無理なく国語と読書が好きになる<中学受験に効く本>2024年秋
みなさんこんにちは!
現役学校司書の山下ちどりです。
中学と高等学校がある中等教育学校の図書館で学校司書をしています。
絵本ナビスタイルでは2021年から中学生(と小学校の高学年や高校生にも)に読んでほしい本を紹介しています。どうぞよろしくお願いします!
今回は、中学受験を目指す小学生さんと、その保護者のみなさんに向けて「中学受験に効く本」をご紹介します。中学受験の勉強を始めたばかりの中学年さんから、勉強で読書の時間がなかなか取れない受験学年の6年生まで、幅広い読者を想定しています。中学受験によく出題される作家や作品の紹介のほか、楽しく読書しながら語句の知識を身につけられる本も紹介していますので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
※保護者の方にお願いです。
中学受験の主役はお子さまたちです。
ぜひお子さまと一緒にこの特集を読み、お子さま自身が「読んでみたいな」と思う本に出会えるよう、ご支援をお願いします。
中学受験「国語」基本のき
中学受験の国語は、「物語文」「説明文」「語句の知識」の3つに分けられます。
物語文の問題は、小説の一部を抜粋した課題文が出され、課題文の内容把握や、登場人物の心情理解が問われます。
説明文は、エッセイや評論、記録などの「物語ではない」文章のことです。課題文に関して、文章の構成や内容把握、筆者の主張をまとめたり、筆者に対する自分の意見を書いたりする問題が出題されます。
語句の知識は、漢字(読み書きや漢字の成り立ち、熟語など)、ことわざ・慣用句、敬語や文法など日本語の知識が問われるものです。物語や説明文の大問の中で、語句の知識が問われることもあります。
そのほか、詩や俳句や短歌が出題されることもまれにありますが、物語文、説明文、語句の知識、この3つが中学受験国語の3大要素といえます。
物語文に効く本
どんな文章が出題されるのか
大人に比べて経験値の少ない小学校6年生が読んで解答する、ということを理解した上で中学校の先生たちは入試問題を作っています。なじみの薄い設定でもびっくりせず、「自分が解ける問題を出してくれている」と思って落ち着いて解きましょう!
よく出題される物語とは?
受験生が理解しやすい「舞台は日本」「時代は現代」「登場人物は同世代」といった物語がよく出題されます。特に小、中学校でのできごとや人間関係、小、中学生を主人公にした家族の物語などがよく出題されます。
翻訳文学や戦争前後など、舞台や時代の異なる課題文が出されることもありますが、小学校6年生が理解できる内容が選ばれています。
問題で問われること
物語で起こるできごとを通じて、主人公の気持ちや人間関係が変化する。その様子を読み取って、言いかえたりまとめたりする問題が多く出題されます。
過去に出題された物語
実際に中学受験で出題された物語を、作家別にいくつかご紹介しましょう(ほんの一部です)。
【作家名:安田夏菜】
2020年に灘中学、2021年に広尾学園などで出題されました。
中学受験で難関校に進学したものの、挫折を経て公立中学に転校した少年がヤングケアラーの少女と出会い、考え、行動していく物語です。
『むこう岸』
小さなころから、勉強だけは得意だった山之内和真は、必死の受験勉強の末、有名進学校である「蒼洋中学」に合格するが、トップレベルの生徒たちとの埋めようもない能力の差を見せつけられ、中三になって公立中学への転校を余儀なくされた。
ちっちゃいころからタフな女の子だった佐野樹希は、小五のとき、パパを事故で亡くした。残された母のお腹には新しい命が宿っていた。いまは母と妹と三人、生活保護を受けて暮らしている。
ふとしたきっかけで顔を出すようになった『カフェ・居場所』で互いの生活環境を知る二人。和真は「生活レベルが低い人たちが苦手だ」と樹希に苦手意識を持ち、樹希は「恵まれた家で育ってきたくせに」と、和真が見せる甘さを許せない。
中学生の前に立ちはだかる「貧困」というリアルに、彼ら自身が解決のために動けることはないのだろうか。
講談社児童文学新人賞出身作家が、中三の少年と少女とともに、手探りで探し当てた一筋の光。それは、生易しくはないけれど、たしかな手応えをもっていた――。
【作家名:重松清】
中学受験でもっとも出題の多い作家さんかもしれません。過去に40校以上で出題されています。中学2年生のエイジの目に映る、家族、友だち、異性……。受験をする・しないに関わらず、親子で読みたい思春期のバイブルのような本です。
横浜共立学園中、法政大学中、明治学院中など多くの学校で出題されています。小学校5年生の男の子を主人公にした短編集で、とても読みやすいですよ!
『小学五年生』
クラスメイトの突然の転校、近しい人との死別、見知らぬ大人や、転校先での出会い、異性へ寄せるほのかな恋心、淡い性への目覚め、ケンカと友情——まだ「おとな」ではないけれど、もう「子ども」でもない。微妙な時期の小学五年生の少年たちの涙と微笑みを、移りゆく美しい四季を背景に描く、17篇のショートストーリー。
【作家名:如月かずさ】
小学校の給食でおなじみのメニューがタイトルに付けられた、6つの短編が集まった作品です。それぞれの主人公は中学1年生の男女6人。中学校と小学校の橋渡しをするようなこの作品は、みなさんを迎える中学校からのウェルカムメッセージなのかもしれません。
『給食アンサンブル』
転校先の学校に馴染むのを拒む美貴、子どもっぽいのがコンプレックスの桃、親友の姉に恋をする満、
悩める人気者の雅人、孤独な優等生の清野、姉御肌で給食が大好きな梢。
6人の中学生たちの揺れる心が、給食をきっかけに変わっていく。
やさしく胸に響くアンサンブルストーリー。
「七夕ゼリー」「マーボー豆腐」「黒糖パン」「ABCスープ」「ミルメーク」「卒業メニュー」の6品がつなぐ連作短編集です。
ちどりが気になる、この作品!
中学2年生の女の子優希を主人公に、学校内にある様々な「同調圧力」について考えることができる物語です。仲がよかった友だちと別のクラスになり、キラキラ女子バレー部の女の子たちと同じグループになってちょっと居心地の悪さを感じる優希、ブラック部活気味な野球部の流星、私立から転校してきたHPC(感覚過敏の子)で、数学に特別な才能がある(ギフテット)愛。近年話題のテーマを多く含んだ本です。
佐藤いつ子 『透明なルール』
平凡な中学生・優希は、クラス替えでたまたま「1軍」のグループに入れたものの、本当の自分を隠して生きている。
成績が悪いフリをするし、オタクなところは絶対にバレたくない。クラスメイトの投稿に「いいね」をつけるかどうかも悩む。
そして家でも、生理用品を買ってと親に言えない・・・・・・。
「周りからどう思われるか」を気にするあまり、生きづらさを感じる優希が、不登校ぎみの転校生やマイペースなクラス委員との心の交流を通じて、
自分を縛る<透明なルール>に気づき、立ち向かっていく。
教室の雰囲気やSNSの同調圧力に息苦しさを感じる全ての人に、勇気をもたらす爽やかな物語。
中学受験の国語課題文には、ヤングケアラーやLGBT+Q、貧困など、その時の社会的な課題を扱った物語が出題されることがあります。今年出版されたこの本は、平和や環境問題、ジェンダーや多様性など、世界の現代的な課題がたくさん登場します。世界の状況を知り、それらについての自分の考えを確認できると思います。
小手鞠るい 『あなたの国では』
「あなたの国では、どうですか?」
日本では当たり前だと思われていることだって、
もしかしたら、ほかの国では、そうではないのかもしれない。
ある国では正しいとされていることが、
別の国では正しくないのかもしれない。
その答えを知りたくて、ぼくは長い旅に出た―――
海をこえ、大陸をわたり、国境をこえ、世界の各地に住む人々に会いに行く。
男女差別から、ジェンダー、LGBTQ、地球温暖化、環境保護、動物愛護、戦争と平和まで。17人へのインタビューを通して見えてくる、17つの「現実(リアル)」と、地球の「今」。
アメリカに住み、世界各国を旅してきた著者が描く、世界をめぐる壮大なインタビュー・ストーリー。
楽しみながら、「国際理解(総合的な学習)」を学べます。
小学校3年生・4年生は面白くて、ハードルが低い本から
「受験に出た作品を読めば、読解力が上がるかも」と、中学年の頃から入試に出題された本を読ませるのは、正直なところオススメできません。
なぜかというと、多くの人物の心情やそれぞれの視点を読み取る力は、小学校中学年では発達段階的にまだ身についていないことが多いからです。自分が認知している物事を客観的に認知する力(物事を俯瞰して見る力)である「メタ認知」は、個人差がありますが9歳から11歳頃にぐんと身につくといわれています。俯瞰する力が未熟なときには、文章内の他者の心を細かく理解することは難しいのです。もちろんお子さん自身が楽しんで、進んで読む本であれば、どんな本でもかまいません。本が苦手なお子さんは特に、主人公の心情を中心に描いている物語や、登場人物が少ない物語から読んでいくのがオススメです。ずばり、面白くて、ハードルが低い本です。回り道に思えるかもしれませんが、読書嫌いを減らすことにも繋がります。
ちどりのオススメ! 本が苦手なお子さま、低~中学年には
たった二人の登場人物ですが、自己と他者の違いを感じ始める中学年の発達課題にどんぴしゃで、哲学的な深いテーマもあり、低~中学年さんにはとてもおすすめです。
ちどりのオススメ! 自己と他者の違いを意識し始める中学年には
この本は、メタ認知を獲得し始めた中~高学年が、成長の過程で自己を深く洞察するストーリーです。コンプレックスを解決して終わりではなく、それらを自覚した上で内包しながら生きていく、保護者の方にも「刺さる」お話です。
中学受験は取り組み方にもよりますが、その過程で重い負担や傷つきを感じることもあります。つい、大人がヒートアップして知らないうちに手段と目的が転換してしまうことも、多くあります。中学受験のスタートに当たり、「いつまでも忘れないでいたい大事なこと」が込められている物語です。
『ぼくのなかみはなにでできてるのか』
自分のことが すきですか?
小学4年のはるとは、みんなにからかわれている。しっかり者の女子にあきれられ、「ぼくの中身は、弱虫となき虫でできてるんだ」と自分を分解して自信をなくす。母に強く抱きしめられ、自分を変える一歩を踏み出す。
クラスメイトにからかわれたり、笑われたり。弱気になって、言いたいことも言えないはると。そんなはるとに似ているのが、クラスメイトのやすくん。でも、やすくんは、はるととちがって何をされても、どうってことないさという顔をしている。かっこいい。「やすくんの中身はぼくとはちがうみたいだ」
学校で嫌な思いをして、自信をなくしたはると。家で母親に抱きしめられ、「お母さんは、ぼくがなりたい自分になるまで待っていてくれるかもしれない」と気づく。
はるととやすくん、似ているけど似てないふたり。やすくんの強さに触れて、はるとも少しずつ「なりたい自分」へと変わっていく。
ちどりのオススメ! 中学受験に疲弊したら、親子で読みたい
小学校の教室を舞台にした物語で、クラスの子どもたちと、点数にとらわれがちな担任の先生が登場します。びりっかすさんと対話するために、クラスでビリを取りにいくというお話です。最後まで読んで「私は気づかぬうちに担任の先生になっていないかな?」と心配になってしまいました。中学受験は走り出したらどんどん加速して、止まることが難しいですが、この物語の魅力的な登場人物たちが、大人も子どももちょっと立ち止まるきっかけをくれるはずです。
説明文に効く本
どんな文章が出題されるのか
筆者の主張などを問う内容把握の他、文章の構成が問われることもあり、説明文の課題文として選ばれるのは、比較的きちんとした文章が多いです。文章のテーマは、環境問題や少子化、多様性など現代の社会課題に関するもの、日本語やコミュニケーションに関するもの、まちや自然などやや理系的なことがらを説明する文章まで、幅広く出題されます。物語と同様、小学生のみなさんに身近なテーマや、関心を持ってほしいテーマが選ばれます。
中学受験界の頻出レーベル
「大人になる前の人に向けたきっちりとした文章」というのは、実は少なくて、ジュニア向けの知識の本である2大レーベルからの出題がとても多いです。その2大レーベルとはずばり、「岩波ジュニア新書」と「ちくまプリマ―新書」です。
岩波ジュニア新書は理系分野をテーマにした本も数多く、全方向にバランスのよいラインナップです。
ちくまプリマー新書は、新進気鋭の研究者や話題のトピックなど、感度の高さが魅力です。
気になるテーマの本があったら、1章、1節だけでもよい、という気軽な気持ちで手にとってみてくださいね。
※中学生を対象にした新シリーズの入門書「岩波ジュニアスタートブックス」(愛称:ジュニスタ)も出ています。
ちどりが気になる、この作品!
中高生が大好きな作家の一人である辻村深月さんが、毎日小学生新聞に連載したエッセイをまとめたもので、洗練された美しい文章と読者への愛にあふれた言葉が魅力の一冊です。書くこと、読むこと、自分のこと、それらについて優しいまなざしで綴られた文章が収められています。今後数年、きっと多くの学校で出題されるはず!
次に『国語をめぐる冒険』をご紹介しましょう。本書の「はじめに」で、「冒険とは、危険を伴う未知との出会い」、「国語は冒険だ。」と書かれています。また、第3章では「主要五教科の中で唯一、芸術系科目の要素を含む国語」と書かれています。え?そうなの?と思った人が多いことでしょう。国語をこんな風に表現する著者たちは、なんと国語の研究者や、大学や高校の国語(文学)の先生なんです。国語のプロに道案内をしてもらいながら、言葉、文学、コミュニケーションを考えることができる本です。文学や言葉って、国語ってそもそもなんだ?とか、とにかく国語が苦手!と思っている人にもオススメです。
小学校3年生・4年生は面白くて、ハードルが低い本から
ちどりのオススメ! 「たくさんのふしぎ」シリーズ
植物や動物などの自然科学の知識や、料理、文化など幅広い知識について、写真や絵をふんだんに使って解説するシリーズです。
地学の特集では、「たくさんのふしぎ」シリーズから、『石は元素の案内人』を紹介しました。
シリーズ名はすべてひらがなですが、内容はかなり本格的です。お子さまにしっかりした知識と学びを提供してくれるシリーズです。お子さんの興味のあるテーマから読んでみてくださいね。
語句の知識に効く本
本選びのポイント
中学受験の勉強を始めると、語句の知識は専用のテキストでくり返し覚えていくと思います。それとは別に本を読むのですから、楽しく読めるのが1番!読みたくなってつい読んでしまう、そうしたらいつの間にか語句の知識が増えている、そのくらいがちょうどよいです。楽しい、面白いを最優先で選んでくださいね。
ちどりが気になる、この作品!
深谷圭助さんの語句の大事典シリーズ(成美堂出版)
可愛い女の子にイケメン……少女マンガを読むような感覚で、語句の知識が身につきます。
女の子にイチオシのこのシリーズ。「語彙」「ことわざ」「慣用句」なども出ています。
コナンと語彙を増やそう
漢字や語彙だけでなく、社会や理科にもシリーズがあります。コナン君の名台詞のように、「頭脳は大人」も夢じゃない!
『名探偵コナンの10才までに覚えたい難しいことば1000』
本書は、小学校低・中学年のみなさんに、身につけておいてもらいたいことばを1000語掲載した、
楽しく学べる学習参考書です。
そのことばのはんいは、名詞・動詞などの単語から、慣用句・四字熟語・カタカナのことばまで。
実に豊富な語彙の中から、重要語1000を選び抜きました。
このほかにも、中学受験塾が監修している「ドラえもんの学習」シリーズや、「ちびまる子ちゃんの満点ゲット」シリーズなど、たくさんの学習シリーズがあるので、書店でぜひチェックしてみてくださいね。
おわりに
「無理なく国語と読書が好きになる<中学受験に効く本>2024年秋」はいかがでしたか。
中学受験をする人も、しない人も、本を通じて世界を広げたり、知識を獲得したりするのはとてもステキなことです。本を読むことで、国語の力だけでなく、自然科学(理科や算数)や社会科学(社会)の知識を増やすことができます。それだけでなく、世界のさまざまな状況を知り、筋道を立てて考えることで、創造力や理論的な思考も身につけることができます。
本はどれだけ読んでも困ることがないんです!
大変な受験勉強の先に入学した中学校の図書館は、小学校の図書室よりもずっと充実していることでしょう。難しい本や、大人向けの小説もあって、きっとワクワクしますよ。
夢と希望と意思を持って、頑張ってくださいね!
連載【現役学校司書が本でCheer Up! 中学生に読んでほしいオススメ本】では、読者のみなさんからの感想や質問を募集しております。アンケートよりご意見をお寄せください。
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Q3. 質問やご感想をお寄せください。
山下ちどり
現役学校司書。
音声メディアstand.fm「学校図書館ラジオ〜
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