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現役学校司書が本でCheer Up! 中学生に読んでほしいオススメ本

中学生の夏休みの読書と読書感想文に! じっくり読みたい人にオススメの本7選(2024年版)

日本各地で猛烈な暑さの日々が続いていますが、いかがお過ごしですか?
日中出かけるのをためらうくらいの暑い日には、涼しい屋内で(おうちや地元の図書館や学校で)読書はいかがですか?

この特集ではじっくり読みたい人にオススメの本をご紹介します。

 

「じっくり」と書いていますが、読みやすい長さの短編が集まった本や、短い時間で読める本もあるので、私には無理!と思わずに、まずは読んでみてくださいね。
6月には「気軽に読みたい派にオススメの本6選」をアップしています。こちらも合わせて読んでください。

じっくり読みたい人にオススメの本7選

本屋大賞受賞作、「成瀬」と夏を過ごしてみない?

『成瀬は天下を取りにいく』

6つの短編小説でできている、この作品の最初のお話は「ありがとう西武大津店」。成瀬あかり、中2の7月31日から始まります。コロナ禍により、学校行事や部活の大会が軒並み縮小か中止となった年の夏。成瀬は8月31日に閉店する地元デパートから中継される地方テレビ局のニュースに「毎日映り込む」という目標を立てて……。


成瀬は幼い頃から何でもできる抜群に優秀な女の子。誰とも群れず、RPGの村人のような独特の話し方、突飛な(本人は至ってまじめ)アイデアと実行力があり、個性の塊です。読者はあっという間に成瀬の魅力にハマってしまうはず。気づけば、ページをめくる手が止まらなくなっていることでしょう。私は電車の中で何度か吹き出してしまいました。痛快で楽しい読みものです。


周囲と合わせて生活することに息苦しさを感じている人や、人間関係に悩んでいる人、自己肯定感が下がっている人には、特にオススメです。

読書感想文のヒント

強烈な個性を持つ主人公、成瀬を分析してみるのはいかが。本の中のエピソードを挙げ、自分の言葉で成瀬を分析してみましょう。
また、成瀬に惹かれる(もしくは成瀬のことが苦手な)登場人物の性格と成瀬観をまとめても。自分のクラスに成瀬がいたら自分はどのように思うだろうか、という切り口もオススメです。

日常と異なる状況でハラハラ・ドキドキしたいあなたに

記録的な豪雨によって水害が各地で発生し、アフェイリア国は大混乱。
そんな非常事態の中、国を導くべき最高指導者の女性が行方不明となり、官邸に残されたのは最高指導者の夫ティモールと、15歳のメイドと、ラブラドールレトリバーのデイジーのみ。
困った夫ティモールは、苦し紛れにメイドのグローリアに最高指導者の変装をさせて、混乱を収束させようとするけれど……。


小さなメイドの女の子グローリアは、急きょ国家最高指導者に仕立てられますが、未知のことばかりで失敗続き。しかし、国民思いのグローリア(が扮した指導者)を国民は歓迎し、尊敬を集めていきます。知識も経験も乏しいグローリアですが、優しい心と賢さで様々な難題を乗り越えていきます。


グローリアがいる官邸でのお話と(ここには国民も愛する指導者の犬デイジーがいます)、洪水にのみこまれた北部の町の犬ハインツの冒険とが順番に挟まれています。冒険劇が好きな人はもちろん、犬が好きな人にもオススメです。

読書感想文のヒント

メイドのグローリアの活躍はフィクション(作り話)ですが、このお話は1927年にアメリカで実際に起きた災害がもとになっています。これはミシシッピ川流域でのミシシッピ大洪水と呼ばれる災害で、自然災害だけでなく、悪政によって被害が拡大したともいわれており、この災害について調べてみるのもよいでしょう。

 

人の心情にフォーカスするなら、グローリアのことを単なるメイドで最高指導者の代わりになるなど馬鹿げている、と思っていたティモールの心の変化を追ってみるのもよいと思います。みなさんがグローリアの立場となったらどの順番でピンチを救うか、シミュレーションするのもよいですよ。

差別と多様性について知りたい・考えたいと思うあなたへ

この本には3つのお話が収められています。

 

それぞれのお話の主人公は、中1の空奈(そらな)、2つの国にルーツを持つ美星(みせい)、車いすに乗る小6の少年風太(ふうた)。それぞれが思うマイノリティ(少数派)としての生きづらさと、彼らが考えるバリアフリーな社会とは。


一番最初に出てくるお話の空奈は、みなさんと同じ中学生。お話は夏休みの宿題に取りかかろうとする場面から始まります。
その宿題は、家族の仕事を見て、レポートすること。空奈は、ライター(文章を書く人)であるお母さんが取材する現場に同行することになって……。


時も、場所も、状況も異なる3人の主人公ですが、1冊の詩集が彼らを繋いでいます。
その詩集の作者はどんな人?
それぞれのお話に付けられた詩から、あなたはどんな詩人を想像するでしょうか。

読書感想文のヒント

3つのお話それぞれが印象的なエピソードとなっているので、1番心に残ったお話やテーマなど1つに絞り込むとよいでしょう。みなさんの身近にある状況との違いや、自分が実際に見聞きした出来事と比較するのもよいと思います。ただ、読書感想文なので、基本は本の中に登場する場面や、人物に寄り添って作品について書くことを念頭に置いてくださいね。

作者である小手鞠るいさんと意見が異なったとしても、よいのです。どこがどう異なるのか、丁寧に書いてみましょう。

社会をよりよくしたい、いつかアクションを起こしたいと思うあなたに

『みんなで世界を変える!小さな革命のすすめ』

先ほど紹介した『空と星と風の歌』の1つめのお話に出てくる空奈のお母さんは、フリーライターという仕事。2つめのお話の美星が留学した高校と、3つめのお話の風太がホームステイしているのはニューヨーク州という場所にあります。

 

そして、この本『みんなで世界を変える!小さな革命のすすめ』の著者は、ニューヨーク在住25年、ライターでアクティビストの佐久間裕美子さん。
彼女は、小さい頃から得意だった「文章を書くこと」で、社会の問題を知らせたり、解決の方法や活動を紹介したりといった活動をしています。

タイトルには「革命」とあります。革命というと、世の中がひっくり返るような大きな変化をイメージするかもしれませんね。でもこの本で紹介されている「小さな革命」の中には、中学生のみなさんができることもたくさんあります。よいと思う活動をSNSでシェアしたり、知りたいことを図書館で調べたり……。まずは知ること、そして小さなことでも実際に動いてみること、何か一つ、あなたもこの夏にやってみませんか?

 

佐久間さんは、大学進学後にアメリカの大学に短期留学し、その後アメリカの大学院に進学して、書く仕事を始めました。海外で暮らしたいと思っている人にもたくさんのアイデアが得られそうです。

読書感想文のヒント

まずは、本を読んで感じたことをメモに書いてみましょう。
人によって心に残るところが違うのではないかな、と思います。
それについて少し深掘りしながら、自分のことに近づけて考えや疑問をまとめて見るといいですよ。
本を読んで「小さな革命」をやってみたくなったら、この夏ぜひ実行してみましょう。その報告をまとめると、独創性のある具体的な作文になります。課題が読書感想文である場合は、本の感想を中心に書きましょう。

デジタル技術でお金持ちになりたいあなたに

みなさん、タブレットやスマートフォンのどんな機能を使っていますか?
性能のよいカメラアプリや、ゲーム、SNSなど、いろいろなものが無料で使えて便利ですよね。人気マンガが読めたり、楽しい動画が見られたり、こうしたサービスを私たちに無料で提供している会社は、実は何億円、何兆円という売り上げがあるんです。
無料なのに、ばく大な売り上げってどういうこと?そんな風に思ったあなたは、ビジネスセンスがあるかもしれませんよ。ぜひこの本を読んでみましょう!


この本は、無料サービスを提供する会社が儲かる仕組みをきっかけに、経済や商売の仕組みを知る本です。副題の「10代からのマーケティング入門」のマーケティングとは、「お客さま目線に立った収益の得かた」のこと。中高生のみなさんに身近な事例を使って、学校生活にも応用できると説明しています。


また、「14歳でもデジタルを使えば『価値』を作れる!」とデジタル技術が既存の常識を覆す可能性を示しています。
これはどういう仕組みかな?と探究する気持ちや、もっと便利にしたい、というみなさんの思いが、未来の人に欠かせないサービスとなるかもしれません。

読書感想文のヒント

本を読んで、素直に感じたことや疑問をメモに書いてみましょう。よく使っている無料アプリのビジネスモデル(誰から、どういう仕組みでお金が入り、どのくらいの収入になっているのか)を調べてみてもよいでしょう。
こうした無料のサービスを利用する際の、企業側のメリットを考えたり、利用者側で気をつけることをまとめたりするのもオススメです。
実際にビジネスを始めたくなった人は、ビジネスプランを考えて、感想文とは別に自由研究としてコンテストに参加して腕試しをしてみては?

 

例:#SASS 大学生による中高生のためのSDGs/サスティナビリティアワード
https://www.sdgs-award.com/

どこかで戦争が起きている、といわれてもピンとこないあなたに

ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まったのが2022年2月24日。この夏で、2年以上が経っています。しかし、残念ながら戦争が終結する気配はありません。

 

この本は、ロシア国境に近いウクライナの都市ハルキウに住む12歳の少女が綴った日記です。戦争が始まる直前の2022年2月14日、著者であるイエバの12歳の誕生日から始まっています。誕生日の日、朝からスマホに「誕生日おめでとう!」のメッセージが届き、週末には友人とショッピングモールでボウリングとパーティーを行う予定。
日本でもありそうな中学生らしい誕生日を楽しんだ直後、自分の国で戦争が始まり、美しい町が次々に破壊されていきます。
爆撃の知らせを受けて地下シェルターで息を潜めて過ごし、離ればなれになったクラスメイトと学校のチャットで近況を知らせ合う。誰もが予想していなかった変化に、戸惑う間もなくイエバたちは巻き込まれていきます。


この本の冒頭には、10代向けの戦争小説を数多く書いているマイケル・モーパーゴの序文が載っています。戦争文学の名手たるモーパーゴに「しかし、リアルに戦争を体験したイエバとはちがって、私は、戦争が何なのかわかっていない。」と言わしめたイエバの日記は、迫りくる恐怖がリアルに感じられる、悲しい文学です。

 

ウクライナとロシアの戦争に関する本は日本語でたくさん出版されていますが、中高生のみなさんに1冊オススメするとしたら、私は迷わずこの本を選びます。読み終わったら、ぜひプロローグの1ページを読み返してください。イエバのような戦争に巻き込まれる人が一日も早く、一人でも少なくなるよう、願ってやみません。

読書感想文のヒント

みなさんが考える「戦争」のイメージが、この本を読む前後でどのように変わったか、メモを取ってみましょう。戦争が起こっている町で暮らすことが、どのように心を傷つけるか、「恐ろしい」とか「怖い」といった言葉だけでなく、様々な表現で細かく気持ちを分解してみるとよいですよ。考えるのは辛いことですが、今、みなさんの町で戦争が起こったら、と自分事として考えて論を進めるのもオススメです。

夏休みだけど、学校のことをついつい考えてしまうあなたに

新船中学校の生徒たち、それぞれの視点で描かれた7つのお話が収められています。

 

美術部で周囲からちょっと浮いている六花(りっか)は、親友とけんか別れしたことが心にずっと残っている。
お菓子作りが得意な虎之助(とらのすけ)は、可愛がられキャラを脱したいと思っていて……。


小学生のような男子たちのいたずら、こじれた関係を修復できないまま時間が過ぎてしまう女子ふたり、不登校の妹の気持ちを思いやる兄……。
中1から中3までの14人の男女と、保健室の先生と、学校を守る ”あの子”、彼らが織りなす中学校の風景が綴られた小説です。
悩みがないように見えて、心にずっと何かを抱えたままだったり、仲直りのひとことがどうしても言えなかったり、中学生の心は見た目よりずっと繊細ですよね。


悩みを抱える中学生に、ふらっと近づいてくるのが剣道部(幽霊部員)2年の黒野くん。なぜ黒野くんは多くの人に関わりを持とうとするのか、彼の動きに目が離せません。

たくさんの登場人物があちこち動き回る様子は、中学校そのもの。混乱してきたら本の冒頭にある人物紹介イラストを見てください。


心がちょっぴりひりりとしながらも、さわやかな読後を味わえるこの中学生群像青春小説は、一歩引いて学校を眺めることができる夏休みの読書にピッタリなのです!

読書感想文のヒント

短編小説集なので、各編について語るよりは、印象に残ったエピソードや登場人物に絞って書くのがオススメです。
多くの話に登場する黒野くんをはじめ、それぞれの話の登場人物の誰を選んでも書けると思います。
1つか2つは近い経験をしたことがあるという人が多そうな話題が多く、友だち、きょうだい、部活、恋愛、さまざまな切り口で書けそうですよ。
この本のあちこちで、中学生の「本音」がぽろりと出てきます。みなさんも、紙の上で本音を綴ってみませんか。

おわりに

みなさん、じっくり読みたい本特集はいかがでしたか?
まだまだご紹介したい本がたくさんありますが、ひとまずこのへんで。

 

デジタル技術が進歩して、読書感想文は「本を読まなくたって書けてしまう」ものかもしれません。でも、それではみなさんの心になにも残りません。上手に書けなくても、うまくまとまらなくても「いい本に出会った」「本を読んでいい時間が過ごせた」のなら、それで十分です。さらにそれを紙の上で伝えることができたら、それはすてきな、すばらしい表現活動だと思いませんか。

 

日頃読まないジャンルの本は、みなさんの心と頭をストレッチしてくれて、みなさんの世界が少し広がります。この夏、みなさんそれぞれが、よい本と出会えますように。


いい本が見つかったらぜひアンケートで教えてくださいね。

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山下ちどり
 

現役学校司書。
音声メディアstand.fm「学校図書館ラジオ〜本とともにごきげんな毎日」のパーソナリティ。
比較的新刊のお気に入り本や、学校図書館、出版周辺のトピックスなどを配信している。Twitter @nagisalib

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