【絵本と旅に出よう】強い猫。しなやかな猫。ずるい猫。猫はやっぱり謎のまま
強くしなやかな心と忘れかけた野生を思い出させる猫の絵本
人と暮らし、人から愛され、ちょっとドジで間抜けな憎めない猫。
ところが、そんな猫が時折見せる、まだ失っていない「野生」にドキリとしたことがありませんか。可愛いだけではない、決してすべてを知ることはできない猫の魅力は、その強さと人が忘れかけた野性にあるように思います。
今回は、そんな猫の本質を感じる絵本と出かけてみます。猫のようにしなやかに強く、時には我を忘れて夢中になる「野生」的な心を思い出せるでしょうか。絵本と一緒にいろいろな場所に出かけてみると、いつもと違う日常がそこにはあるかもしれません。「絵本と旅に出よう」をテーマに今回は絵本の猫たちと旅に出てみましょう。
どんなに大きな相手でも決してひるまない、強くてカッコいい猫の絵本
暗闇には颯爽としなやかに歩く、もしくはしゅるんと座っている黒猫が似合います。音もたてずにそこにいる。でも、目は鋭く黄色に輝いています。
母猫は、自分の子どもを守るために自分より何倍も大きな動物や人間に襲いかかることがあります。そこには勝ち負けの計算も戦略もない、母が思う子どもへの思いがそのまま体を突き動かしているよう。復刻された名作『くろねこトミイ』(復刊ドットコム)に登場するトミイのカッコいいこと。
くろねこトミイの救出劇! 大好きなまこちゃんを助けなきゃ!
絵本界の巨匠、神沢利子と林明子が手がけた名作がついに復刊しました。
二人が描いたのは、やさしいくろねこトミイの物語。大切なまこちゃんが見知らぬ人にさらわれて、彼は後を追いかけます。友だちにはまこちゃんの家族にも伝えるように言って、まこちゃんの乗せられた車を追いかけていくトミイ。たどり着いた建物の窓から見えたのは、ぴかりぴかりと光るまこちゃんの手鏡信号。あそこにいる! トミイはひらりと舞い降りて、まこちゃんを助け出します。
この本は、あなたと大切な子どもたちとで、繰り返し読んでください。
まこちゃんが見知らぬ人について行ってしまったこと、家族にも伝えるようトミイが友だちに言ったこと、トミイの最後のひと言など、この絵本の全体に、大事なことが散りばめられています。
※本書は、1978年にひかりのくにより出版された『おはなしひかりのくに くろねこトミイ』を底本に、新たな装丁で出版するものです。
はじけろ!とびかかれ!心の感じるままに体が躍る猫の絵本
猫のように気ままに散歩をして、何かを見つけたその瞬間この世のすべてのことを忘れて、今、目の前にある「それ」だけが存在しているかのように無我夢中になる才能。誰に見られてもかまわないし、カッコよくなくたっていい。猫は、最高にわがままで、自分の欲望に忠実な、自らの心を好きなときに自由に解き放つ天才です。時には無防備に、時には人を怖がらせるほど傍若無人。猫のように振る舞うことは、なかなか難しいけれど、好きな人や好きなものを前にしている時くらい、心の中の猫の声に従えたら素敵だなと思うのです。
『オレときいろ』(WAVE出版)に登場するオレ。
絵本の中から飛び出してきそうなくらい暴れん坊。オレに負けないすべての生命力を象徴するキイロの圧倒的な勢いに、心の中の猫が騒ぎ出します。青空の下、絵本を開いてみてください。絵本から飛び出してきたオレに誘われるように、なんだか心がウズウズ躍りだしたくなりませんか。
気づくとすっとそこにいて忍耐強く寄り添ってくれる猫の絵本
猫は、時々、正しいことではなく、ちょっぴり意地悪なずるい気持ちに寄り添ってくれる。それがいいとか悪いとかではなく、ちょっぴりやってはいけない遊びにも付き合ってくれるような、何も言わないけどそっとその場にいてくれるような存在に感じることがあります。きっと、犬だったら、「だめだよ!そんなこと。」って真正面から引き留めてくれるだろうけど、猫は「そういう日もあるよね。いつもいい子でなんている必要ないさ。」って言ってくれそうな悪友みたいに。
『みつけてくれる?』(あかね書房)のクロは、お姉ちゃんになるはなちゃんの期待と不安な気持ちに寄り添ってくれます。時には突き放したり、時にはそのことを忘れさせてくれて、はなちゃんの気持ちが準備できるまで、忍耐強くつきあってくれます。
でも、やっぱり本当のことはわからない、謎が深まる猫の絵本
どっぷりと信じていると、するっと裏切られるような、決して自分のモノにはならない猫。どんなに長く住んでいても、一緒にいたとしても、本当のことは最後までわからない、まるで本性を出さないスパイのような、つかみどころのない謎の猫。
猫のそんなミステリアスな風貌に、やっぱり人は惹かれてしまうのではないでしょうか。
人間もそうかもしれませんね。ほんの少しだけミステリアスな部分を持っていると、他人の好奇心をくすぐることができるのかもしれません。
そんなミステリアスな猫の存在を、期待をもって表現しているのが、『あしたうちにねこがくるの』(講談社)です。どんな猫がくるのか想像力がどんどん膨らみます。
あしたうちにねこがくるの。
いったいどんなねこかしら?
かわいいねこだといいなあ。
どんな猫がくるのかな?想像力広がる絵本。明日うちに猫がくる……。あんな猫ならいいな、こんな猫だったらどうしよう……。どんどん広がる女の子の空想が注目のささめや氏の絵でイメージ豊かに描かれます。
いかがでしたか?
猫の魅力をおさらいすればするほど、やっぱりわからない気がしてきました。でも、猫を見習って少しだけ自分の気持ちや欲望に素直になれるよう、お手本にしてみたいですね。
そんなことを思いながら、外で出会った野良猫たちを観察していると、知ってか知らぬか、無防備に昼寝をはじめました。のんきだなぁと思って、あちらの方向を見ると、今度は、じっとこちらを見ています。何かとても思慮深く、意味深に...。いやいや、やっぱりこちらの考えすぎでしょうか。
今回の旅では、絵本の中の猫たちのおかげで、少しだけ野生の気持ちを取り戻すことできたみたいです。
みなさんも、たまには猫のように寄り道してみてはいかがでしょうか。新しい自分を発見できるかもしれませんよ。
個性的で可愛い猫が登場する絵本
文・写真 富田直美(絵本ナビ編集部)
富田直美(とみたなおみ)
アメリカ在住歴7年。米国ペンシルベニア州に大学留学。卒業後、カリフォルニア州にて就職し、帰国後は、海外プロダクションと映画やゲームの映像制作に関わる。現在は絵本ナビで英語を楽しむ絵本や洋書の魅力を配信中。英語で世界の人とつながる面白さを伝えるべく、我が子におうち英語実践中。二児のママ。
【連載】「絵本をもって旅に出よう」を絵本ナビスタイルで執筆中。https://style.ehonnavi.net/post-series/25324
【連載】「絵本で楽しむ英語の世界」を絵本ナビスタイルで執筆中。https://style.ehonnavi.net/post-series/28403
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