」ことあぐりさん。ぐちゃぐちゃになった気持ちをまるごと受け止めてくれるそのやりとりは温かく、ほっとする子どもたちもたくさんいるのではないでしょうか。
中心となって描かれるのは、自分ひとりではなかなか鎮めるのが難しい「怒り」という感情との向き合い方。子どもだって大人だって、誰でもわっーと怒りで気持ちがたかぶってどうにも収まらない! なんてことありますよね。その「怒り」への向き合い方を、こんなに楽しいお話で分かりやすく伝えてくれるなんてすごい! いったいどんな方が書かれたお話なのかしら? と思ったら、くどうれいんさんの初の童話なのだそう。童話は1作目ということなのですが、くどうれいんさんは、文学の世界では、小説やエッセイ、俳句、短歌と幅広くご活躍の、今注目を浴びている作家さんです。
かんかんに怒っているハルくんの怒りの表現(「耳があつくて、のどがきゅっとしまるかんじがして、うでをぶんぶんふりまわしたい気持ち」「なんだってやってしまいたい気持ち」など)には、頭にきた時の気持ちってまさにこんな感じ、とうなずいてしまいますし、たっぷり登場する「しゅるしゅるしゅる」「もわもわぷくーっ」「ひゅるん」などの擬音もとても心地良く、ことば選びがとても魅力的に感じられて、今後の作品への期待が高まります。
挿絵は、絵本『とおくにいるからだよ』『ゲナポッポ』などでおなじみのくりはらたかしさん。表情豊かで親しみやすい登場人物や、楽しさいっぱいの「ベーカリーあんぐり」の様子は、お話を一層ワクワクさせてくれます。こんな楽しそうな車のパンやさんがあったら、出会ってみたいですよね。
さあ、もし「プンスカ」したら、おなべをじーっとみて、ゆっくり「プンスカジャム」をかきまぜてみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『けんかのたね』(岩波書店)
ひとつの「たね」(きっかけ)からどんどんケンカが起こっていく様子と、その逆が起こっていく様子が一気に目の前で繰り広げられます。とくにドタバタのけんか劇が修復していく様子には、しっかりと心に残るメッセージがあるでしょう。「けんか」という子どもたちにとっても大人にとっても身近な日常の光景には、身に覚えがあると感じる人も多いのでは? 自分事として考えられるお話なので、親子で一緒に読んで感想を交換してみるのもおすすめです。親子や兄弟で違う感想が出てきたら、それを感想文に書いてみるのも面白そうですね。
※62ページの読み物ですが、テンポよく進むお話であっという間に読めるでしょう。ユーモアいっぱいの挿絵も魅力的です。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- どうして、家族みんながけんかすることになってしまったのだろう?
- どうして、急にけんかがおさまったのだろう? それは誰のどんな行動がきっかけだったかな?
- お話を読んだ後、もし自分がけんかしてしまったら、どうするのが良いと思った?
- 面白いと思った場面があったら書いてみよう。
もめごとが繋がる「たね」と、解決していく「たね」の両方に注目してみよう。
みどころ
忙しい一日を終えたお父さんが家に帰ると、家の中は大さわぎ! いぬは、ねこをおいまわし、4人のきょうだいは大げんか。「いったい、だれをしかっていいのやら……」と途方にくれるお母さん。
「わたしは、わるくない!」と、いちばん上のおねえちゃんのドラ。
「ちがう! ぼくのせいじゃない」と弟のフランク。
「あたしのせいじゃない」と妹のエミリー。
つぎつぎに自分のせいじゃない! といいわけする子どもたち。
一方、いぬのボンゾーとねこのプッスはいいわけができません。
結局すえっ子のミーナの言い分から、もめごとのはじまりはねこのプッスということに。でも本当は違っていて……。
悪者扱いをされて面白くないプッスが向かったのは、ねずみのところ。「もとはといえば、おまえがわるいんだよ!」とねずみに襲いかかろうとするプッスに対して、ねずみは意外な行動をとって……。ここから流れが一気に変わります!
ひとつの「たね」からどんどんもめごとが繋がっていくさまと、その逆が起こっていくさまを同時に目のあたりにできるところが、このお話の面白さでしょう。とくにドタバタのケンカ劇が修復していくさまには、しっかりと心に残るメッセージがあります。子どもたちにとっても大人にとってもどこか身に覚えのある身近な日常の光景だからこそ、より心に響いてくるものがありそうです。
『おやすみなさいフランシス』でおなじみのラッセル・ホーバンさんが描く、ユーモラスながらも心に残る温かい家族のお話。小宮由さんの生き生きとした会話で進む語り口は、子どもたちに読んであげるのにもぴったり。登場人物のセリフの口調の違いからそれぞれの性格もよく伝わります。挿絵を描かれているのは、小学校の国語の教科書の表紙画なども手がけられている大野八生さん。けんかというテーマを和らげる、大野さんの明るくコミカルな絵は親しみやすいですね。中でも特にいいなと思った挿絵は、「けんかのたね」がどんどん繋がっていく様子がひと目で分かる表紙と、ねずみが丁寧に暮らしていることが伝わる壁の中のねずみの住まいの様子の絵。ぜひお話と一緒に楽しい挿絵の細部も楽しんでみてくださいね。
小学1年生ぐらいから大人の方まで、幅広い年齢の方におすすめしたい絵童話です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『王さまとかじや』(徳間書店)
お話に出てくる王さまは8歳。もし小学生だったら、皆さんと同じ小学2年生でしょうか。この8歳の王さまの周りにはとにかくたくさんの大臣たちがいて、なんでも大臣の言いなりで、好きなことがひとつもできずにいました。けれどもある日、王さまの大切な王冠がカラスに取られてしまい、解決するのに呼ばれた「かじや」と出会ったことで王さまの生活が変わっていきます。さて、王さまが知恵を働かせて「かじや」と一緒に、大臣たちをやりこめた方法とは? 算数大臣、お天気大臣、テーブル大臣‥‥‥ととにかくたくさんの大臣が出てくるところも面白いですよ!
※長く愛されていた絵本が、幼年童話の形で刊行されました。ページ数は64ページで、全てのページに楽しい挿絵が入っています。絵本から読み物への橋渡しにもおすすめです。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- もし王さまのように、自分で好きなことがいろいろできなかったらどうする?
- たくさんいる大臣の中で、とくにどの大臣が面白いと思った?
- 本の中には、王さまと「かじや」が二人でどんなことを話したのかが書いていないけれど、どんな話をしたのか自由に想像して書いてみよう。
- 面白いと思った場面はどこだった? それはどうして?
自由がなかった王さまが、大臣たちをやりこめた方法とは?
出版社からの内容紹介
スロボドキンの挿絵がたっぷり入った
低学年向けの読み物。
いつも大臣たちのいいなりで、
すきなことがひとつもできない
8歳の王さま。
でも、ある日、機転をきかせて…?
8歳の王さまは、なんでも
大臣たちのいうとおりにしなければならないのを、
とてもきゅうくつに思っていました。
そんなある日、大切な王冠が
カラスにとられてしまい…?
王さまが、機転をきかせて
大臣たちをやりこめる、昔話風のお話に、
コールデコット賞受賞画家が絵をそえました。
小学校低学年からひとり読みできる、
カラー挿絵がたっぷり入った楽しい読み物です。
『あたしって、しあわせ!』(岩波書店)
夜ねむれない時、主人公のドゥンネは、「あたしって、しあわせ!」と感じた時のことをひとつずつ思い出します。そのうちの一つは、一年生になるのをずっと楽しみにしていた時のことでした。学校がはじまるのがうれしくてたまらなかったドゥンネ。はじめは友だちができるか不安だったドゥンネでしたが、エッラ・フリーダという友だちができてからは毎日が輝きはじめます。ドゥンネとフリーダがお互いをとても好きで仲良く遊ぶ姿には共感する人も多いことでしょう。けれどもフリーダが遠くに引っ越してしまうことになって‥‥‥。さまざま悲しいことがあっても続いていく毎日の中に、しあわせを見つけようとするドゥンネ。大人にも静かで温かな感動を与えてくれる北欧から届いたお話です。
※134ページの読み物で、今回の記事で紹介した本の中では一番ページ数の多いお話ですが、1ページの文字数が少ないページもあるので、難しそうと思わずに挑戦してみてほしいと思います。けれどもお子さんが自分で読むのが難しそうな時には、親御さんが読んであげてくださいね。
【感想を書くヒント・子どもたちへの問いかけ】
- ドゥンネの気持ちに共感したところはどこだった?
- 大好きな友だちと離れなければならないこと、今まであった? あったらその時の気持ちを思い出して書いてみよう。
- 悲しいことや嫌なことがあった時、自分だったらどうする?
- 心に残った場面はどこだった? 1つでも複数でも、どうして心に残ったのかを書いてみよう。
仲良しの友だちがいるってとってもしあわせ!
みどころ
眠れないとき、よく、羊の数をかぞえる…なんていいますよね。
主人公の女の子、ドゥンネは、羊じゃなく「あたしって、しあわせ!」と思ったことを数えます。
ドゥンネの家族は、パパとねこのカッテン。ママは、ドゥンネがあかちゃんのときに病気で死んでしまいました。
でもドゥンネは、パパの愛情につつまれ、ときどきはママの親戚がいっぱいいるイタリアにいって「アモーレ」につつまれます。
前向きなドゥンネだけど、小学校にあがる前はちょっぴり不安でした。
学校って、どんなことするのかなぁ…。ともだちがひとりでもできなかったら、どうしよう…。
はじめは休み時間にひとりぼっちだったドゥンネですが、エッラ・フリーダという女の子と仲よくなります。
さあ、それからは、いつも2人はいっしょ!
けんかもするけれど、「あたしって、しあわせ!」と思うことだらけの毎日。
でもその毎日は終わりを告げます。エッラ・フリーダが遠くへ引っ越してしまうからです…。
全編にわたって、ドゥンネが前向きに「しあわせ!」に毎日をすごしていることが心を打つ、けれどさりげない日常のお話です。
大人にとっては大事件が起こらない平凡な日でも、子どもにとっては毎日事件がいっぱい。
ドゥンネは、エッラ・フリーダが引っ越していってしまったあと、ちょっとしたことでも涙が止まらない日々を送ります。
でもドゥンネは、「あたしって、しあわせ!」と思うことを忘れません。本当は…ちょっと自信がなくなるときもあるけど…。
読み終えて、7歳のわが家の娘は「あ~、いいところで終わっちゃった!」といいました。
ドゥンネとエッラ・フリーダが遊ぶところを、もっと読みたかったのだそうです。
本書は、スウェーデンの人気作家コンビによる作品。
どのページにも挿絵が入っていて、絵童話のような構成です。
漢字にはすべてにルビがふられていて、字も読みやすい大きさ。小学校低学年からの1人読みにピッタリです。
ドゥンネみたいに「あたしって、しあわせ!」と思うことを数えながら毎日暮らしていけたら、素敵ですよね。
心にぽっと灯りがともるように、やさしい読後感の本です。
(大和田佳世 絵本ナビ編集部)
読者の声より
小学校2年生の長男に薦められそうな本を探していて自分で読んでみました。
ドゥンネがなかなか眠れなくて一生懸命羊ではなくて幸せだったことを数えている場面で始まります。その中でドゥンネの家族や小学校入学、親友のことが明らかになります。子供にとっては日常の小さな出来事もどれも一大事ですね。
最後になぜ眠れないのかが分かって読者も幸せな気分になれます。主人公もお友達も女の子ですが、男の子でも違和感なく読めそうな気がしました。
(さみはさみさん 40代・ママ 男の子8歳、男の子4歳)
いかがでしたか。少しでも心に引っ掛かる本はあったでしょうか。
2022年、自分だけの特別な一冊に出会える夏となりますように。
秋山朋恵(あきやま ともえ)
絵本ナビ 副編集長・児童書主担当
書店の本部児童書仕入れ担当を経て、私立和光小学校の図書室で8年間勤務。現在は絵本ナビ児童書主担当として、ロングセラーから新刊までさまざまな切り口で児童書を紹介。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、まず本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選ぶことを1番大切にしている。著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。
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