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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「問いを立てる力」

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

生成AI時代に必要な「問いを立てる力」

ようやく夏休みが終わりましたね。今年の夏は猛暑日の最多記録も更新され、みなさまも必死で乗り切ったことと思います。そして、我が家はこの夏休み、ChatGPTデビューを果たしました。もちろん宿題に使ったわけではありませんが、小学校の保護者会でもChatGPTのガイドラインの説明があったり、7月に文部科学省から子どもの学習における生成AIの利用について公式見解が発表されたり、子どもの学習の世界にもChatGPTをはじめとする生成AI・人工知能がどんどん浸透してきています。子どもたちが触れる以上親も理解しておかねばと、ようやく重い腰をあげてChatGPTを使ってみました。すると、たしかに便利なんですよね。子どもの勉強の問題の解法を示してもらうなど個別対応が可能ですし、文章要約なども簡単に行ってくれます。こうした生成AIが得意な分野は、書類を作成したり正誤を判断したりすることですが、これまでこうしたことは所謂ホワイトカラーの人々が行ってきた仕事です。しかし、これらはAIに置き換えることが可能となるので、私たちの子ども世代の仕事環境は激変します。

AIは、人間の疑問に答えることができます。すると、人間には何が必要でしょうか? それは、「問いを立てること」です。AIは自主的に動くわけではありません。そこに、「〇〇とは何だろう?」と、AIに問いかけ、その答えを判断する力が必要です。では、「問いを立てる力」とはどのように培えるのでしょうか? 私も親として切実な問題ではありますが、今回はそこに焦点を当てて絵本とともに考えていきたいと思います。

興味・関心が、問いにつながる

「問う」には、「分からないことを知りたい」と考える動機が必要です。

強い動機とはどういったものかを伝える絵本にこんな絵本があります。

弟のことをもっとわかりたい

みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし

障がいのある「おとうと」がいる小学生の「ボク」。おとうとのことを好きだと思う一方で、ちょっと恥ずかしく、心配にも感じている。そんな複雑な感情と懸命に向き合って「ボク」がたどり着いた答えとは?
障がいのある兄弟姉妹をもつ「きょうだい児」ならではの悩みや不安、孤独な気持ちを当事者の視点から絵本にしました。
彼らに寄り添い、励ますとともに障がいのある子の心にも光を当てていきます。

主人公のボクには弟がいます。弟のことは好きだけれど、一緒にいるとなぜかボクの心はグチャグチャになります。なぜなら、弟はジタバタ走って転んでばかりだし、おしゃべりはつっかえるし、やることがいつも遅い。なので、うちではいつも弟のことばかりでボクはひとりぼっちみたいな気持ちになるのです。でもある日、友達に追いかけられていた弟を助けたとき、弟はこう言うのです。

「おにいちゃん みんなと おなじくできないよ」

弟がそんな悩みを持っていたことをボクは知りませんでした。全然わかってやれていなかったことが悔しく、

「おとうとのことを もっと わかりたい」

という強い気持ちが芽生えるのです。

 

この絵本は、作者の湯浅さんの実体験をもとにしています。障がいをもつ兄弟姉妹をもつ「きょうだい児」をテーマにしたお話ですが、湯浅さんは「弟のことを知りたい」という強い動機から弟のことを真剣に考え、「障がいをもつ子どもたちや、その家族が生きやすい世の中を作るにはどうすればよいのか」という問いを立て、現在は小児科医として活躍されています。

 

「わかりたい」「知りたい」という強い動機が、人生の「問い」につながっているということを示してくれている絵本です。

「妄想」が問いにつながる

みなさんは、「妄想」してますか? 私は常にあっちこっちと余計なことをふらふらと妄想しております。ですが、「こうだったらいいのにな」「こうだったらおもしろいよな」と妄想を楽しむことが、「こうしたらどうなるだろう?」と問いにつながり、大きな思考となったりするのです。そんな絵本がこちら。

きみなら、どんなパンダのがらにする? 想像を広げるって面白い!

パンダのがらをなんにする?

もしも動物園にいるパンダが全然ちがう「しろくろがら」だったら……?
ぼくと妹は動物園が大好き。なかでも、いちばんは「しろくろがら」がかわいいパンダ!……でも、まてよ? これが、ちがう動物がらだったら、もっとかわいくなるのかな?
たとえば……シマウマがらのパンダ! う~ん、想像してみたけど、シマウマというより、ふとった白いトラだなぁ。 じゃあ、ウシがらのパンダ! う~ん、ウシとちがって牛乳でないし……。次は、スカンクがらのパンダ! ブゥゥゥゥ~おなら、くっさぁ~~!
なんだか、おもしろい! よーし! もう動物がらじゃなくてもいいから、色々なしろくろがらにしてみよう! みずたまがらのパンダ! うずまきがらのパンダ! めいろがらのパンダ……?

パンダは大人気の動物ですよね。とくになんといっても、その白黒がらが唯一無二のかわいさです。ですが、ここから妄想が始まります。違うがらだったら、もっとかわいくなるのかな?と……。ちょっと悪魔の発想ですよね。ここから、シマウマがら、ウシがら、水玉がら……などなどのとんでもパンダを考え始め、読み手もパンダのがらが変わるたび、大爆笑です。

「イグ・ノーベル賞」をごぞんじでしょうか? 人々を笑わせ考えさせた研究に与えられる賞で、バナナの皮を踏んだときの摩擦の大きさの研究ですとか、ワニもヘリウムガスを吸うとうなり声が高くなる(ドナルドダック効果)などの、一見「ふざけてます?」というテーマを至極真面目に研究された方々が受賞しています。ですが、ここから便利な製品が実用化されていたりもするんです。

この絵本についても、しょーもない妄想してるよな、と思うかもしれません。けれども、動物の模様の研究も実際にされていて、パンダではないですがシマウマのシマ模様には、実は蚊をよける効果があって、牛をシマ模様にすることで大きな効果をあげているそうなんです。ちなみに、イグ・ノーベル賞は日本が受賞常連国で、そう聞くとこれからの時代はさらに、日本人の妄想力って強みだなと思います。

動物のがらも、「これはどうかな?」と真剣に考えることで大きな成果・発展につながる、妄想も悪くない! と思えるなんだか妙に励まされる絵本です。

多くの知識・経験の積み重ねが、問いを具体的にする

AIに対し、「問いを立てる」ことがまず重要ですが、ぼんやりとした疑問・質問には、有用な返答はかえってきません。また、生成AIは具体的な質問を行わないと、結構適当なウソをしれっと返してきたりするんですよね。ですので問いを行うとしても、「具体化していく」必要があります。そのためには、やはり人間側が知識や経験を用いて問いを立てることが不可欠です。

そうした、自ら多くの経験を重ねたことで自身の問いが具体化されていくさまを表した絵本にこんなものがあります。

5カ国の小学校を比べてみよう!

ナージャの5つのがっこう

著者自身の子どもの頃の体験を絵本に。5カ国の小学校がみんなちがっていることには、ちゃんと理由があるんだね、という視点で、5カ国の違いを楽しく比較。多様性のおもしろさがわかる1冊。親子で読んでも、クラスで読んでも愉しめます!

この絵本は、作者のキリ―ロバ・ナージャさんが世界各国の小学校に入学した体験を描いています。

ナージャはロシア生まれ。科学者のパパとママの転勤によって、ロシアからイギリス、フランス、アメリカ、日本と5つの国の小学校に通うことになります。同じ小学校でも国によって全然違います。座席も、ロシアでは男の子と女の子でペアになって座りますが、イギリスは大きな机にグループごとに座り、フランスでは机を丸くつなげて全員の顔が見えるよう座ります。アメリカでも向かい合わせに座りますが、教室の中にソファーもあって好きなところに座れます。日本では一人に一つのいすと机があり、みんな前を向いて座ります。

座席も、勉強する方法もバラバラ。日本では先生が教えてくれますが、イギリスでは子ども同士で教え合います。フランスではとにかく話し合いばかり。そんな多様な経験をしたナージャは、

「もっと ほかにも いろんな きょうしつが あるのかな?」と考えるようになります。そしていろいろな教室の姿を考えては「こんな きょうしつ だったら どんなことが できるかな?」という問いを持つようになり、アクティブラーニングについて研究する現在のナージャさんにつながるのです。

また、知識・選択肢を多く知ることで、行動が具体化され、よりよい問いにつながることを伝えてくれる絵本がこちら。

一歩、また一歩、わたしたちは何万年も旅してきた。

旅するわたしたち On the Move

進化の過程による移動の歴史や、のりものの発明による手段の変化、探検、戦争、避難、巡礼、観光...様々な目的によって、海底から山のてっぺん、空から宇宙まで、時に迷い、方向転換をし、歩んできた。風や水は自由に境界を超え、動物たちは地図もコンパスもなしに移動する。動くことにより、あたらしい世界をひらいてきたわたしたちの物語。
ウクライナの作家による、万物の移動を描いた絵本。

この絵本には、人類が旅・移動をしてきた歴史、移動する方法、移動する乗り物、旅の目的など、「旅」をさまざまな方向性から捉えた多くの情報が記されています。例えば、人類が一番高いところに旅したのはチョモランマ、一番低い(深い)ところではマリアナ海溝という情報や、観光旅行は古代エジプトですでに行われていたなど、旅に対してさまざまな観点から情報を伝えてくれます。そして、自分が旅をするのだったら、「どこへ、何を目的にして、何をもって」いけばいいのかな?と考えたとき、こうした情報によってどんどん具体化されていき、「どう旅をしよう?」という問いへの解像度が高くなっていくのです。

この絵本のように物事を多角的な観点から考え具体化していく方法こそ、漠然とした問いに対して、「自分は何を厳密に問いたいのか」を明らかにすることができ、問いたいときにはまず、「解像度を上げていく」ということが不可欠であることを教えてくれます。

自分の正しい位置を知ると、おのずと問いがわいてくる

漠然とした問いを具体化するには「解像度を上げていく」という方法がありましたが、それでは、何もないところから「問いを生み出す」には何が必要でしょうか?

その場合一つの方法として「自分の立ち位置、状況を明らかにする」やり方があります。

そうした思考法の例として、こちらの作品をご紹介します。

ぼくはいったい どこにいるんだ

発想えほん第5弾!じぶんのことをちずにしてみると、わかることがたくさんある。いまどこにいるのか、このあとどうしたいのか、なにがだいじなのか・・・ちずって、おもしろい!ヨシタケシンスケ流、頭と心の整理整頓。

おつかいを頼まれたぼくは、

「ちずがあれば、いま じぶんが どこにいるかがわかる。」と知り、「ちずは、あるとべんりだ。」ということを実感します。そして、地図とはどういうものかと考え、誰かになにかを分かってもらうのが地図の役目であり、自分だけがわかる、自分のためだけの地図を作ってもいいんだと思い立ちます。

自分を中心としたクラスの人間関係の地図、気持ちの地図、したいことやしてほしいことの地図などを考え、この先どうしていきたいのか、「未来の地図」についても考えていきます。

いろんなことを地図にしてみると、分かることがたくさんあります。そうして自身の状況をつかむことで、その先への問いを考え出すことができる、そうした道筋を教えてくれる絵本です。

自分の力を信じて行動する

さいごに、問いを立てることにより、どのような力が生まれ何を成していくことができるかの例が分かる本を一冊。

オリヒメ 人と人をつなぐ分身ロボット

なぜ分身ロボットは生まれたの? 分身ロボットってどんなロボット? 製作した吉藤オリィさんの生い立ちから、写真と文でその軌跡を追います。障害のある人も外出できない人も働ける分身ロボットカフェの誕生秘話も紹介。

「オリヒメ OriHime」は、行きたいところに行けない人の「分身」となり、外で活動することのできるロボットです。スマートフォンやパソコンを使って遠隔操作することができます。筋ジストロフィー症でほとんど体を動かせない人や、においや音、光などに敏感で外出がむずかしい人などが、オリヒメを操作することで、外出をしたり働いたりしています。このオリヒメを作ったのが著者の吉藤オリィさん。この本は、オリィさんがどのようにオリヒメを開発するに至ったのかを描いた本です。

オリィさんは、小学校から中学校にかけて不登校になった経験があります。学校に行きたくても行けない、友だちと行事に参加したいのにできないと、くやしさと孤独を感じ、「どうして体はひとつしかないんだろう。自分の体がもっとあればいいのに…。体が動かせなくても、会いたい人にあえて、行きたいところに行けたらどんなにいいだろう…」。そんな思いが分身ロボットの開発につながりました。

オリィさんは不登校の間にロボットに興味を持ち希望して工業高校に入学します。その高校の特別支援学校との交流で、車いすの使いにくさ、形のイマイチさに疑問を持ちます。

「もっと使いやすくて、かっこよくて、乗れば気分が明るくなるような車いすはできないかな」

こうした問いをもち、すぐに行動にうつしました。高校の先輩たちと車いすの改良をはじめ、JSEC(ジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ)で優勝します。オリィさんはそれからも研究を重ね、外出できない人々はその不自由さそのものよりも孤独のつらさを感じていることを知り「孤独の解消」をできるロボットの開発に向かうのです。

 

自分が本当に夢中になれるものを見つければ、「次にどうすればいいんだろう?」と新たな問いが次々と生まれてきます。そして、それを形作るために行動することにつながります。人工知能はあなたの問いに答えてくれます。しかし、その問いを芽生えさせ世の中を変えていくエネルギーを持てるのは人間なのだ、ということをオリィさんの活躍から強く考えさせられます。

さいごに

ついに生成AIが日常生活に浸透してきましたね。令和元年に、人工知能搭載型ロボットヒューマギアが活躍する時代が舞台の「仮面ライダーゼロワン」を、子どもと一緒に見ていて、「仮面ライダーの設定はいつも斬新ねー」と思っていましたが、気づいてみれば、たったの数年で空想は現実に追いついてしまいました。時代のスピードは加速しています。

最初に示したように、AIは自ら問いを立てることはできません。問いを立てる人間はAIを活用する側になれます。問いを、与えてもらうものと思ったままでは、AIの指示に従う側になってしまいます。また、「問いを立てる」ということは、思考の出発点でもあります。「〇〇はなに?」と問うことから考えが発展していきます。そう言った意味でも、「問う」ことは人間ができる強みとなるのです。

「問いを立てる力」を子どもが身につけるには、私は、「心揺さぶる体験」が重要なのではないかな?と思っています。ちょうど今年の夏休み、我が家では「家じゅうの液体のPhをリトマス試験紙ではかる」という実験を自由研究で行いました。その中で、「やっぱり水もはかっておこうか」とはかってみました。家族みな、「水はやっぱり中性かな」と子どもたちは予想していたところ、「弱アルカリ性」の反応が出てびっくり! そこから、「ほかの飲み物は酸性ばかりなのになんで?」「アルカリ性の飲み物を飲むとどうなるの?」と、どんどん新たな疑問がわいてきました。特に下の子は、自由に発言したり文章を書いたりするのが苦手なんですが、自由研究の文章をびっくりするくらい長く書きまして、「心揺さぶられると、人はこんなに知ろうとしたり、自分の考えを表したりできるんだ!」と改めて驚きました。

AIと共存せよという話なのに実体験が大事と、けっこうアナログな話となってしまいましたが、経験して「感じる」ことこそ人間ができる部分だと思うんです。そして、そこから問いを立て、AIに検証してもらう、そうした流れがこれからの時代に当たり前になっていくのかなと思います。

「心揺さぶられる」という部分は、もちろん本からも体験できることです。以前に「感情を揺さぶる絵本」というテーマで絵本を特集いたしましたが、私自身も絵本から五感を揺さぶられることで、問いが生まれたことも多くありました。これからの時代は知識を受け身で与えられるのではなく、「体感・経験」を通して自身が「問いを立てていく」ことから、創造していく時代なのだと思います。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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