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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む、子どものメタ認知能力(3) 行動力編

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

自分を信じて行動する力

「メタ認知能力」を絵本で考える第3回目は、ついにメタ認知能力の最終段階に入ります。

1回目「客観的に自分を認知する」→2回目「自分の弱点をコントロールする」からの、第3回目は、いざ「どう行動するか」がテーマです。

自分自身を認知しコントロールして、柔軟に行動する。言葉で表すとなんだか大きく見えて、「そんな大層なことを子どもにどうやって……」と戸惑うと思います。最後の回となる第3回目では、「メタ認知能力を使って行動する状況は、こんな日常に潜んでいる」ということをテーマに、絵本をご紹介していきたいと思います。

今の私には、何ができる?

まずは“かんけり”あそびを通じて、友達との関係や、今の自分には何が求められているかを見つめ、行動した絵本をご紹介します。

最後に自分で決心することの大切さ

かんけり

ちえちゃんは、ひっこみじあんな女の子。友達とかんけりをすることになるが、どんどんつかまっていき、最後は自分ひとりになる。背中をおしてくれる人はいても、最後に自分で決心することの大切さ。微妙な心の動きを絵で表現する。

主人公はちょっと気弱な、ちえちゃん。ある日の放課後、友達のりえちゃんに「いっしょにかんけりしよう」と誘われます。かんけりのルールでは、鬼に捕まった人は、まだ捕まっていない人が地面に置いた缶を蹴り飛ばせば、逃げることができます。ちえちゃんは缶を蹴るのがこわくて、まだ誰も助けたことがありません。

今日のかんけりでも、りえちゃんに引っ張ってもらい隠れることができましたが、りえちゃんは鬼に捕まった人を助けようと飛び出して、捕まってしまいます。ちえちゃんが見つからないように奥に押し込んだ後

「わたしが つかまったら、ちえちゃん、たすけてね」という言葉を残して。

ちえちゃんの頭は、そこからフル回転です。怖くて動けない自分のこと、でも、気弱ですぐ顔が真っ赤になってしまうちえちゃんをいつも助けてくれるりえちゃんのこと。そして、待ってくれているりえちゃんのために、自分の力を振り絞って缶に向かって走り出すのです。

“かんけり”という、子どもの遊びの中の1コマを描いた絵本ですが、そこには、考えをめぐらし、人から期待されていることを理解し、自分の力を信じて殻を破る、こんなすごい成長のドラマがあるとわかる1冊です。

自分の気持ちを認めて

こちらも友達との関係から自分の気持ちに向き合って、どう行動していったかを描いた絵本です。

友達だからって、 いつも仲良しでいられない

くれよんがおれたとき

いつもは仲良し、でもちょっとしたことでぎくしゃくしてしまこともあるのが友だち。

うまく気持ちを伝えられない少女二人の気持ちのすれ違いと仲直りを描く友だち絵本。

さくらは、ゆうちゃんと大の仲良し。学校の写生大会で時間内に描き終わらなかった二人は、さくらの家で描き上げることにしました。さくらは、新しいクレヨンセットを使うのがもったいなくてなかなか絵が進みません。「あっ しろが たりない!」と言い出したゆうちゃんに、「ちょっとだけなら いいよ」と貸してあげるのですが、ゆうちゃんはぐいぐいクレヨンを使いだし……。「ちょっとだけって いったのに……」と思っていたら、さらにクレヨンの「ぼきっ」と折れた音まで聞こえてきて、ふたりは互いに何もしゃべらず変な空気になってしまうのです。

「クレヨンをいっぱい使った友達へのもやもや」、「クレヨン返してって言えなかった自分へのもやもや」、そもそもこんなこと考えていることがイヤ、いろんなもやもやが、さくらの中に溜まっていきます。そのあとも、さくらは、もやもやした気持ちを抱えこんでしまうのですが、あることをきっかけに、気持ちを整理し一歩踏み出すことができました。

人との関係で、言葉にできない思いを抱えてしまうことって、ありますよね。そうしたものを気づかないようにしてやり過ごすという方法もありますが、さくらは、正面からもやもやに向き合って、マイナスの気持ちも認め、ゆうちゃんの思いにも目を向けて、いっしょうけんめい自分の本当の気持ちを探っていきました。

いろいろなタイプの友達がたくさんいる中で、その場その場で「自分はどんな気持ちなの?」と理解することは難しいものです。さくらは、自分の内面、ゆうちゃんの姿、いろいろなものに素直に向き合い理解しようとしたことで、ゆうちゃんとの関係を一歩進めることができたのです。

自分に合うお仕事を探して

メタ認知能力の土台はもちろん「自己認識」ですが、今回は、ちょっと自己認識が違っていたため苦労しつつも、目的に向かってトライしていったお話をご紹介します。

何をやってもうまくいかない?!

ペロのおしごと

大好きなお母さんにプレゼントをあげたいな

犬のペロは飼い主の“おかあさん”が大好き。
おかあさんへのプレゼントを買うため、おしごとを探しに出かけます。
何をやってもうまくいかない不器用なペロ。
おかあさんへのプレゼントは手に入れられたでしょうか。

『きょうはマラカスのひ』『ふわふわさんはけいとやさん』などで人気の絵本作家樋勝朋巳の描く、
ちょっぴりふしぎで、ほんわかやさしいストーリー。

犬のペロは、いつもやさしい飼い主のおかあさんのことが、好きで好きでたまりません。そんなおかあさんに、ネックレスをプレゼントするのがペロの夢です。そして、ついに決心し、二本の足ですっくと立ち、腰に赤いベルトをキュッとしめて、ネックレスを買うため、まずはお仕事を探しにでかけました。ペロは、自分にできそうなお仕事を、ずっとずっと考えていたのです。

ですが、「できそうだな」と思っていたお仕事はことごとくうまくいきません。そのたびに自分の欠けている部分を知り、しょんぼりと落ち込むペロの姿の可哀そうなこと。涙をぽろぽろ流しながらペロは海の近くにたどりつくのですが……。

ペロは、「自分にもできそう」という自己認識がちょっとずれていたんですね。でも、やってみて「できない」と分かることは自分の能力を知るためにも大事な過程です。失敗しても、「だったら自分はどうやってネックレスを作ればいいのかな?」と一生懸命考えて、ペロは目的を達成するのです。

樋勝さんの描くペロの姿がまたかわいくて、ちょっと背伸びした感じですっくと立つところや、背中を丸めて「できません」と小さくなっているところなど、ペロの一挙手一投足すべてにキュンとなります。懸命に行動し続けるペロを「がんばれー」と我が事のように応援してしまうかわいい絵本です。

己を知ってこその対応力

メタ認知能力の利点として、自己認識をもとにした「柔軟な対応力」があるそうですが、それをまさに体現している絵本をご紹介します。

くもは自由だ

くもりのちはれ せんたくかあちゃん

洗濯の大好きなかあちゃん。今日もたくさん洗濯をしたのですが、空はくもっています。そこでかあちゃんは大凧を揚げて、そこに洗濯物を次々と干していきます。延々と続く洗濯物の列は、やがて雲の上ににょきっと飛び出し、かみなりさんたちも大喜び。みんなで地上に降りてきて、「干してくれえ」とかあちゃんに頼みます。気持ちよく干されたかみなりさんとちですが、なんと乾きすぎてしまい、大変なことに。『せんたくかあちゃん』のパワーアップした2作目です。

せんたくかあちゃんは、洗濯が大の大の大好きです。いまにも雨が降ってきそうな天気でも洗濯は欠かせません。雨が降りそうでも「洗濯ものを干す」という目的のために、せんたくかあちゃんは、自分の力を信じて裏技を編み出していきます。

裏技というより、力技と言った方が正しいのですが、せんたくかあちゃんは、パワフルな己の力を知っているからこそ、その力を使って柔軟に目的を達成するのです。

この絵本は、『せんたくかあちゃん』という絵本の続編で、前作でも大量の洗濯ものを干すミッションを遂行しましたが、今回はさらに「くもりだろうと雨だろうと干す」と、さらなる悪条件を見事にはねのける、痛快なお話です。作者のさとうわきこさんの描く登場人物は、“ばばばあちゃん”をはじめ破天荒で猪突猛進で、本当にスカッと笑えます。こんなに猪突猛進な行動も、せんたくかあちゃんは「私ならこれができる」と分かっているからできるんですよね。自分の能力をフルに使って、問題が起こっても迷わずやり切る、というスーパーパワフルかあちゃんです。

自分の力を信じて行動する

さいごに、「自分の力を信じて行動することが、大きな成果を得る」、今回のテーマを真正面から描いた絵本です。

ピートのスケートレース ―第二次世界大戦下のオランダで―

ドイツ占領下のオランダ。国境近くの町に住む10歳の少年ピートは、冬のある日、凍った運河をスケートで滑って、知り合いの姉弟を隣国ベルギーへ逃がす手助けをします。

舞台は第二次世界大戦下のオランダ。オランダは国じゅうに水路や運河が張りめぐらされており、冬に凍りつくと人々はスケートを楽しみます。ピートの家の仕事は代々スケート作りで10歳のピート自身もスケートに夢中です。そして、強くて立派なスケーターを目指して日々努力していました。

そんなある日学校から帰ると、祖父から重大な仕事を任せられます。ドイツ軍に捕らえられたウィンケルマンさんの子、ヨハンナと弟のヨープを、ピートがベルギーに送り届けることになったのです。当時のオランダはドイツに占領されていましたが、凍った水路をスケートで移動することは許されていました。子どものピートがスケートで遊んでいるふりをしながら、国境を越え送り届ける作戦です。ヨハンナ達にいつ危険が迫るかも分からず、作戦を聞いてすぐ飛び出しました。ヨープはまだ7歳、小さな子の足でついてこられるかどうか不安を抱えながら、ピート少年は命がけのスケートレースを始めます。道中、寒さと疲れでよろけるヨープを励まし、警備のドイツ兵の疑いをやり過ごし、ピートは日が落ちる前に運河をスケートで何十キロも駆け抜けるのです。

10歳といえば日本ではまだ小学4年生、そんな子どもでも、当時は様々な命の危険がありました。戦争下という深刻な状況の中、自分を信じて危険な仕事を遂行しようとするピートの勇気と行動力が胸に迫る物語です。

さいごに

最近、子どもの世界でも「メタ認知能力」という言葉を本当によく聞くようになりました。一昔前までは力のあるリーダーが人々を率いる社会でしたが、問題の混在する現代は、人々の能力を合わせて目的に向かう「協働社会」となっています。そうした時代には、自分の力を客観視しそれぞれの力を使って行動する「メタ認知能力」が求められるのでしょう。

3回にわたって子どものための「メタ認知能力」を絵本から考えてきましたが、正直、お話した「客観力」「コントロール力」「行動力」というのを、親側がアプローチするのって、結構な大変さじゃないでしょうか?!

子育ての判断って本当に難しいものですよね。メタ認知能力を育むために、確かに、親が先回りせず小さなうちから失敗と成功を繰り返させなければいけない部分もありますが、子育てをしていると、適切な時期に適切な対処を親がせねばいけない部分もあります。「もう、何が何やら!」と、皆、日々子育てラビリンスに迷いこまれていることでしょう。

今回絵本を通じて私が考えたのは、子どもたちの日常の1場面1場面に、彼らの成長に大事なものが詰まっているんだな、ということです。『かんけり』や『くれよんがおれたとき』は、当たり前の日常の1ページですが、その中で子どもたちは深く考え、自分がどうすればいいのか悩みます。そうした日常を積み重ねていくことで、『ピートのスケートレース』のような行動が取れるようになっていくのではないでしょうか?

親は子どもにどう向き合っていけばいいのか、子どものタイプや時期によっても様々ですが、時には手出しせず、子どもたちに「日常の細々したことをていねいに捉え、自分の力で考えていく」ことの大事さを伝えることがまずは必要なのかなと思っています。そうして経験から考えていく習慣が、様々な方向の力につながっていくのではないでしょうか。絵本には、日常の1コマ1コマのドラマがたっぷり描かれています。そうした点をぜひ味わいながら読み、メタ認知に活かしていってはいかがでしょうか。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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